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Chapter1-Section22 甘々

「玲も食べなね」

「うん」


 夏海はリスみたいに餃子を口いっぱいに頬張りながら幸せそうに口角を上げた。


「お酒が欲しくなるねえ」


 ちらちらと私の顔を窺いながら言う。


「いいよ。少しだけなら付き合うよ」


 わっふー! とよく分からない奇声を上げながら彼女はキッチンまで駆けていった。


 部屋を掃除する時に空き缶がそこら中に転がっていたり、冷蔵庫の中を片付けた時も大量の缶チューハイが山の様にあったから分かってはいたけど、あの子は相当な吞兵衛らしい。


 私は餃子をひとつ口に運んだ。肉汁が口の中でジュワッと広がると、肉と野菜の旨味が舌に染み込む。


 モニターに映る配信画面では三雲進、的井翔琉、ユズら三人がまだ言い争いを続けているようだった。このままで大丈夫なのだろうか……。三雲進が声を荒げながらも何とか二人の仲を取り持とうとしている様子を見るに、たぶん大丈夫ではないのだろう。


「お! やっと始まったみたいだねえ」


 夏海は机の上に350ml缶のレモン酎ハイを二つ置いた。「よいしょー!」とソファに腰を下ろすのと同時に一つ開ける。


 キャラクター選択の画面が終わり、空を走るホープシップからプレイヤー達が地上へと飛び降りていく。


「今日は6試合もやるんだよね? 最終的にどうなったら勝ちになるの?」

「今回は順位ポイントとキルポイントの合算で決めるみたい。これは公式大会でも採用されているルールだよ」

「順位ポイント? キルポイント?」

「説明しよう!」


 夏海は人差し指を立て、声高らかに言った。久しぶりに私と会って緊張していた彼女はもういない。昔の夏海だ。


「順位ポイントとはその試合で最後の何チームまで生き残れたかに応じて与えられるポイントなのだ。当然、順位が良いほどポイントは多い。そしてキルポイントとはその名の通り、相手を倒せば加算されるポイントなのだ。1キル1ポイントだけど、意外とこれが馬鹿にならない。ポイントに上限は無く、倒せば倒す程に加算されていくからね」

「なるほど。その二つのポイントの6試合分の累計で最終順位が決まるのね」

「正解! さすが玲! 呑み込みが早い!」

「でもさ。どうして6試合もやる必要あるの? 1試合やれば勝敗も順位も決まるんだから、それで決めちゃえば良くない?」


 ブフッ! と横で変な音が聞こえた。見ると、夏海がビショビショに濡れた口周りをティッシュで拭きながらケタケタと笑っていた。そんなに可笑しいことを言ったのだろうか。ここまで笑われると、ちょっと恥ずかしい。


「飲み物飲んでるときに笑わせないでよね」

「真面目なんだけど」

「効率厨の玲らしい発言だね」

「そんな効率厨じゃないもん」

「玲が今言ったことって、サッカーや野球で言えば一点を先に取った方が勝ちでいいじゃん? て言ってるようなものだよ。確かに勝敗は簡単に決まるけど、それじゃあ実力どおりの結果になり難いし、何よりドラマが生まれない。つまんないよ」


 なるほど。そう言われると、確かに私は変なことを言った気がする。


「それにこのゲームってランダム性が大きいし運に左右される要素もあったりするから、1試合だけだとかなり運ゲーになっちゃうんだよね」

「ふーん」


 私が一度だけゲームをした所感は、運に左右される要素なんてさほど無い気がしたけれど、高いレベルになるとそうでもないのだろうか。


 私は缶チューハイを一口飲んだ。炭酸がシュワシュワと弾け、レモンの風味が酸っぱい。


「それにしても……」


『カケル君! 黙って敵を撃つな! まずは味方に居場所を共有だろ!』

『次の試合からはそうするよ』

『ダメージ稼ぎに必死で笑う』

『ユズ君! あんたもだよ! 移動中に関係ない敵を撃つな! ヘイト買うだろ!』

『へーい』


「この三人は相変わらず……」

「ですなあ。キャラ構成も酷いし、連携も滅茶苦茶。好き勝手に動く前線の二人をミクモンがなんとかカバーしてるって構図だね。彼が援護に徹してなかったらとっくに二人は自滅してるよ。でも……」


『ここ一人やった!』

『もう一人も激ロー!』

『そこ取り切ろう! 二人とも突っ込め! て言う前から突っ込んでだよね。もう! なんなん⁉』


 まるで通り道の石ころを蹴散らすかのように、彼らは簡単に敵部隊を壊滅させていく。残り部隊数は14になっていた。


「みんな凄く強い。特にユズなんてインパーフェクトの経験値は少ないはずなのに、他の二人に全く引けを取っていない」

「このまま全部倒しちゃうんじゃ……」

「チッチッチ」


 夏海は指を左右に振った。どや顔なのが、もし他の人だったら腹立たしいが、夏海であれば可愛らしい。


「それは甘々なのだ。ホイップクリ―ム蜂蜜がけチョコスプレーたっぷり乗せより甘々なのだ」


 前言撤回。やっぱり腹立たしかった。


「こんな後先考えずに突進していく戦い方には限界があるんだよ。相当運よく、自分達に都合よく周りのチームが動いてくれないとチャンピオンには届かないという限界がね」

「どういう意味なの?」

「観てれば分かるよ」


『ここも一人やった! 突っ込もう!』

『駄目だ! 別チームが近くにいる!』

『すぐやり切れば問題ない!』

『待て! 僕より前に出るな!』

『おい行くなって! くそっ!』


 三人は丘の上から下っていき、塀の向こう側を陣取っていたチームに攻撃を仕掛けた。先陣を切った的井翔琉がダウンをするが、三雲進が投げたグレネードが直撃したのもあって、またもや敵を壊滅に追い込んだ。


『ダウンしたカケル君は俺が起こすから、ユズ君は周り見て!』

『はーい。……あっ』


 何者かのスナイパーの弾がユズに当たり、戦闘直後で体力が削れていたユズはあっさりとダウンした。


 それは先ほどまで彼らがいた丘の上からの狙撃だった。スナイパーを一人丘の上に残し、他二人が丘を下り接近してくる。三雲進は独りで奮闘するが、二人相手には敵わずにやられてしまった。これで部隊壊滅。この試合では敗者となる。


「行き当たりばったりで戦うとこうなるの。戦闘中、または直後の弱った敵を狙うのはこのゲームの常套手段! 本当に強いチームっていうのはね。状況把握に長け、敵を利用し、盤面をコントロールするチームなんだよ」


 このゲームでは敗けると、倒した敵の画面に視点が飛ぶ仕様になっている。その観戦画面を観れば誰に倒されたのか分かる。


 ラヴフィンだった。


「11位の9キルか……。合計で10ポイント。かなりキルポイントも取れているし、全然悪くない出だしだよ」


 ただし。と夏海は付け足す。


「倒された相手がラヴフィンのチームじゃなかったら。だったね」


 結局、その試合はラヴフィンのチームがチャンピオンを取った。14キルの1位。その圧倒的な戦績に、私は言葉を失っていた。


おまけ

★順位ポイント解説

順位毎によるポイントは以下

1位 12pt

2位 9pt

3位 7pt

4位 5pt

5位 4pt

6-7位 3pt

8-10位 2pt

11-15位 1pt

16-20位 0pt

これにキルポイント(倒した敵の数)を合算したポイントがその試合でチームが獲得するポイントになる。


★用語解説 ダウン

ノックダウンのことを通称でダウンと呼ばれる。

キャラクターは体力がゼロになるとノックダウン(戦闘不能)状態になる。ノックダウン状態では攻撃は出来ず移動速度も極端に低下してしまうが、味方が蘇生を行えば復活することができる。ノックダウン状態から一定数ダメージを受けるとキャラクターはデスボックスと呼ばれる箱に変わりキルされた扱いとなり蘇生も出来なくなる。デスボックスにはそのキャラクターが所持していたアイテムが格納され、誰でも拾うことが可能。

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