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6話 家事が完ぺきな妹はいかがですか

嫌なことがあった日には投稿するに限りますね

 35階の高層マンション。そのエレベーターに俺は乗り、『34』のボタンを押す。最上階が大家の住居になっているので、一般が住める最上階だ。


 しかし、今日はいろいろあったな。


 自分の部屋まで向かいながら今日あったことについて思い出す。


 クラスのトップカーストのメンバーとの交流、モンスターとの遭遇、久々の魔法使用に、モンスターに対して敗北、――そしてあの自称最強術士、水無月栞との出会い。


 いろいろありすぎて参るな。

 ……そういえば、片山の記憶操作はして貰えたのかな。もしされてなければ、月曜日にあったときにどんな顔して会えばいいのか。


 そんなこと考えているといつの間にか部屋の前にまでついていた。そのまま慣れた手つきでカギを取り出しドアを開ける。


「ただいまー」


 その声が聞こえたのか妹の凛がドタドタと中から玄関に向かってくる音がする。そしてひょこっと顔を出す。表情はいつもの通り無表情だが。


「おかえり。お兄今日遅かったね。何かあったの?」


 ちなみに妹は魔法や怪異などに関しては何も知らない。なので今日のことに関しては何も言う訳にはいかない。


 ……というか、たとえ魔法について知ってたとしても今日のことに関しては言えないけどな。もし、他の人を助けようとして俺が死にそうになったなんて知られたらまず間違いなく怒られる。


「あ、ああ……友達と寄り道してたんだよ」


 妹は相変わらず無表情だが俺の言葉を聞いてピクっと反応する。おそらくは友達と寄り道なんて言う普段の俺からしたらまず有り得ないことを言ったからだろう。



「……そう、そっか、分かった。ご飯できてるよ。さっきできたばっかだからまだ熱々だよ?」


 だが、追及はされなかった。


「お!今日のご飯は?」

「からあげ。お兄好きでしょ」

「おお、やった!すぐ着替えてくるからちょっと待っててな」


 父さんと母さんが三年前に他界してから、家の家事は基本的に妹が率先して行ってくれている。俺も少しは手伝っているが、料理に関しては妹が圧倒的に上手いのでほぼ任せっきりだ。


 いや、俺だって料理ができないわけじゃないからな?……というか普通に自炊程度なら俺でもできる。だが凛の料理が美味すぎるだけなのだ。


 たまに叔母さんが合鍵で勝手に入ってきて大量の日用品を置いていくけれど、それ以外で凛以外に家族がいないため、二人で自立して生活を送っている。


 部屋に入り、凛に嘘をついたことに罪悪感を感じながらも制服を部屋着に着替える。


「ふー……うお!?」


 体が支えきれず、ふらつき倒れそうになる。


 一息つくと、思ったより自分が疲れていたことを自覚する。


 やはり初めてではないとはいえ、命の奪い合いをして、さらに死にそうになったのだ。

 水無月に回復魔法を掛けてもらったとはいってもそれで回復するのは肉体的な疲労までで、精神は摩耗しているのだ。そりゃ気が抜ければ倒れそうにもなる。


 それに加えて魔力が多少は戻ってきたとはいえまだまだ足りず、全身を倦怠感が襲っている。


 正直言ってキツいがそんな様子を凛に見られるわけにもいかないので、体に気合を込めなおす。


 ……よし。とりあえず大丈夫だ。

 疲れた様子を見せないよう表情をいつも通りに戻し、部屋を出る。






 ダイニングに向かうと既に机の上には食事が用意されていた。


 本当にいい匂いがする。やはり凛は料理が上手い。


「相変わらず、すごいよな」

「こんなの普通だよ。それより大丈夫?お兄。少し疲れてる様に見えるけど」


 嘘だ。絶対にこれが普通とかありえない。それなら世の中の女子中学生は全員プロ級の料理ができることになってしまう。


 それはそうと、俺が疲れてること見抜かれてるな。

 俺は思わず苦笑する。


「大丈夫。ちょっと友達と寄り道とか珍しいことしたから疲れただけだ」

「ふぅん……今日は早く寝なよ?」


 言われなくてもそのつもりだ。ぶっちゃけ飯食べたらそのままベッドにダイブしてしまいたいぐらいにはダルい。


「分かった。そうする」


 そう言って夢中に唐揚げと白米を掻き込む。カリッとした食感の後にくる弾力と、油と、濃すぎない味付けが口の中に広がる。やはりめちゃくちゃ美味い。


「うっま」

「……ありがと。どんどん食べてね」


 いつも、無表情の凛の顔に少し赤みがかかる。これは嬉しい時だな。


 そして食べ終わる。量も丁度俺が満腹になるぐらいに完璧に調整されている。


「ふー…満腹だ。ご馳走さま」

「お粗末さま」


 さすがにここまで至れり尽くせりだと、妹に申し訳ないな……だが、今日の胸の中に残っていたモヤモヤはいつの間にか形を無くしていた。


「いつもありがとうな」


 そう凛に言うと、凛はキョトンとした顔をした後クスッと笑う。…お、珍しく笑った。


「お兄のことの面倒を見るのは私の仕事だから」


 そう言うと、凛は皿をキッチンへと運びに行ってしまった。



 何かの本で「家に帰るまでが遠足だと言うけど、あれは家でご飯食べる時までなんだと思った」なんて文章を読んだことがあったが、今ものすごくその言葉を実感出来た。



 妹には毎日感謝しかない。今度何かお返ししないとな。



『モンスター』……怪異の分類のうちの一つ。核がつぶされない限り死ぬことはなく、何度でも再生する。分かりやすいのがスライム。逆に言えば核さえつぶせば、どんなに強くても一撃で殺すことができるということ。


よければ、評価、ブクマよろしくお願いします!

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