二話 旅立ち
とても間の空いた更新となりました。
なるべく更新したいと思いますので、どうぞご一読ください。
師匠が居なくなり、一年が経った。
その間も修行を続けつつ待ってみたけれど音沙汰はなく……私はもう正式に冒険者になれる年齢になってしまった。
子供の頃の夢は冒険者になって師匠と世界を回ることだったけれど、今は師匠を追いかける為に冒険者になろうとしてる。
冒険者になれば依頼を受けられるようになって、階位が上がれば他の国への入国もしやすい。人探しにも旅にもうってつけだ。
ずっと心に決めていた旅立ちの日。
心残りはあるけれどずっと此処にいるわけにもいかない。
師匠との思い出が残るこの家とも、今日でお別れだ。
私は“冒険者ギルド”のある大きな街「ミズレスト」へ向かう。
今はそのための最後の準備の真っ最中。
ガリガリと金属を擦り上げる音を部屋中に響かせている。
すっかり磨り減った砥石を置いて、研ぎあげた幅広の長い鉄の塊を眺めた。
昔、師匠が冒険者に成り立ての頃に使っていたバスターソード。
一流の冒険者は武具の扱いも一流だと言うけれど、細かい傷に目を瞑ればほとんど新品のように手入れされている。
師匠にはよく武器の手入れだけはしっかりと覚えなさいと言われたものだ。
剣の根本は切れないように、自分が使いやすい程度に刃引きをする。
「よし、こんなところかな」
革鞘の中に油を注ぎ、まだ新品同然の大剣を叩き込む。
何度か抜き差しをしつつ、具合を確かめて鞘帯を調整。咄嗟に抜けるように、不意に落ちないように。
革を縫い付けた丈夫な上着を着てベルトを締める、長旅には鉄鎧より軽くて着易いこっちの方がいいと教わったっけな。
師匠の教えを思い出しつつ、ベルトにナイフを数本仕込み、整理整頓された大型の鞄を背負う。
最後に師匠からもらった皮手袋をはめて……腰にポーチを巻いて、点検する。
「師匠が残してった魔道具も持った、路銀も用意した……うん、よし」
「準備、完了だ」
身支度を終えて、家のドアを眺める。
思い返せば不思議と小さなころの記憶はほとんどなくて、やっぱり一番思い出に残ってるのは師匠との修行の日々ばかりだ。
この扉を開いたら、とうとう冒険が始まる。まずは冒険者になるための冒険だ。
何度も開いて来た扉がやけに重く感じる。不安と期待、そして大きな興奮で身を奮い起こして扉を開く。
空は快晴。絶好の冒険日和だ。
一歩二歩と踏み出して、くるりと我が家に向き直る。
「行ってきます」
そう呟いて、あとは振り返ることなく前へ、前へと進んだ。
いつも買い出しに出ていた村を超え、まだまだ歩き慣れた山の道の途中。
そう危険な動物も居ないこの山だからと少し油断して歩いていると、開けた場所に出てソレと対峙してしまう。
ずん、ずんと。巨大な体に剣呑な牙を持つ猪……大猪だ。
「あっちゃあ、そういえば最近やたら大きい足跡があると思ってたけど……」
既に大猪は戦闘態勢、今更背中を見せて逃げるには少し荷物が重すぎる。
大鞄のベルトを外して地面へ落とし、背中の大剣を抜く。
「旅立ちの一戦としてならちょうどいっか!」
「ブモオオオ!!」
その声に呼応するように、大猪が吼える
開けた広い場所での大猪はとても危険だ。
その突進力が存分に生かされる上に、何より恐れを知らない精神力が厄介でどれほど傷ついても最後まで戦い続ける為、討伐対象にもされている獣だ。
長引けば不意に攻撃をもらってしまうこともある、タフな相手に長期戦はよくない。
戦う前にプランをよく練って────
だが、大猪はそんな迷った瞬間を狙ったかのように、予想よりも早い不意打ちのような速度で突進してきた。
「わっ!?」
その突進に合わせて────横に避けつつ、交差した瞬間に前足へ斬撃を叩き込んだ。
「あっぶなあ……」
大猪が悲鳴のような鳴き声を上げて怯む。
咄嗟だったからか前足は斬り落とせず傷を付けるだけに終わるが、怯んだだけでも十分だ。
「でも、コレで────!」
想像。構築。発動。
頭の中で組み上げた魔術を繰りだす。
「アイシクル・ランス!!」
氷の槍は大猪の横腹を貫き、地面へ突き刺さる。
大猪の正面は刃も弾くほど硬いけれど、横腹は柔らかい。
「ふうっ」
少しの汗を拭って、まだ動こうとする大猪の首を獲る。
「初戦は上々……だけど警戒が甘いとか師匠に怒られちゃうだろうなあ」
ぼやきつつ牙を戦利品として回収して、荷物を背負い歩きなおす。
歩いている時の油断、咄嗟の攻撃、魔術の発動速度......
「反省点をしっかり考えて対策を練る、と」
まず目指すべきはここから最も近い都市「ランベル」だ。
冒険者登録のできるギルドがある場所までは遠すぎるから、この街で馬車に乗らないといけない。
ランベルまでの道は二通りある、近道と遠回り。
遠回りは村の人も利用する道で、かなり時間はかかるけれど道宿もあるから安全にたどり着ける
問題は近道の方で、徒歩でも一週間足らずで着く距離だけれど...
「追い剥ぎの森かあ、どうしようかな」
街とここを遮るようにある巨大な森、通称「追い剥ぎの森」
大蜘蛛や大百足などのモンスターが多く危険な森だ。
何よりその名前の通り、追い剥ぎや盗賊などがよく潜伏している。
街にも近く、モンスターが多い為警備隊にも追いかけられにくいこの場所は逃げ込むにはうってつけだ。
時間を重視するか、安全性を重視するか。
さて、どうするか…
「うーん…よし、決めた!」
「森を抜けよう、時間は一秒でも惜しいしね」
快活な声をあげ、アイズは森へと踏み入っていくのであった。