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21話 『怠惰』と『傲慢』

一息ついて、ゆっくりしてふと我にかえりました。明日の投稿どうしよう……。


土曜日。時刻は正午。


 私は、一人で寂れた神社の境内を歩いていた。ここに、例の水無月家が代々封印を続けてきた神がいるらしい。確かに魔力は感じなくはない、が本当に何となく感じるというだけで魔力の存在を意識しなければ気づきすらしないだろう。


 こんなところに本当に言うほどの、神と呼ぶのにふさわしい存在が封印されているのだろうか。


「やあやあ、水無月さん。本当に来てしまったんですね」


 神社の祠や、御神木を眺めていると後ろから声を掛けられる。振り向いたところにいたのは、ぱっと見では20歳後半ぐらいにしか見えない、金髪の美女。その一挙一動が上品なたたずまいで、本人の不思議な雰囲気とも合わせてどこか神々しさすら感じさせる人物。


「か、会長!?なんでここに」


 流石に予想もできない超大物の人物に私も驚愕を隠せない。

 その人物は私もよく知っていてかつ、とてもお世話になっている人物だった。


 NMO(国際魔術連合)総会長、アレイナ・クリューエルン。

 私と同じ、特等位術師の一人で、七つの大罪系列の権能、『嫉妬』の所持者だ。


「いえ、人類の最高戦力であるあなたに死んでしまわれると私としても本気で困ってしまうので、様子を見に来て可能なら助太刀を、と思っていたのですが…どうやら無駄足のようです。」


 いや、様子見ってこの人、フットワークが軽すぎるわ。アレイナさんだって暇なわけがないでしょうに…。


「どうやら結界の中には、水無月家の血族しか入れない仕様のようです。あまりにも高度すぎる結界だったので、私ではあなたの代わりをしてあげることはできませんでした。なのでせめて、この戦いが終わった後にあなたが無事であることを祈っています」


 十分すぎる。本当にこの人には借りを作ってばっかりだわ。今度美味しいスイーツでもご馳走しないとね。


「それでは私はこの後も仕事がぎっしりと詰まっているので今から飛行機に乗って、帰ります。大したことができなくてごめんなさい」

「いえ、来てくれてありがとう。本当にうれしかったわ」


 それだけ聞くとアレイナさんは本当にそのまま速攻で帰っていった。けれど私の味方もいるんだって再認識できただけで私には十分だった。


 アレイナさんと別れた後、私はそのまま結界がある方へと向かった。


 事前に聞いていた通りに、社の中に入り、地下への階段を下りる。

 地下にあったのは学校の教室ぐらいのスペース。


 そして、床に、壁に、天井に、一分の隙間もなくビッチリと書き込まれた魔法陣だった。


「何…これ…」


 高度なんて次元じゃ、ない。私じゃ何がどうなっているのか、理解することすらできない。

 かろうじてこの魔方陣が異空間に飛ぶためのものだということは分かった。ここまでしなきゃ封印ができない相手ということなんだろうけれど。


 ……これは、もしかしたら保険を用意した意味もあったかもしれないわね。


 そう思いながら、一歩足を踏み入れると魔法陣が光りを放ちだす。


「…っ!足を踏み入れただけで発動するタイプなのね」


 もう後には引けなくなったことを理解する。…まぁ、もともと引く気なんてないんだけれども。


 噂の神様はどれほど強いのかしらね。

 私はだんだんと強くなっていく魔法陣の光に飲みこまれながらそんなことを考えていた。










 不思議な場所だった。


 太陽の光すら存在しないはずなのに、常に天井が仄かに光を放っているからか明るい。思っていた以上に広い場所で、学校の校庭ぐらいはあるだろうか。その周囲は結晶のようなもので覆われている。そして、その結界の中心には黒髪の一人の男が座っていた。木製の椅子に座り、文庫本を両手で抱えながら眠っている。


 この男が…神…?


 神々しさなど皆無。本当にただの男にしか見えないのだけれど…。こんな男を見せられてこの男が神だと言われたとしても百人中百人全員が信じないと思う。


 三歩ほど男が眠っている方へ近づくと男がピクリと動く。…起きたのかしら。一応警戒して、いつ男が私に向けて攻撃しても対応できるように構えておく。

 男はそのまま立ち上がるとこちらを見てパチクリと瞬きを数回した後、「ああ…」と納得したような顔をした。


「ああ、もう55年か。ここに閉じ込められてからというもの、どうにも時間間隔が曖昧になってしまっていけないな」


 そういうと男は立ち上がり、座っていた椅子と手にあった文庫本を、なにやら空間を歪めた後、そこに放り込んだ。

 今使っていた魔法は空間魔法の【インベントリ】かしら。無詠唱で高難度の特殊属性の魔法を使うあたりはさすが神と呼ばれているだけはある。


「あなたが、代々水無月家に封印されてきた神でよろしいのですか?」


 意思の疎通が取れそうだったのでとりあえず話しかけてみた。速攻で問答無用の攻撃が本来ならいいのだろうけれど、どうせなら少しぐらい話しかけてみてもダメではないと思う。

 話しかけた私に対して、男は面白いものでも見るように私のことを見る。


「ふむ……話しかけられたのは久しぶりだ。魔力量も……とんでもないな。今回の術師はとても優秀そうだし、これは本当に今回で死ぬかな?」


 男は私の質問にも答えず、顎に手をやって何やら一人でぶつぶつとつぶやき始めた。私は黙ってその様子を見ていると、男は思い出したかのように語りだした。


「ああ、すまない。それで私が神か、だったか。和退社自分で自分のことを神だと思ったことはないのだが、水無月家からそんな呼び方で呼ばれていた気がする」


 ……とあっさりと自分が私の討伐対象として認めた。その姿には警戒心といったものが見当たらない。


「どうだろうか、一つ取引を私としないかい?」


 男は深い笑みを浮かべながら、そう持ち掛けてくる。…明らかに胡散臭い提案だったが、なんと言ってくるのか気になったし、このまま攻撃して、余計な刺激をしない方がいいと思ったので無言で続きを促す。


「私は君には危害を加えないから、私をこの封印のうちから出してほしい」

「……ここから出てどうするつもりですか」


 私はひそかに嘘を看破する発動する魔法を発動し、話を聞くことにした。

 ……これで噓をついていたとしても気が付くことができる。


「そりゃ、当然この数百年の恨みを晴らしに行くよ。きっと優秀な君は看破の魔法ぐらいなら使うことができるだろうから正直に言う。君以外の人間を目の付く限り殺して回って満足したら後はゆっくり過ごすよ」


 同じトーンで、何の感慨も何の感情もないかのように話すその男に薄気味の悪さを感じる。看破の魔法を発動していたことを少しだけ後悔した。…だって今の発言がすべて本当(・・・・・)なんだってわかってしまったから。


 私は心の中で感じた動揺と、少しの恐怖を悟られないように無表情を意識して返答する。


「その条件で本気で私が受けるとでも?」


 声は震えてないだろうか。……大丈夫、だと思うが。もとから仲の良かった人以外には敬語で他人行儀にするほど、私は初対面に対して警戒心が強い自覚がある。最初から声は固かったからあまり変わっていないはず。



「呑むさ。だって呑まなきゃ君は死ぬしかないんだから。…私の能力、いや権能(・・)は『傲慢ごうまん』全能力、権能の中でも最上位の大罪系…その序列四位の力だ」


 驚いた。なるほどね、この男のここまでの自信はその権能によるものか。…それなら私の権能も教えておかないとね。



「奇遇ですね。私の権能は『怠惰』同じく大罪系、その序列一位の能力です」


 その言葉を聞いた男の歪んだ顔を見て少しだけスッとした。


「そうか…なるほど。」


 ……?どうしてか男の雰囲気が変わった気がする。

そのまま男は数歩私に近づいて、唐突に笑い出した。



「っ…はははははは!面白い。面白いよ!ならばここで私のことを下してくれよ!」


「言われなくてもそうしますが」


 男は突然狂ったように笑いだして、誰か分からなくなるくらいテンションを高くして、溢れんばかりの膨大な魔力を爆発させる。


「私の名前は禍津まがつ!もうとっくにほとんどの者に忘れられ、封印された時代遅れの神だ。」


 その勢いと、魔力に少しだけ気圧されながらも私もつられるように言う。


「私の名前は水無月栞。現代最強の術師。



――名前だけでも覚えて逝って下さいね」




 二人の権能持ちの戦いが今、始まる。

『怠惰』……水無月栞の所持している権能。能力、権能全て含めて問答無用で最強。

権能の詳しい内容は実にシンプルで、「エネルギーを吸収する」一点のみ。

ただし、吸収できるエネルギーの種類に制限はなく、かつ権能の出力に限界はない。


そのため、水無月が本気でやれば一瞬で地球どころか太陽系くらいなら滅ぼせるくらいやばい権能。


また、自身への攻撃の魔力や、熱エネルギー、果ては運動エネルギーまで吸収できる。

(吸収するものは基本的に権能によって危険度で自動的に取捨選択されている。)


そのため、ありとあらゆる攻撃が効果をなさない。エネルギーを介している以上は全て無効化される。

吸収速度を上回れば攻撃自体は通る。

出力をあげれば関係なくなるけれど。


これが水無月栞が最強な理由です。


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