表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/68

Chapter2-Section33 ご主人様

「どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう……」


 夏海はソファの上に丸くなって、ぶつぶつと塞ぎこんでしまった。三雲進に夏風邪を移したかもしれないと怯えているのだろう。


「大丈夫だよ。顔も手も洗ったし、うがいまでしたんだから。そんなに心配することじゃないよ」


 三雲進はあの後すぐに手と顔を丁寧に洗い、うがいまでしてから自宅に帰った。出来ることはしたのだからと、そう言ってあげることくらいしか私にはできない。


「もし移ったら? これで高熱になってミクモンが試合に出られなかったら? 私のせいだよね?」

「違うよ。夏海のせいじゃない」

「私じゃなかったら誰のせいなの!」

「私だよ」

「そんなのおかしいよー!」


 夏海はぐずぐずと泣き出してしまった。なにがおかしいのだろう。悪いのは確かに私だ。三雲進を引きとめて、部屋にあがらせたのは私なのだから。


「私のやらかしまで勝手に背負うなんておかしいよお!」


 勝手にひとりで全部背負わないでよ。

 それはいったい、誰のための真面目さなの?


 思い起こされるのは、何度も脳裏で甦る昔の記憶。高校の部活でチームメイトから言われた言葉。

 やめよう。これは今思い出すことじゃない。私は我に返り、ひとつ深呼吸をした。


「もうすぐ試合が始まるよ? 今は三雲さん達を応援することに集中しようよ」


 自分にも言い聞かせるように言う。


「うん……。そうだね……」


 彼女はようやく泣き止むと「お酒持ってくる」と立ち上がった。

 酒は飲むんだ!? とぼとぼと歩く背中にそう突っ込むことは流石にできなかった。


「入れ替え戦に出場するチームは全部で30チーム。アマチュア予選を勝ちあがった22チームとプロリーグから降格した8チーム」


 元気がなくとも解説をせずにはいられないようだ。夏海はレモンサワーの缶チューハイをテーブルに並べながら言った。ロング缶を5本も持ってきている。さっきの失態を酒で忘れようとしていない?


「まずはアマチュア予選を上がった22チームの中で成績下位20チームが8試合やって順位を決める。これがファーストラウンド。上位10チームは勝ち上がりで、下位10チームは敗者復活戦に進むの」


 夏海は缶チューハイを一本握り、ソファに丸くなった。


「次にセカンドラウンド。ファーストラウンドを勝ち上がった10チームはプロリーグ降格組の8チームとアマチュア予選を1位、2位で通過したチームと戦う。ここも8試合やる。玲のチームはアマチュア予選をトップ通過しているから、ここから登場だね。そしてここで上位10チームに入れば決勝に進めるの。敗けたチームは敗者復活戦に進む。ファーストラウンドの敗者と合流して決勝への残り10席を争う。そんな流れ」


 ふむふむ。と私は頷いた。予習したとおりだ。夏海から聞くと復習できてよい。


「つまりCONTRAILコントレイルはこれから始まるセカンドラウンドで10チーム以内に入れば明日の決勝に直接進める。入れなかったら敗者復活戦に望みを繋げる。だよね?」

「うん。そう」


 プシュッと缶チューハイの開く音が鳴った。


「でも少し不安だな……」


 夏海は小さくこぼす。


「『ご主人様』のこと?」


 ご主人様。プロリーグからの降格で入れ替え戦に出場するチームだ。三雲進いわく、問題児が3人集まったチーム。


「そう。ラヴフィンがXで挑発してたよね。かかってこい。だとか……。あれはやばいよ。あのチームに目をつけられたチームはみんな不幸になってるから」

「それが分からないんだけど、不幸になるって具体的に何をされるの?」

「そうだね。一番やられて面倒なのは最初の降下位置を被せられることかな」

「どういうこと?」

「たぶん、ご主人様はやってくるから観たら分かるよ……」


 夏海はモニターに三雲進の配信画面を移した。「よっしゃ! いこう!」と意気込むのが聞こえてくる。丁度試合が始まろうとする頃だった。

 プロリーグ昇格をかけた試合がついに幕を開ける。


 キャラクターの選択画面が終わると、マップ上空の画面に切り替わった。Hopeホープ Shipシップと呼ばれる航空機から各チームがばらばらに地上へと降りていく。


『来てる来てる……!』

『嬉しそうだね。ラヴィ』

『三人とも近めで降りよう。迎え撃つよ!』


 空高くから広大なマップのある一点を目掛けて降下していくと、空中で並走して付いてくるチームがある。


「やっぱ来たね」夏海は言う。


 そっか。あれがご主人様のチームか。降下位置を被せられるとはこういうことか。

 両チームは同時に地上に降りた。そこは小川の両端に高いビルが二つ聳え立つリゾート地のような場所だった。


『俺の目の前に降りたぞ! 三人いる!』

『まだ武器ない……!』

『カケル! ピーコックならここに落ちてるよ!』

『ないよりましか』

『ラヴフィン! 戦わずこっちまで引ける?』

『やろうとはしてる……!』


 相手の3人から一斉に攻撃を受けているのだろう。ラヴフィンの体力ゲージはみるみると削れていく。そして「だあ! 無理だ!」と大声をあげ、ダウンした。


『ダメージはかなり入れてる!』ラヴフィンは言う。

『今行くしかないか……。カケル。せーので突っ込むよ?』

『オーケー』


 せーの。という掛け声を合図に二人は敵に向かっていった。相手の二人をダウンさせるが、最後の一人をやりきれず敗けてしまった。


『初動で三人ともショットガンかよ! せこすぎんだろ!』

『しゃーないよ。こればかりは運だからさ。切り替えよう!』

『勝てると思ったけど。意外にファイト力あるじゃん』


「これを初動ファイトっていうんだよ」


 ふいに夏海は語り出した。


「敗けたらその試合は0ポイント。勝てばキルポイントを3獲得できるけど、その後のムーブに大きく出遅れて高順位を狙うのが難しい。メリットは少なく、デメリットは大きい。出来ればしたくないと思うのが普通なんだけど……。『ご主人様』はやる。それを勝つための戦略としてではなく、煽られたことへの腹いせとして。本当に面倒くさいチームだよ」


「どうして……」彼女はレモンサワーをちびちびと飲みながら言う。


「どうしてラヴフィンは喧嘩なんか売っちゃったんだろう……。そのせいで、今日の入れ替え戦は相当厳しいものになると思うよ」

おまけ

★入れ替え戦の要約

出場チーム数:30 (アマチュア戦勝ち抜き組:22、プロリーグ降格組:8)

------------------

①ファーストラウンド

 アマチュア予選勝ち抜き組(1位、2位通過を除く)の20チームで試合


  上位10チーム→②セカンドラウンドへ

  下位10チーム→③敗者復活へ

------------------

②セカンドラウンド

 以下の20チームで試合

 プロリーグ降格組:8チーム

 アマチュア予選1位、2位通過:2チーム  ←CONTRAILコントレイルはここ

 ①ファーストラウンドの勝者:10チーム


  上位10チーム→④決勝へ

  下位10チーム→③敗者復活へ

------------------

③敗者復活ラウンド

 以下の20チームで試合

 ①ファーストラウンドの敗者:10チーム

 ②セカンドラウンドの敗者:10チーム


  上位10チーム→④決勝へ

  下位10チーム→敗退

------------------

④決勝ラウンド

 以下の20チームで試合

 ②セカンドラウンドの勝者:10チーム

 ③敗者復活ラウンドの勝者:10チーム


  上位8チーム→プロリーグ昇格

  下位12チーム→敗退

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ