Chapter1-Section12 俺とタイマンしませんか?
『いやあ。ランクでよく名前は目にするさ。君のことは知ってたんだよ。しかもプロの友達から聞いたけど、まだ高校生って話じゃん? まさかそんな君からデートのお誘いが来るなんて。びっくりしたよ!』
『応じてくれてありがとうございます』
『いやいや! お礼を言うのは俺の方かも。だって面白そうな匂い。君から感じちゃったんだよね』
ラヴフィンの配信に流れている二人の声は、もちろん片方はラヴフィンの声。そしてもう片方はまぎれもなく的井翔琉の声だった。
俺に任せて。とは言っていたけれど、まさかラヴフィンの配信に乗り込むなんて。まさかこんな大胆なことをする子だったなんて。
予想外を超え、晴天の霹靂。何もトラブルを起こさなければいいけど……。
そのとき、私の携帯が鳴った。出ると、相手は三雲進だった。
「玲ちゃん! やばいよ! 大変なことが起きてる! カケル君が大暴走中!」
「ラヴフィンの配信ですよね。見てます」
早口に答えると、三雲進は「お? そうなの?」と意外そうに驚いていた。
「ラヴフィンの配信に乗り込むなんて……。いったい何を考えているんでしょう?」
「分かんない。けど……。ここでチームに誘おうとしてるなら、さすがに前代未聞だよ……。他人の配信中にチーム勧誘なんて」
『ランクでカケル君には散々いたい目に合わされてるからなあ。今日はその実力をとなりで見れると思うと楽しみだよ』
『痛い目みてるのはお互い様です』
『まあ確かに? 戦績で言えば俺の方が若干勝ってる気もしなくないか』
『いや。絶対俺の方が勝ってます』
『負けず嫌いだねえ!』
あっはっは。とラヴフィンの豪快な笑い声が響く。
「見守るしか無いのでしょうか?」
「まあ。いまカケル君に電話しても絶対に出ないだろうね」
「何も変なことしなきゃいいですけど……」
「玲ちゃんだって分かってるでしょ? こんなことをしでかすやつだ。それは淡い期待だよ」
彼の言う通りだった。このまま何も起きない。なんてことはあり得ないだろう。
『それじゃあ、ランク行こうか』
『いいえ』
『お? だったら何すんの?』
『俺とタイマンしませんか?』
綺麗な口笛の音が鳴った。そのあとに『いいね。面白いじゃん……!』と昂ったラヴフィンの声。
「タイマン……? どういう意味ですか?」
「そのまんまの意味だよ。一対一の撃ち合い勝負をしよう。とカケル君はそう言っている。俺とおまえ、どっちの方が強いのか決めようぜ。て、そう言ってるんだ」
「なんのためにそんなことを……」
「なんでだろうね……。でも、これは見ものだよ……!」
三雲進の声はどこか興奮していた。この状況を愉しんでいるとさえ思えた。
「でもこのゲームは三人一組のバトルロワイヤルゲームですよね? どうやって一対一の状況なんて作るんでしょうか?」
「トレーニング用にそれが出来るモードがあるんだよ。狭いエリアが用意され、純粋なタイマン勝負だけを楽しめる場所が」
ずりぃなあ。
私の聞き間違いじゃなければ、三雲進はそう言っていた。
「俺もラヴフィンとやりてぇよ……!」
聞き間違いじゃなかった。この男どもは……! 私の気持ちを知りもしないで。
的井翔琉はもう我が社と選手契約を結んだ選手だ。こんな何万人にも見ている配信で問題を起こせば、その火の粉が会社に飛んで来たとしてもおかしくない。
『十本勝負でいいですか?』
『オーケー! 武器はどうする?』
『SMGとショットガンで』
『じゃあ、シリウスとスピカでいいか?』
『はい。いいです』
『キャラクターは?』
『アサルトキャラなら何でも』
『よし! それじゃあ。始めようか!』
何も問題を起こさないで欲しい。
『ラヴフィンさん……』
『どうした?』
『もし、俺が十本全部勝ったら……』
そんな私の心配を嘲笑うかのように彼は……。
『俺と一緒に競技出てくれませんか?』
言いやがった。私は頭を抱えた。
「言いやがった!」三雲進の唾を呑み込む音がスマートホン越しにも聞こえて来た。
ラヴフィンは『なるほど。そういうことね』と言ったきり黙り込んでしまった。その静かな時間を、私達は緊張して見守ることしか出来なかった。
『五本でいい』
ラヴフィンはついに口を開いた。
『五本やってカケル君が全勝したら、競技でも何でも一緒に出てやるよ!』
でもさ。と言葉を続ける。
『これじゃあ、まだ面白くない。君にもリスクを背負ってもらおう。もし五本勝負で君が負け越したら、俺の言うことを絶対に聞くと約束しろ。そうつまり、競技は諦めろと俺が言う。そしたら君はこのさき一生公式大会には出られない。いいだろ? 俺は人生をチップにされたんだ。君も人生を賭けないと。これでようやく面白い』
無茶苦茶だ……! こっちは全勝しなきゃ意味ないのに、ラヴフィンは勝ち越すだけでいいなんて。しかも負けたら公式大会に一生出られない!? そんな理不尽な賭け、いくらなんでもやるわけ……。
『それでもやる覚悟はあるかな?』
『やります』
即答だった。的井翔琉の暴走は終わらない。
おまけ
『Imperfect braves』に登場するキャラクターについて
アサルト、スカウト、サポート、ガードの4種類のクラスに分類されており、それぞれのキャラクターはクラスに相応しいスキルを持っている。
アサルトクラスのキャラクターは武器の扱いに長けているため銃発砲時の反動が僅かに小さい。さらにミサイルや移動速度向上などの攻撃的なスキルを持つ。(※今回のタイマン時はスキル禁止のルールになっている)