24話 おんぶに抱っこ
「出迎えご苦労だけど、数百年閉じ込めていた相手を出迎えるのが男がたった一人だけとは、分かってないな」
現れたそいつは水無月の報告通り、確かに消耗こそしている様子だった。だったが、これは……。
「悪かったな気が利かなくて。けど悪いね、ここでしばらく付き合ってもらうよ」
俺は男、――禍津を見てそのあまりのプレッシャーに冷や汗をかきながら、それでも表情には出さずにいつも通りの軽薄そうな印象を相手に与える笑みを顔に張り付ける。
……分かっていたけど、勝てない。実力の差は歴然だし、ぶっちゃけ職務も、責任も、日本の危機だということも全部無視して今からでも逃げてしまいたい。その場合、一般市民には大量の犠牲が出るだろうが、いずれ権能持ちの誰かがこの禍津という神を討伐して俺は無傷で逃げられるだろう。
「けど、そんなわけにも……いかないよねぇ!」
俺は禍津が無言で放ってきた魔法を最低限の動きでで体を捻って躱しながら、能力『影法師』を発動させ、同時に【身体強化】、【思考加速】、【危機感知】の魔法を続けざまに発動させる。
そりゃ、逃げればここは無傷でやり過ごせるだろうが、水無月には今までの借りの分があるし、連合からは批判されるだろうし、……なにより、俺が逃げたことで人がたくさん死ぬのは俺の夢見が悪くなりそうなんでね。
禍津に向かって発動した能力はすべて奴の権能によって防がれた。けれど、それでいい。俺の役割は時間稼ぎなんだから、その間に少しでもこいつを消耗させることができれば儲けものだ。
「ははは、今の奇襲をよけるとはね。君は水無月栞には劣るが、優秀な術師なのだろうな」
禍津は愉快そうにしながらも、話の最中にも無詠唱の魔法を放ってくる。幸いというか魔力を温存する方向なのか、権能での攻撃は一度もしてこないので躱すことができる。あの権能は魔力消費が大きいのだろうか。
「そりゃ、水無月と比べりゃそうでしょうねぇ!」
悪態をつきながら向かってくる魔法群を躱し、刀で逸らし、能力で身を覆い防ぐ。
俺の能力の『影法師』は闇属性系列のノーマル能力中最強の能力で、武器に闇を纏えば空間も切れる。闇で防御すれば魔法は完全に無効化できる。闇を生み出してそこに紛れたり、視認できる範囲でなら光量が一定以上の場所に転移もできるといったできることはそこそこ多い万能型の能力なので、こういう時間稼ぎに関しては俺以上に適任な奴もなかなかいないと思う。
それに水無月からの情報のおかげで取れる手段はそこそこ多い。だから、俺のやるべきことはこいつに本気で戦わせず、できる限りの時間稼ぎをすることだ。
だが、この神、頭もそこそこ切れるようで、
「なるほど、君の狙いは時間稼ぎか。それならこちらはさっさと終わらせてしまおうか」
あっさりと俺の狙いに気づかれてしまった。
そして俺が今最もやってほしくないことをやってきた。
「まずは、この狭い場所を何とかさせてもらおう」
そう言い、禍津は両手を上に広げる。
まずい。今、攻撃をよけることができているのはここが狭い地下だからということがある。なぜならここは強力な魔法やら広範囲への攻撃は狭すぎて下手すれば自滅しかねないので使えないのだ。
時間稼ぎするうえではそれが丁度よかったのだが。
……仕方ない。なら、プランBだ。
「〈すべての障害物を吹き飛ばせ〉〈わが身を守れ〉『傲慢』」
そう、禍津が唱えた瞬間、地下の天井ごと社が丸ごと吹き飛んだ。
……なるほどね。
直前に言ったことが現実になる。
最後に「傲慢」と唱えるのが発動のトリガー。
一度に何個まで効果を発動できるかは不明だが少なくとも二つまでは問題なく発動できる。
今のところ把握できる傲慢の能力はこんな感じかな?
「ははは!さて、どうする。現代の術師」
禍津は浮遊し広くなったことをいいことに頭上に広範囲魔法をいくつも浮かしいつでも攻撃できるようにしている。やばい…けど、まだどうにかなる。
「ぐぅぅぅ!!影!俺を守れぇぇぇ!!!」
今までで一番大きな影が魔法をすべて防ぐ。けれど、その衝撃によって俺は宙に投げ出され、能力を発動する間もなく十メートルぐらいの高さから地面にたたきつけられる。
「いっ……ゲホッゲホッ」
肺から空気がすべて抜けたような感覚になり、うまく息を吸えない。身体強化を発動中とはいえ、当然ながら高いところからとされればダメージも受ける。
「休んでいる暇はないぞ!」
【危機感知】が危険を告げる。倒れて悶えている俺に対して容赦なく殴りかかってくる禍津。かなり強化されているのか目で追うのが困難な速さになっている。
「ぐっ」
キツい。苦しい。痛い。……これ、骨もだいぶ云ってるよね。
もう、倒れていいよね、これ。本気で辛いし、ただの能力でここまで耐えれたんだ。上出来でしょ。
目の前には傷一つない禍津。本気で勘弁してほしいんだけど。
『影山…影山。もう充分です。逃げて下さい。あなたなら逃げ切れるはず』
いつの間にか遠見の水晶が零れ落ちていたのか、悲痛な顔で地面に落ちた水晶の中からこちらを見つめる水無月の姿が見えた。
お前から言い出した事なのにピンチになったら逃げろとか、やめろよな。
禍津はボロボロになっても立ち上がろうとする俺を見て面白いものを見るような表情でこちらを見ている。待ってくれるとか、優しいね、おい。
「水無月。俺たち術師は命を張るためにいる。死地に踏み込むつもりで常に戦う。……お前は例外かもしれないけどな」
負ける要素がないんだもんな。その自覚がないのも仕方がない。
「だから、俺はここで命を張ることに躊躇いはない。それに、いつまでもお前だけに世界中の重責と負担をを負わせるわけにはいかないんだよ」
今回のことは、俺達にも責任がある。今回に事をすべて水無月に任せていたせいでこの有様になっている。
おかげで、この状況になっても援護しに来る奴も、もともとここら一帯に張ってあった結界を破壊されないよう強化しに来る奴すら未だに一人も来ない。
……笑えるね。日本中が水無月に、たった十六歳の一人の少女におんぶに抱っこの状態なんて。
「だから、逃げるぐらいならここで時間稼ぎに全力を出して死んでやるよ」
その言葉を聞いた禍津は愉快そうに笑う。
「その体で私に立ち向かってくるか。だが、勇気と蛮勇は違う。その体じゃ数秒も持たないだろう」
その言葉に俺は不敵な笑みを返す。
そして、空を見上げる。コレの発動条件は、新月の日で、かつ日が沈んでいること。一月の 内、一番闇が濃くなる日だけに使える技だ。
今はちょうどさっき日が沈み、そして今日は新月の日。
……うん、完璧だ。
『駄目よ影山!今の状態でそれを使えば本当に死ぬわよ!!』
そんな俺の様子を見て何をしようとしているのかに気が付いたのだろう。焦った様子で止めようとしてくる。話し方が素に戻ってるのが新鮮でこんな状況にもかかわらず少し笑ってしまった。
そして水無月には反応せず、禍津を見据えて愛刀を構える。
「覚悟しろよチート神。俺の全力は三分しか持たないぞ!
【闇纏羽衣・極】!!!」
さあ、ラストスパートだ。
影山くんも水無月さんも命はって戦ってんのにその裏でラブコメやってる主人公ェ……。
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