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2.オレ様、辺境の村の主となる。


 ――アーサーは、王女シャーロットとともに<辺境の地>へたどり着いた。


 ドラゴニアの南西にあるその土地は、古来より不毛の地として知られていた場所だった。

 まともに作物が育たず、荒れた荒野にはモンスターが跋扈ばっこする。

 この過酷な地に住む者といえば、国を追われたものばかりだ。

 

「……噂に聞いた通り、なんとも荒れた場所だな」


 <自らに与えられた土地>を見たアーサーの第一の感想がそれだった。


「しかし、この地には一つの伝説があります。知ってますか?」


 王女がアーサーに問いかける。


「伝説?」


「ある人間が、この地に集まった七人の追放者を集め、世界を統べるという伝説です」


 それはドラゴニアでまことしやかに語り継がれる、おとぎ話のごとき伝承だった。

 だが、神さえ信じないアーサーはそんなものを信じるつもりはなかった。


「まぁ、こんな荒れた土地を豊かにできるなら、世界統一もできるだろう。ここから始めるのは悪くない」



 アーサーたちは、ひとまず人が住めそうな場所を探して馬を走らせた。


 そして、しばらくすると、山間の集落を見つける。


 集落といっても泥を固めて作ったような家がわずかに並ぶだけの粗末な村だ。


「ここがオレ様のみやこになりそうだな」


 馬を降りる二人。

 すると、シャーロットはすかさずアーサーの腕に自分のそれを絡めた。

 その豊満な胸が、アーサーの腕で凹む。


「おい……。だからお前に抱きつかれていると威厳が……」


「いいじゃないですか。美少女の一人でも侍らせてた方が君主としての威厳がありますよ」


「…………」


 アーサーは諦めて、村へと歩いていく。


「おい、なんだお前!?」


 建物から村人が出てきた。


 ――いや、村人と言うには、少し違和感があるか。


 なにせ男たちは、皮鎧を着込み、その手には剣や槍が握られていたからだ。



 確認するまでもなく、歓迎されている雰囲気ではなかった。しかしアーサーは全く意に介さない。


「オレ様が今日からこの地の主人あるじになった。アーサーだ。よろしく頼む」


 アーサーが言うと、男たちは笑い出す。


「ああ。そう言うことか。流刑になったドラゴニアのボンボンか。時々来るんだよな」


 男たちが言う通り、政争に破れた貴族がこの辺境の地に流刑になることはよくあることだった。


「なんの力もないボンボンが、この土地でご主人様扱いされると思うなよ」


 男たちがツバを撒き散らしながらいった。


「まぁ、法も身分も、今のこの土地では意味を持たないだろうな。それくらいオレ様にもわかるさ」


「ほう。物分かりがいいじゃねぇか。じゃぁ、とりあえずその馬と金目のものを全部おいて逃げな。あと脇の女もだ」


 下品な目でシャーロットを一瞥してから、アーサーに剣を向ける男たち。


「なるほど。どうりで流刑になった貴族たちが帰ってこないわけだ」


 アーサーは平然とした表情のままそう言った。

 辺境の地の流れ者たちに、身ぐるみ剥がされて荒野に放り出された哀れな元貴族たちを一瞬だけ頭に浮かべる。


「どうした。恐怖で声もでねぇってか」


「……オレ様を貴族の家に生まれたからと言う理由だけで威張っている無能どもと一緒にするなよ」


「はは。貴族のボンボンが生意気な! どうやら自分の立場がわかってねぇようだな!」


 次の瞬間、男たちは剣を振りかぶりアーサーの方に向かって来た。


 だが――――


「なッ!!!」


 アーサーがひと睨みすると、男たちは身動き一つ取れなくなった。

 剣を振りかぶったその格好のまま、間抜けな表情を浮かべる男たち。


 ――男たちは、アーサーの圧倒的な魔力によって縛られたのだ。


「くッ!! なんだよこれ!!」


「体が動かねぇ!!」


 男たちは必死に足掻くが、苦悶の表情を浮かべるのがやっとだった。


 アーサーはそのまま男たちの方に歩み寄り、肩を叩く。

 男たちは殺されると思い込み、固く目を瞑った。


 だが、アーサーが男たちを殺すはずもない。


 彼が肩に力を伝えると、男たちの手からポロリと武器が滑り落ちる。


「どうだ、降参してオレ様の臣下になる気になったか?」


 ――――と語りかけたその時だ。


「そこまでだよ」


 凛とした声が荒野に響く。


「ほう?」


 背後から現れた一人の女。


 茶髪の長髪が、砂塵とともにたなびく。

 女は間違いなく美女であったが、ひ弱さはない。

 野獣のような力強さが全身から出ていた。


 アーサーは、女がその辺のチンピラとは格が違うと言うことをすぐさま理解した。


「ヒルダ様!」


 男たちが女をそう呼んだ。


「なんだ。このチンピラたちの頭か?」


 アーサーが尋ねると、ヒルダと呼ばれた女は「いかにも」と答えた。


「ヒルダ様は屈強な男70人が束になっても勝てねぇんだぞ!」


 男たちは、それまで恐怖に怯えていたのが嘘のように威勢良く吠える。


「確かに、それくらいの魔力はありそうだな」


 ヒルダを見て、アーサーはそう認めた。


「領主様を名乗るなら、力比べだ。アタシに勝てたら、ご主人様と認めてやるよ」


 ヒルダはそう言って、剣を引き抜く。


「面白い」


 アーサーは笑みを浮かべて剣を引き抜いた。


「ハァァッ!!!!!」


 次の瞬間、稲妻が翔けるようにヒルダの剣がアーサーに襲いかかった。


 それをアーサーは剣の一振りで迎撃する――

 だが。


 気持ちいい金属音が荒野に響く。


「ほう……」


 アーサーの剣が真っ二つに折られて、その剣先がはるか後方に飛んでいったのだ。

 

「なかなかやるな」


 アーサーが言うと、ヒルダは笑みを浮かべる。


「得物を失ったってのに、随分余裕だね?」


「なに、オレ様の本当の武器は剣じゃないからな」


 ――と、再びヒルダの剣が閃き、アーサーの胴体を斬り裂こうと襲いかかってくる。


 だが。


「――なッ!?」


 次の瞬間、ヒルダの剣は砂鉄のように粉々になって吹き飛んでいた。


 そして、そのままヒルダはアーサーの見えない魔力に包み込まれ、空中に静止した。


「ば、バカな!!」


 ヒルダは自分が手も足も出ないという事実に驚く。

 

「確かに、お前は70人分の魔力を持ってる。最強の女と言っていい」


 アーサーは静止していたヒルダの肩に手を置く。


「だが、オレ様は7万人分の魔力を持っている。悪いが桁が違う」


 そう言った後、アーサーはヒルダにかけた束縛を解く。


「どうだ。このアーサーの臣下となり、世界を統一しないか?」


 アーサーはヒルダに手を差し伸べる。


 ――すると次の瞬間。


「――――はい、アーサー様。私は強き者に従います」


 ヒルダは跪いたまま、アーサーの手を取り臣下の礼を取った。


 それを見て男たちも慌てて頭を下げる。


「安心しろ、オレ様がこの地を世界で一番繁栄した場所にしてやるぞ」


 アーサーは満足そうにそう言った。


 †


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