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Chapter1-Section23 頑張ってください

「14キルのチャンピオンだと合計ポイントは26ポイント。玲のチームとは16ポイント差。一試合目から大きく離されたね」


 モニターには一試合目のリザルト画面(戦績)が映し出され、全チームの順位とキル数が表示されている。ラヴフィンのチームだけが異常にポイントを稼いでいた。


「まだ逆転できるよね? だってまだ残り5試合もあるんだから」

「もちもち! と言いたいところだけど。私達が思っている以上に難しいかもしれないよ」

「どうして?」

「ラヴフィンのチームに元プロがいるの」


 夏海は喋りながらも餃子を次々に頬張っていく。


Ryotaリョータ。IGLとしてチームを牽引し、世界大会も経験した選手だよ」

「IGLって?」

「略さずに言うと『In game leader』。勝利への戦略・道筋を立て、それを味方に伝える人のこと」

「司令塔みたいな感じ?」


 それだあ! と夏海は親指を立てた。


「優れたIGLはチームに安定感をもたらすんだ。あのリョータがIGLをする限り、ラヴフィンのチームは残りの試合もハイペースでポイントを稼いでいくだろうね」

「そんな……。元プロなんてずるいよ……」

「ズルさで言えば、こっちも負けてないけどね」

「え?」

「だってそうでしょ。プロとほぼ肩を並べられる実力者のミクモンに、若手最注目株のカケル。それに別ゲーとはいえ元プロのユズ。結局実力も相当なものだった」

「そう言われると……確かに凄いかも」

「実際凄いんだよ! 他チームのメンバーも見たけど、正直言って趣味や仕事の一環としてこのゲームをやっている配信者ばかり。ラヴフィンのところと、玲のところの2チームだけ実力がずば抜けてるよ!」


 これ見て。と夏海は私に携帯の画面を見せた。そこにはラヴフィン視点の配信動画が映っていた。


「やっぱり皆の注目も、この二人ばかり」


 コメント欄はラヴフィンとカケルの再戦に興奮しているコメントばかりだった。


「でもようやく分かった。今日の試合のキーパーソンはこの二人じゃない」


 夏海は携帯をテーブルに置くと、正面の大きなモニターを力強く指差した。


「今日の勝敗を左右するのは……ミクモンとリョータのIGL対決なのだ!」


 ***


 パーマの髪を乱暴に揉み込んだ。 俺は今、かなり焦っている。


 一試合目の結果はまだ良かった。しかし、二試合目の結果は酷いものだった。15位の3キル。総合で4ポイントしか稼げなかった。


 対するラヴフィンのチームは2位の7キル。16ポイントも稼いでいた。


 一、二試合の累計だと、既に28ポイント分も離れたことになる。残りの4試合でこの差を巻き返すのは至難の業だろう。


 二試合目の結果が一試合目より振るわなかった理由ははっきりと分かっている。


「君はずっと興奮した猪みたいに突っ込んでばかりだ! その場でお座りは出来ないのかい?」

「このゲームで大事なのは勢いとスピード感だ。いかに自分達で勝利をものにするかだろ! お前ら二人が直ぐに俺に付いてこれていたら、あそこで敗けてなかった!」

「あそこにファイトを仕掛けることに僕は勝利の匂いを感じなかったけどね。大事なのは流れを読む嗅覚だ。勝機を感じとるまで耐え忍ぶことだ!」


 カケル君とユズ君はずっと喧嘩ばかりだ。そして二人のプレイスタイルには真逆と言っていいほどの大きな差があった。これが二試合目の結果が酷かった理由だ。


 一試合目はどちらがよりダメージを出せるかという勝負をしていたから、二人とも超積極的なプレイで、連携はしていないにせよ歩幅は合っていた。しかし一試合目の結果を受けて、二試合目はカケル君が一番手、ユズ君を二番手のポジションに明確に決めた時、プレイスタイルの差が如実に現れ、歩幅まで乱してしまった。


 二人とも直感を大事にするタイプだと知っていた。でも……。いや……だからこそ、こんなにも意見が食い違うとは思いもしなかった。


「ねえ。ミクモンはどう思う?」


 ユズ君に尋ねられた。


「このゲームで大事なのは情報と思考だよ。盤面を整理し、常に最適解を導き続ければ、おのずと勝てる」


 そう。このゲームにおいて、IGLの選択がどれだけ結果に影響するかを俺は知っている。もちろん純粋なファイトの強さも重要だ。しかし、そのファイト力を存分に発揮できるかどうかもまた、IGL次第なんだ。


「なんか頭よさそう。以外に」

「以外にやめてね」


 もしファイト力が拮抗しているならば、差を生むのはIGLの力量だろう。


 その点、ラヴフィンのチームには、あのRyotaリョータがいる。世界も経験している元プロ。一時期は間違いなく日本を代表するIGLの一人だった。俺がインパーフェクトで強くなるために一番参考にしていたのは彼だった。


 いつのまにか憧れの存在になっていた。


 そんな男に俺が勝てるのか? こんなチームで? このポイント差から?


 ピコンッ。テーブル端のスタンドに立て掛けていたiPhoneが音を鳴らした。

 見ると、玲ちゃんからのメッセージだった。


 すぐさまiPhoneを手に取り確認する。今日のカスタムが始まる前に『配信観といてよ』と送ったきり返事が無かったけれど、ようやく来た。


『本当は三雲さんにこんなこと言うと調子乗るだろうから嫌なんですけど、一応私はチームのマネージャーなので言っておきます。頑張ってください』


 言い訳をたっぷりと添えた、頑張ってください。彼女が俺に良い印象を持っていないのは分かっている。けれど、きっと根っからの真面目さと優しさのせいで言わずにはいられなかったのだろう。


 玲ちゃんらしい。


 彼女と初めて会った時のことを思い出した。真面目を絵に描いたような俺と正反対の女性。でも、あの日なぜだか直感したんだ。俺の居場所はここだって。


 そして“あの言葉”を聞いたときに直感は確信に変わった。


 そんな玲ちゃんが形だけでも頑張れと言ってくれたんだ。頑張るしかないよな。


「カケル君。ユズ君。訊いてくれるか?」


 玲ちゃんがその性格上、俺に頑張れと言ってくれたように、俺達ゲーマーにも抗えない性質というものがある。


「ここまでの2試合で分かったように、このままだと勝てない。絶対に負ける。おまえ達もそう思うだろ?」


 そんなの嫌だよな? だって俺達は超が付くほどの負けず嫌いなんだから!


「勝つためにもっと俺のIGLを信じて欲しい。それに君達は協力し合わなければいけない」


 負けるくらいだったら、いけ好かないやつとだって手を取り合ってみせる。おまえ達もそういう人種だろ?


「できるよな?」

「……分かったよ。しょうがないな」

「敗けるよりはましか。今日だけなら」


おまけ

三雲進(みくもすすむ)は東京の私立大学の経済学部に通っている。偏差値は55とそこそこ頭はいい。勉強に割く時間は多くないが要領のいいタイプ。

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