プロローグ
既に完成しているものを少しずつアップしていく予定です。楽しんでいただければ幸いです!
森が揺れていた。
頭上を覆う常緑の葉は枯れることなく、空を覆い隠していた。風が吹くたびに葉がこすれ、虫や獣の声と共に森の音楽を奏でる。木々に日差しをさえぎられた森の中は暗く、湿気を孕んでいた。
鬱蒼とした竜の森。
人間はこの森を恐れ、滅多に立ち入らない。一歩足を踏み入れれば、竜たちの餌食になると知っているからだ。竜の主食は肉。ふらりと迷い込んだ人間は、恰好の餌である。
しかし、この森に足を踏み入れた者がいる。
飛竜の仔がキィ、と鳴く。小さな翼を羽ばたき、自身の王へ知らせた。
森に入ったヒトがいる。何人もいる。子供も大人もいる。みんな言ってる、食べたい。食べたいって。
〈森へ入ればどうなるか、知らないわけではあるまい。好きにしろ〉
竜の王が許可を出すと、飛竜の仔は嬉々とした様子で飛び去った。王の許しを待っていたのだ。迷い込んだ人間たちは、これから竜の餌となる。きっと無数の竜が今か今かと人間たちを狙っているのだろう。
飛び回っていた飛竜の仔がいなくなると、竜の王は小さく嘆息した。竜が人に負けるとは思えないが、大人数がこの森に入ってくるなど前代未聞だ。人間側でなにか画策している可能性もある。
竜は無闇に人間を襲うことはない。普段は森に暮らす動物を狩っているため森から出ることもなく、人間と住処を分けている。しかし人間にとって竜は自分たちを捕食する天敵だ。排除したいと考えるのは自然なことだろう。此度の騒ぎがその前兆でない保障はない。
竜の王はゆっくりと一歩を踏み出した。飛竜の仔が向かったのは東──そう遠くはない。竜の食事が終わるまでにはたどりつくはずだ。
風のない中、木が落ち着きなく揺れている。人間たちの侵入に、森が騒いでいるようだった。




