6.【ジョン王side】お漏らし王、爆誕
ドラゴニアの南東の国境付近に兵士たちが集結していた。
ジョン王は3万のドラゴニア兵士の前に立つ。
彼らは、隣国であるスタイン公国へ侵略するために集められた精鋭部隊だった。
「ドラゴニアの威信をこの大陸に知らしめるのだ!!」
ジョンが叫ぶと、3万の兵士たちがそれに呼応する。
ジョン王はスタイン公国に「ドラゴニアに領地の半分を割譲せよ」という無理難題を押し付け、その拒絶をもって進軍するという横暴ぶりを発揮した。
当然この行動には、国内からさえ非難の声が上がったが、本人はかつて一大帝国を作り上げた「征服王」気取りでご満悦だった。
「陛下! 敵が集結しつつあります!」
伝令がスタイン公国軍の動きを伝える。
「その数、約6万!」
――自軍の倍の兵力に、全軍を現場で指揮するランド将軍は息を呑んだ。
「恐れながら陛下。兵力差が大きすぎます。このまま会戦すれば、勝敗は火を見るより明らかです」
ランドは非難を覚悟の上で具申した。
そもそもランドは軍事面で、この戦争に反対だった。
スタイン公国がどれだけの兵士を用意できるかわからなかったが、彼らがドラゴニア以上の兵士を集められる可能性はかなり高かったからだ。
そして実際、スタイン公国はドラゴニアの2倍の兵士を集めてきた。
このまま行けば敗北は必至だ。
しかし、ジョンは聞く耳を持たない。
「何を弱腰になっている。我がドラゴニア軍は最強だ。実際、先日の会戦でも、倍以上いる敵を破ったではないか」
ジョンの言うとおり、この数年ドラゴニアは破竹の勢いで勝利を重ねており、倍以上の敵を相手に勝ったこともあった。
……しかし、それは全てアーサーが密かに兵士たちに「7万人分の魔力」を分け与えていたからこそ実現した戦果だ。
ジョンはその事実を知らないから自国軍が強いのだと勘違いしているが、それは大きな間違いであった。
アーサーの「7万人分の魔力」は最高機密であり、前王からは例え王子相手でも絶対に漏らしてはいけないと念を押されていた。
しかしジョンがこのまま無謀な会戦に挑むのを止めるためなら言うべきと考え、ランドは意を決して言った。
「陛下。これまでの戦果は、アーサー公の力あってことです」
だがジョンは、ランドが詳い説明をする前に、「アーサー」という単語を聞いただけで怒りを顕にした。
「あいつのことは言うな! あの無能などいてもいなくても変わらんわ!」
ランドは、ジョンが聞く耳を持たないと気が付き絶望した。
「皆の者! 我がドラゴニアが最強であることを、スタイン公国の連中に思い知らせてやるのだ!」
ジョンはランドの言葉を無視し、兵士たちに向かって高らかに宣言するのだった。
†
――半日後。ついに会戦が始まった。
兵力はドラゴニア3万に対して、スタイン公国6万。
圧倒的不利の中、しかしジョン王は全くそれを意識せず、積極的な攻勢に出る。
「左軍、突撃!!」
ジョン王が考えた作戦は単純明快。左軍に戦力を集中させ、局所的優位を作りだすというものだった。
――だが。
「なんか力がでねぇ!」
「いつもならもっと体が軽いのに!」
ドラゴニアの兵士たち全員なぜか不調を訴えていた。
いつもより体が重く、力が湧かないのだ。
――それもそのはず。アーサーが軍を率いていた時は、7万人分の魔力を分け与えられていたのだ。
なんの変哲も無い農民でも、歴戦の勇者のような力を発揮できていた。
そのアシストがなくなった今、彼らが弱くなったように感じるのは必然だった。
そして、アーサーの力がなければドラゴニア「精鋭部隊」もただの平凡な兵士の集まりだ。
天才的な作戦があるわけでもなく、ただただ倍の相手とぶつかれば敗北は必然だった。
「陛下! 我が軍は押されています! すでに左軍は崩壊!」
「な、なに!?」
あっという間に自軍が負けそうになりジョンは驚く。
「どう言うことだ! お前らちゃんとやれ!」
将軍たちを怒鳴りつけるジョン。
しかし国王がいくら感情的に怒鳴りつけても兵力差は埋まらない。
「へ、陛下!! 敵が中央突破を図って来ます!」
「なんだと!?」
気がつくと、敵はドラゴニアの左軍を崩壊させ、中央に兵を集中させていた。
本陣中央、ジョン王たちの前方にいる軍団が圧倒的火力に晒される。
気がつくと、流れ弾がジョン王たちの方にも飛んでくる。
「陛下! もうこれ以上は!」
「クソ!!! マヌケどもめ!!」
ジョンはそう叫ぶが、部下を罵倒している場合ではなかった。
中央軍の戦列が崩壊し、気がつくと敵軍の旗が間近に迫っていた。
「このままではまずいです!!」
将軍が当たり前の事実を叫ぶ。
だが、ジョン王はパニックに陥っていた。
なんら有効な指示を出すことができず、ただただ狼狽する。
そして次の瞬間、とうとうスタイン軍の騎馬が王の前に現れた。
「く、くるなぁ!!!!!!」
ジョン王は反射的逃げ出そうとするが、しかし遅かった。
敵に包囲され、そのまま捉えられるジョン王。
「ジョン王を捉えたぞ!!!!」
――こうしてドラゴニア軍はスタイン公国に圧倒的な敗北を喫したのだった。
†
スタイン軍の捕虜となったジョン王。
通常であれば身代金と交換になるため、それなりの扱いを受けるところである。
しかし、今回は違った。
そもそもこの戦争は、ドラゴニアが侵略ありきでスタイン公国に無理難題を押し付けたのだ。
それゆえ、スタイン側ではドラゴニアに対する負の感情が溜まっていた。
それゆえ、ジョン王はスタイン公国の陣に連れて行かれ、十字架に縛られて吊るし上げられた。
「お、おい! やめてくれぇ!! よ、余はドラゴニア国の王であるぞ!!!!!」
ジョン王は必死にそう訴えるが、スタイン兵たちの笑いを誘うだけだった。
「おい、国王陛下だ。丁重に扱ってやらないとな!」
スタイン公国の将軍が笑いながらそう言うと、部下の一人が鞭を取り出してジョン王の前にやってきた。
「おおおおお、お、おっ! 待て!!!!!」
鞭を見たジョン王は、あまりの恐怖に身を震わせた。
そして次の瞬間、
「ギャハハハッ! こいつお漏らししやがった!!」
ジョン王はあまりの恐怖に失禁していた。
その様子を見て、スタイン公国の兵士たちは一斉に笑い出す。
「お漏らし王1世、ここに即位!」
将軍がそう言うと、さらに大きな笑いが起きるのだった。
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