2話 覚悟を決めろ。決めても何もないけれど。
結局、リア充たちの言葉には逆らえず、俺は今旧校舎の肝試しについて行っている。
メンバーとしては、昼に話していた片山、同じ女子グループの女子たち数人と、男子では檜山とその友達の若林、そして俺だ。
うーんこの俺の場違い感凄いな。
ただ、このメンバーの中に1人ど陰キャの俺がついて行くのは中々気が重い……と思っていたのだが、意外とそうでも無かった。
若林も、檜山もコミュ力が高く、俺にも普通に話しかけてくれるからだ。俺も女子相手に喋るより気楽 に話せるので、普通に楽しんでしまっていた。
「桐原って意外と面白い奴なのなー」
……と、檜山に言われたのは内心ちょっと、いやかなり嬉しかったりする。
「ん〜何にも無いねー。やっぱ妖怪なんて居なかったのからなぁ……」
残念がっている片山を見て、まさか本当に妖怪の話を信じて肝試しに来たのだろうか、とも思いながら、色々な教室を歩き回る。
「いや流石に居ねぇだろー」
「もー!居ないのは分かってるのー!だけどそういうこと言わないでドキドキを楽しむの!」
あ、居ないのは分かってたんだ……。流石にリアルで幽霊とか妖怪を信じてるわけ無いよな。
俺たちはそのまま談笑しながら学校の1階を回り切った。
……だが、2階来た時全員が誰一人として声を上げなくなった。
明らかに雰囲気がおかしいからだ。
1階までとは違う。
まるで先程まで幽霊、妖怪なんてありえないなんて言っていた俺たちを嘲笑うように、冷たい空気が支配していた。
「ね、ねぇもう帰ら……」
誰が言った言葉だったのだろうか。
……だが。
その提案は……少しだけ遅かった。
──そして、俺達はバケモノに出会った。
教室を開けると、まるでこの場所の主とでも言うかのように、堂々とした佇まいで、それはいた。
その姿は蜘蛛だ。
黒と白の独特の模様が目に付く。
だが一番の普通の蜘蛛との違いはその大きさだ。高さは2メートルくらいだろうか?
その明らかに人間が戦って勝てるとは思えない見かけに俺は呆然とした。
「……っ!」
そのあまりの恐怖に耐えきれなかったんだろう、女子の誰かが声を上げた。
「きゃああああああ!!!?」
その反応も仕方ないとは言える。
あんなバカでかい蜘蛛の化け物を見たらそれは普通の反応だろう。
……だがその行動はその場で最悪の選択肢だった。
8つの目がその声反応しこちらを見る。
「お、おい!お前ら何してるんだ!早く逃げるんだよ!」
一番早く我に返った若林が声をあげ、一目散に玄関に向けて全力で走り出す。
その声に全員がハッとした顔をして慌てて走り出す。
……しかし、ここでトラブルが起こった。
「きゃあっ!?」
片山だ。
片山が上手く走り出すことができず転ぶ。
多分腰を抜かしていたのだろう。
この状況なら仕方ないことではある。
あるのだが…現実は非情だ。
自分のことに精一杯の俺を除いた全員が気づかない。
……いや助けられないことを察して気づかない振りをした者もいるかもしれない。
だが、どの道片山はバケモノの前で1人取り残されることになる。
俺はこの一連の流れに気がついている。
だけどこのまま逃げたって後から誰にも責められることはないだろう。
片山はいつの間にか居なくなってしまった。
そういうことにしておけばいいのだ。
そうだ。
片山は友達なんかじゃないし、まして恋心なんかも一切無い。
だから……。
「ぁ……お、お願い……誰か……」
チラリと片山のことを見る。
……見てしまった。
見るべきじゃなかった。
片山は必死にこっちに手を伸ばし後ろから近づいている明確な死から逃げようとしている。
──おい、馬鹿なこと考えてるぞ。
大体俺が向かってどうする?
結局あいつに喰われるだけだろ?
逃げても誰も責めないんだぞ?
けれど。
片山の先程の顔が頭に浮かぶ。
「あぁ……くそ」
俺は完全に立ち止まり振り返る。
スっと息を吸って思い切り叫ぶ。
────【ファイヤーボール】
炎が蜘蛛の目に直撃し蜘蛛がその顔を俺に向ける。
「キュオォ?」
「っ……!ノーダメージかよ……」
俺はもう後戻りできないことを実感しながら強がって笑う。
……さぁ死地に踏み込んでいこう。
『魔法』…魔法は基本的には自身の体内の魔力を使い、現実的に考えて本来なら起こりえない事象をひき起こすもの。世界に決められた物理法則から逸脱したことをするほどに魔力消費が大きいものになる。
本日二話目。あと一話も投稿するので是非ともみてくださいな。
それと、良ければ下にある黄色いお星さまを作者に向けて降らしませんか?
作者の一日のメンタルが守られます。