32話 暴食と傲慢
すいません遅れました。
「あ……あああああ!!!」
俺は思い出した記憶の奔流に崩れ落ち、蹲る。
自然と涙がこぼれ落ち、今すぐに自分の胸を引き裂いて死んでしまいたいような気持ちになるが、それももうできない。父さんと母さんが繋いでくれたこの命は、既に自分だけのものではないから。
「何をするかと思えば……『暴食』とはな。アレはこの世に扱える者などこの世には存在しない、ただの自滅技だ。くだらない。」
禍津は栞に向けた時とも、影山に向けた時とも違う、明らかに嫌悪と侮蔑を込めた表情で見てくる。何か気に障ることでもあったのだろうか。
禍津は、『暴食』の力を「ただの自滅」と言った。きっと今までの所有者にこの力を扱えた人が居なかったのだろう。つまりは、この力の本領を知らないということであり、そこをつけば大きな隙になるのかもしれないが、記憶が戻った反動か、身体を思うように動かすことができずに攻撃することはかなわなかった。
「っぐぅ……!!くそ……」
状況を見守っていた栞の映る水晶から悲鳴が聞こえだす。
「桐原君!やめて!それを使っちゃだめ!」
そうか、あの時栞はいなかったから、暴食を使えるようになったことは知らないんだな。
きっと、あの後俺の記憶を封じてくれて、色々と後処理を行ってくれたのは水無月だったのだろうから諸々のことは知っているんだろうけど。
「だ、大丈夫だ。栞。俺はもう、全部取り戻した」
「……!!」
水晶の方を見れないので今、栞がどんな表情をしているのか分からないのだが、きっとさぞかし驚いているのだろう。俺も記憶を取り戻した時にはとんでもなく驚かされたから御相子様だな。
「お話は残念ながら後回しだ。話したいことがたくさんあるからさっさと終わらせよう」
そう言って俺は集中する。敵は最強の大罪系4位の権能を使いこなしている。加えて俺は過去に一度だけ使用して暴走させた、大罪系最下位の権能。
「ハンデとしては十分だな」
もう一度だ。もう一度、『暴食』を落ち着いて発動しなおそう。さっきは発動したらすぐに解除されたけど、今の俺なら、父さんと母さんとの記憶を取り戻して、あの時の感覚を取り戻した俺なら、暴走せずに発動し続けることもできるはず。
今度は気負わない。
落ち着いて、笑顔で発動する。
「見てろよ『傲慢』。これが本当の『暴食』だ。『暴食』――発動」
瞬間、身体から黒色の靄が、過去に暴走した時とは明らかに少ない量で全身を纏うように溢れ出した。
権能の使い方が、なんとなく分かる。
……そうか、これが『暴食』の真骨頂なんだな。
「来い。諸刃・ヨロイドウシ!」
俺は使い方を理解すると同時に、愛刀を亜空間から取り出す。そして、ヨロイドウシに意識を向けると、ヨロイドウシに黒色の靄が纏わりつく。
「あ、ありえない!アレを使いこなせるものなんて存在するわけがない。だからこその自爆権能だった筈だ!だからこその最下位の筈だろう!?」
本来なら禍津の言う通りなのだろう。普通の人間じゃあ『暴食』は発動すらかなわないし、たとえ発動できたとしても、確実にあの時の俺のように暴走して、最終的には肉体という器の方が耐えきれなくて崩壊してしまう。
だから、今までこの力の使用者は存在しなかった。けど、あの時母さんが俺を助けるために使ったのは、「蘇生魔法」だ。
肉体を完全に根本から作り替え、魂だけをそのまま据え置くことによって死者すらも生き返らせる、世界から禁じられている『禁術』。
その効果は簡単に言えば肉体を上位の存在に作り……いや、創り変えること。分かりやすくいえば、俺の肉体は今半神化している。
つまりは、俺の身体は器としては十分に資格があるということである。そして、俺は記憶がないながらも、脅迫的にまでに魔力操作の訓練をひたすらに続けてきた。
自分には大した魔力はないからと諦めずに、今まで続けてきた努力は全て無駄ではなかったということだ。
偶然と努力が噛み合ったことで、奇跡的に今、俺は『暴食』を使うことが出来ている。
……これが、父さんの言っていた「運命」とやらだろうか。
「けど、この際そんなことはどうだっていい。今大事なのは、俺は、戦えるってことだ」
「いくぞ、『傲慢』。俺に喰われる覚悟はもうできたか」
ヨロイドウシに権能の力を纏わせる。さすがにまだ今の俺では自由自在に権能を使用はできないから、刀に纏わせることで放出し図に少ない負担で使用できるようにする。
この力の本質は「食べて糧にすること」一点に集約されている。
どんなに強い相手の攻撃だろうと、どんなに堅い防御だろうとこの力の前では意味をなさない。攻撃は全て喰らいつくし俺の魔力に変換され、防御は抉り取るように食い破られ同じく俺の魔力に変換され、さらには能力による特殊な効果や攻撃に付与された「概念」さえも喰らい、やっぱろおれの魔力に変換する。
栞の持つ『怠惰』にも勝るとも劣らない……いや、劣るわ。流石にあの威力・範囲ともに上限なしで、魔力操作技術、魔力消費なしで放てる即死攻撃とかにはさすがに勝てないけど、それでも『暴食』はガバガバのチート能力だ。
「っ……くらえっ!!〈私に敵対するものに掛かる重力が100倍になる〉〈煉獄の炎が奴を焼き尽くす〉『傲慢』」
「……ぐ、っらぁ!!」
禍津の放った言葉によって全身が重いという言葉で表せないほど、重力を受けるが、『暴食』を纏わせたヨロイドウシを一振り、二振りすれば、効果は消え失せた。上から降ってきた黒い鳥の形をした炎の攻撃は刀の面で受け、受け流す。
しんどいけど何とか防ぐことはできるし、今ので結構魔力も回復した。
「な、なに!?ありえない、権能によって引き起こされた現象をそんな簡単に……」
……簡単じゃ、ないんだけどな。
まぁ、勘違いしてくれた方が都合がいいし、訂正はしないでおこう。
さて、今の魔力量なら……うん、ギリギリ足りるな。なら、やるか。
「〈世界が拒んだこの力は〉っ!!〈それでも俺は使い続ける〉っ!!『暴食』」
別に決まった文言があるわけではないのだが、俺の心の赴くままに叫ぶ。その瞬間、俺の全身から黒色の、父さんや母さんに攻撃したのと同じものが周囲へ円を描きながら放出された。
「ぐっ……仕方ない、消費が激しいが!〈すべての力が私に届くことはない〉『傲慢』」
禍津が防御をしたようだったが、関係ない。
『暴食』は何をしたとしても防ぐことはできないから。
「なっ!?ありえない!私の『傲慢』が通じないなんてことは!あっていいはずがない!」
今の一撃で禍津の右腕が吹き飛び、全身が傷だらけになっていた。しぶといな……。
だけど、多分だがあと大体一分、耐えれば決着がつく。
「ぐううう!!よくもおおお!!!『傲慢』やれ!!」
自棄になったのか、禍津は無茶苦茶にペースも考えずに攻撃を放ってきた。
ぐっ……これを全部回避し切るのはさすがにしんどいな。
「用意しといて正解だったな。魔力府【魔力拒絶】」
俺の切り札ともいえる魔力符それをダース単位でバラまき、発動する。これで手持ちにある魔力符は尽きてしまったが、流石はというか、その場をしのぐには十分な効果を発揮してくれた。
禍津は無暗に攻撃を放ちまくった反動か空中で動きを止めている。
……ならこれ、使うかな。
とある呪符に魔力を込め、動かない禍津に向けて飛ばす。その呪符は栞にあの時、再び出会った時に使ったもの。あの時はほぼすべての魔力が必要だったが、今は『暴食』によりその問題は解決しているので、そこまでのリスクもない。
「【呪符・絶死】」
「……なに!?これは、体内の魔力の流れが……まずい、固まって、膨張している……っ!!」
【絶死】は使用対象の体内にある魔力を硬質化させるところに呪符の本質がある。つまりは、魔力消費にさえ目を瞑れば、たとえ防がれたとしても大体すべての攻撃を阻害する、時間稼ぎには最高の呪符なのだ。
「よし、そろそろ1分経って……!?があっ!!?」
なにが、起こった。
体に走った激痛のほうへ目を向ければ、俺の胸からまるで赤黒い爪のようなものが生えていた。
「ははっ、くははははは!!!!!油断したなぁ!この私が!ただむやみやたらに攻撃をしたと思ったか!」
油断。また油断だ。思い道理に事が進んで、勝ったと確信した。
……あの時からなにも変わってないな。
ああ、でも、一つ違う点があるとすれば。
「悪い、な。────それでも、俺の勝ちだ」
今が、ちょうど一分だ。
手に残った魔力を込め、解析がたった今終わったばかりの魔法を発動する。
「何をして……っ!?そういえば、アレはどこへ行った!?水無月栞を封印していた結界の魔法陣は!!!」
大正解だ。けど、 ──もう遅い。
「あれ……?な、んで。きりはら、くん?」
現代最強の術師が姿を現した。
……最後まで他力本願とは、まあなんとも、俺らしいな。
まあ、弟子に頼るのも師匠の役目ってやつだ。
後は頼むぞ。栞。
めちゃくちゃ変な夢見ました。作者がしめじになっている夢です。
何をする訳でもなく過ごしてたら人間に採られそうになるところで目が覚めました。病院行った方がいいのかしら……。
それはそうと、『暴食』はありとあらゆる攻撃、防御が無効とか作中では桐原くんが言っていましたが、そんなことはなく、防げない攻撃とかも割とあります。威力を極限まで上げた『怠惰』の攻撃とか。後は精神系の攻撃とかですかね。
とりあえずよろしければ感想、ブクマ、評価をお願いします。モチベの補給を……。




