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はじまります! 平安貴族をモチーフにした男女の不思議なお話しです。
1〜2日おきに更新し、
3話で完結しますので、お付き合いください^_^
妻が大臣と通じていることを、私は知っていた。二人の行いは、日を追うごとに大胆不敵になってきている。
私と別室であるのをいいことに、妻は平気で男を床へと迎え入れた。
小間使いたちに袖の下を持たせ、堂々とわが家に忍び込んだ男に、妻が蚊帳の隙間から手招きする。男はのっそりと四つん這いになり、いそいそとその隙間へと吸い込まれていく。真っ白な蚊帳は月明かりを浴びて妖しく光りながら、内部での二人の息遣いを私に見せつけるかのように、夜じゅう揺れた。
私はふすまの向こうから揺れる蚊帳を目の当たりにしながら、声を掛けることも、飛び込むこともできなかった。それどころか、ただただ激しく硬直してしまう自分に戸惑っていた。
私の裡にあるものが、単なる怒りだけではないことに私はすでに気付いていた。肚の奥から甘く沸き立つ鈍色の沸騰。頭から爪の先までをきつく締め上げる錆びた悦楽。
私は嫉妬に心を八つ裂きにされながらも、私以外の男の下で激しく喘ぐ妻の声に耳を澄ませる。そして、二匹の大蛇が戯れるがごとく濃密に絡まり合う、二人の顔と肉体を仔細に想像した。そのたびに荒い息を鼻から吐き出しては、ふすまを片手で掴んだまま全身を熱に焦がした。
翌日決まって、小間使いが隠しながら持ってくる文は大臣からの後朝の文だろう。その文にどんな恋の和歌がしたためられているのか私は知らない。
想像してみたところで妻は浮気をやめないのに、私はあれこれと恋を著す句を思案しては、狂うような嫉妬にかられるのだった。
◇
妻が大臣に預けているのは肉体だけではなかった。
小間使いの一人を締め上げ吐かせたことだが、私が帝から賜った御内帑金の一部を大臣に渡していたのだ。こうなるともう、惚れた腫れたをとっくに通り越して、溺れている、だった。
こうなっては、私だっていつまでも黙然としているわけにはいかない。そこで、私は妻を問いただすことにした。私は、他の男に自ら進んで抱かれていても妻を愛しているのだ。放蕩でも淫乱でも私が心に決めた女だ。
御簾の隙間からその姿を見た瞬間恋に落ちた。夜ごと、蚊帳に通い詰めともに三日夜の餅を食した仲だ。
だから、私は妻をこの宮殿から追い出したりはしない。彼女が自らの行いを素直に認め、謝罪さえしてくれれば、私は妻を赦すだろう。御内帑金のことも目をつぶろう。二人で墓まで持って行けばいい。私は妻と、二人の仲を再構築したいのだ。
つづきます!