33話 マイ・ヒーロー
もういっその事日曜日の午後投稿にしてもいいですかね?
「き、桐原君!何をしているの!治療!治療をしなきゃ!!」
結界から出た途端に栞は禍津には目もくれずに迷わず一目散に俺のところへ来ると、焦りながら慌てて俺に回復魔法をかけだした。
「いや、いいから。俺のことは置いといていいから、『傲慢』の相手をしてくれって」
俺は目の前にたとへ追い詰められているとしても大罪系の権能持ちを相手にしてるというのに、放置してちらりとも見ない栞に、自分の怪我のことも忘れて、栞が抱いてるのとは別の焦りを感じずにはいられなかった。
本気で勘弁してくれ。栞なら効かないのかもしれないが油断してる背中に攻撃なんてことをされたら心臓に悪い。
……というか、胸を貫かれたとはいえ重要な内臓は避けたからぶっちゃけ出血以外は大したことはない。まあ、めちゃくちゃに痛くはあるんだが。これぐらいなら自分でも簡単に治せるレベルだ。
「あ、でもそうだな。栞を助け出したので、本格的に魔力枯渇したからちょっと譲ってくれね?」
そう俺が言うと、栞は即座にビックリするぐらいたくさんの魔力をこちらに送ってきた。その量、まさかの普段の俺の最大魔力量の十倍。これでも、栞の魔力量の十分の一にすら消費してないのだから驚きだ。
「多いんだよなぁ……。まあ、でもありがとな」
取り敢えず、魔力さえあれば俺は自分のことは自分で治せる。なので栞は禍津を相手にすることに専念してもらうことにした。……というか、さっきから栞の後ろをちょくちょく攻撃されているのだが、その攻撃は全て『怠惰』の力によって防がれているため、栞はガン無視を決め込んでいただけなのだ。
……やっぱり最強の術師なだけあるな。
栞の凄さを再認識すると、こうしてはいられないと思い、俺は回復魔法によってある程度回復した体をゆっくり起こす。少ししんどいが動けないほどではない。
「え!?何をしているの!?駄目よ。完全に回復したわけでもないんだし、仮にも胸を貫かれたんだからまだ安静にしていないと!!」
過保護な様子の栞に苦笑しながら答える。
「そうはいっても栞、決め手がないでしょ」
そう。確かに栞の力は凄まじい。これ以上に強い力は俺も知らない。全力を出せば今回ここまで苦戦させられた、この禍津だって一瞬で永遠の眠りについていただろう。けれどそれは、全力を出せたらの話だ。
水無月栞は全力を出せない。世界を簡単に滅ぼしてしまえる力を本気では振りかざせない。
けど、俺ならそこを補うこともできる。ヒントは俺の作った魔力符、【魔力拒絶】にあった。あの魔力符はいくらなんでもおかしすぎるのだ。
だって俺がたった数分で作った魔力符一枚ごときで、最低出力に近いとはいえ、『怠惰』による攻撃を俺が防げる訳がないのだから。それはこの前の水無月に特等狩りに連れていかれたときの記憶。記憶は封印されていたのだが『暴食』が目覚めたのがきっかけで、ついでに戻ってきていた記憶。
それによって理解できた。あの魔力符には『暴食』の漏れ出した力が備わっているのだと。つまり、あの魔力符で『怠惰』の効果を軽減できるのだとすれば、その元となっている『暴食』に防げない道理はない。
「『暴食』『暴食』『暴食』そして……『暴食』!」
栞からもらった魔力をふんだんに使って四方を『暴食』による権能の効果をもった結界を作る。
「栞、聞け!この結界内なら、ある程度『怠惰』を使っても大丈夫だ!まぁ流石に限度はあるけどな。それでも並大抵のことじゃ壊れない!」
既に戦闘を開始しだした栞に聞こえるように全力で叫ぶ。栞は戦闘中だというのにこちらに手を振ってきた。いや、だから余裕か。
忘れる前に俺自身にも防壁を張りつつ、栞と禍津、圧倒的強者二人による戦闘を観察する。二人とも並みの術師ではとてもじゃないけどついてこられないような速度で戦っているので目で追うのも困難だが、それでも少なくとも状況を見れば栞が圧倒している。
そのタイミングで、丁度栞が禍津の攻撃をすべて素手で殴り飛ばし、その勢いのまま禍津の腹に拳を叩き込んだ。
「っぐぅあ!!……は、ははっはははは!!!いい、いいぞ現代最強!私は今!猛烈に感動している!それこそ、今ここで死んでもいいと思えるぐらいには!!」
そう言い、突如禍津が大きな声で笑い出した。状況を見れば栞の圧勝だというのに気でも狂ったかと思ったが、どうにも嫌な予感がする。
「使った後には私も死ぬ可能性があるから正直使いたくはなかったのだが……そうもいっていられないか『傲慢・深度弐』〈全てのものは私には敵わない〉〈尊大で愚かなこの力よ〉〈禁忌を犯し、大罪とす〉【傲慢之王】」
大仰な詠唱をした割には何も変わった様子はない。ハッタリか……?
「これこそが大罪!罪の原点にして全ての元凶!!改めてもう一度名乗ろう。私は禍津!『傲慢』の所持者であり神を殺すための力を持つ王となるものだ」
なんだ。魔力量には全く変化がないのに、プレッシャーが、緊張感がさっきまでとは全然違う。
「さっきまでと同じだと思ってくれるなよ。いまの私には時間制限付きとはいえ、限界はないぞ」
その瞬間だった。禍津の全身が爆発的に膨れ上がり、大量の『傲慢』による攻撃が辺りへと撒き散らされた。
「はあ!?なんだそれ反則だろ!?」
流石にまずいと思い、自身の周りに貼ってあった結界を即座に解除し、自分に向かってくる攻撃を避けたり『暴食』に喰わせながら栞のもとに向かった。
「無事か!?」
「大丈夫よ!けど、決め手がないわ!さっきから『怠惰』を放っているのだけれど、本体に届く前に敵の波状攻撃に防がれてしまうから!」
『怠惰』にもそんな弱点があったか。威力を引き上げれば貫通はできるだろうが……。
いや、ここは俺が一肌脱ごうか。ぶっつけ本番だし、思いついただけだからこれに全部かけるのは怖すぎるんだが、仕方ないよな。
「栞、俺を100%信じてくれるか」
「大丈夫よ。私はいつでもあなたを信じてる」
栞に俺がやろうとしていることだけ伝えて、「えっ!?」と驚いている栞を尻目に、俺は禍津の攻撃を『暴食』によって防ぎながら少しずつ近づいていく。
「今だ!栞!」
攻撃を捌き切り、禍津に攻撃が届くというところで俺は声を上げる。
「くうぅっ!!信じてるわよ!」
苦悶の表情で栞の放った『怠惰』による攻撃は真っ直ぐ進み、しっかりと――俺の身体を貫いた。
「っぐぅ……」
意識が落ちそうになる。
死ぬほど眠い。
辛い。
「はははっどこを狙っている。さしもの水無月栞も、集中力が限界だったか」
禍津は愉快なものを見るように俺と、栞をみて嘲笑う。
眠るな。
眠るな。
前を向け。
『大丈夫だよ。お前は、俺と母さんの自慢の息子なんだから』
頭の中に声が聞こえた気がした。
「あああああああ!!!!」
指をピストルのようにして指先に力を込める。
そこから放たれるのは、『暴食』によって強化された栞から受けた『怠惰』による攻撃。
今、味方撃ちによって俺は戦闘不能だと油断している禍津は俺には『傲慢』を使った波状攻撃を差し向けていない。
「終わりだ。禍津」
「がっ!?しまっ……!?」
攻撃をモロに受け、動けなくなった禍津に向けて、拳を構える。
『傲慢』らしく慢心しながら、死ね。
「『暴食』【神喰らい】!!!!」
禍津は最後は呆気なく『暴食』に喰らい尽くされ、消滅した。
「ふぅ……しんどかった」
そう呟き後ろを振り向いた瞬間に、思い切り体に衝撃が走った。
「なんっ!?わぷっ!?」
視界を塞がれ、身体をしっかりとホールドされ、前が見えない。感じるのは女子特有の甘い匂い。
まぁつまりは、栞に全身を抱き締められていた。
「おい……おい、苦しいって」
そう言うものの、栞は離してくれない。
……く、くそ。『怠惰』の攻撃をくらった影響で体に力が入らず、抜け出すことができない。
「最後にあなたがしたのは作戦なんて呼べる代物じゃなくて、ただの無茶よ」
抱きしめられているせいで栞の表示は見えないが、声色からしてどうやら怒っているらしい。
「悪かったって栞。ああするしか思いつかなかったんだよ」
「それと、思い出すのが遅かった」
「それも悪かったよ」
仮にも母さんがかけた記憶封印だ。俺なんかが自力で解けるわけがないんだが、それも言い訳にはならないだろう。
「逃げてと言っているのに無茶ばかりするし、挙句の果てには、トラウマを無視して『暴食』を発動するし……」
どうやら少しの文句では栞の気は収まらないらしく、愚痴が延々と口から漏れ続ける。
と、そこで抱き締めた状態から開放される。
栞は目に少しの涙を浮かべながらも俺の方を見て微笑んでいた。
「それでも、助けてくれてありがとう。貴方は私のヒーローよ」
「……あぁ、どういたしまして」
……この笑顔を見るために頑張ってきたんだと思うと、大体全部どうでも良くなってくるな。
「そ、それで、本題はこれからよ」
それから、少し緊張した様子で栞はそう言った。
なんだろうか……?まだ、何かあったか?
「あなたと私との関係の話がまだなのよ。だから……その……ね?」
そう言い淀む栞を見てクスッと笑ってしまう。
「なんだよ」
「その……だから、わ、私の師匠になってくれませんか?」
ああ、思えばこの言葉から、俺のコイツに絡まれるようになったんだっけ?つい最近のことながら懐かしく思えてしまう。
「ああ、是非とも俺の弟子になってくれ」
そう言うと、栞はぱあっと花が開くような笑顔になる。
「つっても俺、お前より弱いんだけどいいのか?」
「その理論だと、私より強い人はこの世に存在しないわ」
それに……と、彼女は続ける。
「私は、桐原くんだからいいのよ」
「……っ!」
慌てて栞から顔を背ける。顔が熱い。
今の顔を見せるのは流石に恥ずかしい。
「あ、それと……」
そろそろ帰ろうかと言う話になったところで栞が思い出したように手を打ち、俺の方へ向き直った。
「ん?どした」
「私、多分桐原くんに惚れてしまってるから、それも踏まえてこれからよろしく頼むわね?」
「………………………………へっ?」
呆然としてる間に栞は転移して帰ってしまった。
え、どうすんの。これ。
じゅ、受験勉強との両立しんどいんじゃあ……。カクヨム甲子園も始まったので忙しいこと忙しいこと……。
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