Chapter2-Section33 ご主人様
「どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう……」
夏海はソファの上に丸くなって、ぶつぶつと塞ぎこんでしまった。三雲進に夏風邪を移したかもしれないと怯えているのだろう。
「大丈夫だよ。顔も手も洗ったし、うがいまでしたんだから。そんなに心配することじゃないよ」
三雲進はあの後すぐに手と顔を丁寧に洗い、うがいまでしてから自宅に帰った。出来ることはしたのだからと、そう言ってあげることくらいしか私にはできない。
「もし移ったら? これで高熱になってミクモンが試合に出られなかったら? 私のせいだよね?」
「違うよ。夏海のせいじゃない」
「私じゃなかったら誰のせいなの!」
「私だよ」
「そんなのおかしいよー!」
夏海はぐずぐずと泣き出してしまった。なにがおかしいのだろう。悪いのは確かに私だ。三雲進を引きとめて、部屋にあがらせたのは私なのだから。
「私のやらかしまで勝手に背負うなんておかしいよお!」
勝手にひとりで全部背負わないでよ。
それはいったい、誰のための真面目さなの?
思い起こされるのは、何度も脳裏で甦る昔の記憶。高校の部活でチームメイトから言われた言葉。
やめよう。これは今思い出すことじゃない。私は我に返り、ひとつ深呼吸をした。
「もうすぐ試合が始まるよ? 今は三雲さん達を応援することに集中しようよ」
自分にも言い聞かせるように言う。
「うん……。そうだね……」
彼女はようやく泣き止むと「お酒持ってくる」と立ち上がった。
酒は飲むんだ!? とぼとぼと歩く背中にそう突っ込むことは流石にできなかった。
「入れ替え戦に出場するチームは全部で30チーム。アマチュア予選を勝ちあがった22チームとプロリーグから降格した8チーム」
元気がなくとも解説をせずにはいられないようだ。夏海はレモンサワーの缶チューハイをテーブルに並べながら言った。ロング缶を5本も持ってきている。さっきの失態を酒で忘れようとしていない?
「まずはアマチュア予選を上がった22チームの中で成績下位20チームが8試合やって順位を決める。これがファーストラウンド。上位10チームは勝ち上がりで、下位10チームは敗者復活戦に進むの」
夏海は缶チューハイを一本握り、ソファに丸くなった。
「次にセカンドラウンド。ファーストラウンドを勝ち上がった10チームはプロリーグ降格組の8チームとアマチュア予選を1位、2位で通過したチームと戦う。ここも8試合やる。玲のチームはアマチュア予選をトップ通過しているから、ここから登場だね。そしてここで上位10チームに入れば決勝に進めるの。敗けたチームは敗者復活戦に進む。ファーストラウンドの敗者と合流して決勝への残り10席を争う。そんな流れ」
ふむふむ。と私は頷いた。予習したとおりだ。夏海から聞くと復習できてよい。
「つまりCONTRAILはこれから始まるセカンドラウンドで10チーム以内に入れば明日の決勝に直接進める。入れなかったら敗者復活戦に望みを繋げる。だよね?」
「うん。そう」
プシュッと缶チューハイの開く音が鳴った。
「でも少し不安だな……」
夏海は小さくこぼす。
「『ご主人様』のこと?」
ご主人様。プロリーグからの降格で入れ替え戦に出場するチームだ。三雲進いわく、問題児が3人集まったチーム。
「そう。ラヴフィンがXで挑発してたよね。かかってこい。だとか……。あれはやばいよ。あのチームに目をつけられたチームはみんな不幸になってるから」
「それが分からないんだけど、不幸になるって具体的に何をされるの?」
「そうだね。一番やられて面倒なのは最初の降下位置を被せられることかな」
「どういうこと?」
「たぶん、ご主人様はやってくるから観たら分かるよ……」
夏海はモニターに三雲進の配信画面を移した。「よっしゃ! いこう!」と意気込むのが聞こえてくる。丁度試合が始まろうとする頃だった。
プロリーグ昇格をかけた試合がついに幕を開ける。
キャラクターの選択画面が終わると、マップ上空の画面に切り替わった。Hope Shipと呼ばれる航空機から各チームがばらばらに地上へと降りていく。
『来てる来てる……!』
『嬉しそうだね。ラヴィ』
『三人とも近めで降りよう。迎え撃つよ!』
空高くから広大なマップのある一点を目掛けて降下していくと、空中で並走して付いてくるチームがある。
「やっぱ来たね」夏海は言う。
そっか。あれがご主人様のチームか。降下位置を被せられるとはこういうことか。
両チームは同時に地上に降りた。そこは小川の両端に高いビルが二つ聳え立つリゾート地のような場所だった。
『俺の目の前に降りたぞ! 三人いる!』
『まだ武器ない……!』
『カケル! ピーコックならここに落ちてるよ!』
『ないよりましか』
『ラヴフィン! 戦わずこっちまで引ける?』
『やろうとはしてる……!』
相手の3人から一斉に攻撃を受けているのだろう。ラヴフィンの体力ゲージはみるみると削れていく。そして「だあ! 無理だ!」と大声をあげ、ダウンした。
『ダメージはかなり入れてる!』ラヴフィンは言う。
『今行くしかないか……。カケル。せーので突っ込むよ?』
『オーケー』
せーの。という掛け声を合図に二人は敵に向かっていった。相手の二人をダウンさせるが、最後の一人をやりきれず敗けてしまった。
『初動で三人ともショットガンかよ! せこすぎんだろ!』
『しゃーないよ。こればかりは運だからさ。切り替えよう!』
『勝てると思ったけど。意外にファイト力あるじゃん』
「これを初動ファイトっていうんだよ」
ふいに夏海は語り出した。
「敗けたらその試合は0ポイント。勝てばキルポイントを3獲得できるけど、その後のムーブに大きく出遅れて高順位を狙うのが難しい。メリットは少なく、デメリットは大きい。出来ればしたくないと思うのが普通なんだけど……。『ご主人様』はやる。それを勝つための戦略としてではなく、煽られたことへの腹いせとして。本当に面倒くさいチームだよ」
「どうして……」彼女はレモンサワーをちびちびと飲みながら言う。
「どうしてラヴフィンは喧嘩なんか売っちゃったんだろう……。そのせいで、今日の入れ替え戦は相当厳しいものになると思うよ」
おまけ
★入れ替え戦の要約
出場チーム数:30 (アマチュア戦勝ち抜き組:22、プロリーグ降格組:8)
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①ファーストラウンド
アマチュア予選勝ち抜き組(1位、2位通過を除く)の20チームで試合
上位10チーム→②セカンドラウンドへ
下位10チーム→③敗者復活へ
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②セカンドラウンド
以下の20チームで試合
プロリーグ降格組:8チーム
アマチュア予選1位、2位通過:2チーム ←CONTRAILはここ
①ファーストラウンドの勝者:10チーム
上位10チーム→④決勝へ
下位10チーム→③敗者復活へ
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③敗者復活ラウンド
以下の20チームで試合
①ファーストラウンドの敗者:10チーム
②セカンドラウンドの敗者:10チーム
上位10チーム→④決勝へ
下位10チーム→敗退
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④決勝ラウンド
以下の20チームで試合
②セカンドラウンドの勝者:10チーム
③敗者復活ラウンドの勝者:10チーム
上位8チーム→プロリーグ昇格
下位12チーム→敗退




