Chapter2-Section34 初動ファイト
1試合目にチャンピオンを取ったのはObsidianだった。ラヴフィン主催のカスタムの時に一緒に出場してくれたユズがいるチームだ。
「マップにはさ……」
夏海は空になった缶チューハイをテーブルに置き、次の缶に手を伸ばす。もう二本目だ。
「ランドマークと呼ばれる場所が20個あるんだよ。そこには他より物資が豊富に落ちているんだ。つまり20個のランドマークを20チームで分け合えるようになってるんだけど……。稀に、あえて他チームと同じランドマークに降りるというチームがいるんだ。そこのランドマークを奪い自分達のものにしたいのか。はたまた自分達と順位が近いチームを試合早々に落とすためか。理由は様々だけど本来ならば戦略的な意味は一応あるんだ」
「うんうん。なるほどね」
三雲進にくしゃみを吹きかけるという失態をおかし、元気のなくなった夏海が少しでも解説しやすくなるように、私は出来るだけ相槌を挟む。
「でも『ご主人様』のチームには戦略なんてない。ただの嫌がらせとして初動ファイトを仕掛けてる。PFA gaming ていう強豪チームもこのチームに同じことをやられてプロリーグから入れ替え戦に落とされたんだ」
PFA gaming。そこも三雲進が注目チームとしてあげていたところだ。
2試合目が始まった。またも『ご主人様』は同じ場所に降下して初動ファイトを仕掛けて来た。
「次は勝てるかな?」
「分かんないよ。初動ファイトって最初に強い武器を拾えるかどうかの運ゲー、武器ガチャみたいなものだから。さっきみたいに弱い武器引いたら敗けるかも……。と思ったけどこれは……?」
夏海は前のめりになった。その仕草を見るに今回は強い武器を引いたようだ。
『ひとり瀕死だ!』
『そいつやった!』
『ナイス。二人とも! このまま青ビル側に三人で突っ込もう!』
敵の一人を早々にダウンさせて、三人は同時に青いビルの一階へと入った。敵が二階へと逃げていくのを見つけ銃を撃つが、仕留めきれなかった。
三人は勢いのまま二階に上がるが、そこに敵は居なくなっていた。
『どこだ!?』
『いた。あっち。白ビルの方』
向かいの白いビルに逃げていく敵の姿が見えた。
『逃げんてんじゃねえ!』
怒号と共にラヴフィンは銃を放った。大きな致命傷を与えるがそれでもまだ倒すことはできない。
『追うよ!』
三雲進の掛け声を合図に三人で白ビルに向かう。白ビルに入ると敵の姿はいつのまにか消えていた。
『どこだあ!』
『近くにいるはずだけど……。ハイド(相手にばれにくい位置で身を潜める戦術)気を付けよう!』
『あ、いた。青ビルに戻ってる』
『なにがしたいだあ! こらあ!』
またも怒号をあげながらラヴフォンは銃を放つ。そして今度は一人をダウンさせた。
『よいしょお! あとひとり!』
『このまま突っ込もう!』
ラヴフィンと的井翔琉が勢いよく前に飛び出して、三雲進はその後に続いた。
『そこで絶対仕留めよう! これ以上無駄な時間をかけたくな……』
それは白ビルから青ビルに移動するために小川を渡っているときだった。そこは視界が開けた場所で、逆を言えば敵からの射線が通りやすい場所。
小川の上流にある球体の家から銃を構える三人の姿を見つけた。
『別チ(別チーム)だ!』
三雲進は言うと同時に集中砲火を浴び、一瞬でダウンする。
『まじかよ! 近いか!?』
『いやまだ遠い! いったん体勢を立て直そう!』
『それをさせてくれなそうだよ』
逃げに徹していた『ご主人様』の最後の一人が急に反転して戦闘を仕掛けて来た。
三雲進とラヴフィンがその敵を倒した時には、別チームの三人が攻め上がってきていて、二人は青ビルに包囲されていた。
『このままじゃ順位が……! どうにかして逃げて――』
『ちがう』
的井翔琉の放った言葉は、たったの三文字なのに、強固な自信と闘争心まで、はっきりと感じとれた。
『全員倒す。だよね? ラヴフィン』
『あたりまえだ!』
青ビルの入口や窓から、相手は外から狙える位置から射線をとおして二人を狙撃した。しかし、外から射線を通すということは、中からも敵が視認出来るということ。二人はダメージを受けるが、受けた以上のダメージを相手に返した。「わお」と夏海の感嘆の声が私のすぐ横で漏れる
二人は敵に攻め上がり、青ビルの外に出ると、各々でそれぞれの敵を倒した。これで残る敵は一人、あっという間に形勢は逆転していた。
最後の一人はラヴフィンの近くにいた。ラヴフィンと眼が合うと、撃ち合うかと思えば建物の角に隠れてしまった。その消極的なプレイは素人目の私から見ても、一瞬の逆転劇に混乱しているのが分かった。
ラヴフィンはそんな敵に突っ込んでいく。体力の少ないはずのラヴフィンの方が不思議なことに優勢に見えた。
ラヴフィンとその敵は撃ち合いになり、ラヴフィンは倒れるが敵に瀕死のダメージを与えた。
『あと一発だ!』
『了解』
磨き上げたキャラクターコントロールの賜物なのだろう。的井翔琉、彼はまるで翼を持っているかのように、どこからでも颯爽と現れる。彼はビルの壁を使い壁ジャンすると、空中で狙いを定めた。逃げる敵の後ろ姿を捉える。
あとは引き金を引くだけ、だったはずなのに。
『え……』
その敵は的井翔琉ではない別の何者かの狙撃によって倒れた。弾が飛んできた方向を見ると、また別のチームがこの戦場の漁夫の利を狙いにやってきていた。
『また別チ?』
舌を鳴らし、的井翔琉は奮闘するが三人相手には歯が立たず倒されてしまった。
相手は『PFAgaming』だった。
2試合連続で『CONTRAIL』は早々に敗けた。入れ替え戦の決勝進出へ暗雲が立ち込めたのは言うまでもないだろう。
おまけ
ラヴ「あああああ!! くそが!!」
三雲「戦い方うざすぎだな。あいつら」
翔琉「………………ドン!!(台パン)」
レイ「みんなの心がすさんでいく……」
夏海「友よ。これが初動ファイトなのだ」




