Chapter1-Section2 早速ですが、前途多難なようです
『IMPERFECT BRAVES』通称インパーフェクト。それがゲームの名前だ。アメリカのゲーム制作会社『Lo next gaming』によって四年前に無料リリースされたシューティングゲーム。三人一組でチームを組み、20チームの中から唯一の生き残りを賭けて戦うバトルロワイヤル形式のゲームになっている。
短い時間で、ゲームについて私が調べたのはざっとこれくらいだ。やったこともないし、観たこともない。
しかし困ったことに、三人一組ということは、あと二人も契約を結ぶ必要があるらしい。月に15万5千の給与とはいえ、三人もいれば人件費は馬鹿にならない。会社の資金は足りるのだろうか……。
「残りの二人との契約はまた後日ということでよろしいですか?」
「ああ……。そうだったね」
三雲進はカールした金髪を手でくしゃくしゃと揉みこんだ。
「さっさとメンバー決めないとねー」
「は?」
恥ずかしいほど気の抜けた声を出してしまった。もしかして今、メンバーを決めないと、て言った? それってつまり、チームすら無いってこと?
「前回大会の出場経験ありと社長から聞いていますが……その際はいったい誰と……?」
「そのメンバーとは解散したんだよね。なんとびっくり喧嘩別れ」
「それってつまり……。メンバーが決まらない限り、三雲さんは公式大会に参加出来ないということでは……?」
「そういうことだね!」
と歯を見せて笑う。こっちの心配事なんてどこ吹く風で文字通り一笑に付すこの感じ、社長に似ている。いや、もしかしたらこの甥っ子は社長以上の能天気男なのかもしれない。
「そういうことだね……て」
私はテーブルの上に肘を乗せ、前のめりに彼を睨んだ。
「そんな状況でよく契約書にサインできましたね……! いったいどういうつもりなんですか!」
「でも玲ちゃんだってメンバーのこと何も確認しなかったし」
何も言い返せず、ぐっと指先に力を込めた。そのとおりだった。裏を取らずに思い込みだけで契約を進めてしまったのは私の落ち度だ。
アポは取ったからサイン貰うだけでいいよ。とかいう社長の言葉はでたらめだった。自分はこの界隈のことを全く知らないからと、あの社長を信じた私が馬鹿だった。
二十歳の青年と比べて自分は大人なんだと、どうして悦に浸れたのだろう。私はまだまだ未熟者じゃないか……。
「大丈夫だって玲ちゃん。そんな気を落とさないでよ」
三雲進はがっくりと肩を落とす私を励ました。本当に黙ってくれないだろうか。
「大会に出られないと決まったわけじゃないんだよ? メンバーを集めればいいんだ。エントリーまで、まだ二週間も残ってるからさ」
「二週間……」
「それにメンバーだって一人はもう目星つけてんだよね」
「ひとり……」
「これから連絡を取ればすぐ決まるって」
「これから……?」
よし。と顔を上げた。真剣な顔で言えば、このお気楽男にも少しは私の気もちが伝わってくれるのではないかと、真っ直ぐに彼の瞳を見つめた。
「三雲さん……!」
「え、なに?」
「あの契約書。跡形も無く破ってしまっても宜しいでしょうか?」
「絶対だめだよ!? 玲ちゃん!!」
―Chapter1 『esportsチーム』ー
「冗談です」咳払いをしながら私が言うと、彼はほっと息を吐いた。
「よかったよ。玲ちゃんが冗談を言えないほど真面目人間じゃなくて」
性格の悪いことだが、慌てた三雲進の顔を見れて少し気分が晴れた。私だってさんざん振り回されているんだ。彼にもこのくらいの仕打ちはあってもいいだろう。
「それで、目星をつけているというのはいったい誰ですか?」
「よくぞ訊いてくれたね」
彼はにやりと笑い、黒のスラックスのポケットからiPhoneを取り出した。
しばらく画面を操作したかと思うと、突然手首を返して私に何かの映像を見せて来た。
「これは……?」
「見て分かんない?」
それは何かしらのゲーム映像だった。さすがにインパーフェクトなのだろう。もし、それ以外の映像を見せられているのだとしたら、私はこれ以上この男の適当さに耐えられない。アイスコーヒーをぶちまけて帰ってやろう。
「ゲーム映像ですね。おそらくインパーフェクトの……」
「正解。そのキルクリップ集」
とりあえずコーヒーをぶちまけずに済みそうだ。
「キルクリップ集とは何ですか?」
「自分の活躍場面をまとめたハイライト動画みたいなものだね。これだけでも分かるよ。こいつは相当上手い」
「それではこの動画のプレイヤーが目星を付けているという……」
「そう。Kakeruというんだって」
「有名な方なんですか?」
「ううん。有名ではないかな。でも最近になって注目を浴びてきてる。若いのに化け物みたいに強いプレイヤーがいるってね」
「三雲さんから見ても若いんですか?」
「こいつはまだ高校生だからね」
「高校生!? 高校生でも……その……公式の大会に出られるものなんですか?」
「出られるよ」
と飄々と声が返ってくる。
「大会規定で十七歳以上は出場できる」
「彼は?」
「ちょうど十七歳。つまりこれから色んなチームから引っ張りだこになるプレイヤーってこと」
映像をまじまじと見てみるけれど、全くゲームを触ったことのない私にはどれほど上手かなんて判断できなかった。でも敵をばたばたとなぎ倒すその様子を見る限り、このゲームの中で上澄みにいるプレイヤーなのだと思う。
「本当にそんなレベルの方ならば、私達の誘いに応じて貰えるのでしょうか。もっと他にいいチームがあるのでは?」
「それはないよ。玲ちゃん」
「どうしてですか?」
「俺がいるから」
まただ。三雲進の表情は突然真剣になる。
「こいつも同じことを考えるはずなんだ」
そして私には分からない場所、ここでないどこかを見つめ出す。
「俺とこいつが組めば間違いなく世界を狙える」
おまけ
朝日玲は健康志向が高くヨーグルトや納豆、トマトなど健康にいいものを好んで食べる。毎週金曜の夜は必ずジョギングしている。