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Chapter1-Section17 待たせたな!

 そのお店はラヴフィンが指定した場所だ。アウトドア用品店の地下にある店で、地下スペースをふんだんに使用しており、天井も高くて開放感があった。地下なのにテラス席もあり、そこだけは天井も地面すらなく、外の光がそのまま降り注いでいた。ガラス窓から室内にも外の光がたっぷりと差し込んでいる。店内は静かで席の配置にもゆとりがあるため、落ち着いて会話できそうな場所だった。


 三雲進が「ここがいい!」と言ったので私達はテラス席に座ることになった。


 各自思い思いに食べものや飲みものを注文し、ラヴフィンの到着を持った。


「カケル君、かわいいTシャツ着てるね」

「ああ……。これは姉さんのお下がり」

「お姉さんいるんだ! 美人?」

「それはよく分かんないけど……。目は似てるってよく言われる」


 三雲進は自分の目の前に手をかざした。的井翔琉の顔の目から下を隠すように。


「歳はいくつなの?」

「俺の三つ上だったと思う」

「てことは二十歳か……! 俺と一緒じゃん。紹介してよ!」

「やめた方がいいよ。姉さんゲームする人のこと大嫌いだから」


三雲進がかざした手を挟み、ふたりは互いに目を合わせた。


「カケル君のことも?」

「うん」


 そっか。三雲進はぽつりと言うと、手のひらをテーブルに置いた。


「ひどいお姉さんだね。興味うせちゃった」


 談笑の時間が続く。時刻は13時10分、約束の時間は過ぎていた。

 ラヴフィンはまだやってこない。


「遅いですね……。もう約束した時間は過ぎていますが……」

「十分、十五分程度の遅刻くらいは大目に見ようよ。遅刻うんぬんで責めれるほどこっちの立場なんか強くないし」

「そうですね」


 三雲進は抹茶ラテを飲みながら唖然とした顔を私に向けた。


「なんですか? その顔は」

「いや。てっきり反論されると思ってたから……。人として時間を守ることは常識です! みたいな感じで」

「だってそれは……」

「それは?」


 わたしは口籠った。だってこの男に言いたくない……! ついこの前、自分が大遅刻をかましたから他人に強く言えないなんて!


「なんでもありません!」

「気になるなー。おしえてよー。おい無視かー?」


 三雲進はわたしと目線を合わせようと顔を覗かせ、ちょこまかと動かした。わたしは目を合わせまいと徹底的に視線を逸らし続けた。

 そんな滑稽な様を観て、ふっ、と的井翔琉が小さく笑った。こいつめ……!


「待たせたな!」


 背後でラヴフィンの声がした。

 振り向くと、配信画面でも見たラヴフィンの姿があった。


 ラヴフィンは別の席で食事をしていた男性三人組に話しかけていた。その内のひとりを指差して言う。


「おまえがカケル君だな!」

「え……? いえ……。ちがいますけど……」

「なんだと!」

「ひっ、すみません……」

「だったらどっちが……」


 ラヴフィンは腕組をして、残るふたりの男の顔をにらみつけている。


「あ……、あのー……」


 私はおずおずと話しかけた。


 筋肉質な大きな体が振り返り、私を見下ろした。茶色いレンズのサングラスをしていた。肌は薄茶色に焼けていて、頬はこけ、全体的に堀が深い。まるで猛獣のような野性味があった。


「ラヴフィンさんですよね……? たぶん、こっちです……」

「なにい!?」


「やってしまった……」とラヴフィンはオールバックの後ろ髪をかいた。「すみませんでした」と三人組の男性にペコリとお辞儀する様子は言動とは裏腹に堂々としており、ふてぶてしくもあった。謝ったんだから文句を言うなよ、というオーラが体中からにじみ出ている。


「おまえがカケル君だな!」


 私達の席にやって来ると、さっそく的井翔琉を指差した。


「当たりです」

「やっぱりな。ゲーム強いやつのオーラは分かるもんだ」


 先ほど大外しの醜態を晒したばかりだというのに、なぜか自慢げに語る。

 ラヴフィンは空いた席に座ると、大きな欠伸をした。


「悪いね。いつもはまだ寝てる時間なもんでまだ眠くてな」


 なんて怠惰な男なんだ。と密かに私は思った。


「怠惰ですね」的井翔琉は言った。


 言うな。


「カケル君。昨日も思ったけど、君って素直と言えばいいのか……言葉を選ばないよな」

「ありがとうございます……?」

「ほめてないよ?」


 ラヴフィンは「まずは自己紹介からだな」とサングラスを外し、シャツの襟に掛けた。


「知ってのとおり俺があのラヴフィン! 本名は芹沢凛音せりざわりおんだが、慣れ親しんでるだろうラヴフィンの方で呼んでくれて構わない!」


 目をカッと見開きながら言った。青い瞳が鮮やかに際立つ。


「お、俺は……!」


 三雲進が続いた。らしくもなく緊張している様子だった。


「俺は三雲進です……! MikuMonミクモンて名前で競技やってます!」

「ああ……! 聞いたことあるよ。新手の注目株だってね」

「マジすか……! 光栄です……!」


 さぞ嬉しそうに口角を上げた。ラヴフィンに大きな尊敬の念を抱いているのがつたわる。ほとんどのインパーフェクトのプレイヤーにとってラヴフィンとはそういう存在なのだろう。


 それに比べて……。


「的井翔琉です」

「まとい? 変な苗字だな」

「失礼です」

「すまん……」


 いつもどおりのこの男。昨日の暴走を経て思う。一番まともじゃないのは彼なのかもしれない。


 私は鞄から名刺を取り出すとラヴフィンに手渡した。


「初めまして。サンクラウドテックの朝日玲と申します。この度はこのような貴重な場を設けて頂きありがとうございます」


 ラヴフィンは渡された名刺をまじまじと見つめながら言った。


「サンクラウドテック……。聞いたことのない企業だ。esportsに参画するのは初めてでは?」

「はい……。おっしゃるとおりです」

「やっぱり……。とするとesportsチームを運営するノウハウは何も持っていないということか」

「その点についてはこれからナレッジの吸収、及びノウハウ化を全力で取り組みます。近いうちに他のチームと遜色ない環境に仕上げてみせます」

「口ならなんとでも言える」


 なにも言い返せなかった。彼は正しい。私の言っていることは実績も計画性も乏しい空論だ。初手の印象は良くなさそうだ。やはり彼を引き入れるのは難しそうか。


「昨日戦って、そして今日会って分かった。カケル君は間違いなく逸材だ。それと同時に、人間的に大きく欠落している部分がある。俺は心配しているんだ。この男を扱いきれるチームはいるのだろうか。とね」


 ラヴフィンは的井翔琉に視線を投げる。彼は呑気にむしゃむしゃとオムライスを食べていた。自分の話をされていると分かっているのだろうか。


「だから今日、彼とその仲間達に会ってみた。そして思ったよ。君らの器ではこの男を扱いきれない」

「それはつまり、彼を手放せ。そう言いたいのですか?」

「ちょっと違うな……。俺はこう言っている」


 彼は自分の胸に勢いよく親指を突き立てた。


「だから俺をチームに入れろ!」

おまけ

三雲「オムライス好きなの?」

翔琉「うん。夕飯はオムライスかハヤシライスしか食べない」

三雲「それはお母さん大変だね……」

翔琉「そうかもね」

レイ「栄養偏りますよ?」

翔琉「そうかもね」

三雲「……」

レイ「……」

翔琉「え、なに?」


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