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Chapter2-Section29 最強の3人

 7月初頭。煌めきを思い出した太陽に、慎ましくもビル街を彩るアサガオやラベンダー。梅雨を引きずりながらも、顔を覗かせる夏の予感に街が色めき立ち始めたそんな時期――


IMPERFECTインパーフェクト BRAVESブレイブズ』の公式大会が幕を開ける。大会の正式名称は『IMPERFECT BRAVES GLOBAL CUP』。

 略してIBGCと言うそうだ。何の実績も無いチームが世界大会に行くためには3つの予選を勝ちあがっていく必要がある。


「玲」


 猫のアリスを抱いてソファに腰掛けていた私は顔を上げた。


「今日はどういう試合か分かってる?」

「うん。しっかり予習済みだよ」

「さすがだねえ。でもおさらいしようか」


 目をキラッとさせながら夏海は言った。どうしても説明したいのだろう。彼女がこういう性格なのは私としてもありがたい。ゲームのことについて遠慮なく色々と訊けるから。

 今後も試合観戦がある時は夏海の家を使わせてもらおう。大きなモニターに広々とくつろげるベルベット生地のソファ、そして夏海の解説付きというなんとも贅沢な環境だ。それに可愛らしい猫ちゃん達までいる。

 図々しい考えだが、これだけゲーム好きな夏海なら嫌がりはしないだろう。部屋の掃除もしてあげているし。


「玲のチームが世界大会を目指すなら、勝ち上がらなければいけない戦いが三つあるのだ。順に言っていくとアマチュア予選、入れ替え戦、そしてプロリーグ。このプロリーグで上位に入れば世界大会行きが決まるってわけなのだ」


 そう。つまり長く険しい道のりということ。


「逆にプロリーグで成績を残せなかった下位のチームは入れ替え戦に落ちて再びプロリーグの挑戦権を得るために戦うことになるのだ。この入れ替え戦の残りの席を争うのが、そう……! 玲のチームがこれから挑むことになるアマチュア予選なのだ!」


 夏海が声を張り上げると、猫のアリスはびっくりして私の腕から離れてしまった。シルバーの毛並みがこそばゆく肌を撫でた。


「前回大会、日韓地域ではなんと約300チームがこのアマチュア予選に参加したそうだよ。でもその中で入れ替え戦に進めるのは22チームだけ。なかなか狭き門だよね」


 300チームも出場するなんて思っていたより多い。それだけ人気のゲームという証なのだろう。


「夏海はどう思うの? いけそうかな?」

「まあ順当にいけば? ここは楽勝で抜けるだろうねえ」


 夏海は自分の頬を指でツンツンと突く。


「でも油断はだめだよお?」

「どうして?」

「強いプレイヤーを三人集めれば必ず最強になれる、なんてことはないんだよ。高いレベルになればなるほど、連携面でのずれは致命的になったりする。強い三人が組んだはずなのに連携が噛み合わず勝てなくなった、なんていうチームは過去にたくさんあるからね」

「そうなんだ……」


 私は眼鏡を外し、とくに汚れてもいないレンズを拭いた。今日で全てが決まるわけじゃないけれど、少し不安になってきた。


「でもこれだけは実際にチームを組んでみないと分からないものだからね」


 この子に悪気が無いのは分かっているけど、大事な初陣を前にそんな不安になること言わなくてもいいじゃんよ……。


「さあどうなるか。見ものじゃないか」


 夏海はモニターに三つの配信画面を移した。今日は3人とも配信をしているらしい。


「翔琉さんも配信やってたんだ……!」


 私が驚いている横でニヤリと夏海は笑った。


「彼、今日が初配信らしいよ?」

「ええ!?」

「あはは! 玲がそんなに驚くの珍しい! 面白い!」

「たぶん、すぐに珍しくなくなると思うよ……」


 esportsチームのマネージャーをやるようになってから、こんなことばかりだ。

 初めての公式大会の初戦で初配信なんて、あの男はなんとも豪胆というか無頓着というか。ラヴフィンは私では彼を扱いきれないと言っていたけれど、いったい誰ならば扱いきれるというのだろう。


『デビュー戦だ! 派手に暴れてやろうぜ!』

『ラヴィ。いつも以上に声でかい。うるさい』

『盛り下がること言うなよ! カケル。おれはこのままいくぜ? そっち側で音量絞れ!』

『えー。めんどくさいなあ』


 ラヴィ。ラヴフィンのことだろうか。というよりなんか……。


『ミクモ! 静かだな! 緊張か?』

『ちがうよ。集中してただけ』

『なんだつまらんなあ! ひとりくらい緊張してろよ!』

『ラヴィこそいつもり口数多くないか? 緊張からだったりするんじゃない?』

『バカ言え! 俺は興奮してんだ! 楽しみで仕方ない! おまえは違うのか?』


 なんかこの三人。いつのまにか……。


『そりゃあね。最強の二人を引き連れてIGLが出来るんだ。ワクワクしないわけがないさ……!』

『そうこなくっちゃ!』

『二人とも、ムーブは俺に任せて思う存分暴れていいからな。衝撃的なデビュー戦にしてやろう!』


 いつのまにかちょっと仲良くなってない!? 確かに大会が開催するまでに少し日数はあったけども、その期間は三人で練習していたとは知っているけども。


「雰囲気はばっちりみたいだねえ。急造チームなりに練習期間は少しでも積めたみたいだし。これは期待出来そうだよお?」


 不思議な感覚だ。置いてかれた、なんて思っている自分がいるなんて。元々は距離を置こうと思っていた人達のはずなのに。esportsのマネージャーをやるようになってから、意外な自分にたくさん出会う。


「玲?」

「あ……! ごめん、何?」


 夏海は丸い目で私をジッと見つめ、やがて「面白いなあ」としみじみと何かを味わうようにつぶやいた。


「玲は昔から変わってないと思ってたけど、実は青色だけの人じゃなくなってたんだね」

「どういうこと?」

「さてどういう意味でしょう?」


 彼女は猫のアリスを捕まえると私の膝の上に戻した。


「ほら、試合が始まったよ!」


 そんなことをされれば、私の関心は猫とゲームに移ってしまう。とにかく今は猫を愛で、彼らを応援することにしよう。


 ゲームは1試合目から衝撃的な展開を迎えた。


『なんか暴れ足らんなあ!』

『うん。手応え無さすぎ。敵弱すぎ』

『よくないぞーカケル。絶対に言い過ぎてるぞー』


 チャンピオン。そして28キル。彼らはそんな見たことも無い戦績で初戦を飾りつけた。


おまけ

春川夏海はるかわなつみ

ミャオミャという活動名でイラストを描いたり、ラノベを書いたりとクリエイティブな仕事で活躍している。また1年前からVtuberを初めており、現在は登録者9万人。10万人到達を目下の目標としている。

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