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Chapter0-Section0  誰が予想できただろうか

 ありふれた言葉になるけれど、人生とは分からないものだ。


「そろそろだな」

「いいかみんな。ラーメンだぞ。塩ラーメン」

「いつまで引っ張んの? それ」

「味がしなくなるまで」


 ゲームなんて一度もしたことなかったんだ。


「カケル。緊張してんだろ。逃げんなよ?」

「緊張してないし。それに……もう二度と逃げない」

「よし! 景気づけに玲ちゃんから一言貰おうよ」

「え⁉ 私……⁉」


 そんな私がesports(eスポーツ)チームのマネージャーをやっている。


「そりゃそうでしょ。玲ちゃんのおかげでこのチームがあるんだから」

「それは私というか……三雲君というか……みんなというか……」

「いいから! いいから! 一言くれよ!」

「うん……。えっと……。頑張って。信じてる。応援してる……! あと……」

「あと?」

「世界に行こう!」

「いいね! 最高!」

「ぶち上がるな!」

「あたりまえ」



 ―Chapter0 やがてー



 Discordの通話を切り、ノートPCを閉じた。70インチもあるというモニターに視線を移す。その画面では実況と解説の二人が注目チームについて熱く語っている。


「うわあ……! 緊張するう!」


 缶チューハイをローテーブルのガラス天板にそっと置き、春川夏海はソファに座りこんだ。私の隣で、大袈裟に両肩をさすった。


「なんで夏海が緊張してるの。頑張るのは選手達だよ」

「そんなの分かってるよお。でも母親の気持ちというかなんというか……。推しが負けるところって見たくないじゃん?」


 プシュっと缶チューハイの開く音がした。それは夏海が大好きなレモンサワーだ。


「玲も飲む?」

「ううん。いい」

「そっか」


 乾杯、と彼女はどこにともなくつぶやく。


「私からしたら緊張してない玲の方がおかしいよ。あなたのチームが決死の覚悟で挑む舞台なんだよ? これは」

「そんなの分かってる」

「それならばいいのだ」


 夏海が缶を逆立てて、グビグビとアルコールを胃に落とし入れたその瞬間、モニター内の実況者は始まりの合図を告げる口上を切り出した。


『長らくお待たせ致しました。あの屈辱の世界大会から約半年の時が経ちました。選手、ファンの皆様にそれぞれ思う所はあったでしょう。あの時の雪辱を晴らすため、再び世界の壁に挑まんとする強者達、今度こそ世界を勝ち取らんとするリベンジャー達、そしてこの舞台まで勝ち上がって来た新進気鋭のニューチャレンジャー達。それぞれの想いが入り交じり、この決勝の舞台で熱い火花を散らすことでしょう!』


 私は祈るように両手を握った。あれから、思えば長いようで短かった。私は今、彼らの勝利を心から願っている。


『どのチームにも可能性は残っています。さあ……! 世界大会への七席を、思う存分に奪い合って貰いましょう!』


 このesportsの世界で、私が彼らに夢を託すことになるなんて。


 頑張れ。みんな。


『最終決戦ファーストゲーム……。ついに開幕です!』


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