好奇心旺盛なイチマは、叫びを聞く
親と別れたイチマは、好奇心を満たすために行動を始めました。
人。自分たちよりもはるかに小さく速い、星の上で生きるものたち。親の下に居た頃は止められていましたが、今は好きなだけ見ることができます。
親に教わった『隠れ身』を使い、旅先で見つけた彼らの営みを観察します。怖がらせたり、彼らのものを壊してしまわないように注意をしながら。
名前通りに星のような時間で生きる『彗星』のイチマにとって、人はあっという間に生まれ、育ち、子を育んで死んでいきます。
せわしなく、儚く、変化の激しい彼らを、いつまでだって見ていられる。イチマはそう思っていました。
イチマに変化をもたらしたのは、人の理解できない行動でした。
ある星の、宇宙に住むことができるようになったくらいの人々。生まれた星から離れた場所に、住むところをいくつも作り、イチマの周りはにぎやかになっていきました。
飛び交う宇宙船が、二つのグループに分かれ互いを壊し始めたあたりから、イチマは違和感を感じました。人が時として戦うことは知っています。その戦い方が、どこかおかしい。
そんな違和感が、宇宙に響き渡る『叫び』として、ある日形になりました。
宇宙に作られた何かから、その人々が生まれた星へ向けて放たれた、『彗星』にとっては『叫び』のように感じられる強い光。親から「人に向けて出してはいけない」と言われていた種類の声。
イチマにそれが放たれた理由は分かりませんが、もしそれが星に当たれば何が起こるかは分かります。
星が壊れる。人が生きてはいけない星に、変わる。
『叫び』から感じられる強く、『彗星』があまり抱かない種類の想い。イチマはそれがとても怖いものに感じられて、『叫び』を発した何かへ叫んでしまいました。
一度だけ放たれた『叫び』は星に当たることはなく、『叫び』を発した何かはイチマの『叫び』で壊れてしまったので、イチマが知る限りその人々の星は無事です。
人が作ったものを壊してしまった上、叫ぶときに『隠れ身』を解いてしまったので、大急ぎで逃げ出したため争いがどうなったかは分かりません。
解けない疑問に対する想いを歌いながら、イチマは旅を続けます。
争う人にも、そうでない人にも、出会い続けました。彼らの営みを隠れて観察し続けました。疑問が解けることはありません。
他の場所でも、『叫び』を聞くことがありました。人々の生まれた星以外の場所へ向けられていたこともありますが、それが当たってはいけないはずの場所ということに変わりはありません。
ある時、イチマは別の『彗星』と出会いました。
名前はグラン。イチマよりも大分年上で、イチマと同じように人を観察し続け、話をしてみたこともあるといいます。
イチマはグランに問いました。あの『叫び』は何なのか、と。
「人が争う理由を、イチマは知っているかい?」
イチマは答えます。「人と人とが違うのに、近いからだ」と。住むところ、持っているもの、あるいはそれ以外の何か。その違いがかみ合わないために、人は争う。
イチマは『彗星』同士で争ったことはありません。声でケンカをしたことがある、という話を聞いたことはあります。言いたいことを声として相手にぶつけるのだと。人や星に当てると大変なことになるので、ちゃんと相手に当てないといけない、とも。
「そうだね、私も大体似たような見方をしている。では、彼らが体に見合わないほどに激しく争うのは、何故だと思う?」
力を合わせて、大きな力を発揮できるからだとイチマは答えました。
「そう。体は小さな彼らは、時にとても大きな力を出せる。群れを形作ることで、彼らは力を増幅させる。……私は、力だけではなく想いも増幅されるために、あの叫びは放たれるのだと思う」
争いの原因となる想いが、群れという構造の中で彼ら自身にも制御できないほどに増幅され続ける。その結果として放たれるのが、あの『叫び』なのではないか。だから、『彗星』の理屈では理解ができない。
グランはそういう見方をしていました。
『彗星』は、群れずとも星を砕ける生き物です。そんな『彗星』がもし群れて争ったら、宇宙の全てを壊せてしまう、かもしれません。
イチマはグランの言葉で、親といた頃のことを思い出しました。人の乗った宇宙船を追いかけて、怒られた時のこと。
彗星は大きくて強いから、人に近づきすぎてはいけない。自分の子供以外とは、長い時間を共にしてもいけない。
疑問が完全に解けるほどではありませんが、グランの言葉は助けになったとイチマは思いました。
グランに人と話す方法を教えてもらい、イチマは旅を再開します。
『彗星』自身にも気の遠くなるほど長い旅の時間の中で、イチマの疑問は解けるかもしれません。