7.【ジョン王side】絶望するジョン王
ジョン王はスタイン兵士の前で晒し者にされた後、捕虜として牢屋に送り込まれた。
王はランドと同じ牢屋に放り込まれる。
ランドは後から牢屋に現れたジョン王がなぜか尿臭いことに気が付いたが、もちろん理由は聞かなかった。
「……なぜ……無敗のドラゴニアが負けたのだ……」
ジョンは自軍が負けた理由が全くわからないでいた。
こないだまで、ドラゴニア軍は無敵の軍勢と言われていた。
それなのに、今日に限ってはスタイン王国という中堅国家相手に完敗した。その理由がわからなかったのだ。
「陛下。恐れながら申し上げます」
ランドは、アーサーの力の事を話すなら今しかないと思った。
開放された後、また愚かな戦争に売って出ないように、忠告しておく必要があった。
「我が軍が弱くなったのは、全てはアーサー公がいなくなったからです」
戦の前は「アーサー」の名前を聞いただけで怒りだしたジョン王だったが、今は怒る気力さえ残っていなかった。
「あいつ一人で何が変わると言うのだ」
ジョンは鼻で笑ってからつぶやくようにそう言った。
「陛下。アーサー公は7万人分の魔力をお持ちです。その力を兵士たちに分け与えていたのです」
真実を告げられたとき、ジョンは閉口した。
ありえない。
たった一人で、7万人の力だと?
「陛下。恐れながらこれは事実です。それゆえ、もはやドラゴニアにはかつて程の力はないのです」
ジョンは絶望する。
今までドラゴニアは数で勝る敵を倒してきた。
ジョンは、それも全て自軍が強いからなのだとばかり思い込んでいた。
しかし実際は違ったのだ。
アーサーが7万人の兵士を14万人の兵力に変えていたから勝っていたのだ。
つまり、アーサーがいなければ、残るのは今や全盛期の半分以下の兵力だけ。
――それではもはや列強に抗する力はない。
領土拡大どころか、生き残ることさえ難しいかもしれない。
「そんな……余は一体どうすれば」
牢獄で頭をかかえるジョン王。
その答えを傍のランドは持ち合わせていなかった。
†
スタイン公国との会戦から一週間。
ジョンは、莫大な身代金と引き換えに釈放された。
同じく捕虜になっていた将軍たちとともに都に帰ってくる。
しかし、大敗し、大勢の兵士を失った手前、ノコノコと面を上げて歩けなかった。
ジョンは将軍たちに甲冑を脱がせ、自らも顔を隠し密かに王宮へと向かう。
だが、それによってジョンはさらに屈辱を覚えることになる。
「おい、聞いたか? 国王のやつスタイン公国に負けて捕まって、恐怖のあまりお漏らししたらしいぜ」
「まじかよ? お漏らし王とか、マジで笑える」
「先代の王様は偉大な武人だったが、息子が優秀とは限らねえってことだな」
――王都の民の間では、国王ジョンの話題で持ちきりだった。
当然、ジョンが敵前で失禁したということについては他言することは軍令で固く禁じられていた。
しかし兵士たちがこんなに面白い話を黙っているわけもなく、既に王都中に話が広まっていたのである。
「赤ちゃん並みの国王じゃな。マジでこの国も終わりだな」
「そのうち国中のトイレやおむつが徴収されるかもな」
「ははは、違いねえ」
ジョンは、自分の悪口を言う国民たちを八つ裂きにしてやりたいと思った。
しかし、それをするには「私がジョンです」と名乗り出なければならない。
今そんなことをすれば、「私はお漏らしをしました」と言うようなものだ。
ジョンは生まれてこの方受けたことがないほどの屈辱にひたすら耐え、宮中への道を急ぐのだった。