4話 愚者に1ミリだけの敬意を
「はぁ……勝てないのならさっさと逃げたらどうかしら。私が来てなければあなたは死んでたのよ?」
そう言い、目の前で俺に説教をかましてくる美少女に俺は混乱する。
蜘蛛の死骸は瘴気となって消えてゆく。
「え、いやいやいや!待って待って!?」
相手のペースになってききたい事が聞けなくなる前に、慌てて話しかける。
ポカンとしていた俺が急に大きな声で話し始めたので少女はビクッとして俺を見る。
「な、何かしら?」
「え、いやまずそもそもお前は誰だ?…あと何をしたんだ?」
と言うと、少女はまた呆れたように「はぁ……」とため息を着く。
「その前にあなたの治療でしょう?……うわ、結構骨をもってかれてるわね」
彼女は俺の前に手をかざして詠唱をする。
「〈光・癒し〉〈光・再生〉【ヒール】」
すると、全身を襲って痛みが嘘のようにスっと消え、普通に動くようになる。
「っ……!?」
これ…初級回復魔法だよな……?
それで、この回復量……?
俺は目の前の少女を改めて見て、やっとその膨大な魔力に気がつく。なんだこれ。あまりにも大きすぎる。
普通初級の回復魔法というのはちょっと魔術に適正があれば誰でも使用できるもので、その効果はちょっとした擦り傷とか軽い打撲とかを治すぐらいのものだ。ぶっちゃけ俺の怪我に対してなら使わないよりはマシ程度の効果しかない。
……が、それは普通の場合だ。
この魔法を使った少女はその身にある化け物じみた魔力で無理矢理回復させたのだ。
ありえない。と言いたいところだが、こう目の前で見せられては現実を直視せざるを得ないのだが。
というかなんで初級の魔法を使ったんだ?
魔力でゴリ押しして無理矢理効果を出せるとしても、普通に中級や、上級使った方が全然効率もいいし、負担も少ないだろう。
……ん?っていうかこの魔法構築……。
そこまで考えた所で少女に話しかけられる。
「……よし。これで治ったでしょう?いつまでも寝てないで早く立ち上がってくれるかしら」
「ちょっと今の今まで死闘を繰り広げて、瀕死になってた人に厳しすぎやしませんかねぇ……」
と苦笑すると少女は、
「弱いくせに、第3階位なんかに挑むからでしょう?君は魔力量で言えば8階位の術士と同じくらいでしょうに……」
その言葉に、驚く。
3階位といえば、かなり上級の術士が数人がかりで協力してやっとのレベルだ。そりゃ俺じゃ勝てないわけだ。
「あいつ3階位だったのかよ!?どうりで強いわけだよ……」
「……え?知らずに戦ってたの!?」
「仕方なかったんだよ!現場に居合わせたものなんでね」
「それでも普通には敵わないと思ったら即座に逃げるものなのだけれど……あなた馬鹿なのかしら?」
「うっ……」
思いっきり論破された。
全くもってその通りなので言い返せない。身の丈に合わない敵に挑めば死ぬのは自明の理なのだ。
それを分かっていて挑んだのだから、間違いなく俺は愚かだ。
「……まぁでも……」
「……?」
少女は言いよどみ、照れくさそうに頬を少し染め、言った。
「あなたのおかげで民間人が1人も死ぬことはなかったわ。3階位相手にこれは快挙と言ってもいいでしょう。だから……その……」
本来、3階位の敵が出れば、対応次第では街が滅ぶこともあるのだから、確かに快挙といっても過言ではないが、そこで言い淀む少女に続きが気になって、
「なんだよ」
と思わず急かす。
「だから……その……あなたはお手柄だったわ。お見事だわ。敵わないと思ってそれを理解していながら、それでも挑んだのも尊敬、するわ……」
その言葉に少しポカンとしてしまう。
「……え、あぁ……うんありがとう。」
「だからって、それで死んでたら愚か者以外の何者でもないのだけれどね!」
少し頬が熱い。……戦った後だからだな。きっとそうだ。
きっと窓ガラスに映る俺の顔が赤く見えるのは夕焼けのせいだ。うん、きっとそうだ。そうに違いない。
少女のほうもだいぶ赤くなっていた。
なんか、妙に居心地の悪い空気になったな……。
『階級』…術士の階級には基本的に低い方から第10階位から第1階位まである。それぞれあくまでも魔力の量と固有の能力にのみ依存するものであり、魔力操作の技術だったりは考慮されないので、階級=強さだと勘違いするのは危険である。
※1〜10階位までと前述したが、あくまでも『基本的には』である。
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