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Chapter1-Section14 次やろう

 五本勝負で、さきに二勝したのは的井翔琉だった。

 こんな展開になるとは誰も予想もしていなかったのだろう。ラヴフィンの配信に流れるコメントは試合前と比べ、様変わりしていた。



 まじかよ……

 今のキャラコンやばいな

 ふ、ふーん。強いじゃん

 最強の証明かっこよ

 わからされてら

 こんなぽっと出に負けるのか?

 もうこのまま負けて競技に出よう

 本当にお山の大将になっちまう

 これ全敗あります

 煽り性能高いなこいつ

 競技出たくてわざと負けてる?

 頼む。彼と一緒に競技出てくれ!

 こいつこんなに強かったのか

 ここにも化け物がいた



 流れは明らかに変わった。あと一勝するだけで勝ち越せる。ラヴフィンの無茶な要求も呑まずにすむ。


「ここまで圧倒していれば負け越しはなさそうで安心ですね。もしかしたら本当に五戦とも全部勝っちゃうんじゃないですか?」

「まだわからないよ」


 三雲進の声は、まだ緊張をほどいていなかった。


「俺の知っているラヴフィンはこんなもんじゃない」


 3試合目が始まった。


 ラヴフィンは納屋に近づかず、岩のオブジェクトに隠れながら戦闘エリアの縁沿いを移動した。


「熱くなってると思ったけど、冷静だね。ラヴフィンは」

「どういうことですか?」

「これまでのカケル君の戦い方はラヴフィンの虚を突くやり方だった。電光石火のようにいきなり近づいたり、かと思ったら近づいてくるのを静かに待ち受けていたり。だから絶対に虚を突かれないように、視界のいい外側を移動している」

「たしかに……! 今の位置なら敵が近づいて来ても絶対に視認出来るし、さっきみたいに待ち構えていようと近づく前に見つけられるから問題ない……!」

「そういうこと」


 そして納屋の角から的井翔琉が体を出したのをラヴフィンは見逃がさなかった。少し離れた位置での撃ち合いになった。お互いが少しずつダメージを受ける。

 的井翔琉が納屋の向こう側に隠れた隙にラヴフィンは納屋まで走ると、屋根上に登った。そこで体力を回復する。


「これはまずいかも……」


 三雲進は強張った声で言った。なにがまずいのか私には分からなかった。的井翔琉に不利な状況になったということなのだろうか? 今の一瞬で?


『最強の証明か……』


 ゆっくりと、噛み締めるようにラヴフィンは言った。


『それも俺には必要ない。なぜか分かるかい?』

『さあ。教えてくださいよ』

『俺が最強だと分かっているからだ!』


 ラヴフィンは屋根上から飛び降りた。開け放たれた窓枠から、納屋の中に的井翔琉がいるのを見つけた。近距離での撃ち合いになり、制したのはラヴフィンだった。


『カケル君……。君が必死に策を弄するのも、俺を挑発して冷静さを奪おうとするのも、真正面から俺と戦うことを避けたいからだ! 俺の方が強いと認めているからだ! そうじゃないかい?』

『……ただの駆け引きですけど』


「負けた……!」


 これで五戦全勝は途絶えた。同時にラヴフィンが私達のチームに入るという約束も消えたことになる。


「やっぱまともな撃ち合いに持ち込まれたら手強いね。回復より先に屋根上を取る判断はさすがだった」

「どうしてですか?」

「あの場面、カケル君は恐らく納屋の側面にいるか、納屋の中にいた。ひとつ前の撃ち合いでダメージを受けていたから回復をしていたんだと思う。その隙にラヴフィンは屋根上のポジションを取ったんだ」


「屋根上を取るのがそんなに大事だったんですか?」

「ちょう大事だよ。カケル君側が攻撃を仕掛けようと思ったら屋根上に登る必要があるわけだけど、登りのモーションはかなり隙が多い。屋根上で待ち受けているラヴフィンからしたら格好の的になるんだよ。対して、屋根上から地上に降りるモーションは隙が少ない。ラヴフィン側が攻撃を仕掛けるのは容易いんだ」

「つまりあの場面において屋根上は、攻撃を仕掛けやすく守りやすい、かなり有利な場所だったということですね?」

「そのとおり」


「でも2試合目のときみたいに翔琉さんは岩の上まで移動すればよかったのでは?」

「それは無理だよ。納屋から離れて岩の所まで移動するあいだに屋根上から撃たれ放題になっちゃうからね」


 なるほど。と私は納得した。


「あーあ」


 三雲進は小さなため息を漏らす。


「これでラヴフィンがうちに入る可能性は消滅したね」


 悔しそうでも無く彼は言う。


「それはもういいですよ。負け越さなければ全然」

「俺もおなじ想いだよ」


 残りの2戦で1勝すればいい。依然優勢なはずなのに、一気に窮地に追い込まれた気持ちになった。

 それもそのはずだ。


『これで俺が君のチームに入ることはなくなった。今度は君がテーブルにチップされる番だ』


 負けたら公式大会に出られないなんて、懸かっているものが大き過ぎる。

 それに……。


『大一番だな! カケル君!』


 ラヴフィンの存在はどんどんと力強さを増していく。


 4試合目が始まった。

 それは驚くほどあっさりと決着が着いた。前の試合とまったく同じ展開でラヴフィンが勝利した。


「そんな……。これで2勝2敗……」


 三雲進はなにも言わなかった。先ほどまであんなに饒舌に解説をしてくれていたのに。ついに黙り込んでしまった。それが私を余計に不安にさせた。


「三雲さん……? なにか喋ってくださいよ……!」

「玲ちゃん……」


 彼にしては随分と低い声だった。


「俺は……もう覚悟できたよ」


 私は息を呑んだ。その言葉の意味を汲み取ろうとすると、どうしても最悪な結末が浮かんでしまう。


「負けちゃうの……?」

「勝敗だけ見ればもちろん五分だけど、勝ちパターンを持っているラヴフィンの方が圧倒的に有利だ。あの勝ちパターンを崩す術がない限り、勝率はかなり低いよ」


 私は手を握り合わせた。的井翔琉と握手をしたときの掌の温度を思い出し、胸がキュッと締めつけられた。あれほどの熱量を持った子が大会にも出られず、こんなところで終わってしまっていいわけがない。彼の心中を察するだけで、私まで胸が苦しい。

 この一戦が自分の人生を握っている。彼に襲いかかるプレッシャーは相当なものだろう。そんな状態でまともなプレイができるとは思えない。自分から持ちかけた勝負とはいえ、まだ十七歳の男の子にここまでの精神的負荷をかけるのはあまりにも……。


『――のしい……!』


 的井翔琉が小さくつぶいた声はゲーム音に混じって聞き取れなかった。


『なんて? 怖じ気づいちまったか? 声が小さく――』

『楽しい! はやく次やろう!!』


おまけ

的井翔琉まといかけるはゲーム以外に趣味はなく、それ以外のことには退屈を感じている。高校の修学旅行でさえ仮病を使って休み、家でずっとゲームをしていた。

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