22話 最強の実力
……初手で眠ってくれたりしないかしら。そう思いながら私は権能を放つ。
「眠らせなさい。『怠惰』」
すると、流石にこれは無視をすることはできなかったのか、禍津は慌てたように掌を突き出す。
「〈かの者の力は私まで届かない〉『傲慢』」
すると、私の権能が禍津に届くことはなく、直前で霧散してしまった。
……流石に開幕で放って倒せるような相手じゃないわよね。でも魔力量が少しだけ…けれど、確実に削れている。私と違って大気中の魔力を使って権能を発動しているわけじゃないのね。
つまり、このまま「怠惰」を発動し続ければいつかは押し切れるってことね。
一方的に攻撃を受けていてはジリ貧なので、当然ながら禍津も攻撃を仕掛けてくる。
「〈神速で光がかの者を貫く〉『傲慢』」
一瞬、目の前が光に包まれる。
【思考加速】と【身体強化】は既に発動している状態だと言うのに目では追えない速さなのか、何が起こったのか詳しいことは分からなかったけれど、禍津が私の方を見て何やら目を見開いてるのを見るに攻撃をしたけれど効果がなかったのだろう。
「なっ!?無効化された?」
その後も禍津はめげずに、黒い竜巻を、無数の氷の刃を、火炎を、雷を、私に放つ。…けれど、そのどれもが私に届くことはない。
全て当たる前にまるで最初から攻撃など無かったかのように霧散してしまう。
当たり前だ。私の持つ『怠惰』はそんな甘いものじゃあない。
反対に私の攻撃は、耐えられるとはいえ、ノーダメージでは無い。禍津の権能の詳細は未だに分からないが、私の権能は一応効果がある分このまま戦っていれば、私が勝つのは明白だ。
……周囲への影響とか、結界が破壊された後の被害とかを考えなくていいのなら、一瞬でごり押すことも可能なのだが、まあ、それができないのはいつも通りのことだから考えないこととしよう。
いまだにこの結界がどういったものかが分からないので、無茶なことはできないのよね…。なにも考えずに本気で攻撃して世界を滅ぼしました。なんてことになれば笑えない。
だから、ここは堅実にいく。
「眠らせなさい。『怠惰』」
私が権能を発動する度、禍津は慌てるように対応するための権能を発動する。
全力ではないとはいえ、私の権能にここまで耐えた敵は今までいなかった。
けれど、それだけね。たいして面白いこともなくこのまま終わりそう。まあ、私以外だとなかなか厳しいかもしれないけれど。保険が必要なさそうでよかったわね。
禍津の権能の内容も大体わかってきた。
多分、だけれど傲慢の能力は、「言葉にしたことを実現する」といったものだと思う。驕るのには十分な傲慢という権能の名にふさわしい、ふざけたチート能力だ。
……さすがに何か制約があるみたいだけれどね。
「っ……!『因果』からかけ離れすぎると魔力の消費量が多くなるけど、仕方ないか」
このままではそう遠くない内に負けることは禍津も分かっているのだろう。禍津の体内で大量の魔力がうねり出す。
「〈火・水・土・風・光・闇の六大元素よ、今一つに纏まりて、かの者を打ち倒せ〉
〈傲慢が怠惰に打ち勝つことも起こりうる〉『傲慢』」
禍津の周囲をクルクルと六色の光が回り出し、徐々に光が一つに纏まっていく。
明らかに喰らえばチリも残さない感じの攻撃ね。一応警戒はしておこうかしら。
そう考えた瞬間だった。一つに纏まった虹色の極光が、私に向けて一直線に放たれる。その攻撃も怠惰の権能に阻まれて、私に当たる前に霧散する。
――はずだった。
一直線に向かってきた虹色に輝く光は「怠惰」の権能によって勢いは弱めながらも、霧散しきる気配はない。
有り得ない。何が起こっているの!?
「…っ!!」
私は声を出す余裕も無く、反射的に身を捩って光を躱す…がしかし、反応が遅れたせいで上着に着ていた服に掠って、右ポケットが破れる。
「しまっ……!?」
ポケットの中からはビー玉のようなものが転がり落ち、禍津の足元まで転がっていく。
それは、私が独自に隠し持ってきた、結界に入る前に座標を記憶した魔法道具だった。
マズい。マズ過ぎる。
この禍津を封印していた結界が一方通行なのは分かっていたので、帰還用に予め私が用意していたものだった。
本来なら結界内にいる敵と戦う時は、封印されている敵を倒すと外側から封印を解除してくれるため、帰還用のアイテムなど持っていかない。
しかし、今回は兄が絡んでいるということもあり、たとえ禍津に勝利したとしても結界から出られない可能性を考慮して、持ってきていた。
あの魔法道具は空間魔法が使用出来る者であれば、誰でも使用できてしまう。
そう、例えばそれは封印していた存在であっても。
……この禍津という男は最初、私が来た時に、椅子と本をしまう為に空間魔法を使用していた。
つまり、あの魔法道具を使用できない道理はない。
禍津は一瞬キョトンとした顔でそれを摘み、何かを理解するとニヤッと笑う。
「ふっ……はははは!そうだな。外に出るにはこういうものが必要だろうな!」
そう言い、禍津は攻撃を無茶な体勢で避けたため、地面に手をついていた私を一瞥した後、その魔法道具を手で砕く。
今の一瞬で使い方を解析したの!?
「はははは ! 私はまだ運に見放されてなかったらしい。勝負の途中で悪いが、このままでは確実に私は負けて殺されるだろうからね……随分と魔力も使わされた」
そう言ったあと、禍津は止める間もなく、この空間から消えた。
その後、私も何とかして追おうと色々試して見たけれど、私じゃこの結界はどうしようもないことが分かった。「怠惰」をフル稼働させれば壊せるかもしれないけれど、それをやれば結界を壊した瞬間に、外の世界も滅ぼしかねない。一度発動した権能は、急に止めるはことができない。
車が急にブレーキを踏んでもその場で止まることができないの同じね。
まぁ、つまりは、私にはもうどうしようもないということだ。
「私はもう何もできないみたいね。保険に頼らなきゃいけないのは申し訳ないけれど、今までの借りの分ぐらいは働いてもらうわよ。」
私は外との連絡用の遠見の水晶を取り出す。これがなかったら本当に何にもできないところだったけど、禍津の情報ぐらいは伝えられる。
私は事情を説明した後、遠見の水晶を眺めながらこれから起こるであろう苦しい戦いがどうか無事に終わることを願うことしかできなかった。
……頼んだわよ。影山。
「はぁ…やだやだ。あいつが勝てなかった奴に俺が勝てるわけないんだよねぇ……」
社の地下、封印の前で水無月からの連絡をもらってから約三分。封印の内と外でタイムラグでもあるのか未だ例の『傲慢』持ちの神、禍津が封印から出て来る様子はない。いっそのことこのまま出てこないでほしいものだが、きっとそういうわけにもいかないのだろう。
……しかしまぁ、無茶を言ってくれるねぇ。ただの術師が権能持ちにかなうわけないだろうに。まあ日本国内だとあいつの次に強いのは俺なのだから仕方がないのかもしれないが。
でもまぁ……先程水晶を通して見た、水無月の珍しく申し訳なさそうな顔を思い出す。
あの顔に免じて『嫉妬』所持者のアレイナ・クリューエルン氏か、『憤怒』のアホが来るまでの時間稼ぎぐらいなら吝かじゃないかもね。
そう考えたとき、すぐそばの場所が光り輝き、男が現れた。
はぁ、ともう一度深い溜め息をつき腰から刀を抜く。
頼むから早く援軍来てくれよ。
……俺が、死ぬ前に。
『傲慢』……禍津の所持していた権能。全権能最強の大罪系らしく、「直前に発言したことを現実に引き起こす」といったチートっぷり。ただし、あまりにも因果に逆らうようなことを現実化しようとすると大量に魔力を食うし一応出力上限があるので、無茶なことはできない。(例えば、今この瞬間に世界が滅びるとかは無理)
と、とりあえずなくなるまでストック吐き出したぜ…!!ここまくるとなんか一周回って楽しくなってきやがったぜ……。明日からのモチベのためにも評価、感想、ブクマをしてくれると嬉しいです。




