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三兄弟の親離れ

 宇宙の船乗りたちに『彗星』と呼ばれる生きもの。


 脚が六本、地面に立つと顔が上を向くなどの違いはあるものの、顔だけ見ればイヌのような姿の彼ら。広い宇宙を飛んで旅する習性と、何千、何億年という途方もない年月を生きるため、この名前で呼ばれています。


 彼らにはオスもメスもなく、その時期が来れば一体だけで子供を産み、育てます。


 ライカという名の『彗星』が子育ての場所に選んだのは、宇宙船がほとんど通らない静かな小惑星の上でした。太陽のような恒星の光がほどよく当たる、『彗星』らしい言い方をすれば「星々の歌がよく聞こえる」、良い場所です。


 ライカは小惑星の上で体を休め、これまでの旅を思い出しながら歌い始めました。空気の無い宇宙にも響き渡る、電磁波の歌声。

 どんな親から生まれたかではなく、どんな歌を聞いたかで『彗星』の個性は決まります。


 親と、遠くから見守る星々の歌を聞きながら生まれた子供は、三兄弟。

 彗星の子供は脚の数、六体までしか生まれません。一番多い時のちょうど半分です。




 生まれた子供に、ライカはさっそく必要なことを教え始めます。

 まず最初に教えるのは、宇宙の飛び方。


 動物の子供が生まれてすぐ立って歩けるように、『彗星』も生まれてすぐ飛ぶことはできます。ただ飛べるというだけで、どこに飛んでいくかは分かりません。

 遠くまで飛んで行って迷子になったり、別の星に落ちてしまうこともあります。だからそうならないように、親が飛び方を教えてあげないといけません。


 動き回る子が多い親は大変ですが、この三兄弟でそういう子は上の子、イチマだけでした。


 真ん中の子、ツウナはどちらかというとじっとしているのが好きで、あまり動き回りません。一番下の子、トリアは兄弟と離れたがらないので、いつもイチマとツウナのどちらかと一緒にいてくれます。

 その分イチマは、ちょっとでも気になるものがあるとすぐそちらに行ってしまいます。

 たまたま通りかかった宇宙船を追いかけて壊しそうになるなど、他の兄弟に手がかからない分ライカはイチマに手を焼かされました。



 次に教えることは、歌い方。


 電波、光、エックス線。電磁波にも色々と種類があります。どんな声で歌えるのか、その声でどうやって歌うのか。

 手取り足取りやり方を教えていく親もいれば、まずは歌いたいように歌わせてみるという親もいて、教え方は様々です。ライカは、どちらかといえば手取り足取り教える方でした。


 お手本に自分が歌ってみせたり、恒星の発する声や宇宙を漂う声に耳を澄ませてみたり。そんな歌の授業が進んでいくと、ツウナはとても歌がうまいということが分かりました。歌を正確に聞き取って、真似することができます。


 イチマはツウナほど歌い方がうまくはありませんが、遠くまで届く大きな声を出すことができました。

 『彗星』は声を、ビームやレーザーと呼ばれるほどの強さで出すことができるので、動き回る性格と合わせてライカをさらに困らせます。イチマにだけは、どうやって歌うかより先にやってはいけない歌い方を教える必要がありました。


 また、声を聞き分けることはトリアの方が得意です。ツウナには聞き取れないほど遠くからのかすかな声も、トリアの耳はとらえられます。

 『彗星』には光を曲げて身を隠す『隠れ身』という技術もあり、歌のうまいツウナはこれも得意でした。ライカとイチマは、『隠れ身』を使ったツウナを見つけるのに一苦労しましたが、トリアだけは簡単に見つけてしまいます。



 一番大事な二つの他に『近道』『冬眠』など、宇宙を旅するために必要な、あるいは便利な技の全てを教えられ、『彗星』の子供たちが親離れする時が来ました。


 『彗星』の親は最後に、子供を脚に掴まらせて恒星の周りを飛びます。回転の外側へ向けて働く力、遠心力で別の星へと送り出すために。

 『彗星』は体が大きく、力も強い生きものです。群れで生きることが許されるのは、子供が大きくなるまでのわずかな時間だけ。


 広い宇宙を旅していれば、家族と再開することはある、かもしれません。しかし、兄弟みんなと親が顔を合わせられるのは、これが最後です。

 最初に飛び立ったのはイチマ。抑えきれない好奇心を力に変えて、意気揚々と旅立っていきました。

 次にツウナも、行く先に素敵な場所があることを楽しみに、マイペースに飛んでいきます。


 トリアだけは、飛ぼうとしません。


 いつも誰かと一緒にいた、一番の寂しがり。上の子が旅立ってしまっても、あるいは旅立ってしまったからこそ、ライカから離れようとはしません。


 ライカはトリアへ言いました。

 自分もそうだった、と。


 ライカは六兄弟で、子供の頃はいつも誰かが近くにいました。その頃は、独りで旅をするなんて考えもしなかった。

 そんなライカが、ライカの親から言われたこと。


 始まりがあれば終わりもあるように、別れと出会いは二つ合わせて一つのもの。

 別れという終わりがあれば、新しい出会いという始まりも、ある。


 数えきれないほどの別れを繰り返して、『彗星』は宇宙のあちこちへと広がっていった。進む道の先は、別の誰かと必ず交わっている。

 だから、いきなさい。


 不安を感じながら、トリアも旅立ちました。

 ライカは、そんなトリアへ向けて歌います。


 幸せな出会いがありますように。そんな思いを込めた、祈りの歌を。

 そしてライカもまた、自分自身の旅を再開することにしました。

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