3話 鬼が出るか、蛇が出るか?いいえ出たのは蜘蛛でした
本日ラスト投稿です。
俺以外に誰もいない校舎の廊下に金属同士がぶつかるような音が響く。
避ける。避ける。避け……ってうぉおおお!?
「あっぶ!?」
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!マジで死ぬ!!!
俺は慌てて途中で拾った、折れた机の足に魔力を込めて強化し、蜘蛛の足を弾く。
やばいやばいやばい。
何がやばいって蜘蛛の攻撃の威力が。
さっきの一撃で床に穴が空いた。
まともに受けたら俺は即死するだろうな。
ちなみに片山はあまりのショックで気絶したようで、とりあえず適当な教室に運び、この蜘蛛を遠くへ誘導中だ。
正直気絶してくれたのはありがたかった。
変に暴れられて蜘蛛に狙われることになったら目も当てられないからな。
とりあえず俺のやること!
第一目標、あの蜘蛛を倒す!
望みは薄い。
第二目標、俺も片山も逃げ切る!
気絶した片山を担ぎながらじゃ不可能。起きるまで時間を稼ぐ必要がある。
第三目標、時間を稼ぎ他の魔術師の増援を期待する!
連絡手段が無いためこの戦いの魔力を感知してくれるかは分からない。現実的では無いが努力目標。
といった感じだ。
正直、どれもこれも厳しい。
だけどやるしかないからな……。
戦っているうちにこいつの行動パターンも大体分かってきた。
こいつは基本的に攻撃は足で行っている。
八本のうち四本までを同時に攻撃に使用してくる。その1本1本の威力は極めて高く、カスるだけでも致命傷になりかねない。
また、その威力もさることながら、射程もやばい。足一本の長さは曲げられた時点で約2メートル。
それが伸ばされると2倍くらいの長さになる。
おかげでさっきからあいつの本体に近づけない。
あと気を付けるべき攻撃としてネバネバとする糸を吐き出してくる行動がある。
これは直前に足を2本上に持ち上げ口を開く素振りを見せる。
食らうと糸自身には殺傷能力はないが、行動を大きく阻害されるので1発で詰めまで持っていかれる可能性がある。また、糸を吐いた直後1、2秒程硬直するため攻撃を狙うならそのタイミングだろう。
……まぁ俺の攻撃ではまともにダメージを与えることは殆ど出来ないけどな。
アイツの外骨格は正直突破する方法がほとんど無い程に硬い。
既にいくつもの魔法をぶち込んだが、正直雀の涙程効いていてくれればまだマシだろうというレベルだ。
俺自身の魔力量が少ないから、強力な魔法を使えば一瞬でガス欠になるので今まで覚えてこなかったのが仇になった。
「っと!危なっ!?」
俺は頭に目掛けて放ってきた、足の攻撃をかろうじて転がり避け、体勢を整える。
マジで怖ぇ……ワンミス即死だからなぁ……。
しかし、そろそろこの戦いを終わらせないとな…逃げるなり、倒すなり行動をおこさないとこのままじゃ魔力と体力を削られてジリ貧だ。
あのバケモノの攻撃速度がとても早いので俺は常に身体能力強化と、思考加速の魔法を発動させている。なので、この瞬間も常に魔力を消費し続けている状況だ。
もし魔力が切れれば、攻撃を1発凌ぐことすら出来なくなる。
だから、早めに行動する必要がある。
しかし……
「くっそ!近寄れねぇ!!」
近づこうとすれば、四本の足が同時に襲いかかってくる。
その攻撃を掻い潜りながら、アイツに有効打を与えるのは不可能に近い。
俺は1つだけアイツに通用しそうな攻撃手段を持ってはいるが、それを発動させるには、アイツに触れた状態で、"3秒"待つ必要がある。
……あるのだが……
「そりゃそんな隙、見せてくれないよな!」
バケモノの足を避けつつ一旦距離をとる。
さて……どうする?どこで勝負をかける?
図らずもそのタイミングはやってきた。
バケモノが足を2本持ち上げ口を開く。
ここしかない。その瞬間俺は息を止め極限まで集中する。
─―――――――――――――――――ここだ。
放たれた糸をギリッギリのタイミングで回避する。
「【身体能力強化・ダブル】!!」
もう出し惜しみはしない!
魔力がかなりのスピードでゴリゴリと削られるのを感じながら、更に強化されて、もう人間では有り得ない身体能力を利用し床を蹴って、壁や天井を床のように走り、バケモノの後ろ側に回る。
「【アストラルバインド・ダブル】+【火縄・トリプル】!!!」
炎と岩の合同魔法による強固な鎖がバケモノの体を完全に縛る。
これで数秒は間違いなく稼いでくれる……はずだ。
そして……。
「俺のとっておきだ!遠慮なんてしないで存分に喰らってくれ。〈呪符・絶死〉」
『呪符・絶死』
これは呪符を媒体として、大量の魔力を貯め込み、発動対象の体内で解き放ち、硬質化するという能力だ。
作成に異常に時間が掛かるのと、発動前に無防備な状態で3秒間発動対象へ触れ続ける必要があるというデメリットが存在するが、これをモロに喰らったやつはまず内側から爆ぜてまず間違いなく死ぬ。
パンッ
想像よりずっと軽い音と一緒に蜘蛛の体が爆ぜる。ビチャビチャと体液がそこら中に撒き散らされ、俺も頭からあびてしまった。
「はぁっ、はぁっ、ゴホッ……ふぅ。キツかったな」
本当に厄介な敵だった。
堅い甲殻に、高い攻撃力。速さも中々のものだった。
魔力と体力を使い果たし、フラフラになった体を無理矢理動かす。
あ、そうだ片山の事確認しないと。
そう思い1歩踏み出した瞬間だった。
「ガヒュッ……!?」
口から息が漏れ出す。
呼吸ができずパクパクと開閉する。
腕が動かないので、見てみればありえない方向へねじれて紫色に変色していた。
「な、なぁ……?」
声が思うように出ない。
俺は魔力欠乏と今の衝撃で思うように動かない体を無理矢理動かして 衝撃の原因を見る。
そこに居たのは全身から瘴気を吹き出しながら再生しようとしている、蜘蛛の化け物の姿だった。
……あぁ、そうか。俺はあの硬さを見て完全に呪霊か、妖魔の類のものと決めつけてしまっていたのだが、こいつは『モンスター』だ。
モンスターとその他では大まかな点では相違ないのだが、とある1点において、モンスターは他とは絶対的に違う特徴がある。
その特徴とは「核を潰さない限り無限に再生する」というものだ。
逆に言えば核さえ潰せばその瞬間に即死する訳だが。
それにしたってあの化け物の再生速度は異常なのだが、おそらくは、自己再生系の能力でも持っているのだろう。
……長々と考えていたがまぁ要するに俺はあいつを殺しきれなかったってことだ。
もう抵抗するだけの魔力も、体力も無い。
はぁ…相変わらず詰めが甘いな。
俺は目の前に近づく明確な「死」に対してため息を着く。
さすがにこの状況はどうしようもないので、せめて空き教室で気絶していた片山が無事に助かることを願い、諦めて目をつぶる。
凛は大丈夫だろうか。
家で夕食を作っているであろう妹のことを思う。
ああ……死にたくないな……。
……
…………
………………?
……なんだ?来るはずの痛みに備えていたのに全くそんな様子はなく、音もしない。
まさかもう死んでるとかないよな? と思いながら目を開く。
「……うお!?」
目を開くと目の前に足を振り上げた状態で、固まっている化け物の姿があった。
なんだ……?何が起こった……?
────カツン。
音が、した。
困惑中の俺に近づいてくる足音が鳴る。
そして俺のすぐ側で立って俺の事を見下ろす。
「はぁ…勝てないのなら早く逃げて欲しかったのだけれど。」
足音の主はそう言い、呆れたようにため息を着く。
夕焼けに照らされて見えたその姿はとても美しく見えた。
『呪符』…あらかじめ術式を込めておいたそれに後から魔力を込めて使用するものが一般的。複雑な術式をその場で構築する必要がないということでとても便利だが、呪符の作成にはとんでもない技術が必要。