8.オレ様、鉱山の前に居座るドラゴンを倒す。
――辺境の地。
アーサーの領地は、少しずつ豊かになり始めていた。
今は集まってきた新しい住人のために、皆で力を合わせて少しずつ建物を増やしている。
「村がどんどん大きくなっていきますね」
ヒルダは嬉しそうに語る。
これまではずっと惨めな生活を強いられてきた。それが、今では村が食料で溢れ、どんどん成長していくことが嬉しかったのだ。
「だが、人が増えてくれば、俺の魔力で生み出す食料ではまかないきれなくなるな。何か産業を作りたいところだが」
アーサーは領地発展のためには「自分がいなくても富を生み出せる」状態にしなくてはならないと考えていた。
アーサーの魔力で育てた食べ物を分け与えるだけでは、真に土地が豊かになったとは言えない。
そうではなく、何かこの土地固有の産業を作らねばならなかった。
すると、ヒルダはしばらく考えて、そうだと思い出したを話し始める。
「残念ながらご主人様、この辺りは見ての通り不毛の地ですが……ただ一つだけもしかしたら産業になりうるものがあるかもしれません」
「それはなんだ?」
「山には魔法石が取れる“はず”の場所があります。大量の魔法石が手付かずで、簡単に掘り起こすことができるはずです」
「ほう」
魔法石は、今日では武器を作るための必需品である。魔法船や魔砲、魔法銃等、強力な兵器を動かすためには必須の鉱物だ。
どの国にとっても魔法石の確保は最重要課題だ。
当然、その需要は高い。
「魔法石があるなら、食べ物など作らなくてもいいくらいだ」
「ええ、そうなのですが」
「ですが?」
「それが、魔法石が取れる場所への道を、屍となった大竜が道を塞いでいるのです」
「屍……アンデット・ドラゴンか」
「左様です。人間の百倍はあろうかという巨体で、強力な魔力を持っており、ダメージを食らわせても動き続けます。アンデットですから、待てど暮らせど死にません。噂によると、何百年もあそこを根城にしているとか。かつて数千人の軍隊で挑んだそうですが敵わなかったという話もあります。私も一度様子を見に行ったのですが、一見して人の敵う相手ではないとわかりました」
「なるほど。今までオレ様のために宝の山を守っていてくれたのだろう。殊勝な心がけだ。それでは早速その死に損ないを倒しに行こう」
アーサーは、なんのためらいもなくそう言った。
「数千人がかりで倒せなかった」という言葉を聞き逃したわけではもちろんない。
ちゃんと理解した上で、倒しに行こうとしているのである。
「確かに……ご主人様なら倒せるやもしれません」
「魔法石が手に入れば国が一気に富むからな。開拓の第一歩だ」
†
ヒルダに案内され、アーサーはアンデット・ドラゴンが居座っているという渓谷にやってきた。
あたりには明らかな異臭が漂っている。
「あの奥です」
アンデット・ドラゴンの姿が見えてくる。
その巨体は教会ほどの大きさがあった。
その身は、皮が剥がれところどころ腐った肉がむき出しになっている。翼にも穴があき、もはや飛ぶことは叶わないだろう。
だが、そんな姿のまま何百年も存在し続けたのにはちゃんと理由があった。
「――膨大な魔力です!!」
三百人分の魔力を持つと言うヒルダからしても、アンデット・ドラゴンの魔力は圧倒的だった。
その強力さゆえに、朽ち果てて尚動き続け、何百年もの間、宝の山を守ってきたのだ。
「まぁ確かに、ちょっとだけ本気を出さないとダメかもしれんな」
アーサーはそう言って、ドラゴンの方へと優に――無防備に歩み寄っていく。
アンデット・ドラゴンがアーサーの存在を認識し、うなり声をあげた。
そしてその巨体を揺らし、その大きな右足を振り上げて襲いかかってくる。
「アーサー様!!」
ヒルダはアーサーがなすすべなく踏み潰されてしまうと思った。
だが、そうはならなかった。
「オレ様の7万人分の拳は、ちっとばかり重たいぞ?」
次の瞬間、アーサーの右の拳が光り輝いた。
その拳を美しい所作で引きしぼり、そしてそのままアンデット・ドラゴンに向かって撃ち放った。
拳から出た光の弾丸が、アンデット・ドラゴンの巨体に吸い込まれていく。
そして次の瞬間――――轟音を立て、その巨体が粉々になって消し飛んだ。
「……!!!」
爆発音と衝撃がヒルダの全身を震わせる。反射的に耳を塞ぎ、目をギュッっと瞑るが、少しして目を開けると、視界の先には広い通路とその真ん中に佇むアーサーだけがあった。
建物程の大きさのドラゴンがいたのに、それが跡形もなく吹き飛んでしまったのだ。
「……い、一体何をされたんですか……ッ!?」
ヒルダが恐る恐る聞く。
「オレ様が持つ7万人分の魔力を一撃に込めた。なんの芸もないことだがな」
アーサーはこともなげにそう呟く。
だがヒルダはアーサーの力に絶句する。
自分が主人と仰いだ人間の底知れぬ力にただただ畏怖する。
「確かに、あの辺は全部魔法石だな」
アーサーは巨龍がいた場所の奥に、光る石がむき出しになっている場所を見つける。
二人は魔法石がどれくらいあるのかを確かめるために近づいていく。
「鉱脈になっているようだな」
「そのようですね! この魔法石を売れば大金が手に入りそうです」
ヒルダはそれを見て喜ぶ。
これだけの量があれば、村が立派な街に発展していくことも可能だろう。
「本当は加工して高く売りたいが、今は贅沢は言えまい。早速掘り出して、近くの街で売ろう」
「はい、アーサー様!」