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15話 怠惰なる権能

 話が一段落つくと、水無月が特等位の巨大な化け物に向けてゆったりと歩き出す。


「はぁ……もういいでしょう。私もそろそろ戦ってさっさと終わらせてしまいましょう」


 こちらを振り向かずにそう言うと、まっすぐに特等位のほうを見据えて深呼吸をする。


 ……なんだろうか、水無月の魔力には一切の変動が見られないのに、とてもやばい感じがする。


「おいおい、もうちょっと待ってもいいだろ。今回のこれ(・・)で大きい組織に自分の働きを見てもらって入ろうとしたり、昇進を狙ってるやつもいるんだぞ」


 水無月の背中に向けて少し焦った様子の見える影山が言う。

 ……というか、この状況を魔術組織、しかも大手のところに見られていたんだな。術式を込めた呪符とか見せるべきじゃあなかったかな。


 しかし、水無月は振り返らない。


「それなら私の助力なしで倒して下さいよ。それなりに被害出るでしょうけどこのメンバーなら倒しきることはできるでしょう」


 その言葉を聞いた影山は諦めたような溜め息をついて、どうしようもないというように肩をすくめる。…当然だけど影山も特等とは戦いたくないか。


 はぁ……ともう一度影山が深いため息をつくと、服のポケットからホイッスルを取り出す。戦いの音で随分とうるさいこの空間でも響き渡るように思いっきり吹いた。


 少々不満げな奴らも何人かいたが、さすがは精鋭の集まりというべきかの音を聞くと同時に周囲の蜘蛛を蹴散らしてこちらに迅速に集まってきた。


 「なんで集めたんだ……?」と思いながら影山を見ると、影山もこちらを見て、


「なんで術師たちを集めたか聞きたそうな顔だな、伊織。まぁこうでもしないとな、――死人が出る」


 そう言って影山はまた水無月のほうに視線を向ける。

 つられて水無月のほうを見ると、水無月はちょうど特等のそばまで近づいて歩みを止めたところだった。水無月の周囲は蜘蛛に囲まれている。何故かこの空間にいた蜘蛛のモンスターすべてが水無月にヘイトを向けていた。だが、水無月の魔力を警戒しているのか、飛び掛かろうとする個体はいない。


「すべて眠りなさい。『怠惰』」

 

 短い言葉だった。何か特殊な詠唱をする訳ではない。けれど、その声は水無月が俺に話しかけてきた言葉とは絶対的に違う、ひどく重さを感じる言葉だった。


「なんっ、だ……これ」


 そんな声を思わず漏らした。それほどまでに異様な光景だった。囲んでいたはずの蜘蛛も、特等の巨大な化け物蜘蛛も魔力を感じられなくなり、ボロボロと崩れていく。


 周囲では歓声が起こるが、それどころじゃなかった。何が起こった?

 水無月の魔力に変化はなかったし、水無月自身が何かしたわけでもなく、ただ言葉を発しただけだったはずだ。


「いや、流石だな。これが全術師中最強の能力……いや、権能・・だ」


「……権能?」


 となりで拍手をしながらそう呟く影山を見て、反応せざるを得ない。


「ああ、もしかして知ってるのか、伊織。水無月の持ってる力は能力なんて生易しいものじゃなくて、その原点に位置する『権能』だ」


 権能。魔力が一定以上の術師なら全員が持っている能力の、祖となる力だ。その力はどれもが破格の力を持っており、同じ権能を持った者は二人以上同時に存在しない。権能は『七つの大罪』や、『六道』という具合にシリーズ化されていて、特に七つの大罪系列のものに関しては、権能の中でも最強クラスといわれている。


「水無月葵。彼女が持っている権能の冠する名は『怠惰(たいだ)』。最強と名高い七大罪系、その序列一位の権能だ。」


 影山の説明を聞いて成程なと思った。そりゃ最強だわ。だってこの世界で水無月の持っている力より強い能力は存在しないのだから。自分でそう言うのも納得だ。


 と、そこまで考えたところで猛烈な眠気が俺のことを襲った。気づけば周りにいた術師達は、軒並み倒れるかフラついていた。……おいこれ絶対水無月の能力だろ。ふざけんなコントロールできないのかよ。


 さっきの蜘蛛の様子を思い出す。あの蜘蛛は魔力の流れを固められてからだんだんとエネルギーを奪われていて死んでいた。といっても過程としては一瞬だったのだが。

 流石にあの蜘蛛に食らわせたものとは違って死ぬことはないのだと思うが、このまま倒れるのもなんか癪だ。


 だから魔力の流れを止めないことに全力を注ぐ。


「……魔力府ぅ……【魔力拒絶ディ・リジェクト】ぉ!」


 切り札のつもりで持ってきた、この前できた偶然の産物。効果は推定でしかないのだが、ありとあらゆる魔法の強制解除。これが魔法に含まれるかは微妙だが、使わないよりはマシな気がする。


 すべてを飲み込むような眠気がほんの少しだが、マシになる。

後は体内の魔力を、魔力操作で無理矢理に循環させる。


 必死にこらえながら魔力の循環に全力を注いでいると、水無月がこちらに歩いてきた。だが俺には声をかける余裕も、反応してそちらに意識を向ける余裕もない。

 水無月は歩くのを止めず、そのまま倒れている術師たちをガン無視して真っ直ぐにこちらへと向かってきた。……え、いや、なんか近くないか?


 そして顔と顔がくっつきそうなぐらいまで近づくと、


 ――そのまま無防備な俺の耳にフッと息を吹きかけた。


「っ…!?」


 思考が乱れる。あ、やば、集中できな……。く、くそ、こいつわざと……。


 そこまで考えた途端、俺の意識は闇に飲まれた。


『権能』……一般的な術師が一人一つ必ず持っている「能力」とは規模も効果も桁違いの能力。基本的に(・・・・)能力では権能には勝てない。


ちなみに権能は「七つの大罪」や、「八大王」なんていうようにシリーズ化されている。


現在確認されている権能は合わせて35個。


その内、所有者が判明しているのは8個だけ。



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