Chapter1-Section21 最悪かと思います
「やばい……。やばすぎるよ……! 今超噂になっている二人がまさか玲のチームと関係してたなんてえ! とんでもないよ……! やばばだよお!」
「ちょっと待って。噂になってるってなに?」
「え、知らないの?」
私が頷くと、夏海はハムスターみたいな丸い目をぱちくりとさせた。
「先日のラヴフィンとカケルとのタイマンの件はもちろん知ってるよね?」
「うん。配信を観てたから。夏海も観てたんだね」
「観たよ! 当たり前に観たよ! だってラヴフィンが切り抜いて動画にしてるからね! それが急上昇に乗ってるからね! 100万再生されてるからね!」
「百万……再生……?」
私はきょとんとすることしか出来なかった。
「いい? 玲。あれはインパーフェクトのプレイヤーの間では既に伝説のタイマンと語られているんだよ! 二人の次の動向に、みんな注目してるの! 本当に一緒に競技出るんじゃないかって噂されるほどにね!」
ちょっと待ってよ。急上昇? 100万再生? そんなことって……。私まで困惑してきた。
「それで、ラヴフィンが開催したカスタムにカケルが出る⁉ そんなことしたらまた大きな注目を集めるよ! 分からないなら知っておくべきだ! 玲が作ろうとしているチームは今……! 日本のインパーフェクト界隈の一番の中心にいるんだよ⁉」
熱のこもった声が脳を揺さぶる。ラヴフィンが人気な配信者なのは分かっていた。かなりの実力者なのも分かっていた。でも、これほどまでとは……。
「それで……! 玲!」
夏海の顔がグッと私に近づいた。
「チームがまだ決まっていないっていうのはどういうこと? これから決まる可能性があるの⁉ ラヴフィンが競技に出る可能性があるってことなの⁉」
彼女の鼻息は荒い。
「えっと……。実は……」
私はこれまでのことを話した。今日の結果次第でチームがどうなるかも全て。
「なるほどねえ」夏海は割り箸で餃子を挟み、たっぷりと醤油につけた。
「今日、ミクモンとカケルのコンビが勝てばラヴフィンが正式に入ることが決まると。逆に敗けたら、ミクモンがチームを抜けることになるかも……と」
「けれど三雲さんとは既に選手契約を結んでいるからチームを抜けるかどうかは彼の決断次第なんだけどね。正当な理由も無しに私の側から一方的な解雇は出来ないから。そもそもラヴフィンがどこまで本気で言っているのかも分からないし。翔琉さんとのタイマンの件もあるから……」
「玲……」
夏海の声はらしくもなく鋭かった。
「ミクモンが前に所属していたチームが解散した理由を知ってる?」
「喧嘩別れって訊いたよ」
「どうして喧嘩したと思う?」
「知らない……。夏海は知っているの?」
「ううん。知らない。でも……ゲーマーって、ゲームに対してはとことん真摯で馬鹿真面目な人が多いんだ。そういう人種なんだよ」
夏海はたっぷりと間を置いた。
「ミクモンがもし敗けたなら、彼は本当に抜けると私は思うよ」
その言葉には説得力があった。だって彼女も生粋のゲーマーなのだから。
「どっちに転べばチームがより強くなるのかは正直私にも分からない。玲としてはどうなって欲しいの?」
「私は……」
答えられなかった。今日勝ってチームが決まってくれれば嬉しいし安心する。でも素直に勝って欲しいと応援できるほど三雲進のことは好きになれない。
目の前のモニターは三雲進の配信画面に切り替わった。三人の話し声が聞こえる。どうやら作戦を練っているようだった。三雲進と的井翔琉、そしてもう一人は私の知らない人。
今日のカスタムには、チームの三人目を決める時にラヴフィンの次の候補にしていた人を呼ぶと三雲進は言っていたから、その人なのだろう。
「ちょっと待ってよ。どうしてユズがいるの……!」
隣で夏海が驚いていた。
「知ってる人なの?」
「違うゲームでプロをやっていた人だよ。引退したって聞いたけど、まさかこのゲームに参入する気なの……?」
「強い人なんだ」
「どうだろうね。別ゲーを引退したのは二ヶ月くらい前だったはずだから、インパーフェクトの経験値はまだ浅いと思う。でも……どんなゲームでもプロになれるのは才能のある人なんだ」
「今日は期待していいってことだよね?」
「分かんないよ。もしユズまで強いなら、一人一人のスペックは相当なものだよ。でもこのゲームは三人の相性とかも大事だから。その点……」
夏海はモニターの配信画面を薄目で見つめた。三人の会話は話し合いというよりも、まるで喧嘩のようだった。
『さっきから何度も言わせないでくれる? 一番手は僕がやる!』
『だめ。俺が一番手やる。お前はアンカーでもやってれば?』
『カケル君さ……! さっきまでの話聞いてたのか? アンカーは俺がやる。だから二人でフラッガーをやればいい』
『でも一番手は俺だ』
『いや僕だね』
『頼むからさっさと決めてくれ! キャラ構成とかムーブとか、もっと話すべきことがあるんだよ……!』
『僕は譲る気なんてないよ』
『俺もない』
『あのさ分かってるか? 一、二番手は連携が肝なんだぞ? この調子だと前線が機能しなくなる』
『俺が独りいれば事足りるよ』
『過信だね』
『初心者は黙ってて』
『あ?』
『ストップ! ストップ! 分かった。こうしよう。一試合目は役割なんか考えずに好きに動けばいい。でも一試合目にダメージをより出せた方が、二試合目以降は一番手をやる。それで文句ないな?』
『分かった。どうせ俺が勝つけど』
『いいよ。それで。面倒だけど』
そんな配信画面を夏海は指差した。
「このチームの相性はかなり最悪かと思います」
はいそのようです。
おまけ
ユズは「VICARIUS」という6対6のfps ゲームの元プロ。
「VICARIUS」の公式大会ではチーターによるハッキング事件が起きてしまい、その大会は中止になった。ハッキング問題は解決されず以降の公式大会についても開催目処は立っていない。そのためユズのように他ゲームに転向するプロゲーマーはあとを立たない。




