第29話 触手さんは一枚一枚丁寧にわたしのお洋服を剥ぎ取って(前編)
ミミ、ベル、瑠々の三人はグレーチェの城に潜入し、柱の陰に隠れていた。
「よし、なんとかここまで来られた……!」
ミミが深く息を吐く。
それにつられるようにベルと瑠々も体を弛緩させた。
「で、ですが、ここまで来られたのも奇跡のようなものですっ……! 闇の瘴気は色濃いですし、まるで人形のような敵がわんさかとっ……!」
「……うん、さすがはグレーチェの城ってところだね」
「お姉さま、ご無事でいてくださるとよいのですが……」
「…………」
「…………」
ベルが不安げにつぶやくと、沈黙が落ちた。
「あ、あのっ、わたし、先に行って奥を見てきますっ……!」
「あっ! ちょっと瑠々!」
ミミは呼び止めたが、瑠々は音もなく駆けていってしまった。
「あ~、もう、いくら瑠々でもひとりはあぶないって……!」
「追いかけましょう!」
慌ててふたりも後に続いた。
廊下を抜け、豪奢な広間に出る。
と、
「――ワタシは藍晶、グレーチェ・スティリル・アルセラート・アンダーハート様の忠実なる下僕」
「――ワタシは翠晶、グレーチェ・スティリル・アルセラート・アンダーハート様の敬虔なる眷属」
グレーチェの腹心である双子が待ち構えていた。
「おでましか……」
ミミはナイフを構える。
「クーちゃんをどこへやったの!?」
「月の聖女は、夜を統べる女王の元へ」
「月の聖女は、永遠なる夜の下僕に」
「……グレーチェのもとってこと?」
「まずはあなた方を無力化して、お姉さまの居場所を教えていただきますわ!」
ベルが杖を構える。
既に魔力を込め始めており、いつでも魔法を放てる状態だ。
「だね。どうやらあたしたちを舐めてるみたいだけど、あの触手くらいなら!」
「舐めてはいない。あなたたちは予想以上」
「侮ってはいない。強敵には相応の手段を」
藍晶が左手を、翠晶が右手を上げると、左右の扉が開いて生気のない女の子の『人形』たちが姿を現した。
「うげぇ……」
おびただしいほどの数に、ミミは思わずうめいてしまった。
「この藍晶が」
「この翠晶が」
ふたりはお互いの手のひらを合わせた。
「「あなたたちに無機質な死を」」
『人形』がいっせいに襲いかかってくる!
「ベル!」
「わかっておりますわ! はあああっ!」
構えた杖がまばゆく光り、床から無数のガイコツ兵が産み出された。
「まだまだですわぁ!」
次いで魔力を放射し、敵の集団に風穴を開ける。
ククリルと二人羽織で街を救ったとき、あの無限とも思える大群相手には通じなかった攻撃だ。
だが、この限られた規模ならば!
「ミミさん、今ですわ!」
「ベル、ありがと!」
ベルが開けた突破口を見逃さず、ミミは風の如く走り出す。
『人形』たちの攻撃をかいくぐり、双子の元へ。
「はっ!」
跳躍し、空中からふたりの姿を捉えた。
――届いた!
そう思った瞬間、
「うっ!?」
なにかに足を捕まれ、逆さ吊りにされてしまった。
「な、なにが……あっ!?」
足下を見て驚く。
自分の足を掴んでいるもの、それはうねうねとうごめく触手だった。
「しまった……女の子たちを隠れみのにして……!」
双子をにらみつける。
やはりふたりのスカートの裾からは触手が伸び、『人形』の中に紛れ込ませていた。
「――きゃあっ!」
ベルもまた触手に捕まり宙吊りになってしまう。
杖が落ちると呼び出していたガイコツ兵も消えてしまった。
「うっ……」
「や、やられましたわ……!」
絡め取られてしまえば抜け出す手はない。
ふたりは一瞬にして敵の手に落ちてしまった。
「藍晶の力は、グレーチェ・スティリル・アルセラート・アンダーハート様が必要としてくださった力。強いあなたたちにも負けるわけにはいかない」
「翠晶の力は、グレーチェ・スティリル・アルセラート・アンダーハート様が必要としてくださった力。どんな手を用いてもあなたたちを葬る」
双子の赤い瞳が鈍く光る。
するとミミとベルの目の前に触手が展開された。
針のように鋭い切っ先を持った触手だ。
「さようなら、強く美しい人」
「さようなら、永遠なるやすらぎを」
触手は弾みを付けるように大きく反り返り、
そして、
「――ミーちゃん! ベルちゃん!」
突如、広間に声が響いた。
一同は声の主に注目する。
「ま、まさか……」
ミミは涙を浮かべて叫んだ。
「クーちゃん!」
(つづく)




