31話 親だから
遅れて本当に申し訳ない。
「……よぉ。伊織、大変そうだな。大丈夫か?」
「父さん!?……な、なんで」
なんで。ありえない。
今、父さんがこんなところにいる筈がない。
けれど、そんなことも考える余裕もなく、もう俺は権能の制御には限界が来ていた。
「ぐっ!うううううあああああ!!!」
まるで体の内側から爆発が起きているような痛みだ……。
くそっ!収まれ!収まれ!全力で抑えようと体に力を込めてみるが、努力空しく俺の意思に反して『暴食』による攻撃が父さんと母さんへと襲い掛かる。
「ぐっ!二人とも……に、逃げてくれ」
必死に声を絞り出すが二人は聞こえてるのか聞こえてないのか、俺の言葉を意に介さずにそのまま攻撃なんて無いもののように近づいてくる。
父さんは見事としか言いようのない最低限の動きで俺の『暴食』による光すらも喰らい、完全な闇となっている攻撃をかわしていく。攻撃が同時に二つ、三つと増えて行っても余裕でかわし、囲まれてどうしようもなくなった時には、何か特殊な効果があるんだろう盾を空間魔法で取り出してふんだんに使い潰しながら攻撃を弾いていく。
母さんに関してはもはや意味が分からないのだが、何かの力を纏わせた素手で防御不能の筈の攻撃を殴り飛ばし、平然と、堂々と俺に向けて歩みを進めていた。
「……攻撃の対応自体はできるけど、こりゃジリ貧だなぁ」
父さんがそう、ぼやく。
「とりあえずいったん試してみましょう?悠介さん」
母さんはそう言いながら回避し続けているが、その回避した分の攻撃は全て父さんの方へと向かっていく。
「囲まれているねぇ、『暴食』の権能にはAIでも搭載されてんのかね」
そう言っている父さんだが、なぜか余裕があるような様子でいる。
「と、父さん!?」
思い切り、出せる限りの声を絞り出す俺に対して父さんは笑いかけ、言う。
「まぁ、見てろ。これが今代の最強の力ってやつだ。
『時空――支配』」
変化は劇的だった。父さんの雰囲気が変わったと思えば、俺が瞬きして目を開けた時には激しい音とともに、『暴食』による攻撃はすべて消滅した。
「…………えっ?」
何が起こった?瞬きのわずか0.2秒間にすべての攻撃が消し飛んでいた。
あり得ない。
あの『暴食』による黒い触手のような攻撃は、防がれすぎてて勘違いしそうになるが、生半可な防御など簡単に貫く一撃だった。少なくとも今の俺では防ぐ手立てなど全くないほどに。
なのに、父さんはそんな攻撃に対して何をした?どうやってかき消した?
父さんなら、何とかできるのか……!?
思わずそんなことまで期待してしまう。
だが、俺が混乱の境地にいる中、父さんは ガシガシと、頭を掻いていた。
「ん~攻撃は打ち消せる、抑えることもできるな。…………でもダメ、だな」
困ったような顔でそう呟いた父さんに母さんも頷く。
俺としてはどうして二人がそんなに難しい顔をしているのか分からず、早く『暴食』の問題解決をしてしまってほしいと思うばかりだった。
今の様子なら父さんは余裕でこの状況を終わらせることができる筈だ。
「困ったな……。伊織を助け出すのはなかなか厳しいぞ」
「……え?」
なんで。
このままだと世界も危ないかもしれないんだぞ。
この状況を何とかする方法なんて簡単な筈だ。
そう、簡単だ。
俺を、殺せばいい。
その筈だろ。
……なのに、なんで。
なんで二人とも俺を助けることを前提として考えてるんだよッ!!
おかしいだろ。さっさと俺のことを殺してくれれば終わる。それだけだろ!!
「何あっけにとられたような顔をしてるんだよ。いいからお前は制御に全力を注いどけ。親が、子供を助けるなんて当たり前のことなんだからよ」
……頭悪いだろ。くそっ……。
勝つだけなら簡単に出来るんだからさっさと殺せばいいのにさ……。
「百合」
今までここに来てから1度も俺の方から視線を外さなかった父さんが、ここで初めて母さんの方を見つめる。
「悠介さんにそうやって名前で呼ばれるのも久しぶりね」
いつものようにクスクスと笑いながらも答える母さんに、父さんは頬をかき、少し困った顔をする。
「いや、割と真面目な話なんだけど……」
「大丈夫よ。分かってるわ。悠介さんの言いたいこと。……私はどこまでもあなたについて行くってもうずっと前から決めてるの」
その言葉を聞いて父さんは、は、と息を吐いた後苦笑する。
「出来れば好きな女には長生きして欲しいんだけどなぁ……」
「嫌よ。おいていくなんてヒドいわ」
「だよなぁ……」
穏やかな雰囲気で頬を膨らませる母さん。その場に似つかわしくないような、ゆったりとした会話が二人の間で交わされている。
けれど、その不穏な会話の内容に俺は少し嫌な予感がしていた。
「ぐっ!?ううううぅぅぅ!!!」
そのタイミングで『暴食』の力が強まるのを感じる。まるで体内で爆発でも起きているような激痛にたまらず叫ぶ。
「伊織!?……クソッ!時間が無いな!百合、頼めるか!」
「ええ!任せて!悠介さんは完全に封印の方に専念して!!二人で終わらせましょう!」
父さんは、懐から何やら真っ黒な指輪を4つほど取り出すと握り潰して、その指輪から溢れ出した大量の魔力を吸収した。
「くそっ、貯めてた分全部使ってもギリギリかよ!時空支配禁術【悠久なる時空の棺】」
瞬間、俺の周りに時計の紋様が現れ、針が少しずつ回り始めた。
「百合!俺は能力の制御で手一杯だ!後は頼む!」
「分かってるわ!貴方のことは私が守る!」
そう言うと、再び現れた黒い触手のような攻撃を今度は母さん一人で父さんも庇いながら迎撃する。
「ぐうううう!!!」
二人のやろうとしていることを何となくだが理解した俺は、時間も少しでも稼ぐために権能を抑えるのに全力を注ぎ続ける。
止まらなくてもいい。
少し。
ほんの少しだけでいいんだ。
時間を!
そしたらきっと……最高に頼りになる両親が何とかしてくれるから。
「よし!発動する!よく耐えた伊織!百合も愛してる!」
「私もよ!」
時計の針が一周して、一番上でカチッと音を立てて止まる。
そして。
「あれ……。止まっ、た……?」
先程までの権能の暴走が嘘のようにピタリと止んだ。体には痛みもないし、黒い触手のような攻撃も、全て同時に消え去った。
「はあああ〜つっかれた…」
父さんはその場に体を投げ出しぐでーっとしている。本当に疲れたんだろう。今まで仕事終わりの父さんでも一度も見なかった姿だ。
「父さん……」
俺は何も言えなかった。言いつけを破り、世界を滅ぼしかねない状況を引き起こし、父さんと母さんに迷惑をかけてしまったのだ。なにもいえない。
「なーにしみったれた顔してんだ。助かったんだから喜んどけよ伊織。」
父さんは呆れた様子でそんな俺を見て、その後ろで母さんはいつものようにニコニコとしている。
…………けど。
これで終わりじゃなかった。
「あ、あれ……?」
俺の手のひらがボロボロと崩れていっている。
な、なんだよこれ……!
痛覚などは何も無い。それがむしろ何が起きているか分からなくなり、恐怖を煽る。
「……やっぱりか」
父さんがそれを見てそう呟く。その表情はいつもとは違い少し寂しそうなような顔だった。
「伊織、あなたの身体は崩壊をはじめてるの。『暴食』の力があなたの体という器では受け止めきれないぐらいのどうしようもない力だったってことね」
母さんは冷静でいつも通りの様子で、俺にそう説明する。悲しんでいる様子の父さんとは違い、むしろ母さんは笑顔だった。
「でも、大丈夫よ。私なら、私の『再生』の力ならその状態も治してあげられる」
その様子に俺は違和感を覚える。
……なんだ、この感じ。このまま母さんに流されて治してもらったらとんでもない事が起きてしまうような、そんな予感。
「母さん!待っ……」
「禁術【再誕】」
爆発的な光が母さんと俺を中心に発生する。
シュワシュワと音をたてながら俺の全身を美しくも優しい光が覆い尽くし、身体の内側から何かが溢れ出るような感覚に見舞われる。
これは、違う。
治癒なんて生易しいものじゃない。
文字通り全身を身体の内側から作り替えられている。きっとこの魔法の本質は治癒じゃない。
「蘇生魔法……」
「流石は私と悠介さんの息子ね。大正解よ」
存在するのか。
……いや、違う。今の問題はそこじゃない。こんなふざけた力。なんの代償もなく使える筈がない。
「やめてくれ!母さん!!」
それに気がついた瞬間俺は叫んでいた。
そ、そうだ。父さん。父さんなら止めてくれるはずだ。
「大丈夫か。百合。今、魔力を供給する。禁術【血と傷の代償】」
けれど、父さんはむしろ母さんに魔力を送り込み、母さんはそれを受け、目から血を流しながら魔法を発動している。
「やめてくれって!頼むからさ……!」
もう、俺は頭を地面に擦り付けて懇願することしか出来なかった。
「俺のためにこれ以上やめてくれ……!!」
だが、その言葉に誰も反応せず、そして光は収まり、完全に術は止まった。
崩壊は止まり、崩れていた部分も完全に元通りになっていた。だが、俺は喜べない。
なぜなら。
「母さん……!父さんも!崩壊が!」
「まぁ禁術ってのはこういうもんだ。世界から禁じられている術だから『禁術』だ。使えばそりゃそれなりに罰もある」
ボロボロと体が崩れていっているというのに、父さんも母さんも清々しいような笑顔だった。
「なんで……なんで笑ってるんだよ!!おかしいだろ!死ぬんだぞ!!父さんも!母さんも!」
全力でそう言うと、二人ともフッと笑う。
「なーに言ってんだ。親はな、子供のために尽くせるのが一番うれしいんだよ。お前のことを救って死ぬなら俺も母さんも本望だよ」
何を、言ってるんだ。
「いいか、伊織。今回起こったことはお前の責任じゃない。いずれ起こることだと分かっていたにも関わらず、こんな解決方法しか用意できなかった俺たちに責任がある」
「安心して。これから『暴食』の力が必要になったときは、使っても大丈夫よ【再誕】の効果で器としてのあなたの体は強化されてる。だから、私たちのように禁術を使ったとしても簡単には崩壊するようなことはないはずよ」
違う。そうじゃない、そうじゃないだろう。
「なら、凛は!あいつはまだ小さいだろ親が死んだらどうすんだよ!!」
「そのためのお兄ちゃんだろ、期待してるぞ」
「俺一人じゃ、無理だよ……」
今まで散々頼り続けてきたんだ。今更一人でなんて言われてもどうしようもない。
父さんはいつも通りの笑顔を見せる。
「大丈夫だよ。なんせお前は、俺と母さんの最高の息子だからな」
父さんは崩壊してきた手で俺の顔に手をあて顔を合わせる。そこには、いつも余裕そうな、なんでも見透かしているような、父さんの姿はどこにもない。
同様に、母さんも俺の事を真っ直ぐに見据える。
「いいか。伊織!よく聞け!
父さんと母さんはお前を救ってやれなかった!
不甲斐ない親ですまなかった!
けど!
いつかお前のことを救ってくれる人は現れる!
いいか!この記憶を忘れてしまっても、その名を心に刻み付けろ!
いつかきっと、お前を救ってくれる少女の名は!水無月栞!
この記憶の一ページを思い出す希望を挟んでくれる、お前のことをいつか呼び覚ますきっかけになってくれる少女の名前だ!」
「きっと彼女なら私達に出来なかったこともやってくれる。記憶操作だとか、私達が教えられる一通りのことは実はこっそり教えておいたから」
「時空系能力者としてはこの言葉が大嫌いだったんだが、今は敢えて使う。大丈夫だ。お前達は運命で結ばれている」
「ああ、でも、成長した伊織と、凛は見たかったかな……唯一の心残りかな」
そこまで父さんが言い終えた後、母さんが俺に近づいて優しく頭を撫でる
「ぁ……とう、さん。かあさん…………」
なんだ……。眠い。ものすごく抗えないくらい。
嫌だ。
まだ、俺は、父さんと、かあ、さ、んと……。
そこで俺の意識は完全に、途絶えた。
遅れた理由としてはですね…リアルが忙しいこと、このシーンがこだわりたくて死ぬほど時間をかけたことですね……。
これからは、投稿を週一ペースにしようかと考えております。毎週金曜の夜とかでどうでしょう。
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