3.オレ様、作物を一瞬で育てる。
「改めまして、ヒルダと申します」
“力比べ”の末アーサーに従うことに決めたヒルダは、改めて自己紹介をする。
「アーサー・ウェルズリー。ドラゴニアから来た。それからこっちはドラゴニアの王女シャーロット」
アーサーは村人たちに自己紹介をする。
「早速で悪いが村を案内してくれるか?」
「ええ。もちろんでございます。と言っても、案内するほど大したものはありませんが」
確かにヒルダの言うとおり、不毛の地にあるだけのことはあって村の外観は粗末なものだった。
泥を塗り固めたような家がまばらにあり、そこに何十人かの人間が暮らしているが、ほとんどが女子供に年寄りばかりと言う状況だった。
「構成が歪だな」
アーサーが言うと、ヒルダは説明する。
「辺境の地には様々な人間が流れ着きますが、荒れくれものが多いのも事実。女子供に老人はそんな中では生きていけません。だから私たちが守っているのです」
「――なるほど」
ヒルダの配下の男たちは、アーサーを見るなりいきなり襲って来たわけだが、それにもそれなりの理由があったと言うわけだ。
「食うにも困っている、と言うわけか」
「はい。私と男たちが魔物を狩って、その素材を街で売ってわずかばかりの収入を得ていますが、なんとかその日暮らしをするのが精一杯です」
見渡しても、魔物と戦えそうなのはヒルダと配下の男三人だけ、と言ったところだ。
相当厳しい生活を強いられていることは想像に難くない。
「アーサー、とりあえず食べ物をなんとかしてあげるべきではないですか?」
シャーロットがアーサーを見上げて言った。
「ああ。もちろんだ。民を飢え死にさせるような真似はしない」
「ご主人様にはこの村の食糧事情を解決する何かいい考えが?」
ヒルダが尋ねてくる。
「とりあえず当面の間困らないくらいにはしてやる」
アーサーは自信満々に言うが、ヒルダたちにはどんな手段があるのか見当もつかない。
「畑はあるか?」
「はい。しかし土地がやせ細っており、ほとんど作物は成長しませんでした」
「土地とタネがあるなら問題ない」
ヒルダに案内されアーサーたちは村の畑へと向かう。ヒルダの言うとおり、そこはとても畑と言えるような代物ではなかった。
土地は乾ききっており、雑草さえ生えていない。
「なるほど、確かにこれはひどいですね」
“畑”と呼ばれた場所を見たシャーロットはそう呟く。
しかし、アーサーは優雅な足どりで畑へと歩み寄っていく。
そして、片膝を立ててかがみこみ、地面に片手をついた。
――次の瞬間。
「こ、これは!!」
突然割れた地面から草がどんどん生えてきたのだ。そして、あっという間にあたりは緑で囲まれる。
アーサーの膨大な魔力が地面を伝わっていき、作物の成長を促進したのである。
「なんてこった!!」
その神業を見ていた村人たちは口を開けて驚く。
「魔力があれば植物の成長を早めることくらい簡単だ」
アーサーはたわいも無いと髪をかきあげるが、ヒルダは目の前で起きていることが信じられなかった。
「確かに魔力で植物が育つのは知っていましたが……まさかこれほどとは……」
「言ったろ。七万人分の魔力があると。もちろん魔力で植物を育てるのは効率が悪いから七万人分の食料にはならないが、しかし何百人か食わせるには十分だろう」
「……アーサー様!! 本当にありがとうございます」
ヒルダが改めて頭を下げる。
「いちいち騒ぐな。これくらいなんてことない」
「さすがアーサー!」
と、横で見ていたシャーロットが再びアーサーの腕をとって抱きつく。
「……だから抱きつくな。威厳が……」
「ちょっと得意げになってる癖に」
シャーロットに突然そんな指摘をされ「うるさい」とシャーロットの腕を振りほどこうとするアーサー。
――実際のところ、これまで戦しかしてこなかったアーサーは、己の力で人が喜ぶ姿を見て少しニヤケていたのである。
「アーサー様。この付近には、他にも食べ物がなくて困っている人々がたくさんいます。彼らにもこの恵みを分け与えてあげたいのですが、いかがでしょうか」
ヒルダがそう訊ねると、アーサーはうなづく。
「もちろんだ。生き物を育てるのには大量の魔力を使う。さすがにオレ様の魔力にも限界はあるが、少しずつこの土地を豊かにしていくことはできるだろう」
「さすがです、ご主人様!」
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