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65 罪はどちらにあるのか


 図書館のお庭で歩いてたら知らない女の人達に声をかけられてお茶してきたの。・・・って言える雰囲気なんだろうか、コレ。


(私の勘が囁いている。フィルちゃん、もうおうちに帰る時間よ、寄り道はダメって)


 女同士でケリつけた方がいいだろうと誘(おび)き出したのは私だ。だけどね、そんな価値なかった気がする。これが本気で好きだったとか、努力してきた自分の過去に区切りをつけたいとか、そういう思いがあるなら受け止めてあげようって思ったの。

 でも、そんなこと考えてあげる価値なかった。

そこへ無関係だけど私の味方をしてくれる素敵なお兄様のおかげで恩を押し売りできたんだもん。もうそれで終わりだよね? 

 フォリ中尉やネトシル少尉とのお出かけをいちゃいちゃデートと思いこんでたのかもしれないけど祖父母と兄同伴だったし、あれはあくまで令嬢教育の一環。上等学校一年生にして素晴らしく優秀な私をミディタル大公妃が育てているからだと、そこもしっかりアピールしたんだもの。

 なんだなんだと見ていた人も多かったし、これで証人は確保した。その筈だ。

 そしたらもうこの人達が言えることって決まりだよ。

「ごめんなさい。こんな素敵で努力家で愛らしい女の子に妬いてただなんて・・・。私は自分が恥ずかしいわ」とか。

「なんて私達は愚かな思い込みをしていたのかしら。どうか許してちょうだい。そのお礼には何でもさせていただくわ」とか。

「私達の妹や娘のことまで思いやってくれるような美しい心のあなたを誤解していたわ。こんな愚かな私をどうか許してくださいましね」とか。

 ましてや私、付き添いのメイドや上級生達とも合流したんだから、ここはすごすごと引き下がることしかできないパターンだよ?

 だけど・・・。

 私は彼女達の根性を見誤っていたのかもしれない。

 所詮は他人の私が思うよりも、彼女達の怨念はとぐろを巻く蛇のようにシャーッと鎌首をもたげていたのかもしれない。

 誘(おび)き出(だ)す為に離れていてもらったけど、たとえ最初からずっとメイドや上級生のお兄さん達と一緒にいたとしても関係なかったのかもしれない。


「アレナフィル様。少しお時間、よろしいかしら? ちょっとお話したいことがありますの。こんな場所じゃなくて、・・・そうね、個室を取りますわ」


 きちんと仕立てられたアフタヌーンドレスを着た令嬢は、さっきまであの人に怯えていた。だけどもう意識を切り替えたのだろう。


(何という、なかったことスキル・・・! まさか私以外にもそれをマスターした人がいたなんて・・・!)


 私に声をかけながら返事を期待していない。いや、そもそも断られると思っていない。それがよく分かる。

 この図書館に併設されている喫茶室でお喋りしましょう、ならばまだ自然な流れだったかもしれない。だけど個室のある場所って、・・・・・・それどこ? 

 へこたれないド根性。何なの、その密室に連れて行きます宣言。

 あ。これ、近寄ったらダメな人ファイルだ。

 だから私は断った。


「申し訳ないのですが、私はまだ子供です。家族不在で飲食してはならないと祖父や父から言い聞かせられております。先程のお方は我が国にとって大切なお客様。大公妃様への報告もあってその場を壊さぬようにと一緒に頂きましたが、それゆえに早急な報告をせねばなりません。お誘いは有り難く存じますが、まずは父にお話を通してくださいますようお願いいたします」


 相手の顔は確認できた。今はひとまず帰りたい。

 フォリ中尉狙いなのか、ネトシル少尉狙いなのか分からないけど、優先順位ってあるよね。

 ここはきっちりケリつけておきたかったけど、この人達の顔はもうデリアンテッセと上級生達が確認してくれたし、私も帰って答え合わせしてからこの人達の情報収集をしたいかな。

 だって何も知らないのと、相手の情報を集めてからとでは全く勝率が違ってくる。

 まあね。ネトシル少尉は三男で爵位を継げない以上、フォリ中尉狙いだろうなって察してる。だってミディタル大公家、お金持ちだもん。そりゃ邪魔な女の子強制排除してでも狙ってく価値、どどどんってあるよね。


(婿を取る女後継者ならば、夫は種馬兼人材だと割りきって自分で領地経営する根性が必要になる。つまり男の愛よりも優先すべきことがあるわけだ。だから彼女達はネトシル少尉狙いではない)


 そんなことをうだうだ考えはするけど、要は私、もうやる気が失せちゃったの。だって今は優しいおじ様との思い出に浸っていたい。


――― 愛華ちゃん、ご機嫌いかがかな? 

――― 凄い。ファレンディア語。うわぁ、難しいのにファレンディア語、マスターしちゃったの? おじ様、天才。

――― これだけ覚えた。通訳を使わず、君の瞳を見つめて挨拶したかったからね。


 とても優しいおじ様だった。彼がくれた綺麗な装丁の絵本には、美しい衣装を纏った人々が生き生きと描かれ、通訳の人が言葉の意味を教えてくれた。

 そりゃね。私だって彼女達がうちの父や叔父狙いなら、ここは我が家の一員に相応しいかどうかのチェックぐらい徹底的にやったと思うよ?

 だって私のフォロー人生がかかってる。そこは切実なの。私、姑・小姑達の間でサンドバッグ中間管理職なんかしたくないの。

だからウェスギニー家の男狙いの女の人達なら、ここで私、かなり根性入れて相手の資質チェックに努力したとは思う。

 だけどよその息子さん、それも私の慰謝料計画をぶっ潰してくれた人の女絡みなら今は後回しにしたい気分なの。切実なものなんてないしね。


「んまあ、なんて生意気なこと」

「喜んで受けるのが常識だというのに」

「所詮は使用人としての礼儀しか学んでないのかしら」

「教えて差し上げますわ。まともな教育を受けていたらここは頷くところですのよ」


 ピーチクパーチクとめっちゃうるさい。

 ねえ、さっきのこと、もう忘れたの? 私が恩人だって覚えてる? 普通、まずはお礼を言うものじゃない? 

 さっきの恩押し売り作戦の失敗を私は悟った。


――― ただ、君に庇われたことをそこの女性達は理解していないんじゃないかい?


 ねえ、あの言葉は恩の押し売りにとどめの念押しをしてくれたんじゃなくて、ストレートにその意味だったの?

 もしかして気づいてた? ううん、知ってた? この人達のこういう性格。

 そういえばしっかり身分を把握してたよね、あの人。実はあなた、この人達の顔と身分と性格、もうとっくに頭に入れてたってこと?


「さすがに見過ごせないものがあります。この子はまだ上等学校一年生です。それを父親である子爵ばかりか、ましてや今は大公妃殿下が預かっておられるというのに、どちらにも話を通さずに連れて行こうなどと、令嬢に対する扱いではありません」

「その通りです。我々も同じ上等学校生として看過できません」

「まさか社交界の花ともあろう方々がこんな礼を失した行動に出るとは。保護者の了承もなく飲食の場へ他家の令嬢を連れ出していい筈がありますまい」

「ましてやウェスギニー家令嬢、先程のお方に対してあなた方を庇ってさしあげたではないですか」

「あ、先輩方」


 私を押しのけるようにして、上級生達がずずいっと前へ出て散らばった。

 有り難いんだけど若い男の子達が出ていっても多分敵わないと思う。それにこの上級生達、かなり良いおうちのご令息じゃなかったっけ。そうなると余計に嫉妬されそうだよ。


(どうしよう。愛の妖精フィルちゃんの手中に収めた貴公子カード、実はトップ独走中? 十代の若い果実を揃えた私に、この人達の嫉妬が止まらないかもしれない・・・!)


 やはり四人の内、一番年上っぽい中年女性がひらりと扇を開き、一拍置いてぱちんっと閉じた。

 貴婦人って注目させる時には扇が大活躍。私も一本買おうかな。だけど子供だと持っていても恥ずかしいだけなんだよね、似合わないから。


「ご婚約者もおいでですのに、あなた方までその子に夢中ですの? 本当にあちこちで取り入るのがお上手ですこと。そこは亡くなったお母様に似たのでしょうね」


 これは当てこすりだろうか。平民でありながら子爵家の御曹司を捕まえた女の娘だけあって、男を誘惑するのはお手のものねって言いたいんだろうか。

 だから私は上級生達の背中に隠れた状態で呟いてみた。


「お年を召しておいでですのに、あなた方まさかそこまでバカですの? 本当にあれこれ愚かな妄言ばかりですこと。そこは愛の妖精を知らぬ俗物なのでしょうね」


 距離があったのであちらには聞こえなかったようだけど、聞こえてた上級生達ががくっと肩を震わせる。


――― お嬢様、聞こえたらキーッてヒステリー起こしちゃいますよ。

――― 聞こえないように言った。聞こえちゃったら「えー。空耳じゃないですかぁ」て言うっ。


 こほんと咳払いしたり、少し下を向いて肩を震わせたり、ちょっと何かに気づいたフリで視線を流したりして、上級生達がやや不思議な行動に出たけど知らんぷりっこ。

 

「何ですの。何をにやにやと・・・。気持ち悪いこと。由緒あるご家門の令息である誇りを失ってどこまで堕落なさったのかしら。本当にふしだらな女子生徒一人でここまで汚染が広がるなんて。汚濁に染まるのは早いこと」

「言葉を謹んでいただけませんか、伯爵夫人。貴女はどこまでこちらの令嬢を侮辱なさるおつもりですか」

「私共の婚約者とてウェスギニー家令嬢のことは知っております。まだ一年生なのに勝手な憶測で見当違いにも殺されそうになった気の毒な下級生です。男なら後輩一人ぐらい守り通してこいと発破をかけられました」

「そうですよ。ですから真面目にも図書館に通う下級生を見守っていたら、よりによって・・・」

「こんなおちびさんなんて誰がいじめるものかと思っていましたが、何も亡くなったお母君のことまであげつらわれなくてもよろしいでしょうに」


 どうしよう。私を放置して舌戦が始まっちゃったよ。

 男が出てくるとこういう正論になっちゃうんだよね。だけどさぁ、そこの人達、正論はお呼びじゃないと思うんだ。


「どなたもまだ生徒さんですから誤解さえお分かりではないのね。私達はただお茶に誘っただけですのよ」


 私に声をかけてきた令嬢がどこまでも強気だ。そして少し離れた場所にいる侍女なのか何なのか、まさに腹心らしい娘さんが拳(こぶし)を握りしめてうんうんと頷いている。

 いや、止めなよ。大事なお嬢様に常識ぐらいきっちり教えなよ。

 まさかそんな「イエース、うちのお嬢様のお言葉はぁ、すんべーてイエースですわぁ」な感じで今までやってたんじゃないよね? そしたら非常識なお嬢様しかできあがらないんだよ?


「思い込みで正義を振りかざされるお年頃かしら。殿方なら誰にでも媚びを売るお嬢さんに肩入れするなんてそんなに溺れきってますの? まずは帰宅なさってお母君のご意見を伺うとよろしいわ」

「入学した途端、上級生まで手玉に取るお嬢様だなんて、裏ではどれだけの愛人をなさっていることかしら。あなた方のお母上も悲しまれることでしょうね。息子さんがそんなお嬢さんの取り巻きをしているなんて、社交界でも身の置き場がなくなりますもの」

「若さとは眩しいものですわね。もう少し大人になって、女の社交界を学んでから出直してらっしゃいましな」


 ほらね。もう正論なんて無視して相手の否定しかしないんだよ、こういう人達。

 やれやれだね。

 だから私は先輩方の背中をぽんぽんって軽くタッチした。


「先輩方、ここで正論は通じないのです。相手は正しさなど無視、自分の我が儘が通ることしか求めてないのですよ。それが老害。そこまで年を重ねていなくても困った方向に老いることはできるのです」


 そんな私達だが、先程のギャラリーが去っていかない。


――― ねえねえ、あれって、あの女の子・・・。

――― まさかと思っていたが、やっぱりそうだったのか。

――― 母親が貴族じゃないってだけであそこまで侮辱されるとは。

――― 本当にどれだけ睨まれてるんだよ。

――― ちょっと誰か城まで行ってこい。あれはまずいだろ。


 ふぅっと、私は息を吐いた。

 この上級生達も私を庇ってはくれているけど、あちらが強気すぎたのでは彼のようにはいくまい。場数が違う。

 しかも知り合いだった。この上級生達の幼い頃も知っているだろう。それも影響している。

 自分達の正義感だけではなく家族やその婚約者の繋がりをも考えて立ち回らないといけないから落としどころをはかろうとする上級生達と、なりふり構わず自分のやり方をまず通してしまおうという彼女達との違いが如実に表れた。捨て身の人間は強い。


(肉弾戦なら頼りになった筈だったんだけどなぁ。まさか社交界ではあなた達のお母様より私達の方が上の立場なのよと匂わされてはどうしようもないか)


 ハッタリかもしれないけど、男が踏み込めない世界はある。それでも私を庇おうとしてくれた。

 まだまだ青い果実達だが、そのまっすぐな正義感は嫌いじゃない。いや、かなり好みだ。うちの弟にもそういうまっすぐな気性を教えてあげたかった。


(ううん、まだ間に合うかもしれない・・・! だって人はいつだって生まれ変われるって言うし・・・!)


 私はこれでも永遠の二十代にして、かつては男を狂わせる美貌を持って生まれてきた女。嫉妬や羨望など常に浴び続けてきた。

 今は誰もがその可愛さに微笑んで抱きしめちゃう愛の妖精アレナフィルちゃんだけど、その前身は落とせない男などいなかった妖艶の化身だ。・・・落としたくない弟の独占欲に苦労ばかりしてたけど。落としたい男と出会うのも邪魔されてばかりだったけど。

 それでも道を歩けば誰もが振り返る美女だった私。

 たかがこの程度の妬みなど、本気になった私には何ほどのこともない。と、自分に暗示をかけてみる。だって恋愛関係の恨みって面倒なんだよ。いつも話なんて聞かずに逃げてたよ。


(仕方ない。やっぱり最後に頼りになるのは可愛いフィルちゃんなのです)


 誰にも聞こえないような小さな声で、【コードヘルハウンド起動、承認開始】と呟く。

 静音モードだから首元にあるローズピンクの薔薇が反応する僅かな振動も、両手首でピピッと反応してブインブインと起動し始める振動もかなり抑えられていて、こんな屋外では誰も気づかなかった。


【警告モード開始、ワイヤーカッター補助モード開始】


 だって恋愛のゴールなんて叶うか叶わないかの二つしかないんだよ。自分の気持ちを諦めきれなかったらどうしようもないじゃない?

 そして私のような美女に惚れた男に、私が何か言ってあげたところでその片思いしている女性が報われることなんてないんだよ。かえって泥沼に突入するだけ。

 それならもう逃げるしかなかった。してあげられることなんて何もないんだから。

そのくせ、私が何か言えば自分の恋心が叶うと変な思い込みで女は突っ走ってくるんだもん。あなたから言ってくれればあの人は戻ってくるの、お願いだから協力してよと言われても、そんなので戻る男がどこにいるんだって話だよ。かえって「そんなに俺のことを好きなんだな」ってこっちが襲われるっちゅーの。

男は男で、どうしてあいつの気持ちを受け入れてくれないんだ、それだけ綺麗だから人の心なんて踏みにじってもいいのかと文句言ってくる。受け入れろとか言われても、好きじゃない人を好きになる努力をしろってなんで私が一方的に要求されなきゃいけないの。好きでもない男をあの弟から庇う労力なんざどこにあるっちゅーの。

 だから最初から誰にも興味ないって言って、そっちからは遠ざかってただけなのに。

好かれたら相手を好きにならなきゃいけないの? 好みでもなんでもないのに? 一緒にいるだけで鬱陶しいだけなのに?

 ホント迷惑だったよ。

 女も女で、どうしてあなたみたいに人の気持ちを分からない人がいいのよ、私がどれだけあの人を想っていたと思ってるのと、私に文句言ってくる。知らないよ、そんなこと。


(男が追いかけたくなる女になれよってね。「えへ。来ちゃった。・・・好きなの」が通じるタイプはおっとり系の男の子。あのフォリ先生は真逆タイプ。でもって私、完全無関係)


 だって男が惚れた女に「あなたを見てる女の子と付き合いなさいな」と、そんなこと言われて付き合う気になるかっての。

 それこそ女が惚れた男に「あいつと付き合えよ。いい奴だぜ」と、そんなこと言われたらその男と付き合うかって話だよ。

 結局、自分の恋は自分と相手との間で解決するしかない。恋のライバルだって割りこめない。恋とはその人だけのものだから。

 この場合、この令嬢の恋した相手は、「次のミディタル大公妃の地位と財産」かもしれないけどね。


「先輩方、よく分からないですけど、はっきり主張すべきです。自分達はあどけなくも可愛らしい上等学校一年生の女の子を追いかけ回して鼻の下を伸ばしていたわけではない、健気(けなげ)で純真な後輩をただ守ってあげようとしただけだと。・・・先程から大人しく聞いていれば、まるで私が男を漁っているかのような言い草。愚かですね、ええ、愚かです。男へ取り入るも何も、私の機嫌を取ってちやほやする為に男は存在するんです」


 しーんと、その場は静まり返った。

 傲慢? それが何か? だって本当のことじゃない。


「え。えっと、・・・おちびちゃん?」

「さすがはエリー王子がふてぶてしいと言うだけはある」

「アレンが隠してたわけだ。なんつー傲岸不遜ぶり」

「一度は言ってみたいセリフだな」

「お黙りなさい、この青い果実共が。女にもレベルの差があるという現実をよぉく思い知るがいいのです」


 たとえこの中で一番背が低くても、人間として一番成熟している私。そりゃ竜の種の印を持つ彼には及ばないけど、目立ってナンボでいくぐらいできますのよ。


「その香りには覚えがあります。・・・別に気に入りの香水が悪いとは言いません、自分の為のおしゃれならば。いい男を落としたいならその時々で使う香水と衣装パターンと化粧ぐらい変え、常に違う自分を演出するテクニックぐらい駆使するものです。おめかししたら見惚れてくれる? そんな手抜きレベルで落とせるのはパパや熱愛中の恋人だけだって分かってない間抜けだから、惚れられてもいない狙った男に逃げられるんですよ」


 ずばっと私は指摘する。

 惚れた女が相手なら、男は何を着ていようが、いや、何も着ていなくてもウェルカムだ。だが、自分に惚れていない男を落としたいなら、女は己のこだわりやプライドなど捨てていかねば男は落とせない。


(あのフォリ先生の場合、そこらは気にしないと思うけど。フォリ先生を落としたければそっちじゃない。多分、王女様だ)


 虎の種の印が出ていても、どこまでも鎖に縛られたフォリ中尉。ある程度一緒にいれば分かる。彼はきっと国王一家をとても大切に思っている。伯爵家に降嫁したという第一王女に泣きついた方が、おそらく成功確率は高かった。

 女として落第扱いされたことを理解したのか、一気に令嬢の顔が赤く染まる。


「あっ、あなたのっ、あなたのおかげでっ、・・・私がどんなことになったと思ってるのよっ」

「知りませんよ。なんで真面目に学校通って、おうちでは犬と駆けっこして遊んでいる私がよその知らない女の人のことを知るというんですか」

「私はっ、・・・あなたのせいでっ、・・・父親ぐらい年上の男と結婚することになったのよっ!」

「いつ、子供の私が知らない人達の仲人をしたというんです?」


 彼女はぐっと唇を噛んだ。


(まあねえ。私を誘拐する計画に噛んでたからそんな結婚をさせられるとは言えないよね)


 うちの父みたいな人との結婚なら喜んで嫁いじゃうんだろうけど。ま、そういういい男じゃないだろうなってのは分かる。

 思ってた通り、やっぱりそういうお仕置きに出たわけだ。

 本来はこの令嬢を娶ることなどできなかったその男性も、若く美しい高嶺の花が飛び込んできたことになる。その代わりに何を提供することになったにせよ、それはもう彼女を素通りして行われるだろう。


(私の殺人計画実行犯で投獄されるより名誉は傷つかない。不本意な結婚生活に突き落とされるだけ。どっちがいいのか分からないけど、牢獄に入るよりマシじゃないかな)


 この四人の中で独身らしき二人の令嬢。既婚っぽい二人は母か叔母か、同じ一族でもかなり気の強いタイプだろう。だから私を許せなかった。自分の気に入りの令嬢がフォリ中尉の妻になる筈だったから。

 そして一番私を睨みつけていた令嬢にとって、今回の懲罰的な結婚など屈辱でしかなかった。

 それは分かる。ミディタル大公家のお坊ちゃまであるフォリ中尉との結婚を夢見る程度には名家に生まれた令嬢だもんね。

 だけどさ、恋敵になりそうな子供を誘拐させて既成事実を作らせるつもりだったんだよね? そういう人間性ってあのフォリ中尉はお断りだよ。そういう人だ。

 成人もしてない少女を邪魔だと思っただけでエロジジイに売りつけようとしたんだもん。

 そりゃフォリ中尉のことだ。同じ目に遭わせてやればいいって考えるよね。それが男の人にとっての公平な判決って奴。

 男の人はそういう風に考える。そして終わったら忘れてしまう。そんな女がいたことなど。


「あなたさえっ、・・・あなたさえっ、・・・どうしてあなたなのよっ! 外国の王族の顔を知ってるからっ? それなら私だって覚えたわよっ。大公妃様にだって喜んで教えていただいたわっ。何をガルディアス殿下が鬼教師だとかふざけたこと言ってるのよっ。あの方に教えていただいておいてそんな言い草ですませるような子供にどうして・・・! 学校の試験が優秀かどうかなんて、それだけでどうして選ばれるのよっ。そんなの程々でいいに決まってるじゃないっ。あなたの何が良かったって言うのよっ」


 まるで血を吐くような言葉だった。


「それならあなたの何が私より優れているというんです? それに教育だって私を気に入った方々が勝手にしてくださったことじゃないですか。何故、私だったか? それが私の女性としての魅力あってのことだとでも思ってるんですか? 愚かな思考です。だからあなたは選ばれなかった。ここで私に突撃する時点で、彼はあなたを選ばないことを自分で証明しただけじゃないですか」


 せせら笑ってみせれば、まるで私が悪役のよう。

 だけどね、女同士のファイトなんて徹底的にやっておかないとくすぶり続けるだけなんだよ。


「私の何をガルディアス様が評価したかも知らなかったんですか? 情報不足もいいところですよ」


 とても偉そうに私は見下してみせる。

 私の両手首にあるローズピンクの薔薇をあしらった黒革のとても幅広なブレスレット。そこにはローズピンク色したガラス製らしき薔薇と薔薇の間に小さな銀のプレートが交互に黒革の中に嵌めこまれているデザインだ。

 だけど実は取り外せるので、その銀のプレートをスライドさせて取り外す。そして下を向いて肩を震わせている彼女の顎をその銀のプレートでそっと引き上げた。

 だって他人の肌なんて直接触りたくないの。私がすりすりするのは大好きな人だけって決めてるから。

 涙にぬれた瞳の中に私が映っている。


「私はね、エインレイド様の健全な学校生活を巡ってガルディアス様に喧嘩を売ったんです。だから気に入られたんですよ。当然でしょう? ガルディアス様なんて自分に媚びてくる女、それも着飾っておべっか使うような女なんてね、とっくに飽きがきてるんですよ」


 なんかドレスアップした年上のお姉さんを、上等学校の制服着た少女がいじめている図だ。

 悪いことなんてしてないのに、明日から私の悪評が一気に広まりそう。

 これはもう特別手当をもらっていい。フォリ中尉は私にとても素敵な接待をすべきだ。


「だけど私は違った。そう、エインレイド様の為ならガルディアス様にも説教ぶちかまし、喧嘩を売った。だから気に入られたんです。悔しかったら同じことしてみたらどうです? ああ、その際の私の言い分は録画されており、学校長ばかりか国王陛下までご覧になった上でジャッジなされたそうです。あなたも国王陛下や学校長先生が納得するだけの正義を掲げてガルディアス様に勝負を挑み、勝利してみせたら同じように気に入られますよ。やれるものならやってみるんですね」


 うん、無茶だよね。

 好きな男に喧嘩を売って気に入られるルートってとっても難しいゲームだよ。

 さすがに彼女の涙も引っこんでいた。

 

「ついでにそんな礼儀知らずな小娘に礼儀を教えこんでやると言われた結果が、あのガルディアス様の鬼教師です。あなたが羨んでいるそれは私にとってのお仕置きでしかありません。ご褒美ケチらないから有り難いとは思ってますけど」


 みんなは私がフォリ中尉の特別なのだと言う。とても可愛がられているとまで言う。だけど私は知っている。

 フォリ中尉は私が王子エインレイドの害にならないかどうかをチェックし、そして私を取りこんでおくことで父という人脈を強化したのだと。

 フォリ中尉達はアレンルードだけじゃなく寮でも優秀な男子生徒を把握している筈だ。いずれは成人し、貴族の部下として働く者達になる。今も貴族に情報を流している寮生などのチェックをしていることだろう。

 いくら父が自分の任務を漏らさない人であろうと、息子と娘が第二王子の近くにいて、大公家の一人息子がその傍にいるとあれば、それなりに協力体制は敷いている筈だ。


「そもそも私に喧嘩を売りに来る時点でガルディアス様の好みじゃないですよね、あなたって。私に喧嘩売る前に、せめて好みのタイプになるべきでしたよ」


 虎の種の印が出た人って無神経な人が多い。相手の気持ちを気にしないっていうのかさ。

 だから片思いしていればいじらしさに気づいてもらえるだろうってのはあり得ない。

「私がここまで尽くすのはあなたにだけよ」と言っても、「それなら喜んでくれる奴にやってやれよ」って平気で言えちゃう無神経な男達。そういう献身なんて、理解してあげなきゃいけないから面倒だって嫌がる。要は喜ばない。

 ならば他のライバルを押しのけてぐいぐい近づけばいいかといえば、そのやり方が彼の好みにヒットすればいいけど、陰険すぎると逆効果になるだけ。大抵は嫌がられる。

 それならストレートに真っ向勝負だよ、あの手はね。押し倒して自分から迫った方が落とせる可能性はまだやや高い。血の気が有り余ってるから、冒険の旅を提示したらまず落とせたりもする。


(私がフォリ先生落とすならカズおじさん使うかな。やらないけど。だってフォリ先生、蝶を理解するのにちょうどいいとばかりに私に夢中だし。夢中と言っても、大公邸に戻った時だけ可愛がる程度だけど)


 他の三人も黙りこんだのは、今度は自分の身内の令嬢に私と同じ手で落とさせようと考え始めたからだろうか。

 二匹目のどじょうがいるとは限らないけど、ま、頑張って。


「何よ、・・・それ」

「まさか私がエインレイド様の学友に抜擢されたのは成績だけだとでも思ってたんですか? この正義感溢れる心の美しさ、それを皆様はこの国でも稀なる至宝であると評価したのです。少なくとも心清らかな私は子供に喧嘩を売りに行くような真似はしませんけどね」


 ふっ、決まった。


「自分で自分の心の美しさとかいう時点でちょっとアレだと思うんだが」

「おちびちゃんってかなり身勝手な性格だろ。あのガルディアス殿下にどんな説教できたってんだ。これ、裏を取らないととんでもない事実でひっくり返されるぞ」

「ミディタル大公の特別扱いゲット理由が、よりによってあのミディタル大公特攻作戦だった子だ。これは絶対違う事情がある。どう考えても正義はガルディアス殿下だ。言葉通りに信じるな、騙されるぞ」

「あまりにもエリー王子が心清らかすぎてこういう濁ったのも入れておこうという配慮じゃないのか。真実なんてそんなもんだ。水も清すぎては魚が棲めん」


 ひそひそと上級生達が囁き合っているが聞こえないフリだ。

 すると二番目に年かさらしい女性が口を開く。


「王族の虎の威を借りる女狐はさすがですこと。そのご威光でそちらの方々も誑(たら)しこんでるんですもの。ご立派ね」

「生憎と虎の威を借りる必要も、誑しこむ必要もありません。とっくに先輩方は私の手下ですから。私には誰もが尽くさずにはいられない価値があるんです、身分しか取り柄のない人達と違って。・・・それでは失礼します。そろそろおうちに帰らないと門限に遅れてしまうのです」


 ここまで喧嘩を売ったのだから、後は帰ってから考えよう。

 さすがに私のことで上級生の先輩方が困るのは気の毒すぎる。子爵家の娘に手下扱いされたんだから、同情票ぐらいは獲得できる筈だ。それで家庭内の揉め事はどうにかしてほしい。


(今の私は大公殿下預かりの身。大公殿下を思えば下級生にも逆らえなかったと言えばどうにかなるだろう)


 大公妃は色々と気を遣って生きているけど、ミディタル大公は自分が一番な人だ。きっとミディタル大公相手なら誰もが納得する。


「お待たせ、お姉ちゃま。帰りましょ?」

「はい、お嬢様」


 デリアンテッセが頷き、私は踵を返そうとした。


「待ちなさいっ」

「なんて無礼すぎる娘なのよっ」

「その小娘を捕まえなさいっ」


 なんか叫んでる声が聞こえるけど、無視無視無視無視、むーしむし。

 と思ったら、行く先に男の人達が十人程、さっと並んで道を塞いだ。


「奥方様の命令だ。すまないが、まだ留まっていただこう」

「悪いね。乱暴なことはしないから。お嬢様はただ君とお喋りしたいだけなんだよ」

「警戒しないでくれ。お嬢様は君の為を思って誘われたんだ」


 おいおい。私も貴族のお嬢様なんだけど? なんだかもうその奥方様やお嬢様とやらが、私とは身分違いなお方だと考えているかのよう。

 いや、考えてるよね。

 これがバーレンのお母様曰く、母が平民であるがゆえに愛人の子扱いレベルとされるってことか。

 だけど私はれっきとした正妻の娘だし、父の嫡出子は私達双子だけ。そんな認識に振り回されてやらなくてはならない理由がなかった。


「ちょっと待ちたまえっ」

「やりすぎだっ」

「そんな子供を怖がらせて何をする気だっ」

「そちらのご令息方も落ち着いてください。あくまで奥様は礼儀正しくお茶にお招きしたいだけなのです」

「本当にお喋りするだけなんだよ。だから、ね?」


 この国において女性を尊重するというのは、態度でも示すものとされる。だからクラブメンバーは友達だからって女の子である私にベタベタ触らない。大人達は何かと私の頭を撫でてくるけど、それは侮っているのではなく可愛らしいと感じている気持ちの発露である。

 なんにしてもこうやって大の男が集団で取り囲むなんて貴族令嬢にしていい扱いではない。どこの酒場のゴロツキだよ。


「お嬢様、私の後ろに」

「デリアンッ、先輩っ、私から離れてっ」


 私の言葉に、五人が反応してさっと飛び退る。デリアンテッセと上級生達は、まるで逃走するのかと言わんばかりに私から距離を取った。


「そうですよ。素直に来ていただければ悪いようにはしません」

「全くそう警戒しないでもらいたいですね」


 そうして一人になった私を、その男達が囲む。


【タッチレベル警告モード2開始、全方位ロードレンジ3】


 そして私の肩に、その男の一人が触れようとした。

 私、好みでも何でもない男に触られるのなんてお断りですのよ。


【切り裂け】


 私の両手首にあった黒革っぽいブレスレットの銀プレート。そこからとても細いワイヤーカッターが四方八方へと伸びる。


「え?」

「は?」

「わあっ!?」

「きゃあああーっ」

「いやぁあっ」

「・・・ぁあっ!?」

「うわあぁっ」

「いやああっ、変質者ぁっ」

「ドレスがぁっ」

「お嬢様っ、え・・・いやあああっ」


 途端、その場は悲鳴に満ち溢れる場となった。下半身のスカートやズボンだけではなく、上半身の上着やブラウスが切り裂かれたからだ。下着は無事だけど。

 本来はカズオミと話していた通り、これは周囲にいる人達のスカートを切り裂くモードでいくつもりだった。だから本当は警告モード1の筈だった。

 みんなが警告モード1でみんなパンツ丸見えになったらそれで何もできなくなるよね。あまりにも無礼すぎてむかついたから警告モード2にしちゃったけど。


(パピーもジェス兄様も通してない時点でウェスギニー家には手を出せなかったってこと。子供の私を言いくるめるつもり満々だったね)


 子供の私なら何とでもなると思ったんだろう。いくらアレンルードがあんな凶悪放送してても、結局は大人の支援あってのことと見抜いたらそれまでだ。

 実際、私が一人でいた時はあっけなく誘拐されたのだから。

 だからといって男達に囲ませるのはやりすぎだった。しかもその男達、話をどう聞いていたのか、どこまでも無礼だった。

 それならいいよね? うん、いいよ。

 この庭園に咲く花々だってそう言ってた。可愛いアレナフィルちゃんが恐ろしい思いをするのは可哀想だわ、そこはやっちゃっていいわよって。

 そうして私は土壇場で警告モード2にしたのである。

 私は散らばった服やポケットから落ちた財布やお金を手で搔き集めようとしている人達の間をするりとすり抜け、誰もいない方へと移動した。


(やれやれだよ。切り裂かれたスカートに上着を貸す人とのラブが始まる筈だったのにさ。なんか近くで見てた人も巻きこんじゃったかも。いや、近くにいても私を助けなかったんだからいっか。どうせこの人達の使用人だよ。この場合、男のすね毛に恋は芽生えるのかな。そしてスラックスが散らばっちゃった男に誰が上着を貸すのかな。・・・そこで芽生える恋はあるのか、そこが問題だ)


 警告モード2は下半身のスカートやズボンにプラスして、上半身の上着やシャツなどをも切り裂くモードである。つまり誰もが上半身と下半身の衣服を一枚ずつ切り裂かれたことになる。警告だから、着ている外側の一枚だけ。そこが思いやりモード。

 いつだって優しさを忘れない、それが愛の妖精アレナフィルちゃん。

 ゆえに貴族夫人及び貴族令嬢四人組のドレスは、見事な色とりどりの布吹雪となって周囲に散らばった。

 そして彼女達のお供でついてきた男達の上着とスラックスの切れ端もまた風と共に舞い上がる。その際、ポケットに入れてあった財布の中身があちこちに散らばってチャリーン、ジャラジャラッと、どれが誰のコインか分からない有り様だ。


(こういう時にしれっと人のお金を自分の物のように搔き集めてしまうのが人間の性(さが)。なんでみんなお金持ちかな。あ、そっか。奥様やお嬢様の代わりに支払いするからか)


 問題はメイドなのか、お供してきた女の人達だ。そっちはブラウスにエプロンドレス姿だったので、そのブラウスの一部とエプロンドレスが切り裂かれたのである。

 さすがに使用人ともなれば貴族女性のように下着もゴージャスではない。

 恋の始まりは、お供でついてきていたメイド達へと主役を移してしまったのかもしれなかった。


「な、・・・なんで、・・・んで」

「ひっ、・・・見ないでっ」

「あ、・・・ああ、あの・・・これ、・・・よかったら」


 主人である夫人や令嬢に駆け寄る勇気もなく植木の陰に身を隠そうとしている彼女達に、遠くにいた男の人達が勇気を出して上着をおそるおそる差し出している。


(おかしい。対決しにやってくるのはせいぜいご令嬢が一人の筈だった。だからスカートが切れてしまった令嬢に上着を貸す男の一人や二人はいるだろうから、そこで新しい恋が始まる筈だったのに。・・・なんでこんなに十人以上で来るかな。しかもやっぱりみんな、プライド高そうな貴族女性より、純朴そうなメイド狙いじゃん)


 私はとても親切な女の子だ。恋に破れた女性には新しい恋だろうと、ちゃんと考えてあげていた。それなのに思いがけない流れが発生している。


「なっ、何をしたっ」

「その前に服をっ」

「誰か上着を貸してくれっ」

「その服を奥方様にっ」

「なんでもいいから服をっ、そのひざ掛けを貸してくれっ」

「いやぁあっ、近寄らないでっ、変質者ぁっ」

「こっちを見ないでっ、見ないでぇっ」

「ぃやああっ」


 今や十数人の下着が丸見え状態。離れた場所からこっちの様子を見ていた人達なんて、礼儀正しくよそを向いているかのようで実はちらちら見ている。がっつり見てる人もいた。

 上着を貸してあげたメイドに対して鼻の下を伸ばしている男もいる。


(さりげなく先輩方は貸してないところがすごい。やはり婚約者がいると言っていただけあって、面倒なことになりかねない女関係からは逃げるんだな。だけどあんなにドレスの下に着てたなんて、私の子供ドレスとは違う重装備だ)


 私なんてドレスの下はせいぜいキャミソール一枚。アンダースカートも余程でないとつけない。だって走れないし。

 それなのにさすがは貴族夫人に貴族令嬢。アフタヌーンドレスの下にある補正下着にキャミソール、アンダースカートやペチコートもシルクのレースがとってもゴージャス。スカート切られても、まるで白いドレスのように華やかだ。夏のおしゃれ着に見えなくもない。

 それなら別に悲鳴なんてあげなくても十分に問題ないと思うんだよ。もっと薄くてセクシーな服だって沢山あるんだからさ。


「このガキッ、何やりやがったっ」

「お前の仕業だなっ」

「てめえっ」


 少し離れた場所にあったベンチの上に立ち、皆を見下ろしている私を憎々し気に睨みつけてくる男達。賢い私は飛び蹴りするにもいい場所を確保したのである。


「おっと、私に近づくと今度はそのシャツとパンツもチリチリになっちゃいますよ? 全裸で襲い掛かってきた男なんて急所を全力で蹴っちゃいますよ? だって私、みんなに言われてるんです。子供を誘拐するような大人なんて社会的にも機能的にも破滅させて構わないって」

「・・・ぅぐっ」

「油断するなっ、一瞬でこれだけやったんだぞっ」

「今度は服だけじゃなく体を切り裂きましょうか。それこそ一呼吸の間に血だるまですよ?」

「な、・・・なんてガキだ」

「まさか本当にこの子供が・・・」


 パンツって白一色ってのはあまりないらしい。男の人ってパンツに可愛い柄を選んだりするんだね。


「女の人の下着は白ばかりなのに、どうして男の人の下着は濃い色が多いのかな」

「どこ見てんだっ」

「この痴漢小娘がっ」

「じろじろ見るんじゃねえよっ」


 私を囲んで帰らせまいとした男達はパンツ丸見えだけど、上着が切り裂かれただけだから上半身のシャツはまだ無事だったりする。

 それならシャツ脱いで女主人に貸せばいいんだろうけど、そうなるとパンツと靴下と靴だけになっちゃうんだよね。誰がどう見ても危ない変質者ファッション。


「おちびちゃーんっ、何か助けることはあるかぁい?」

「えーっと、とりあえず毛布貸してくれる警備の人捜してあげてくださぁい。上着貸してあげたらぁ、この小父(おじ)さん達とぉ、恋が芽生えるかもぉっ」

「生憎とぉ僕達は婚約者いるのでぇそーゆーのはノーだなぁっ」

「ですよねぇっ」


 さすがは体育会系クラブ長。私に近づくのは危険と判断して遠くからの声掛けオンリー。うむ、見事な危機回避能力と言えるだろう。

 毛布なんて王城図書館にあるのかな。泊まり込みとか仮眠用に会ったのを借りるとしても、せいぜい数枚しかないかもしれない。そうなると一つの毛布を分け合って帰るんだろうか。

 いや、これはもう、・・・収拾つかないかもしれない。


「アレルお嬢様ぁっ」

「まだ私に近づいちゃ駄目ぇっ! お姉ちゃまの服までちりちりになっちゃうっ」

「分かりましたぁっ、近づきませんっ」


 自動迎撃システムなので私に近づいてきたらそれだけで服が下着残して切り裂かれてしまうのだ。

 自衛能力はあるけどコントロールができないと先に言ってあったので、言われた通りにデリアンテッセと先輩達は距離にして建物三階程度の距離はとってくれていた。

 だから彼女達に被害はない。


「この騒ぎは何事だっ! ・・・うわぁっ!? 」

「あなたの服を貸しなさいっ」

「だけど奥方様っ、私達がシャツを脱いだらっ」

「いいからお貸しっ」

「さっさと何か隠すものを持ってきてっ」

「だっ、誰か駐車場まで行ってきてくれっ」

「せめて足を隠させてくれないとっ」

「この恰好では駐車場に辿り着く前に止められるっ」

「もういやよぉおっ」

「えっ!? ・・・誰か毛布をっ、警備隊を呼んで来いっ」

「何事ですかっ? うわっ、何だ何だっ!?」

「誰か上着をっ、上着を貸してくれっ」

「全員、その場から動くなっ! 我々は王城警備の者であるっ」


 私は小さく呟いた。


【全モード解除】


 とりあえずはさ、

「男の人達に囲まれて怖かったから、男の人達の服だけ切って逃げようと思ったんです。だけどコントロールがまだ下手なのでみんなの服を切っちゃいました」

って言い訳でいいだろうか。

 やはりあの時、強引にでも帰るべきだったのだ。

 この続きはまた数十年後にして、私はおうちに帰りたい。





― ☆ ― ★ ― ◇ ― ★ ― ☆ ―





 王城図書館は王城を構成する建物の一つだ。ゆえにお城本体に限りなく近い場所にある。

 どれだけ近いかというと、図書館からミディタル大公邸へと移動車で帰るよりもお城そのものに徒歩で連れていかれる方が早いぐらいに近い。

 そして臨時特集速報が流れているのを、私は髪を染めていないレイディ(推定王妃様)と一緒に見ていた。




『こちらは王城図書館前からお送りしております。本日、王城図書館庭園にて二十名以上のドレスやブラウス、スカートやズボンが切り裂かれるという事件が起きました。現在、現場は封鎖されております。

 尚、多数に渡る人々の上着やドレスやスカートやズボンが切り裂かれた理由ですが、14才少女を本人の意思を無視して連れて行こうとしていた為、その少女が連れていかれないように自衛として行ったとのことです。切り裂かれた被害者は貴族女性と付き従っていた男女達で、自分達はただお茶に誘おうとしていただけだと主張しています』


 真面目そうな顔で、中年男性リポーターが重々しくスクリーンの中で説明している。


『自衛の為に服を切り裂いた14才の少女は、今まで会ったこともない女の人達が名乗りもせずに自分を知らない場所へ連れて行こうとしたので断った。すると十人以上の男達に囲まれ、強引に連れていかれようとしたので誘拐だと判断し、まずは相手の体を傷つけないように服だけ切り裂いたと話しています。そして、相手が貴族であろうが、親の了承も得ておらず、更に本人の拒絶をも無視して、他人が勝手に子供を連れ去ろうとするのは誘拐というれっきとした犯罪であると主張しているとのことです』


 そこで、彼は隣にいた中年の男女に声をかけた。


『それでは現場を見ていたというこちらのお二人に事情をお尋ねしたいと思います。お二人は夫婦で、ちょうど調べものをしに王城図書館を訪れていたとか。その現場を見ていたそうですが、どうでしたか?』


 まさに普段着といった服装の男女は少し緊張した面持ちだった。


『えっと、はい、あの・・・驚きました。あの女の子、以前、誘拐されて建物と一緒に焼き殺されそうになった令嬢だよねって妻とも話していたんです。

うちの子ぐらいの年だけに放っておけず、だけど割りこんで助けるのも躊躇(ためら)われ、通報しても取り合ってくれるのかと・・・。女の子を囲んでいたのはどうやら貴族らしくて、とても身分の高そうな女の人達が相手では私達ではどうすればいいのかも分からず・・・』

『夫は通報しようと言ったんですけど、あくまでお茶のお誘いらしいから通報するとこちらが怒られるかもしれないって私が止めたんです。

そうしたら女の子を背の高い上級生の男の子達が行かせまいと庇って、それはそれでカッコよかったんですけど・・・。そうよね、あなた?』

『ええ、そうです。四人の大柄な男の子達があのお嬢さんを庇ったんですが、それはそのお嬢さんに誘惑されてるだけだって、貴婦人達がその男の子達を叱り、そして十人近い男達に囲ませて連れて行こうとしたんです』

『つまり14才の女の子一人をお茶に誘う為、十人余りの男を使って連れて行こうとしていたわけですね?』


 彼が確認すると、その男女は頷いた。


『上級生の男の子達も貴族のようでしたが、まずは母親に自分の行動の是非を尋ねてきなさいと、つまり母親が困ることになるぞと匂わされて引き下がった感じでした。

そして女の子を庇うのも色仕掛けで誘惑されたからだろうと決めつけられ、その男の子達、反論を封じ込まれたんです。

だからもう誰か警備の人を呼んできた方がいいかと思って私が行こうとしたら、そしたら従者らしい男達が女の子一人を取り囲んで・・・』

『夫以外にも何人か見ていた人達が、あれは助けた方がいいんじゃないか、みんなで注意すれば聞いてくれるんじゃないかって言い出したんです。一人や二人だと無視されても、大勢で言えば聞いてくれるかもしれないって、勇気を出そうとしたんです。そしたら一気に服の切れ端がその場に散らばりました』

『多分、あの女の子がしたんでしょうが、おかげで取り囲んでた男達はパンツ丸出しになるし、なんだか高そうなドレスは切り裂かれて下着が丸見えになるしで、どっちを助けたらいいのか分からなくなりまして・・・。

まあ、誘拐されなくてほっとしました。いや、ドレスがチリチリに千切れて風に飛んでった貴婦人方にとっては笑い事じゃないんでしょうが』

『こんなことなら最初に夫が言った通り通報しておけばよかったんです。だけど誘拐されて焼き殺されそうになった事件からまだ大して日数も経ってないじゃないですか。

お茶に誘って慰めるのかなと思って、それなら変に割りこむ方が失礼かと思った私が悪かったんです。

あの女の子はメイドや上級生の男の子達が自分を庇って貴婦人方に睨まれたら可哀想だと思ったんでしょう。私を庇わないでと遠ざけたぐらいに勇気ある子だったのに』


 うんうんと聞いていた中年男性リポーターは、そこで視線をまっすぐに戻した。


『その14才の少女を庇った上級生達は、婚約者にも事情を説明した上で下級生が調べ物をするのを見守っており、貴婦人達が指摘したような14才の下級生に誘惑されたなどという事実はないと主張しています。自分達は氏名カードも少女の保護者側に提出しており、もしもあの誘拐及び爆殺未遂事件の残党がいるのならばてっきり屈強な男達が出てくるだろうと案じていたが、まさか貴婦人方がこんなことをするとは思わなかったと、驚きを隠せない様子とのことです』


 そして彼は少し離れた場所にいた制服姿の年老いた男性を手招く。

 かっちりとした紺色の制服に金色のボタンがとてもストイックだ。制帽もまた紺色に金色の飾りがついている。

 普段は制帽なんてかぶってないけど、やはり全国放送となるとカッコよくキメるのかもしれないなって思った。ちょっとお年を召した感じのいかめしい顔つきのお爺さんだ。


『こちらは王城警備隊の責任者をしておられる方です。それではお話をお伺いしたいと思います。

14才の少女が、自分を連れ去ろうとした20名近くの男女のドレスやシャツ、スカートやズボンを切り裂いたという事件、これをどうお思いになりましたか?』

『なんとも前代未聞の事件ではありましたが、先に皆さんへお伝えしておきたいのは、どんな時もまずは警備の人間に通報していただきたいということです。

親の了承を得ることなく未成年者をどこかへ連れ去るのは誘拐という犯罪です。

貴族のご婦人方にとっては茶会への招待も名誉と思うお気持ちがありましょうが、少なくともあの爆殺未遂事件からまだ一ヶ月も経っていない少女へやっていいことではないと理解していただきたいものです』


 さっきまでいた夫婦はいつの間にか退場だ。

 真面目そうなやり取りが始まっている。


『その招待ですが、服を切り裂いてまで拒絶することはどう解釈されるのでしょうか?』

『どちらが罪になるかということですな。これが1対1であろうと、相手が成人男性ならばれっきとした少女誘拐になります。同性の場合は保護が目的ならばその限りではありませんが、保護といえるかどうかは、本人が嫌がっているのに連れて行こうとしたことを考えれば、その子供の意思年齢レベルが焦点となるでしょう』

『意思年齢ですか』

『これが幼児であれば嫌がっていようが何だろうが、保護する大人の立場と意見、そして血縁関係等が尊重されます。問題はこの14才の少女、・・・まあ、素性を隠すのも無駄なことですな。ウェスギニー子爵家のアレナフィル嬢は決して幼児ではなく、既に国立サルートス上等学校全学年の教科を修めた才媛だということです。

今回も、お父上の了承なしにお誘いを受けることはできないと断っていたとの確認が取れております。

それを強引に十人余りの男達に囲ませて実力行使で連れて行こうとした。これはもうれっきとした誘拐と言えるでしょう。同行していた上級生達をも遠ざけ、どこへ連れて行き、何をするつもりだったのかということです』


 女性達だけならば黒とも白ともつかない灰色案件だったが、帰宅させない為に男達に囲ませたのが問題だった。そういうことである。


『貴婦人のお茶に招かれるというと優雅なイメージがありますが、嫌がる女の子を男達に囲ませて連れていくとなれば穏やかではありませんね。本当にお茶会だったのでしょうか』

『その通りです。

アレナフィル嬢に何故服を切り裂いたのか理由を尋ねたところ、相手は貴族だと自称していたが貴婦人の名乗りとはもっと優雅なものだと習ったので実は信じていなかった、どうせドレスを切ったところで肌は見えない、そして貴族になりすました誘拐組織の一員ならば服が千切れているとあれば追跡も容易(たやす)いだろう、男達だってパンツ一枚残っていたら水着と変わらないし警告には十分だ、それでもまだ自分を連れていくつもりなら本気を出せばいいと考えたそうです』

『なるほど。つまりアレナフィルちゃんは劇場タイプの誘拐犯罪だと判断して、警告を兼ねて追跡が容易な目印をつけたということですね』


 王城警備隊の責任者というお爺さんは重々しく頷いた。


『そういうことです。

先だって誘拐された時は高級移動車に幾つもの傷とチョコレートの痕跡を残していたようですが、今回は人間が相手だったので服に痕跡を残したということでしょう』

『なかなかたくましいお嬢さんですが、・・・えーっと、この放送を見ている良い子のみんなは真似しないようにね。誘拐されそうになった時はまず大声をあげて、周囲に助けを求めようね』


 その注意が、さりげなく私を非常識な人間扱いしてくる。


『アレナフィル嬢は子爵であるお父上に話を通す気もなく、アレナフィル嬢の意思をも無視したことから、これは犯罪集団であると判断し、まずは捕縛の目印をつけたそうです。

アレナフィル嬢は貴族社会に不慣れな為、顔を見ても誰が王族か貴族か平民かなどの区別はつかないそうでしてね。ですが、貴族ならば子供を誘拐していいわけではありません。

たとえきちんと名乗っていたとしても、アレナフィル嬢は未成年者です。まずは保護者に話を通すべきですし、断られたからと強引に拉致するのは以(もっ)ての外(ほか)です』


 貴族はドレスの一番外側が切られただけだったから大してダメージないと思うけど、こういう時にメイド達の被害は無視されるんだなって私は知った。

 多分、恥ずかしさレベルなら貴婦人達よりメイド達の方がきつかったと思う。

 これに懲りたら、大事なお嬢様の我が儘をきちんと止められるメイドになってほしい。どこかで止めることができるポイントはあった筈だよ。

 お嬢様やそれに味方する奥様の過激な主張を、身近にいる侍女達が止めずにいたら止まるきっかけなんてなくなってしまう。そうしたらヒートアップしていくだけ。

 それって結局は被害が大きくなるだけなんだよ。私だから服一枚だけですませてあげたけど、カズオミなら遠慮なく全ての服を切り裂いた。


『これはお願いですが、上級生の男の子達は婚約者だけではなく、是非おうちの方全員にも了承を得た上でアレナフィル嬢を守り通していただきたい。お母上を思って引かざるを得なかった事情は理解しますが、これで本当に誘拐されていたならどうなったことか。アレナフィル嬢は己の誘拐及び爆殺未遂事件に対して殺人許可も出ている一人の捜査官です』


 王城警備隊のお爺さんの言葉には切実な響きがあった。

 お願いと言いつつ、要請である。


『そしてアレナフィル嬢を強引に招待しようとする方々は、まずは一族のご当主にお伺いを立て、家門全体における賢明な判断、そして覚悟をなさっていただきたい。

今回は運よく服一枚でしたが、少し手元がずれたら髪や下着も全てちりぢりになっていました。

14才の少女が強引に連れていかれた先がどこにせよ、アレナフィル嬢がそこを悪質な誘拐組織の拠点だと判断したら屋敷内でどれだけの死者が出たことか』


 ひどい。私はそんな凶悪な人間ではない。

 異議を申し立てたかったがどこに申し立てればいいのかが分からなかった。


『アレナフィル嬢はミディタル大公殿下のご指導を受け、今回も二十名以上の人間を相手に一瞬で全員の服を切り裂いてみせました。

尚、鍛錬場で服を着た人形を相手に今回の件を再現してもらったところ所詮は子供、夕食前でおなかが空いてるからという理由で手元が狂い、幾つかの女性人形は髪や胸や腕を切り落とされ、男性人形は去勢されました』


 そこで「参考映像」というメッセージと共に、下着や服が全て切り裂かれ、髪もざんばらになった木製人形達の姿が映し出される。その内、幾つかの木製人形の腕や足は鋭利な刃物で切られたように、とても見事な断面でもってスライスされていた。


『今回、服一枚だったのはとても運が良かったのです。本来は貴婦人とメイドと従者二十名近くの全裸が公開されていました。運が悪ければ・・・ま、言いますまい。ですが切り落とされなくてよかったですよ』


 いきなり女装姿のアレンルードがタマ落とし宣言した時の映像が出る。中指立てて、ナイフで切る仕草のアレだ。

 なぜだろう。さっきまでウェスギニー子爵家のアレナフィルちゃんは可哀想に男達に囲まれて誘拐されそうになった被害者だった。

 それなのになぜか触らぬ神に祟りなし警告へと変化している。

 そして中年男性リポーターが締めくくった。


『誘拐は犯罪です。そして攻撃能力を有し、その許可を得ているお嬢さんを狙った場合、その代償はとても高くつくことをお伝えして、この臨時特集を終わらせていただきます』



 私は鍛錬場で人形を相手にそんなテストをされた覚えがない。

 これを人は捏造と呼ぶ。

 

「何故、したこともない鍛錬場での話が出ているのでしょう」

「しょうがないだろう。そういうことにしておかないと、第二弾、第三弾が出かねん。さすがにこの放送を見れば、直接お前さんに声かけてくる貴族はいなくなるだろうし、ならば使用人を使うとなればその使用人も自分可愛さで逃げ出すだろうからな」

「なるほど、そういう理由ですか。だけど私の名誉はどうなるんでしょう? まるで私がとても困った子扱いです。ひどいです」

「言っておくが、普通に貴族女性の服を一方的に切り裂いたなら前子爵と現子爵が連れ立ってお詫びに伺う事態だぞ? なんで誘拐というのを前面に出し、しかも先日は誘拐されて爆殺されそうになったということを繰り返させて世論を煽り、お前が被害者であると強く印象付けたと思ってるんだ?」

「さすがガルディアス様。よっ、サルートス王国一のできる男っ」


 太鼓持ちしてみたが、フォリ中尉は無視した。


「相変わらずアレルちゃんの行動はキレがいいわね」

「えへっ。照れます」

「言っておくが褒められてないからな」

「ガルディアス様、もう少し言葉は素直に受け取った方がいいんじゃないかなって思います」



 さて、どうして私が王城で貴婦人(推定王妃様)やフォリ中尉とそんな放送を見ていたかというと、それは強引に連れてこられたからだ。

 誘拐を未然に防いだ私は、王城警備隊にどこかの部屋へと連れていかれたが、そこで知らせを受けて駆けつけてきたフォリ中尉に確保された。


(最近、学校で見ないなと思ってたらお城にいたんだね。だけど基地所属じゃなかったっけ)


 ちゃんと取り調べにも丁寧に答えていたのに、私のブレスレットから伸びるワイヤーは、その時になったらプレートのゲートが閉じていて引き出せない。

 出してもいいけど、そうなると危ないので広い場所を貸してほしい、ついでに誰の服を切り裂けばいいのかと尋ねたら、王城の警備兵からはとても嫌そうな顔をされてしまった。

 そしてここでは使ってはいけませんと怒られた。

ブレスレットは取り上げられそうになったけど、それは不可能だった。だってカズオミ製だから他人が外せないようになってる。

 無理に外そうとしたらあなたが血まみれになりますと警告したら、もう狂暴な肉食獣を見るような目で見られた。

 そしてフォリ中尉がやってきて、私とデリアンテッセと上級生の先輩方を引き取ったのである。代わりに自分が取り調べると言って。

 そうしてデリアンテッセと上級生達から話を聞いたフォリ中尉は、まず上級生達に説明できる近衛士官をつけて家に送り届けるように手配し、デリアンテッセにはミディタル大公邸への連絡をしに行かせた。

 それからあの特集速報を流させたというわけである。

 もうすぐ夕食の時間だからデリアンテッセと一緒に帰ると私は言ったが、大公家に今回のことで色々と訪問者が多いだろうから城にいろと言われてしまった。お城で夕食は出してくれるそうだ。それなら残るしかあるまい。

 そうして今に至るのだが、何故だろう。

 不憫にも誘拐されそうになった愛くるしいアレナフィルちゃんは悲劇の主人公な筈だった。だけどあの中年リポーターと王城警備隊の責任者により、私に手を出す危険性だけが強調されてしまった。


(悲しい。私は悪いことなんてしてないのに。ちゃんといい子で取り調べにも応じたのに)


 これが和臣ならば自分のしたことと気づかせずに全員の服を切り裂き、驚いたフリだけして悠々と帰宅したことだろう。

 私の優しさと真面目さが、私を追い詰めてしまうのかもしれなかった。




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