Chapter2-Section30 ミーティングを始めよう!
まさに快進撃。この言葉以上に彼らの活躍を形容できるものなんてないだろう。初戦の衝撃的なデビュー戦を皮切りに、以降も3人は勝利を積み重ねていった。あれよあれよと大会は進み、チーム『CONTRAIL』はアマチュア予選をトップ通過で決めたのだった。
「外暑いねー! いつのまにかすっかり夏だよ」
三雲進は羽織っていた黒シャツを脱ぐとオフィスチェアの背にかけた。ゆったりサイズのグレーのTシャツにリングのネックレスを首にぶら下げている。カジュアルを極めたその格好は大学生らしさ満載で、オフィスの会議室にはあまりにも馴染んでいなかった。
「予選一位抜けおめでとうございます。圧勝でしたね」
「まあここまではね」
涼しい顔で彼は言った。
「勝負はここからだから」
三雲進は椅子に座ると窓から差し込む陽射しを眩しそうに睨んだ。いつもならその軽い口で薄ら寒いことを言うのだが、今日はやけに大人しい。
「待たせたな!」
朗らかな声が部屋に轟いた。ラヴフィンが勢いよく扉を開け会議室に入ってくる。
私はちらりと腕時計を見やった。どうせ遅れてくるからと15分早い時間を伝えているのだが、さらに5分遅れて来るとは。この男も思い通りになってくれない。
ラヴフィンは白シャツにジーンズと三雲進同様にこちらもラフな格好をしている。彼はベースボールキャップとサングラスを外し、放り投げるようにテーブルに置いた。「よっしゃ!」と手を叩く。
「ミーティングを始めよう!」
esportsチーム『CONTRAIL』が始動してから毎週日曜はミーティングをする取り決めとなっている。時間は3人の都合を踏まえ私が決めている。
リモート会議で十分だと私は思っているのだが、三雲進とラヴフィンの希望でオフラインとなった。社長の厚意で会社の会議室を毎度使わせてもらっているのだ。
「翔琉さんに繋ぎますね」
的井翔琉に限っては静岡から東京に毎週足を運ぶのは大変なためリモートで参加としている。しかしたとえ彼が東京住まいだったとしても、彼の性格を考えればリモートを希望することだろう。
『あ、どうも』
覇気の欠片も無い声がパソコン越しから聞こえる。ゲームをしている時の彼と同一人物だとは思えない。
「次の入れ替え戦について話したい」
出し抜けに三雲進は言った。その瞳は珍しく真剣で、いつもより声に熱が入っているように思えた。
「前回大会、俺はここで敗れた。アマチュア予選とは一つも二つもレベルが違う。そういう場所なんだ。これまでどおりいくとは決して思わないで欲しい。直近までプロリーグで戦っていたチームもいる。彼らを押しのけて勝たなくてはいけないんだ。これが簡単なはずがない」
「俺達より強いチームがいるっていうのか?」
「いる」
彼は真剣な表情で言った後「かもしれない」と爽やかに笑った。
「正直この入れ替え戦においても俺達は最強格だと思ってるよ。でも、このチームには敗けても全然おかしくないと思えるような相手はいくつかあるんだ。そういうレベルまで来たということだよ」
「それはそれは……」
ラヴフィンはニヤリとして、大きな手で机を叩いた。その突然の音に私の肩はビクンと跳ねた。
「楽しみじゃねえか!」
『そうだね。ようやく強いやつらと戦える』
―Chapter2 入れ替え戦ー
「全くあんたら二人は……。気を引き締めさせようと思ったんだけど、これは逆効果だったかもね……」
三雲進は苦笑しながら立ち上がるとホワイトボードに近づいた。
「前置きはこのくらいにして、そろそろ本題に入ろうか」
そう言ってペンを握る。
「次の試合で俺達が警戒したいチームは3つ。ひとつは『ご主人様』」
キュッキュッ、とホワイドボードにその名前が書かれる。意外と字が綺麗だ。
「ご主人様? 変なチーム名だな」
「プロリーグからの降格組だ。名前から想像できるとおり、ふざけたチームだよ」
『知ってる。大会を一度バックレて、公式から次やったら参加資格剥奪だと注意された非常識チームだ』
非常識なんてどの口が言っているんだと思ったがここは黙っておこう。
「そうなんだ。インパーフェクトのプロ選手の中で一番の問題児達が集まったチームだよ。過去にチートを使っていたとか、ブースティングをしていたとか、黒い噂があとを絶たない。どうしてまだ運営から追放されていないのか不思議なくらいだよ」
「チーター? ブースティング?」
私が訊くと「教えて欲しい?」と三雲進が意地悪い目で覗いてきた。優位を取られたような、屈辱的な気持ちになる。
「チーターはゲームのプログラムを不正に改ざんして、普通のプレイヤーではありえないことが出来ちゃう人のことだよ。例えば壁の向こう側にいる敵を視認できるようにしたり、自分の撃った弾が自動的に相手に当たるようにしたりね」
ブースティングはそうだね。と彼は腕を組んだ。説明が難しいのだろう。
「ランクシステムは知ってる?」
「なんとなくは……」
ランクシステムはプレイヤーの強さの指標を測るためのモードだ。下からアイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールド……というように。各プレイヤーは自分の強さに応じたランクが割り当てられる。好成績を残し続ければ上のランクへ。逆に悪い成績が続けば下のランクに落ちる仕様だ。
昨今のオンライン対戦型のゲームにはよく搭載されているモードだそうだ。自分の実力を知りたい。証明したい。誇示したい。そういうプレイヤー達がこぞって挑むらしい。
「たとえば強い人が低いランク帯にいる人のアカウントを借りて強いランクまで引き上げちゃうことがブースティングだね」
「そんなことをして、強い人には何の得があるのでしょうか……?」
「ランクを上げた対価としてお金を貰うんだよ」
「なんですかそれは? 逆に言えば、自分のランクを引き上げてもらうためにお金を払う人達がいるということですか……!?」
自分の言葉の不可解さに、私は思わず眉を下げた。
「そんなの。嘘を憑くためにお金を使っているのと一緒じゃないですか……!」
不快さが、ゆっくりと肩から下へとなぞっていく。その肌を嬲られるような感覚に思わず身の毛がよだつ。こういうとき、自分は良くも悪くも真面目な人間なのだと強く、強く実感する。
「それが虚構の称号だとしても、自分は強いと誇示したいんだろうね」
「理解できません」
「そうだね。でも事実として、そういうくだらない人達が世の中にはいるんだ」
話を戻すよ。と三雲進はホワイトボードに向き直った。
「ゲームの規約違反者の集まりかもしれない。要はそんな噂があるチームだよ。3人とも元のチームから追い出されているあたり、かなり信憑性は高いけどね」
噂でどうこう言うのは嫌いだけれど、火のない所に煙は立たぬと言う。これまでの彼らの素行と、今の状況が全てを物語っているのかもしれない。
「素行のいい加減さもさることながら、プレイはもっといい加減だ。そこにまともな思考は介入しない。だからこそ行動が読めない。なのに、ファイト力だけは強いのが余計にタチ悪い」
「なるほどな」ラヴフィンは頬杖をつきホワイトボードを眺めた。半袖だから引き締まった腕の筋肉と血管がむきだしになっている。
「ジョーカーみたいなやつか」
「いい例えだね。相手チームの動きを予測しながら戦略を立てていくこのゲームで、予測不能なチームがいることほど厄介なことはない。前回大会のプロリーグで、彼らの気まぐれで不幸になったチームは後を絶たなかったよ。その一番の例が『PFA gaming』かな」
三雲進はホワイトボードにそのチーム名を書いた。
「それも入れ替え戦に出てくるチームか?」
「そのとおり。何シーズンもプロリーグに残留していたチームで実績も実力も申し分ない。だから本来は入れ替え戦に落ちてくるようなチームではないと思うんだけど、さすがに今回は運が悪かったという他ないね」
『たしか『ご主人様』が何試合も粘着してきて足引っ張ってたよね』
なんだあ!? それは! とラヴフィンは眉をよせる。
「どうしてそんなことをされた?」
「このご主人様ってチームはSNS上で他のチームに暴言を吐いたり、煽るような発言をよくするんだ。それについて『PFA gaming』の一人が非難したら公式試合でも絡まれたってわけ」
「なんだよそれ。女々しいチームだな! 俺は大嫌いだ!」
「ラヴィ……。絶対にそれ配信で言うなよ?」
ラヴフィンは何も言い返さず、ただニンマリと笑った。あ、言うやつだこれ。と私は悟った。
おまけ
三雲「ランクのことよく知ってたね」
レイ「友達(夏海)に教えてもらいました」
三雲「友達? ふーん……」
レイ「なんですか?」
三雲「お勉強しててえらい!」
レイ「バカにしてます?」




