Chapter2-Section36 いいじゃん
「『ご主人様』に初動ファイトをさせるように仕向ける?」
入れ替え戦の二日前、配信外でチーム練習をしている時に話を持ち掛けると「ラヴィさあ……」と三雲の呆れた声が返って来た。
「配信で『ご主人様』のアンチコメするつもりでしょ?」
「いいや。Xだ」
「どっちでも一緒だよ。いくら相手が喧嘩を売って来たからといって、喧嘩を買うのは反対だ。いくら嫌いなチームだからってね」
「いいや。面白そうだからだ」
「もっと駄目だよ」
大げさな、辟易とした溜め息がイヤホンから漏れ、耳を包む。
「俺はいいよ。初動ファイトしかけに来られてもどうせ勝つし」
無駄がひとつもない機敏な動きで敵を倒しながら翔琉は言う。いつ見ても、こいつのキャラコンの技術には惚れ惚れする。
「俺は嫌なの!」
三雲は予想通りの回答をする。
「だって初動ファイトなんてデメリットばかりだしさ。やるだけ損だよ。戦術的な意味が無いのに、ただムカつくってだけで初動ファイトするなんて一番ありえない……!」
「意味があればいいんだな?」
「でもないでしょ?」
「あるさ」
嘘では無い。ただ面白そうという理由だけで、無鉄砲な提案をするほど馬鹿だと思われては困る。
「俺達が目指す場所は世界大会。そして世界一だろ? プロリーグではない。それは通過点だからな」
「なにが言いたい?」
「初動ファイトを避けてたどりつける場所じゃねえ……!」
三雲は黙ってしまった。だから俺はそのまま話続けた。
「例えばこの先勝ってプロリーグに行けたとする。そこでどう戦う? 強いランドマーク(マップの中で物資が豊富なエリア)は世界に行くようなチームが牛耳っている。俺達には余り物の弱小ランドマークしか残されていない。世界でも同じことだ。それでも、そんな不平等を受け入れて戦い続けるのか? それでトップ層に食い込めるのか?」
「違うだろ!」と拳をテーブルに叩きつけると「びっくりした……!」と翔琉は小さく零した。
三雲はまだ黙っている。
「俺達がどんなに強かろうと、強いランドマークをとらないと勝てなくなる時がいずれ来る……! 初動ファイトをして、強豪チームからランドマークを奪わなければいけない日がやってくる……! 本気で世界一を狙うならばだ!」
「つまり……」ようやく三雲は口を開いた。
「『ご主人様』を初動ファイトの練習台に利用してやろうと言っている?」
「そうだ! 初動ファイトは普通のファイトと毛色が変わるからな。来たるべき日のために慣れは必要だろ」
「入れ替え戦で? 本番なのに?」
「本番の方が成長するだろ?」
「ありえない……! ふざけてるよ……!」
だめか……。そのチャラけた見た目や軽い口調とは対照的に、三雲のインパーフェクトのプレイは合理的かつ堅実だ。ゲームのプレイスタイルは、その人の性格を現すという俺の持論の精度が一つ上がった。
「でもやろう……!」
お? これは初めてのパターンだ。俺の持論にまさか反例が現れるのか?
「ラヴィの言うとおりだ。リスクを恐れていたら世界は取れない。世界一はそんなに甘い場所じゃない……!」
意外と分かってるな。思いがけず笑みがこぼれた。俺と翔琉さえいれば、三人目は誰でもいい。最初はそう思っていた。けど……、この男はいつも俺の想像を超えて来る……!
いいじゃん三雲進! いいじゃんCONTRAIL!
「決まりだな。やつらをケチョンケチョンにしてやろう!」
提案がある。
そう言うと、三雲は「うん?」と応じた。
「キャラを変えよう」
「初動ファイト用の構成にするってこと?」
「そうだ」
インパーフェクトというゲームでは、試合開始前に自分が使用するキャラクターを選択できる。キャラクターは固有のスキルをそれぞれ持っているため、選択したキャラクターによって戦略は大きく変わる。
「ラヴィはなに使いたいの?」
「ラピートだ」
例えばラピートというキャラクターのスキルは、一度だけ壁や障害物をすり抜けることが出来る。障害物の多い屋内の戦闘で真価を発揮するキャラクターだ。
「今使ってるハイゼンベルクは初動役立たずだしね」
「辛辣なこと言うなよカケル。あのおっさんは大器晩成型なんだ……」
これまでの2試合で使用していたハイゼンベルクというキャラクターはタレット(視界に入った敵を自動射撃するオブジェクト)を設置することが出来る。試合終盤になって、エリアの制圧が重要になってくる場面で活躍するが、翔琉が言うように、序盤のファイトでスキルが活きる場面は少ない。
「ありかもね」
三雲は言う。
「本当はチャンピオンまでを想定したキャラ構成をしたいけど、正直ここ2試合は思った以上に初動で苦戦している。まずは初動ファイトを安全に勝ち切ることに集中するのが無難か」
「向こうは最初からファイト構成だしね。こっちもファイト構成にすれば負けないよ」
「ああ! カケルの言うとおりだ! 俺がラピートを使えば俺らは最強! 勝率100%だ!」
「この世に100%なんて無いよ」
水を差す三雲の言葉に「いいや、あるね!」と俺は返した。
「俺と、俺の視聴者の中に!」
熱くなる配信のコメント欄の中に、「勝手にそんなものいれるな」なんて冷めたコメントも流れていく。これもまた、エンタメだ。
三試合目の初動ファイトが始まった。相手は強い武器を拾えたようで、積極的に攻撃をしかけに来た。
対して俺達の武器はそれほど強くない。白ビルの一階に集合し、敵を待ち構える。
クラスター弾が飛んできて、入口のドアが破壊された。これはエミリアーノというキャラクターが持つ固有スキルだ。
「来るよ。構えて」
三雲が言うと同時に入口から3人の敵が入って来た。
武器ガチャで外れを引いた俺達は連携力で相手を上回る必要がある。徹底して一人に照準を絞り、全員で狙うことによって、数的有利をなんとか作り出す。これがファイトで劣勢な側の正攻法。正攻法とは、結局それが最も強いからこそ正攻法。
て思っただろ?
俺はラピートのスキルで壁をすり抜けると、建物の外側から入口に回り込んだ。その間、翔琉の卓越したキャラコンと、三雲の堅実なプレイがあれば、二人とも倒されることはないだろう。
白ビルの入口から中を覗くと『ご主人様』の背後が見えた。追いかける獲物が虎の子だとも気づかずに、愚かにも狩りを楽しんでいる犬っころどもの背中が。
これほど隙だらけであれば、武器の強弱なんて関係ない。俺のエイム力で破壊できる。
不意打ちで一人を倒し、もう一人も瀕死まで追い込んだ。
あとは三雲と翔琉の二人と挟撃するだけだ。逃げ場のない敵をそのまま壊滅させた。
他部隊が介入する隙も与えない。完璧な勝利。劣勢を覆して勝つことほど気持ちよく、ぶち上がる展開はない。
「Easy Win! Let’s GO!」
高らかに叫ばずにはいられなかった。
おまけ
ラヴフィンは日本人とアメリカ人のハーフ。父親がアメリカ人で、母親が日本人。
24歳。人生のほとんどを日本で過ごしているが、幼少期にアメリカに住んでいた経験もあり、日常会話程度なら英語もできる。




