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イエリと王さま  作者: みつきあこ
第二章 境界の地
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 兵士の詰所は森のすぐそばに設置されていた。竜が飛び出してきた時、即座に対応できるようにだろう。簡易的な小屋だが、中には夜勤の兵士が休むスペースなどもあるらしかった。

 クレイやフリアナから話を聞く限り、タリステリアにいる兵士たちは、竜に肉親を殺されたり、森に入ったまま帰らなかったりした者たちだそうだ。激しい憎悪でもなければ、恐ろしい竜と戦うなどできないということか。イエリは木の影に隠れながら詰所へ近づいた。

 中へ入るのはさすがに危険すぎる。どうするべきかとイエリは詰所を観察していると、小さな窓が半開きになっていることに気が付いた。窓のそばには背の高い草が生い茂っており都合がいい。

 兵士たちの話し声がかろうじて聞こえるよう、窓へ向かう。イエリは草むらに身を伏せて耳を澄ませた。彼らは雑談に興じているようだった。

「最近訓練きついよな。こないだの竜のせいだろうけど」

「でも死人ゼロだろ? すげえ進歩だよな。前まで竜一匹殺すにも大勢死んでたらしいじゃねえか」

「それはな」

「竜が出てくるなんて生きてるうちにあるかどうかって事件なのに、今後も増えるってお達しが来てんだろ? いったいどうなってんだ」

「竜殺しサマは何でもお見通しなんだろ。あの槍だって奴が作ったらしいじゃねえか」

「ありがてえことだけどな」

 竜殺し、と聞いたイエリの胸中は穏やかではない。どうやら竜殺しと呼ばれる存在が、鱗を貫通する槍を作ったらしい。もしや、卵泥棒の計画を立てたのも竜殺しなる者なのか。

「てか知ってるか? この槍、竜の爪から作ってるらしいぜ」

 兵士が槍を持ち上げて肩をすくめる。イエリはぎょっとしてわずかに体を持ち上げた。

「おいおい、どっから仕入れたネタだよ」

「そうでもなきゃ考えられないだろ? あの硬い鱗を簡単に貫通したんだ」

 確かにそれはイエリも不思議だった。イエリの知る限り、竜の鱗は非常に硬く、鉄製の槍などでは歯も立たないだろうと考えていた。それを破れるとすれば、竜の爪だと言われても納得できる。

「こないだの竜も、鱗に爪に、剥がせるもんは全部とって都へ運べって命令きてただろ。きっとそれ素材にして、新しい道具でも作るんだろうな」

 イエリはぞっとした。あの竜はバラバラにされて、次の竜を殺すための道具になる。頭を殴られたような衝撃に襲われたイエリは再び体を伏せた。

 確かに、竜と人には大きな力の差がある。掟を破って出てきた竜を殺すだけで人に犠牲が出るのなら、その対策をしたいと思うのは自然で、正しいことのように思う。しかし、それでは鱗も爪も剥がされた竜は最後にどうなる? 全て失ったあと、一体どこへ捨てられるというのか?

 イエリは唇を噛み締めた。

 どっちが正しいとか、間違ってるとかじゃない。イエリがただ嫌なんだ。竜が好きだから、味方したいだけ。

「剥ぎ取り作業もうまく進んでないらしいぜ。なんてったって竜だからな。鱗一枚剥がすにも苦労するって」

「だろうな」

「って、そろそろ巡回の時間だ。行くか」

 彼らはそのまま竜の恐ろしさや、今後の動きについて話しながら立ち上がった。イエリは慌てて息を殺すが、彼らは話に夢中であり、イエリがいることには気が付かなかったようだ。そのまま詰所の外へ出て、森に沿って歩いていく。話の続きも気になったが、イエリはそれよりも先にするべきことを見つけた。

 兵士が見えなくなると、イエリは詰所の中を窺った。人影はない。イエリはそっと窓を開き、詰所の中へ侵入した。

 中には椅子と机、簡易ベッドが置かれている。机の上や壁には無数の書類が張られていた。イエリはそこへ飛びつき、竜の死体についての情報がないか探した。

 しかし、イエリには文字が読めない。暗号のように並ぶ文字を眺めても、何一つ頭に入ってこなかった。イエリはなんとか、自分でも分かる資料がないか探し回る。

 早く。早くしないと他の人がきちゃうかも。見つかったらおしまいだ。早く何か……!

 机をひっかきまわしていると、一枚の書類がひらりと落ちた。イエリはその書類を見て、はっと飛びついた。

「これ……」

 そこには何かを説明する文字と地図が書かれていた。森に隣接するどこかを描いているが、はっきりとした場所は分からない。しかしなぜかイエリには、これこそが竜の死体の場所だと感じられた。どちらにしろ他に手がかりはない。イエリは一か八か、その地図を睨みつけた。

 考えて。兵士が竜の死体を置くならどこか。

 あの竜は大きい体躯をしていたため、恐らく重い。そう遠くへは運んでいないはずだ。そして、住民は皆竜を恐れている。自宅の近くへ死体を置くことを良しとしないだろう。

「それなら、きっと……!」

 タリステリアの北側には、兵士たちの利用する訓練場がある。そのため不用意に近づかないよう、フリアナからよく注意されていた。そして、イエリが竜を目撃したのも、畑の北西部だ。

 イエリは書類を適当に机へ戻すと、窓から外に出た。幸い兵士たちはまだ戻ってきていない。イエリは訓練場を目指して走り出した。

 道中畑で作業をする人を何人か見かけたが、呼び止められたり通報されることはなかった。遠目に見れば、イエリなど野犬と対して変わらない。汗と泥にまみれながら、イエリはひたすら北へ向かって走った。

 訓練場は、開けた土地に木の塀を立てているだけの簡素な造りだ。そのため、近づけば竜の死体が目に入った。イエリは自分の勘が当たったことに感動し、かすかに興奮した。それと同時に、竜の死体を見ると痛ましい気持ちにもなった。

 周囲にはかすかだが異臭が漂う。この臭いをイエリは知っていた。

 ──お母さん。

 母の腐った遺体。そこから生じた腐敗臭と似ている。恐らく、この臭いのもとは竜の死体だろう。死んでから一週間も経てば、腐敗が進むのも頷けた。なつかしさを感じるその臭いに、決意がみなぎる。

 やればできる。イエリは大丈夫。

 自分に言い聞かせながら、イエリは木の後ろへ隠れる。

 訓練場が近づくと、さすがに大っぴらには歩けない。今日は訓練が実施されていないのか、いるのは見張りの兵士だけだった。立っているのは二人。竜の死体が置いてあるためか、兵士たちはそれなりに真剣な様子で周囲を見張っている。正面から中に入るのはまず無理だろう。

 ぱっと見る限り、竜の体を貫いていた槍は引き抜かれて血の跡を残しているものの、鱗や爪は無事だ。兵士たちが話していた通り、剥ぎ取りには苦労しているらしい。

 さて、ここからどうするか。

 とにかく竜の死体が利用されるのは防がなければと思ったが、実際にどうするべきか思いつかない。竜の死体を運び出すなどイエリ一人では不可能、兵士たちを相手に戦うのも論外だ。イエリ一人でできることは果たしてあるのだろうか。

 その時、悩むイエリの目にあるものが飛び込んできた。

 訓練場の周りには、周囲を照らすための篝火が設置されている。今は明るいため火が消えているが、暗くなれば点火されるはずだ。

 深く息を吐く。イエリは息をひそめて、その時を待った。


 畑仕事をしているときは一日などすぐ過ぎていくが、なにもせずじっとしていると時間というのはひどくゆっくりになる。

 見張りの兵士たちは基本的に移動しないため隠れているのは楽だったが、交代の時だけはひやりとさせられた。物音を立てないようできるだけ体を縮めていたため、兵士が通り過ぎるころには体中が凝り固まってしまった。

 そんなこんなで長い半日を過ごし、ついに日が傾き始めた。兵士たちが篝火を点けたことで、ぼうっとしていた意識が覚醒する。いよいよ本番だ。

 兵士たちも、竜の死体をただ監視するだけの業務にはやる気が出ないようだ。昼間の兵士よりいくらか集中力に欠けた様子で、時折欠伸を漏らした。

 イエリは暗闇に紛れて、訓練場の裏手へ回り込む。兵士が監視しているのはあくまで正面の出入口のみで、裏まではやってこない。昼間に彼らを観察して気が付いたことだった。その代わりなのかは不明だが、篝火だけは設置されている。そこに火が灯っていることを確認し、イエリは静かに頷いた。

 一本の枝を火に近づけ少し待てば、火が燃え移る。イエリは慌てて火を消さないように、慎重に枝を塀の上へ置いた。

 訓練場は、急ごしらえの木造だ。塀、武器がしまわれている棚、全てが木で作られている。ここ数日は雨が降っていないため、よく乾燥している。燃えている枝を置くだけで、簡単に燃え上がるはずだ。

 イエリの予想通り、塀はすぐに燃え始めた。小さかった火は、やがて風を孕んで大きくなり、ごうごうと音を立て始める。燃え始めたと確認すると、イエリはいったん木の影へ戻った。

 激しく燃え盛れば、兵士たちもすぐに気が付いた。彼らは慌ただしく消火を試みたが、もはや手遅れだ。他の人間を呼んで大量の水を持ってこなければ、この火は収まらないだろう。

 兵士たちは水を持ってくるためか、応援を呼ぶためか、二人そろってどこかへ走っていってしまった。あとに残ったのは、激しく燃え上がる無人の訓練場だ。

 イエリは影から飛び出し、正面の入口に立った。咎めるものは誰もいない。

 これで、イエリの罪状は増えた。脱走奴隷に放火犯。捕まったら確実に殺される。後戻りはできない。

「いいの。もう、いい」

 ぽつりと呟く。イエリはしっかりとした足取りで訓練場へ足を踏み入れた。

 塀にどんどんと火が燃え移り、中へ入るとすさまじい熱気を感じた。煙と熱で呼吸が苦しい。あまり長居はできない。

 イエリは竜のもとへ駆け寄ると、その体を間近で観察した。

 竜の遺体は、鼻をつく生臭い臭いを放っていた。思わず鼻を覆いたくなるが、そんな場合ではない。竜は瞼を薄く開けたまま、濁った瞳で虚空を見つめている。体には一部虫がたかり、ますます母の遺体とそっくりだった。槍の抜かれた傷口は、乾いた暗褐色の血がこびりついている。竜の体は穴だらけで、惨めだった。

 イエリは置かれていた篝火を倒し、竜の近くへぶちまけた。燃えている木が竜の足元へ転がり、炎がゆっくりと侵食していく。

「ごめんね」

 イエリには、竜の死体を運び出すことはできない。兵士たちを説得したとして、奴隷のいうことに耳を貸すとも思えない。イエリができるのは、せめてこの竜が利用されないようにすることだけだ。

「ごめん」

 炎が巻きあがる。喉がひどく乾いて、灰が張り付いているようだ。イエリは火の勢いが十分になる頃、竜に背を向けた。

 そのまま立ち去ろうとした時、ふと、足元に落ちた鱗の破片が目についた。鱗を剥がそうとして失敗したのだろうか、傷だらけであちこちが欠けていた。

 紫色の鱗は、炎に照らされて鈍く光を反射していた。砂にまみれたそのかけらが、なぜかイエリを釘付けにする。

 その時、遠くからざわめきが近づいてくることに気が付いた。兵士が戻ってきたのだ。イエリは咄嗟に鱗を拾い、しっかりと握りしめた。

 イエリが訓練場から出ると、遠くから兵士たちが走ってくるのが見える。「誰かいるぞ!」と叫ぶ声が聞こえ、イエリは走り出した。

 兵士が追ってくる気配を感じ、イエリは必死で駆けた。煙で喉をやられており、走るだけでひどく息が苦しかったが、絶対に止まらなかった。

「王さま……っ」

 なぜか、この鱗を王へ渡さなくてはと思った。あの竜が人に嵌められたにしろ自分から飛び出したにしろ、竜のものは竜へ返したい。それが不可侵の掟を破る行為だとしても。

 イエリは滅茶苦茶に走り続け、森へ駆け込んだ。背後からはイエリが森へ入ったことに驚く声や引き留める声がしたが、無視する。鋭い葉がイエリの肌を裂いて傷を作る。

 王の命令でイエリを食べずにいた竜たちも、今度ばかりは襲ってくるかもしれない。イエリは胃の底に冷たい恐怖を感じながらも、大声で叫んだ。

「王さま! 王さま……アオ! 誰か!」

 夜の暗い森に、イエリの声だけが響いた。兵士たちが追ってきているかはもはやどうでもいい。イエリは叫びながらあてもなく彷徨った。

「王さまぁ」

 叫ぶたびに涙が溢れた。呼吸が苦しい。泣いているせいで喉が熱を持ち、えづくような咳をした。

 イエリの居場所はいつもどこにもない。イエリはいつもなにかに追いかけられ、必死で逃げ回って生きていた。奪われて、失って、これ以上どこへ行けばいいのか分からない。

 それでも、シオ以外で初めて大切にしたいと思えたのが竜だった。

 森からは追い出された。それでもイエリは竜が好きだ。竜はイエリに優しかった。王の命令だとしても、イエリを襲わなかった。王だって、イエリを殺さずに森から出してくれた。

 もう一度、受け入れてほしい。ここにいてもいいよって、言ってほしい。

「王さま……っあ!」

 イエリは木の根に躓いた。反射的に目を閉じ、地面に転がる痛みへ備える。疲れ切っていたイエリは踏ん張ることもできず、そのまま地面に倒れる──かに思えた。

 イエリが倒れたのは地面ではなかった。転ぶ直前、誰かに受け止められたのだ。イエリが肩で息をしながら顔をあげると、そこにいたのは王だった。

 王は珍しく髪を乱し、戸惑った目でイエリを見ていた。しかし両腕はイエリをしっかりと支えて離さない。

「お前は……」

「王さま!」

 彼が何か言う前に、イエリは飛びついた。胸元へしがみつき、そのまま大声をあげて泣く。彼はイエリよりも体温が低いのか、体に触れるとひんやりと心地よかった。

「王さまっ、イエリ、ふぐ、イエリ……」

 イエリは涙に濡れたまま王の顔を見上げる。久しぶりに見た彼は、相変わらずこの世のものとは思えないほど美しかった。

「竜が死んじゃった……イエリ、助けられなかった!」

 王の胸に叩きつけるようにして、手の中の鱗を突き出す。それだけをなんとか吐き出すと、イエリは再び泣き声をあげることしかできなくなった。

「この鱗……イェソドか!」

 王は鱗の持ち主に心当たりがあるのか、泣き続けるイエリの肩を揺さぶり、問い詰めてくる。

「イェソドをどこで見た! ここしばらく姿を見ないと皆が……」

 王の力は強く、掴まれている肩が痛かった。イエリはしゃくりあげながら説明を試みる。

「い、一週間くらい、前。森から、出てきたの……すごく、怒ってた」

 かの紫竜、イェソドは、森から出る前から大きく吠えていた。我を忘れたような興奮ぶりは、尋常ではなかった。

「なぜイェソドが外へ」

 イエリは黙って首を振る。結局、竜が出てきた理由は不明だ。イエリにはそれを突き止めることは出来なかった。それを思うと、くやしさで再び涙が溢れる。

「ごめ、なさ……ごめんなさい……!」

「なぜお前が謝る? お前がイェソドを貶めたのか」

 王は声を固くするが、イエリは必死で否定するばかりだ。さめざめと泣きながらなんとか言葉を続ける。

「竜が、殺されるところ見て……こわくて、つらかった。わかんなかったの。平原に出た竜が殺されるのは当たり前だってみんな言うけど……また人が、卵を盗んだりしたんじゃないかって。そうしたら、人と竜どっちが正しいんだろうって」

 王は静かにイエリを見ていた。金色の瞳は、イエリをまっすぐに見つめて言葉を待っている。鼻水と涙でぐちゃぐちゃの顔だったが、イエリも王をしっかりと見据えた。

「でも、どっちが正しいとか、関係ない。イエリは竜が好きだから、竜が酷い目にあうのが嫌だった。だから、あの竜のことも、助けたくて」

 イエリは無力だ。ただの奴隷の子供にできることなんてたかが知れている。それでも助けたかった。自分が大切だと思ったもののために、何かしたかった。

「兵士が、あの竜の鱗や爪を剥がして、武器に使おうって言ってた」

 瞬間、王の瞳がすっと細まる。王はそのまま立ち去ろうとするが、イエリは必死で引き留めた。王の腕を掴んで、叫ぶ。

「だから燃やしたの!」

「は……」

 目を見開いた王へ向かって何度も謝る。ごめんなさい、ごめんなさい。涙は止まることなく、王の服まで汚した。

「イエリじゃ助けられないから、せめて武器に使われるのは止めたくて、その竜のこと、燃やしたの……イエリがあの竜のこと、もう一度殺した!」

 わああ、と地面へ崩れ落ちる。その拍子に手の中の鱗が滑り落ち、草の上を跳ねた。イエリは王の足元へ蹲り、泣きながら謝罪した。

 感情のままに打ち明けながら、どこか冷静に、きっと自分は王に殺されるだろうと思った。しかし、もはやそれでもいい。イエリの居場所が本当にどこにもないのなら、生きている意味もない。

「お前は、なぜ何度も……」

 王の声が頭の上に降る。その声を聞きながら、自分の命の終わりを悟った。

 しかし、王はイエリを殺さなかった。

「顔をあげろ」

 王が命じる。イエリは逆らうことも出来ず、ふらふらと起き上がる。王はどこか苦し気な、それでいて決意に満ちた目をしていた。イエリが座り込んで王を見上げると、彼は唐突にイエリの前へ膝をついた。

 王の美貌がすぐそばに見える。

「お前の思いに、感謝を」

 そう告げるなり、王はイエリの足元へ頭を下げた。額が確実に地面と接しており、王の濡羽色の髪がさらりと流れ落ちた。

 王さまが、イエリに土下座した。

 突然のことに頭が真っ白になり、涙が止まる。

「なんで? イエリ、何もしてない。何もできなかった」

 王の体を起こそうとするが、イエリの力ではびくともしない。しかしイエリがどうするまでもなく、王は自ら起き上がった。彼は今度こそ、顔を歪めていた。

「何もできなかったのは、私だ」

 そして深くうなだれ、イエリの手を取った。王の手は黒い鱗に覆われ、指が竜のかぎ爪になっている。その指が慎重に、壊れものを扱うようにイエリに触れた。

「お前の行動で、イェソドの尊厳は守られた。ありがとう」

 その声には、悲しみや悔恨や感謝、万感の思いが込められていた。

 王さまも、つらいんだ。竜が死んじゃうの、イエリなんかよりもよっぽどつらいはずなんだ。

 イエリは初めて王の心の一端に触れたように感じた。イエリの目には再び涙が浮かび、王に勢いよく抱き着いた。王は体を固くしながらも、イエリを引きはがすことはなかった。

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