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45 ヴェラストール城は破局の予感


 ヴェラストール城は幽霊城という別名を持つ、観光地の一つだ。

 茶色い石造りの城を中心にして、東・西・北にそれぞれ塔があり、山の上に建っていることもあって、かなり立派なお城と言っていい。

 何より凄いのは、その城を訪れた恋人同士の破局率だ。

 そんなのはただの迷信だと、誰もが言う。そんなので本当に別れるなんてありえない、それはどうせ放っておいても別れる二人だったのさ。

 せせら笑って、そんな迷信に負けずに愛を貫いてみせると言って訪れた恋人達。

 普通は「私達、伝説に打ち勝って愛を貫きました! 報告」が出回りそうなものだが、結局その城を恋人同士で訪れた者は別れるという伝説を更新中だ。

 何なの、それ。ヴェラストール城を首都に置いたら、その国、誰もが結婚できずに国が滅びたりするんじゃないの? お城、最強伝説。実は凄い魔女の魔法が活動中なんだよ、ヴェラストール城。

 だけど恋愛要素なんて皆無なクラブ旅行なら破局伝説恐るるに足らず。

 私達はらったらったと、ヴェラストール城の出口から入りこんだのである。

 そして今、私達はヴェラストール城外壁の凹部分、つまりちょっと道具とかを一時的に置いておく場所に身を隠しながら、その恐ろしさに震えていた。


(怖すぎる、ヴェラストール城。なんという恐怖のお城・・・!)


 今日は快晴かつ気温もやや高めで過ごしやすいせいか、あちこちの窓が開けられていた。様々な破局情報を回避するかのようにマップを見ながら歩き回っていた私達は、だからこそ室内で交わされている会話を聞いてしまった。

 怖い。幽霊よりも生きてる人間が一番怖い。

 少なくとも外壁側にあるこういうわざと凹ませてあるスペースは、見下ろす位置の小窓もなく、隠れるのにぴったりだ。お客様に見られたくない物を置いておくスペースだけど。

 私は日当たりなんて全くないからこそ草も生えない地面にしゃがみこんだ。なんか湿気ている土のにおいがする。


「何なの、あれ。昨夜から寮にいなかったことがばれてるってどーゆーこと? だって男子寮、貴族はルードしかいない筈なのに。うちのルード、サルートス幼年学校行ってないから貴族のお友達なんていない筈なのに」

「男子寮で働いている人、つまり調理係や警備員、もしくは寮監から情報が流れたんじゃないか? それとかレイドの部屋や窓の明かりをチェックできる生徒が買収されているかだ」


 ベリザディーノが思慮深げに呟いたけど、外側に背を向けて立っているのは誰かが通り過ぎようとしたなら自分の体で私達を目隠しするつもりだからだ。お金持ちな伯爵家の息子なのに、結構面倒見がいい。

 エインレイドが淡紫の花色(ライラック)の髪を掻き上げながら苦笑する。


「まいったな。こんなことならあの眼鏡持ってくるんだった。そして違う色の髪ペイント剤も」

「レイドが変装したところで僕達もいるならどうしようもないぞ。この五人、顔はチェックされてる筈だ」

「僕もダヴィに賛成。レイドだけが色を変えても無駄だと思う」


 私達は外壁の凹んだ部分、つまりちょっと(ほうき)やゴミ箱などを人目につかないように置いてく場所に身を隠しているからまだ見つからないだろうけど、あの人達がうろちょろし始めたら見つかるのも時間の問題だ。

 なんで私達、悪いことなんてしてないのにゴミ箱と一緒に日陰の身なんだろう。


「 ♪ 私にとっては夢の中の愛 あなたにとってはゴミ箱の中

  約束の場所にあなたは来ない 私の愛を捨て去るあなた ♪ 」

「こら、ビーバー。ヘタクソな歌を歌わない。見つかったら責任取らせるぞ」

「それは嫌。だけどなんかこの場所にピッタリかなって・・・」

「ゴミ箱しか合ってないだろ」


 観光地でもあるヴェラストール城だが、幾つかの広間を会議や集会用として有料貸し出ししていたりもする。特に多く使われる利用目的は離婚披露パーティ。パンフレットに載っていたけど、なかなかいいお値段。

 それはともかくとして、どうやらヴェラストール城で正面入り口の門が見えるというなかなか景色のいいお値段の部屋を、その特別料金を払って貸し切りにした方々がいるようだ。そして使用人達を入り口ゲートに待機させているらしく、その会話がお外まで聞こえてきているのである。

 昔のお城というのは悲しいことに後付けで室内空調設備を取り付けることができず、昔ながらの暖炉や送風機などで気温に対応するしかできなかった。

 ゆえに窓が開けられていたのである。そして窓が開けられていたら、けっこう外にまで室内の会話が響くものなのだ。

 何人いるんだろう。包囲網が凄すぎる。

 

『まだ出てこないの? 見逃してはいないわよねっ?』

『はい。王宮の別邸、アールバリ家別邸、グランルンド家別邸はそれぞれ表門も裏門も見張りを立てております。あと少ししましたら、こちらにいらしているご令息へのご招待ということで適当な家からお伺いをたてに訪問させますから、滞在予定はすぐに把握できるでしょう。ですがアールバリ家、グランルンド家は管理人の買い物量も普段と同じ様子だそうです。やはり王宮の別邸でしょう』

『あのウェスギニー家かもしれないじゃないっ』

『ウェスギニー家はあまり社交に力を入れておらず、こちらの別邸も普段はアパートメントとして貸し出していると聞いております。世話する使用人をそれぞれの方々に付けられないような、そんなせせこましい場所へ皆様を案内する程、非常識ではないでしょう』


 ちょっと悲しくなった。

 あのアパートメント、たしかに下のフロアは父の部下達を泊めたりするのに使っているから貸していると思われるのは仕方がないけど。

 そりゃ最上階は家族のお部屋しかないし、使用人達用の別棟もないし、ちょっと貧相に思えるかもしれないけど。

 たしかに王侯貴族はそれぞれ専属の侍女やメイドを何人も付けるものだと聞いたことはあるけど。

 だけど私にとっては、あのアパートメント、とってもとっても素敵なお部屋なのに・・・!

 お世話してくれるメイドだって下の部屋に泊まることで対応してるし、あの間取りならメイドに父や叔父が襲われないし、うちは家族で仲良く過ごしたいからあれでいいのに・・・!


「ひどい。どうせうち、貧乏だもん。そんな所に本当はみんな連れて行こうと思ってたもん。非常識かもしれないけど子供なんてそんなのでいいんだもん。使用人がつかないと生活できない方が恥ずかしいんだもん」

「あー、ほらほら。いじけるなよ、アレル。まさかうちまでチェックされてたとは。ちょっとダミーでうちに出入りがあるように見せかけてもらうように連絡するか。な、ダヴィ」

「そうだな。その方がいい。だが、まずはここを逃げださないと意味ないだろう。監視されているのは入り口ゲートだけか?」


 建物の陰でゴミ箱や箒や塵取りと同居してるのって、なんか不良みたいだ。

 開けた窓から風に乗って室内の会話が聞こえてくるというのもあるけど、どうやら入り口にエインレイドが現れたら、入り口ゲートにいる人の報告だけじゃなく、窓からでも確認できるようにという念の入れように、私達はちょっとびくついていた。


『エリーの外泊なんて姉君の所だろう。エリーは姉王女が大好きなんだ。それなら少し寝坊しただろうし、本来は昼過ぎの列車でこっちに来る予定だったし、やはりそちらの方が良かったんじゃないか? 僕達は先にこちらを押さえに来たが、列車内で出会う予定のグループが当たってたら無念すぎる』

『いいえ、坊ちゃま。昨日、アールバリ家、グランルンド家、ハネル家の令息も帰宅しなかった可能性が高いとのことです。またウェスギニー家の令嬢も朝はちゃんと学校へ移動車で向かったというのに、帰宅はしなかったとか。一軒ぐらいならば見落としもあるでしょうが、既にどなたも昨夜は帰宅していないのです』


 私達はその会話にぶるっと身を震わせた。

 エインレイドの姉弟関係まで把握されてるよ。私達の行動まで張られてるよ。怖すぎる。自宅の出入口まで見張っていたのか。


『つまり問題は昨夜ということね。どこに泊まったのかしら。そしてどの列車もしくは移動車で何時ぐらいにこちらに到着するかということよ。まさかあの子、あの顔で皆様と一緒に宿泊してたんじゃないでしょうねっ』

『ウェスギニー家の娘は普段まともな使用人もいない家で暮らしているという話じゃないか。まさかとっくに四人まとめての愛人をしてるんじゃないだろうな。貧乏生活に耐えかねてたぶらかしたんだろう。そっちの家の報告がないのは何故なんだ』

『そうよ。どちらかというとその家を見張るべきだったんじゃないの? エリー様は純粋なのよ。騙されてるんだわ』

『僕もそう思うな。ウェスギニーは狡猾だ。男子寮では息子だけを付け、普段の授業は娘だけを付けた。他の三人はウェスギニー家の娘に恥ずかしげもなく取り入ったんだろう。それこそウェスギニー家の娘専用の隠れ家で何をやっていたやらだ』

『私もそう思いますわ。どうしてそちらの家を見張っていなかったのっ』


 なんだか少年少女の主張が凄いんだけど、私ってばひどい言われようじゃないかな。

 悲しい。私が手を出すとしたら経済力があって愛があって私を大事にしてくれる、私好みな顔と肉体の人なのに。

 ダヴィデアーレがポケットからチョコレート入りソフトキャンディを出してきて、私の手に握らせる。いきなりベリザディーノが私の肩を抱いてきたけど、一人じゃないよって言ってくれたんだなって分かった。

 この二人、貴族令息ならではの礼儀正しさで、普段はまず私の手を握ったりとかしないのにね。

 私もえへへと笑って、大丈夫だよって気持ちが伝わるように、背伸びして二人の頭を撫でてあげた。


『さすがにそこまでは・・・。ウェスギニー家の令嬢が普段過ごしておられる別邸は小さなものながら高い塀に覆われており、あの門を見張ることができるような場所に借りられる部屋がないのでございます。本邸しか見張ることはできません』

『その通りでございます。ウェスギニー家別宅の向かいにある土地や建物はガイアロス侯爵家所有。売りに出されない限り、買い取りなど申し込めないのでございます』

『全く・・・。なんでガイアロス家、まだ幼年低学生なのよっ。そうでなければ協力させられたのにっ』

『ガイアロス家の令嬢ならまだ小さくてエリーとは話も合わなかったのにな。それでもウェスギニー家を牽制するのに使えたってのに』


 そうなんだ。だけど牽制も何もガイアロス家の娘なんて会ったことないよ。名前さえ知らないよ。


『分からないわよ。ガルディアス様をもたぶらかして貢がせたって話じゃない。たかが親戚筋の侯爵家に言われたところで自重するかしらね』

『まさか昨夜、ガルディアス様のお邸に泊まったわけじゃないわよね?』

『それはないだろう。王族に手を出した結果、睨まれて外国人と結婚させて追い出すしかなくなった不届きな娘だ。ガルディアス様の邸に押しかけたところで追い出される』

『はっ。エリーからガルディアス様に乗り換えてたってのに、あまりの放蕩ぶりに匙を投げられ、お仕置きに外国へ売られ、やっぱりエリーに取りすがってるってことだろう? どこまでもウェスギニーの娘じゃないか。はっ、これだからエリーも見る目がない。僕がいなきゃ駄目なのさ』

『えー、こほん、ごほん。皆様、それ以上は・・・。現実的にウェスギニー家令嬢が普段過ごしている別邸はあまりに使用人が少なく、そちらに殿下や令息方を招待などできはしません。恐らく昨夜はグランルンド家の持つホテルで泊まり、早朝から移動車、もしくは列車といったところでしょう』

『列車は土壇場で面倒になったのではないでしょうか。移動車の方が護衛の手配もやりやすいものです』

『本当にここなんだろうな』

『恐らく。ヴェラストールに到着して、駅からすぐにやってこられる観光名所はここです。移動車であろうと、まずはここを訪れます。何より時間を無駄にしたくないと、ヴェラストール動物園も夜に希望なさっておられていたとか。夜の動物園は却下して夕方に持ってくるよう勧めたという話です。時間的な余裕を見ても、ここしかありません』


 もうドキドキが止まらない。どこまで情報が流れているの? どれだけのご令息ご令嬢が関与しているの? どれほどの包囲網が敷かれてるの?

 エリー王子と呼ばずにエリーと呼ぶなら、きっと幼年学校時代は仲が良かったんだろう。エインレイドの表情に翳りが浮かぶ。

 だけどね、今はショックを受けていても、いずれ乗り越えられる。成長する内に相手だって反省するかもしれないし、違う形でまた仲良くなれるかもしれない。

 今は「自分がいなきゃ駄目なのさ」なんて言う友達、遠慮なく見返してやればいいんだよ。でもね、そんなことより気になる発言があった。


「そっか、私お仕置きで婚約させられたんだ。だけど私、勝手に婚約を決めちゃったからって祖父からお仕置きに本宅で軟禁生活させられた覚えがあるよ。なんか微妙に間違ってるよ」


 知らなかった。私が優斗と婚約したのは、フォリ中尉やエインレイドに手を出したお仕置きだったらしい。おかしいな。それなら私、もう勝手に婚約したからって脱税だの何だの怒られる理由なくない?


「あのな、アレル。その前に自分の悪い噂にショックを受けるべきだろう」

「だけどダヴィ。この旅行が終わってから言うつもりだったんだけど、私ね、ガルディアス様からレイドやみんなとで豪華列車旅行提案されてるんだよ。ガルディアス様、レイドをあちこち連れて行ってあげたいだけのことに私を利用してるの。思うんだけど、私、ガルディアス様とレイドとの間を繋ぐ愛の使者じゃないかな。ここはみんなを誑かした悪女じゃなくて、みんなを魅了した愛の妖精じゃないかな」

「いや、俯いて考えてたのがそれなのか?」

「諦めろ、ダヴィ。所詮はビーバーに繊細な僕達の心なんて理解できる筈がないんだ」


 マルコリリオなんて慰めようとエインレイドの肩に手を置いて、それなのに自分の方が泣きそうになっていた。

だからなのか、エインレイドがマルコリリオを抱きしめている。


「た、頼りなくなんて、ないよ。レイド、優しいから言わないだけで、しっかりしてるよ」

「うん。ありがと、リオ」


 青春だなぁ。こういうのって少年時代だからこそ重なり合う心と心が、かけがえのない友情を育んじゃうんだよね。

 私はそこで気づいた。


「あれ? そこまで見張ってたならどうしてヴェラストール駅到着気づかれなかったのかな」

「言っとくけどアレル、普通は夜に出発ってやらないよ? そういうのはまともな人がやらないって常識だよ? 僕でさえそうなんだから、もう貴族のおうちにとっては夜行列車なんて思いつきもしなかったんじゃないの?」

「そっか。つまり私の判断は賢い手段(クレバー)にして私こそ幸運の申し子(フォーチュン)だったってことだよ。愛は幸運まで魅了しちゃうんだね。つまり私にはツキがある」

「え。アレル、そっちに行っちゃうの? しかもすごく図々しくない?」


 気を取り直したマルコリリオが何か言ってるけど、気にしない。

 

「思えば私が親切にしてあげたケーブルウェイのお婆さんにもらったこの呪われマップ。おかげで私達は出口から入ってきて、だから見つかることもなく、この計画にも気づけちゃったわけだ。ここはもう戦線離脱だよ。逃げようよ。逃げるしかないよ」

「そうだね。アレルがいたらもう前向きになるしかないね。みんな、悪いけどここから脱出しよう。僕、絶対に見つかりたくないから」


 五人グループだと見つかりやすいかもしれない。二人ずつに分かれて出口に向かおうと、私達はこそこそ打ち合わせた。

 ベリザディーノがさっと記憶を辿ったらしい。


「出口から出たら、一目散に要塞行きのケーブルウェイ乗り場、それも二人乗りがいい。あそこに向かうんだ。あれならキャビンタイプと違ってすぐに乗って逃げられる。キャビンと違ってドアも窓もない風が吹きつけてくるむき出しベンチにシート固定だから乗りたがる人が少なくて、キャビンとは到着場所が異なるんだ。ヴェラストール要塞行き、それも幾つか経由できるんだが、最終より三つ手前で降りよう。2番ゲート裏にあるカフェ・テラビュトンで待ち合わせ。いいな?」

「分かった。じゃあ私が最後で、二人ずつ先に逃げて。もし見つかったら時間稼ぎしてあげる」


 少年達、安心して任せてらっしゃい。永遠の二十代たるお姉様が守ってさしあげてよ。

この私を素敵な保護者のいる令嬢として羨ましがるならともかく、侮辱された以上は容赦などせん。


(子供の内は健全に生きとれっちゅーの。全くどいつもこいつも)


 やっぱり青春って大事だよね。メリットデメリットなんて考えずにお互いを大切にしあう少年時代の友情は、お金では買えない宝物なの。

 何よりも私はしつこいストーカーに対する慣れがあった。


「アホ言うな、アレル。お前こそ一番に逃げないと駄目だろう」

「大丈夫、ダヴィ。だって私には最終兵器がある。そう、明かりのある中でもゴーストを生み出してみせた私以上に、皆を足止めできる人間はいない・・・!」


 四人の表情が一気に止まる。ふぅっとベリザディーノが息を吐きだした。


「そうだった。こいつはそういう奴だった。うん、分かった。やり方が分かるなら代わってやりたいが、たしかにそれなら扱いに慣れたアレルがいい」

「ごめん、アレル。僕の為に・・・。こんな時に女の子を最後にするだなんて最低だ」

「大丈夫ですよ、レイド。言ったでしょう、私はあなたを見捨てないって。安心してください。ちゃんと追いつきます。こんな時は謝るんじゃなくてお礼を言ってくれればいいんです。そしたら将来、出世したあなたからこの恩を取り立てられるじゃないですか。ね?」

「うん、そうだね。そういうことにしておくよ」


 先にダヴィデアーレとマルコリリオが出口に向かい、二人の様子を見ながら少し遅れてエインレイドとベリザディーノが続くことになった。

 周囲を見渡しながら、二人組はそれぞれ植え込みなどを利用して姿を隠しつつ移動していく。植木がそこまであるわけではないけど、なるべく窓から顔を背けたりしておくことで、ごまかすことはできるだろう。

 そんな四人の後ろ姿を見ながら、私はポケットから取り出した耳穴式集音装置を両耳に、変声チョーカーを首にセットした。

 この変声チョーカーは黒いベルベットリボンにローズピンクのガラスを薔薇のようにカットしたトップがあしらわれているデザインだ。エレガントな女性によく似合う。

 今の私にはアダルトすぎてあまり似合わないけど仕方がない。

 そして照準メガネをかければ、一気にカッコよくなる。照準メガネの見た目はミラータイプのサングラス仕様で、瞳の色が分からなくなるのだ。


『朝からずっと待ち続けていつまで待つことになるのかしら』

『何でしたらお嬢様、少し観光していらしてはいかがですか?』

『入り口は何人かが待機しております。多少の変装ならば見抜けぬ筈がございません』

『学校では話しかけられずとも、私的な時間であれば問題ないことでしょう』

『ええ。普通に観光していたところをちょっとぶつかり、謝った時に、変装していてもそのお顔を見抜けぬ筈がないと、そういう流れではいかがでしょうか』

『そうだな。僕達はいいが、君達はエリー王子と城内を見て回るのはよくないんじゃないか?』

『あ、そう言えばじろじろと絵の中からこちらを見てくる絵画がある筈ですのよ』

『それなら僕が案内しよう。要は付き合っていないなら問題ないんだろう?』


 凄い段取りだ。学校で声をかけたなら、わざわざ変装している王子の気持ちも分からないのかと、そんな流れになるリスクがある。だけど、あくまでプライベートでバッタリ出会ってしまったなら、

「まあ、王子様ではありませんの。あら、ごめんなさい。変装しておられましたのに・・・。どうぞお許しください」

「いや、いいんだ」

「ところでどちらにおいでですの?」

と、声をかけるシチュエーションも生まれるってわけだ。

 あの素直で真面目なエインレイドでは、悪気がない偶然の出会いに文句はつけないだろう。

 あー、いるいる。よくいたいた。そういう偶然の出会いを仕組むストーカー。


(人を好きになる気持ちがそういう行動になること自体を私は責めない。だけどそこには相手への敬意もなくちゃ駄目だと思うんだ。一目会いたくて、だからずっと待ち続ける純情なら私も理解するの。だけどね、相手を困らせることを分かっててやる接触は相手を蔑んでるってこと、分かってほしいよ)


 学校ならいざ知らず、公共の場であのエインレイドが冷たい態度など取れる筈もない。

 お願い逃げきって、王子様。あなたへの捕獲包囲網が凄すぎて、フィル、もう理解できない・・・!


(普通はまずお城を観光してから、東・西・北の塔。だから私達は先に空いている塔を回ってから最後にお城を見て回るつもりだったけど、結局お城の中見られなかったなぁ。だけど恐怖伝説はそこそこ回ったからいいのかも?)


 今の間に髪ペイント剤で髪を黒く塗っておく。内側まで綺麗に塗れていなくても、外側を黒くしておけばそれだけで髪の印象がごまかされやすい。

 エインレイドは髪ペイント剤を持ってくれば変装できたのにって嘆いてたけど、ごめんね、王子様。あなたの変装より私の変装の方が大事。だって私、無力な子爵家令嬢なんだもん。姿を見られて恨まれたくないの。私みたいに二色が混在しているかのような明るい髪の色って記憶に残りやすいんだよね。

 髪ペイント剤は大公妃に分けてもらったものだ。

あの会話から察するにどうやら大公邸はノーチェック。


(理想的な対応法は城内に散らばっている筈の護衛さんに協力してもらって、みんなを隠してもらいながら逃げるって奴だけど。さすがにこんな状況で笛を吹いたら、その音で何事かって目立っちゃうよ。だからそれは諦める)


 私はなるべく塀側へと移動し、大きな樹の陰から照準メガネを望遠状態にして城の窓や、四人の様子を見張った。

 城の廊下を歩いているのは、おしゃれな外出着の少年少女達。やっぱり制服と違って華やかだ。

 目立たないよう自然な感じを心がけながら、逃亡中の二人組の少年達がかなり前方を歩いているが、城の廊下を歩いていた人、それも大人の男性が、いきなり立ち止まってベリザディーノをまじまじと見たのが分かった。

 なるべくベリザディーノはエインレイドを隠すようにして自分が城側を歩いていたし、顔を背けるようにしていたけれど、髪の色や特徴が知られているのはみんな一緒だ。

 ベリザディーノに気づいた男性は、誰かを呼び止めたようだった。

 すると彼よりもかなり後ろを歩いていた少年少女達が窓へと寄ってくる。声は聞こえないが、ベリザディーノを指差しているのが分かった。

 私は耳穴式の集音装置の性能を少しずつアップさせていく。


――― ザザ、ザッ、入り口、・・・ザッ、だろう、ザザザザッ、・・・・来たばかりなら、ザッ、ザザ、ザザザザーッ、呼んできて、ザッツ、足止め、・・・ザザザザーッ。


 風の音や、違う雑音が多くて、肝心の会話があまり聞こえないが、なんとなく分かる。

 王子エインレイドを足止めする為、外へ追いかけていくようにと誰かが声をかけたってわけだ。慌てて出入り口を探して駆けだした男の人がいる。


(ディーノ、気づいたっぽい。足早になった)


 さすがスポーツ少年。ベリザディーノがその気配を察したか、早足になった。

 私は屋外だったことを幸い、植木の陰にしゃがみこむ。樹の陰よりも植木の陰の方が見つけられにくい。黒く塗った髪や枯れ草色の服が、私の姿を風景と馴染ませるだろう。

 気づかれたことに気づいたのか、ここで逃がしたら雇い主を怒らせると分かっているからか、エインレイド達の前に出ようと、城から飛び出してくる男達がいた。

 私は照準メガネの凸部分を押して呟く。


【コードヘルハウンド起動、承認開始】


 ピッピッピッピと、小さな音が響き、ピロリンと鈴のような音が鳴った。


【連携開始、妨害開始】


 ピロリン、ピロリンという音の後、ブインブインブインと小さな音がした。


【照準開始、グレイボール。左耳捕捉】


 髪ゴムを覆っていた革紐の端っこについていた丸い木製ビーズ。それを一粒だけ掌に載せて腕を前に伸ばし、メガネの照準を合わせる。

 対象を把握した左耳の耳穴式集音装置が、彼らの会話を拾い始めた。


――― なんと、奇遇なことでご・・・。


 聞こえなかったフリで立ち去ろうとするベリザディーノ達。


【発射】


 私の掌の上にあった丸い灰色のビーズに見せかけた弾丸が、彼らに向かって灰色の煙を噴き出しながら飛んでいく。


――― バアアアアンッ!!


 凄い音が響き、全ての観光客が足を止めて周囲を見渡した。

 何事かと思って足を止めた彼らの間に、灰色の大きな煙幕が広がり、その姿を隠す。灰色の大きな壁が、城の三階まで届く程に大きく広がった。

 あれ? もっとあの煙幕って小さかったと思ったんだけど。あ、そっか。私が小さくなったから大きく感じちゃうんだね。うん、そうだ。そうに違いない。

 

――― うわあっ。

――― 火事かっ!?

――― 誰か撃たれたのかっ!?

――― 殿下をっ、お助けせねばっ。


 なんか騒いでいるけど、タイミング的に私のやったことだとエインレイドとベリザディーノも察したようだ。エインレイドの手を引いてベリザディーノが一気に駆けだす。

 だから私は次の黒い木製ビーズを掌に載せる。


【照準開始、ブラックボール】


 その次の照準は、エインレイド達よりも先行していたダヴィデアーレ達だ。彼等も走り出しているのは、背後から二人が駆けてきているからだろう。

 うん、いいね。ちょっと気恥しくなっちゃうぐらいにみんな協力し合ってる。


(優斗。あなたには恨まれても、それでも私はああいう時間をあなたにあげたかった。子供のうちは子供の時間を大事にしてほしかったの)


 ダヴィデアーレとマルコリリオより少し城側に照準をずらす。彼らに当たってしまったら味方同士ではぐれるからだ。二人組だった彼らは既に四人となり、出口に向かって走っていた。


――― 火事だぁっ。

――― 水を持ってこいっ。

――― 消火用ホースをっ。


 煙に水をかけられる前に、全てを終わらせなくては。


【発射】


 その言葉と共に、掌の上にあった黒い木製ビーズに見せかけた弾丸が、黒っぽい煙を噴き出しながら飛んでいく。


――― ゴオオオオンッ。


 真っ黒な煙幕が広がり、おかげで私からは完全に四人の姿も見えなくなった。

 うん、大丈夫。見えなくても信じてる。それが友情ってもんだよね。

 私はポケットから出した八角柱なペンタイプの使いきりグッズを右に二回、左に二回、右に三回、左に三回と、ガチャガチャ回した。

 トットットットッという音がして、ペンタイプの中で反応が開始されていくのが分かる。

 そして私は掌の上に白い木製ビーズを載せた。


【照準開始、ホワイトボール】


 うん、やっぱりコレでしょう。だって煙幕だけじゃ突っ切ればいいだけなんだもん。

 あのご令息ご令嬢もまた彼等にとっては守るべき相手だ。こんな煙が満ちる中に行かせるわけがない。だって攻撃かもしれないわけだしね。

 それでも王子を守るとかいうお手柄を狙うかもしれない。煙が出ていても炎がないことに気づくかもしれない。

 ゆえに混乱にプラス。


【発射】


 白い煙を噴き出しながら発射された弾丸が、灰色と黒色の煙幕を背にして一気に真っ白なスクリーンを展開する。

 というわけで、私は八角柱なペンタイプのそれを指で摘まみながらさっきまでと同じように掌に載せた。ただし、ペンタイプの真ん中の丸い枠がメガネの照準と合わさるようにだ。


【照準開始、ゴーストペンタイプ。拡大率6倍、増加率4レンジ8、ランダム3レンジ9】


 ここは恋人同士が別れるという伝説の城。それこそ幼年学校時代の交流を恋だと決めつけるお嬢様には、ここでその縁を断ち切ってもらわねば。

 もしかしたら本当に可愛らしい初恋メロディが奏でられていたのかもしれないけど、それは私を巻き込まずにやってほしい。エインレイドも本当に好きなら勝手にプライベートで口説くだろうし。

 チッチッチッチッという音が響いて、ピロンと音がする。


【発射】


 白いスクリーンと煙幕の間にペンタイプの中身が飛んでいった。

 即座に私は駆けだす。そろそろ追いかけないと捕まっちゃう。出口が封鎖されてもまずい。


「うわああーっ、ゴーストだあっ」

「いやあーっ、呪いの貴婦人よぉっ」


 そんな悲鳴を無視して私は駆け抜ける。煙幕の後ろを走る際、首元の黒いベルベットチョーカーに取り付けられたローズピンクの薔薇の形をした真ん中に、先程のペンタイプグッズを当てる。


――― ケーケッケッケ、ワーハッハッハ。

――― クワァーハッハッハ。


 そんな野太い笑い声が響き渡った。

 空まで広がる骸骨ゴーストの歯がカタカタと上下しているのと相まって、まさに骸骨が呵々大笑しているかのようだろう。

 ペンタイプのそれを少し回して、やはり首元の薔薇に当てれば、音楽が流れだす。


――― キーィ、キィキィキィ、ポロン、パラン。

――― ファラン、ガラン、ゴロリン、タラン、ボロリン。


 まさに壊れた楽器の演奏だ。だが、それでいい。

 かぎ裂きばかりでぼろきれになったドレスを纏い、顔が骨になった貴婦人が、やはり正装した骸骨とダンスしている姿が映し出されている筈だ。この音楽と共に。

 夜だったら私もめっちゃ怖かったと思う。

 

「いやあああーっ」

「幽霊城のゴーストォッ」

「逃げろぉーっ」


 こういう時、人は薄暗い道が導く北側の出口方面より明るく広がった南側の入り口方面に逃げるものだ。やっぱり広くて沢山の人がいる場所の方がいいんだね。実際、出口に向かうそこには煙幕がかなり広がっていて私もその先が見えない状態だった。

 

【煙幕透視開始】


 煙幕があっても問題ない。私のメガネには障害物が全て映し出される。


「あ、おい。君っ、何があったんだっ? 分かるかいっ?」

「ゴーストが出たのっ。煙も沢山っ。怖かったぁっ」

「え。一人かいっ? 煙ってやっぱりあれは火事かいっ?」

「燃えてないから単なる煙だけだろうってっ。イタズラだろうけど、目的分からないから逃げなさいってっ。お母さん待ってるホテルに帰りますっ」

「ちっ、イタズラかっ。じゃあ気をつけて帰るんだよ」

「はいっ」


 そうして私は出口ゲートを通過し、むき出し座席で風が辛いというケーブルウェイへと向かった。


(うーむ。おかしいなぁ。あそこまで大きくなる筈じゃなかったのに。ま、いっか)


 多分、あのゴーストと怖い笑い声や壊れた楽器演奏、しばらくは続く筈だ。だって今日、そこまで風は強くないし、元々あれは屋外用。

 私の為に和臣が作ってくれたストーカー対策グッズだ。

 あの頃は私も若くて、一人で働き始めてからはあえて使わずに自力で頑張ろうとしたものだった。


(ありがとう、(かず)おじさん。だけどなんかバージョンアップしてない? あんなに大きくなかったよね?)


 終わったことを考えても仕方ない。

 ここはヴェラストール城。男女関係を破壊しつくす呪いのお城。

 あんな会話を聞かれた以上、王子様狙いのお嬢様達の気持ちも破局に至る運命だったんだよ、きっとね。




 ― ☆ ― ★ ― ◇ ― ★ ― ☆ ―




 カフェ・テラビュトンでは皆がミニスクリーンに釘付けだ。私はちゃんとケーブルウェイ二人用ベンチに一人で座りながら、髪を濡らしたリネンタオルで拭き拭きしていたから、玉蜀黍の黄熟色(メイズイエロー)の髪に戻っている。


『臨時ニュースです。本日、(あかつき)4時頃、ヴェラストール城にて幽霊が出現いたしました。こちらがその映像となります。ヴェラストール駅からもこうして大きなゴーストが確認できました』


 カフェの天井部分にあるミニスクリーンなんて、普段はニュースや音楽が垂れ流されている程度で、誰も見ていないものだろう。

 だけど今日だけは皆が注目していた。

 ミニスクリーンの中では骸骨達が正装してダンスし、その周囲をケタケタ笑う骸骨が飛び回っては消え、消えたと思ったら現れている。


『ご覧ください。まさにヴェラストール城ゴースト達の悲しき舞踏会。ですが、治安警備隊は悪質で大がかりなイタズラだと考えており、本日、大勢でヴェラストール城の部屋を貸し切りにしていたグループにも事情を確認中です。専門家によると、これを実行する為にはかなり前もって準備しなくては不可能とのこと。現在、数日前からヴェラストール城に不審物を持ちこんでいないかも含めて調査中です。それでは、このゴーストをヴェラストール城観光中に見てしまったという方の声をお聞きください』


 観光客っぽい人達が映し出された。


『あのゴーストを間近で見てしまったそうですね。どう思いましたか?』

『いやあ、びっくり仰天ですよ。おかげで子供達ともはぐれてしまいまして、もう困ってます。ゴーストを間近で見てしまったものだから、いきなり走り出してしまいまして・・・。ホテルに自力で帰ってきてくれないと、ヴェラストール中を探し回らなきゃいけません』

『それは大変ですね。弟さんか妹さんと来ていらしたのですか?』

『はい。弟達を連れて来ていました。今、姉達も子供達を探しています。ゴーストに驚いてウサちゃんぬいぐるみと逃げちゃったんです。私もあの煙幕で見失ってしまいまして・・・』

『大変ですね。早く見つかることをお祈りしております』

『ありがとうございます』


 うん、どこかで見たような顔だ。

 あの茶色い髪を赤くしてから逆立てて、靴のかかとを履き潰していたら、どこかで見た顔だ。

 ミニスクリーンの中で、彼はブラウンの髪をきちんとセットして白い木綿シャツとブルーデニムのズボン姿、そしてラフな感じでセーターを羽織っている好青年だった。さりげなく左腕の黒い腕輪がおしゃれだ。

 たっぷりミルク入りホットコーヒーを飲んでいた私達は顔を見合わせる。さすがに誰しも夜明け前に見た顔を忘れてはいない。


「気の毒にあのお兄さん、弟さん達が迷子らしいね。どう思う、アレルうさぎさん?」

「あ、あははは。あんなゴースト、出ちゃったもんね。どう思うってどう思うのかなあ、あはは、レイドったら」


 すまん、お兄さん。あの時、私の背後から近づこうとしていたなら一気に行動不能な状態になったことだろう。

 だけど私は悪くないと思うんだ。だって非常時って誰が味方で誰が敵かなんて分からない。ましてや和臣が私に渡すものなんて私一人だけ助かればいいものばかり。他人への配慮なんてある筈がない。


「なんか改めて見ると凄い大きさだったんだね。しかもはっきり見えてるし」

「そうだな。ゴーストって夜だけじゃなかったんだな。もう僕の常識がガタガタだ」


 マルコリリオとベリザディーノも、あそこまで派手なゴーストとは思わなかったらしい。自分達と同じ程度の大きさだと思いきや、天を衝く大きさのゴーストだった。逃げていて見ていないがゆえにまじまじと見入っている。

 でもね、私は悪くない。屋外だから派手にやってもいいかと思っただけだもん。ついでにちょっと大きさを間違えただけだもん。


「僕もだ。だけど結果として追いかけられる心配はなくなったな」

「そ、そういえばお母さん心配してるかも。有料公衆通話どこかな。ちょっと連絡入れよっかな」


 とりあえず私はミディタル大公家が持つヴェラストール別邸に連絡を入れてみた。

 あのお兄さんの恨みがましいアレはメッセージであろう。

 

『良かったわ、無事だったのね。今、どこなの?』

「えーっと、ヴェラストール要塞の第2ゲート裏にあるカフェ・テラビュトンです」

『ああ。たしかホワイトプディングが有名なカフェね。ホワイトプディングはそこのお店でしか食べられないお菓子なのよ』

「なんとっ。それは食べなくてはっ。・・・あ、それから今から要塞観光して、ケーブルウェイの中継地にある要塞式オーブン料理の店ファラレフでランチするつもりです」

『それはいいけど、今、あなた達に護衛がいない状態なのよね。すぐ向かわせるけど』

「大丈夫です。みんなで仲良く観光します」

『すれ違っても困るもの。昼食をとるファラレフに向かわせれば確実ね。ところであのヴェラストール城のゴーストはアレルがやったことなのね?』

「・・・・・・えーっと、不幸な事故でした」

『まあいいわ』

「はい。ランチしたら雑貨屋さんを見て回ってから帰ります」


 そして私はウェスギニー子爵邸にも連絡を入れる。

 何故なら父にゴーストの件のもみ消しをおねだりしなくてはならないからだ。


『無事だったんだね、フィル。フィル達が行方不明だからこっちに連絡が入ってないかって問い合わせされたところだよ。こっちも心配してたんだ。怪我はないかい?』

「ごめんなさい、ジェス兄様。フィル達、レイドを追いかけてきた人達から逃げようとして、護衛さん達、置いてきちゃった」

『そうみたいだね。ヴェラストール城のゴーストの映像を見て、ニッシーさんがあれはフィルの仕業だと断言したんだ。おかげで兄上が騙されたとか言ってたよ。ニッシーさん、あのゴースト、屋外ではできないって言っていたからね』

「えっと、ジェス兄様、それは正しいの。触ったりできるの屋内だけ。屋外は無理なの。触れないからすぐにばれちゃう」

『なんだ、そうなのか。だけど護衛がいない状態なんだろう? 大丈夫かい?』

「うん、平気。今からヴェラストール要塞、観光するの。お昼食べるお店、連絡したから合流できる」

『それならいいか』

「うん。でね、パピーは? フィルね、レイドと一緒なら何してもいいって言われてたの。だからアレやっちゃった。ちょっとサイズ間違えただけなのに、も、大騒ぎ」

『心配しなくても、もう兄上は動いてるよ。フィルがやったという確認を取れた以上、大公妃様も動くだろう。ゴーストということで大公妃様もアレルの仕業だろうと確信しておられたけど』

「あれ? なんかフィル、悪者になってない? フィル、犯人じゃないよ。不幸な事故だったんだよ」

『はいはい。愛してるよ、フィル。だから無事で帰っておいで』

「うん。そしたらご褒美、ジェス兄様と夜のデートなの」

『そうだね。ヴェラストールに行けなかった代わりにとっても素敵なお店を探しておくよ』


 ああ、やっぱり叔父しかいない。父は約束しても留守が多くてどうしようもないけど、叔父はいつだって私とお出かけしてくれる人。

本当にあの令息令嬢達は分かってない。私はね、お子様の愛人なんてお断りなの。やっぱり男は経済力と容姿と愛が必須条件。

 そんなことを思いながらブースを出ると、隣のブースからエインレイドも出てきた。見張りとしてベリザディーノが立っている。


「あれ? レイドも通話してたの?」

「うん。ガルディ兄上にね。今からニュース見るとか言ってた」

「そうそう、お母さんによるとこのお店はホワイトプディングが名物らしいです。さあ、注文しに行きましょう」


 よりによってあのフォリ中尉か。エインレイドのことだから、もしかしたら何か頼んでくれたのかもしれない。うーむ、後でまたドルトリ中尉から私がいじめられたりしないかが心配だ。

 だけど今から心配してもどうしようもないので、私は早速仕入れた情報を披露した。


「あのな、ビーバー。お前はここまで大騒ぎを起こしてそれか」

「だってもう大丈夫って大公妃様言ってたし、うちの叔父も父が乗り出したから大丈夫って言ってたもん。だからここでホワイトプディング食べてお手洗い行って、観光してから要塞名物ランチに行くわけだよ」

「なんだろうな、この徒労感。あ、ここのホワイトプディング、青いお茶を一緒に注文するのがお決まりなんだ。なんで青かったのかは忘れたけど、ハーブティーの一種だってさ」


 ホワイトプディングって何でできているんだろう。オリジナルメニューらしいから気になっていたけど、どうやらセットのお茶もオリジナルっぽい。


「そうなんだ。えへっ、記念フォトも一緒に撮っていいかなぁ」

「いいんじゃないか? 色合いがとても綺麗だってんで、カフェなのにホワイトプディングを注文する人はブルーティーを頼むんだって聞いた」

「へー、さすがディーノ。レイド、キャビンじゃなくてベンチタイプに乗って良かったですよね。変わったお菓子が食べられます。これだけ引っ掻き回したからもう大丈夫。ここは存分に列車代金に見合う楽しみを回収していきましょう」

「うん、アレルってば本当にたくましいね。そうだな、楽しまなくっちゃ」


 というわけで、私達はそのホワイトプディングと青いお茶を頼むことにした。

 

「あれ? 甘いミルク味かなって思ったけど、何だろう、この味。ヨーグルトかな? すーすーするよ」

「甘くてこってりした味かなって思ったけど爽やかだよね。ヨーグルトかな、フレッシュチーズかな」

「この青いお茶、酸っぱそうな見た目だと思ったら甘いんだけど」

「なんという見た目を裏切るお菓子だ。このすっきり感、ミントっぽくないか?」


 そんなことを言い合いながら食べていた私達だけど、そこでミニスクリーンに女性が映る。


『臨時ニュースです。先程、ヴェラストール城にゴーストが現れた件につきまして、機械の操作を誤ったことによって映し出されたものだと判明したことをお伝えいたします。ゴーストの映像装置を売り込みに来ていた一般人がいたとのことです。

 その一般人はヴェラストール城で嫌がる子供に声をかけて取り囲もうとした大人達を見つけ、助けようと思わずゴーストの映像のスイッチを押したものの、間違って最大出力にしてしまったとのことでした。尚、別口の情報筋の話によりますと、その子供は手広く事業を行っている裕福な貴族のご子息であるとのことです。

 治安警備隊は厳重にこの一般人に注意を行い、明日には釈放することとなります。

 そして子供を連れ去ろうとしていた男達からも、どこからその子供の予定を調べ上げたのか、そして何をしようとしていたのかを調査するとのことです』


 店内に、なんだそっかぁといった空気が流れた。

 誘拐されようとしていた子供を助けようとした善意の人が、間違って巨大ゴーストを映し出したのだと分かったからだ。


「そんなの、事情が分かったならそのまま解放してやりゃあいいのに」

「まあ、あれだろ。腕っぷしに自信のなかった兄ちゃんが知恵で乗りきろうとしたらちょっとミスったってわけだ」

「そうよねえ。子供を助けようとして大騒ぎになったからって明日まで拘束されるのは気の毒よ」

「半曜日だもの。つまり学齢にも達してない子でしょう?」

「そういうことなら立派なもんじゃないか。ヴェラストール城に相応しいゴーストだったってのに」

「ホント、どうしてこういう時に融通が利かないのかしら」


 ちなみに私達は一人が学生証を見せて、本日は単位の都合で朝から休みだと言えばどこのチケット売り場もフリーパスだった。国立サルートス上等学校、さすがのネームバリューだ。


『特別臨時ニュースを繰り返します。先程・・・』


 臨時ニュースが流れて終わりかと思いきや、スクリーンの中では再びゴーストの映像が映し出され、それが子供を守るための操作ミスだったと事情を説明し始める。

 文句のつけようのない解決法だ。うん、ゴースト悪くないよ。


「そっかあ。裕福なアールバリ家のお坊ちゃんを助ける為、ゴースト現れちゃったんだね」

「アレル、アレル。あまり言わない方がいいよ。ディーノがまた怒るよ」


 マルコリリオが心配そうに止めてくるけど、つまりこれで解決したということだ。

 ダヴィデアーレもホッとした様子で、お茶のカップを口元に運ぶ。


「幼年学校でも親しかった令息令嬢が声をかけるのと、見知らぬ男達が声をかけるのとは違う。そうだな、先に僕達はあの会話を盗み聞きしていたから分かってはいたが、普通に考えたら警戒されてしかるべき行為だった。うん、そういうことだろう」

「何なんだろう。なんか釈然としない。あれ聞いたら、まるで幼児が襲われそうになってたっぽくないか?」


 ベリザディーノは自分がエインレイドを背に庇った自覚があるせいか、複雑な気分らしい。

 だけど王子様が狙われてたなんて放送できない。そこは仕方ないんだよ。


「あのお城にいた人達はもう追いかけてくる根性はない筈だしね。さ、要塞で剣とか槍とか持って記念フォト撮ろ? お昼には要塞ランチが待ってるし、今、ここでお菓子食べたからランチ時間少しずらして、空いてる中で食べられると思うんだ」

「アレルって本当に終わったら気にしないタイプだよね。知ってたけど。僕達なんてあの轟音にもしかしてとっても危険な事態が起きてるのかもって、本気でびくびくしながら走ったのに」

「言うな、リオ。言うだけ無駄だ。これでアレル、持久走もかなり成績いいんだよ。少なくとも僕達二人よりいい」

「えっ、そうだったのっ?」


 その通りだ。持久力的にベリザディーノやエインレイドには及ばないが、私はかなり体育の成績もいい。


「えっと、みんなごめんね。だけど改めてあのゴースト見たらちょっと感動する。あの時、出口まで走って逃げることしか考えなかったから、どんなものか見てなかったしさ」


 謝りながらも、エインレイドはスクリーンに映るゴーストを熱く見つめていた。やはりホラー好きなのかもしれない。

 なんてこった。一緒にドラマだけは見ないことにしよう。ホラーを選ばれたら私が泣く。


「さ。要塞はどこに手洗いスペースがあるか分からないからな。アレル、女の子だからまず行って来いよ。女の子ってかなり時間かかるもんだしさ」

「多分それはドレスアップして薄化粧してる子のことじゃないかな。まあ、それならお先に」


 食べ終わった私達はお手洗いに行ってから、カフェを出ることにした。

 いつも五人でつるんでいるせいか、もたもたはしない。


「うー。緊張してた時は分からなかったが、やっぱりちょっとここって気温低いよな」

「そうだな。アレル、大丈夫か? 寒くないか?」

「大丈夫だよ、これ、けっこう風も遮断してくれるんだ。性能的にみんなの風防ジャケットと変わらないの」


 カフェを出れば、高地ならではの乾いた風が髪や頬を軽くなぶっていった。看板を見れば、要塞もかなり広くて複数の山にまたがっている為、観光スペースとして幾つかのスペースが見学できるようになっているけれど、全体を歩いてみて回ったりすることはできないらしい。


「じゃ、この後、歩いてく? それともケーブルウェイで一番上まで行っちゃう? 私は一気に頂上まで行って、後はのんびり歩いて戻ってきたり、ケーブルウェイで移動したりする方が楽しいかなって思うんだ」

「僕、乗るならキャビンがいいな。あのベンチタイプ、本気で不安だったもん。アレル、本当に追いつけるのかなって。やっぱりみんな一緒がいいよ」

「そうだな。アレルが来るまで待ちたかったけど、二人ずつしか乗れないんじゃ逃げられなくなる。追いつかれるかもって思ってケーブルウェイに乗ったんだ。あれは本気で後味が悪かった」

「へ? ご、ごめんね。そんなつもりじゃなかったんだよ。私、これでもああいう追いかけられるの慣れてるの。だから一人の方が隠れやすいし、動きやすいかなって。そこまで気に病むことなんかなかったよ」


 カフェ店内では人目を考え、抑えていたのかもしれない。涙ぐんだマルコリリオに、ダヴィデアーレも唇をゆがめた。

 そんな私を背後からエインレイドが抱きしめてくる。ベリザディーノもだ。


「お願いだからアレル、一人だけ残してなんて二度とさせないで。僕はたとえ囲まれることになっても、やっぱりアレルを置いていきたくないよ」

「そうだぞ、アレル。あの轟音と煙はアレルかもと思っても、もしかしたらアレルを危険な場所に残していくんじゃないかと、本気で悩んだ。今度は一緒に逃げよう。な?」

「・・・うん。ごめんね、みんな」


 なんか凄いなって思った。私が愛華だった頃なんて、女の友情は時に男によって破壊されていたというのに。

 どうしてみんな、与えられた気持ちに対してもっと素敵な気持ちを返せるんだろう。


「ごめん、今度はみんなを巻きこんでやるよ。ただね、あの煙幕弾、私しか扱えなかったの。ゴーストもだけど」

「え。ちょっと待って、アレル。まさかあれ、僕達にやらせる気?」

「だってそういったじゃない、リオ。そうだよね。私一人じゃなくてみんなでやるべきだよ。だけどどうしよう。ほかの人には使えないんだ、あれ。私専用だから」

「いや、待て。僕は嫌だぞ。あんな大騒ぎ、僕がやったことになるだなんて」

「ちょっと待ってよ、ディーノ。私一人を危険な場所に残していきたくないんでしょ? それなら協力すべきだよ。そしてみんなで怒られよう? だって私、もう家族に一人だけ怒られるの嫌なんだもん」


 さっきの感動は嘘だったのか。いきなりみんなが嫌がり始めた。

 全く男の子なんていざとなれば気が小さくて困っちゃうよ。だから女は強くなるしかないんだよね。そりゃ口ではなんと言ったところで、いざとなればみんな協力してくれるって分かってるけど。


(全く素直じゃないなぁ。ルードもそうだけどさ)


 ずっと私は守れる人になりたかった。結局、誰も守れなかったけれど。


「大丈夫、アレル。僕が協力するよ。ガルディ兄上もやりたいことをやってみろって言ってたしね。あ、看板によるとキャビンタイプはあっちみたいだ。えーっと、右に行って、二つ目を左に曲がるみたいだね」

「では早速、私への恩返しをさせてあげましょう。手を繋いで私を引っ張ってっていいですよ、レイド。だって上り坂だし」

「うわあ、そう来たか。喜んでさせていただきましょう、アレル姫」

「うむ、苦しゅうない。だって護衛とか警備の人がいたらすぐ報告されちゃうんだもん。ここは護衛の目がない利点を満喫しないとねっ」

「ホント図々しいところがアレルだな。ま、交代で手ぐらい引いてやるから、大騒ぎは一人でやってくれ。全く僕達のしたことだって学校側が知らずにいてくれたらいいんだが」

「ダヴィってば()(そく)ぅ」


 そうして私達はみんなで手を繋いで歩いていくことにした。ケーブルウェイのキャビンタイプは、今度は十数人が乗ることのできるタイプだ。


(どうしよう。なんかくすぐったいけど楽しい)


 みんなでおてて繋いで仲良く歩いていったら、ケーブルウェイ乗り場にどこかで見たようなお兄さんがいた。白いシャツにブルーデニムのズボンを穿いて、セーターを羽織っている。

 ブラウンの髪をきちんとなでつけ、真面目そうな気配が漂っていた。


「やっぱりここで待ってて良かった。全くもう、オーブン料理の店で待つようにと言われましたが、目を離したら何をやるか分かりゃしない。まさか護衛を撒いて逃げるとは思わないでしょう、お嬢様。もう離れて護衛じゃなくて、そのままついていかせてください」

「あれ? なんで私が知らない人に責められてるのかな? えーっと初対面ですよ、私達」


 お説教は嫌だ。だから私はすっとぼける。


「朝、ブースの鍵を開けてあげたじゃないですか」

「それは赤い髪のカツアゲがとっても似合うお兄さんなのです。あなたではないのです。そして私は護衛だなんて全く無縁の一般人なのです。・・・ほら、レイド。なんか言われてますよ」


 私はエインレイドの背中を両手でぐいぐい押し出した。


「その卑怯っぷりがアレルだね。えーっと、すみません。アレル、お説教が苦手な子なんです。あまり問い詰めないであげてください。それにアレルもあそこまで煙が広がるとは思ってなかったそうで・・・。せっかくだから一緒に行きましょう。僕達、今から要塞の一番上まで行って、記念フォト撮って、幾つか回ってから昼食にするつもりなんです」

「はい、伺っております。カツラや変装道具を用意していたら、私達を無力化させて逃げてくださったウサギさんがいまして、本当にご無事でよろしゅうございました」


 なんでだろう、同じ敬語の筈なのに私に対する態度よりも(うやうや)しい感じがする。


「無力化? 何ですか、それ。もしかして護衛の人達にも何かやったの、アレル?」

「え? 知らないよ? きっと護衛さんも緊張していたんだよ。夜明け前から起きてたし。貧血でも起こしたんじゃないの?」


 五人の瞳が私に集中した。

 私には分かる。みんなが私を信じていないってことが・・・!


「いいです、もう。お嬢様は自由にさせておくようにとガルディアス様からも命じられておりますから」

「おお、さすが権力者。お礼にお土産を買っていかねば。レイド、レイド。ガルディアス様へのお土産、さっきのお土産店でも見かけた、ソード形容器にチョコが入ってるのっていいと思いませんか? ほら、カッコいい感じ?」

「ガルディ兄上、多分お土産は要らないと思うよ。アレルの土産話だけでいいんじゃないかな」

「じゃあルードに買っていってあげよっと。荷物になるから帰りに買わなきゃ」


 十数人が一度に乗ることのできるキャビンだったけど、私達は六人で乗ることができた。待っている人があまりいなかったこともあるかもしれない。

 グループごとに乗っていいですよと、言われたのだ。


「うわあ、下界が一望できる。だからこんな高い所まで攻め入る方が大変で不敗だったわけだね。昔の人の根性が凄すぎる。それにヴェラストール要塞ってとってもとっても規律が厳しかったんだよね」

「歴史的な偉業もアレルにかかるとなんか軽薄になるな。ところでどうして護衛の人が名乗っちゃいけないんですか?」

「それは名前など知らずにいてくださる方が護衛業務に支障をきたさないからです。名前を知ってしまえば先に逃げる時も逃げ足が鈍ります。所詮、私など使い捨ての兵士にすぎません。普通にお兄さんと呼んでください」

「だけど護衛の中でも一人だけ顔を見せてるんだから、かなり上の人ですよね?」

「いえ。単に年齢的に一緒に行動していても自然だからと。今回、メンバー的にアレルお嬢様とリオ坊ちゃんは護衛慣れしておられないだろうから、大人の目があると委縮してしまうだろうと考えていたのです。ですから奥方様もクラブメンバーだけで行動させてあげたいと、私共には離れて見守るようにと命じられました。ですがガルディアス様から連絡が入りまして、そんなのを気にするようなお嬢様じゃないからもう貼りついていろと」


 ダヴィデアーレの質問に答えてくれているのはいいけど、なんか微妙に引っ掛かる。


「え? 気にしますよ、私。それに、それだとリオの気持ちは無視になってないですか? リオだって委縮してしまいますよ。だって知らない人ってちょっと怖くて不安じゃないですか」

「お嬢様に勝手な行動をとられる方が坊ちゃん方のストレスになるだろうと、ガルディアス様は仰ったと伺っています。少なくとも私共ならニュース沙汰になることはいたしません」

「そうなんですね。はい、僕もそれなら一緒にいてくれる方が安心です」


 爽やかな笑顔でマルコリリオが頷いた。

 なんでみんな、そこでうんうんって首を縦に振っているのかな。


「ひどい。みんなして一番弱い立場の私に全ての責任を押しつけてる気がするんだよ」

「安心しろ、アレル。一番強い神経の持ち主はアレルで決まりだ」

「ディーノがいじめる。だけど言いつける人がいない。なんで学校長先生、ここにいないの」


 そうして私達はヴェラストール要塞の一番高い場所へと降り立った。





 


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