11.オレ様、たった一人で城を落とす。
ジョン王は、辺境付近のプロト城で戦の準備を進めていた。
アーサーへ圧力をかけるため国内外から兵士を集め、予定している10万人が揃った。
プロト城は比較的小さな城であり、これほどの大軍を収容する場所はなかったので、軍のほとんどは前方の草原に待機させている。
「陛下、準備は完了いたしました。これより出陣いたします」
元帥エリソンがそう報告する。
エリソンは、ジョンがアーサーの後任として新たに任命した元帥だ。
「頼んだぞ」
スタイン公国との戦いでは自ら軍を率いたジョン王だったが、今回は城から指示を飛ばすことにしていた。
戦地で敵にとらわれ屈辱を受けたことがトラウマとなり、前線に立つ勇気がなくなったのである。今回はエリソン元帥に全てを任せ、自分は城という安全な場所で待機しようという算段である。
エリソンは一礼してから軍を率いるために城を出た。
――ジョン王はプロト城から、ドラゴニア軍が辺境の地に進んでいくのを見守る。
(いくら兵士たちに7万人分の力を分け与えたところで、十万人を相手にすれば勝ち目はあるまい。流石に降参するだろう……)
ジョン王はそう信じて疑わなかった。
――だがエリソン元帥が辺境の地に向けて進軍し始めた僅か一時間後に事件は起きた。
――――突然響く爆発音。
「な、何事だ!?」
配下の者に尋ねるジョン。だが答えが返ってくるよりも、窓から様子を伺った方が早かった。
見えたその光景に絶句するジョン。
「た、大変です!! 城壁が破られました!!」
部下の兵士たちの声が響く――――
†
――プロト城の城壁前。
アーサーとヒルダは身を隠し、兵士が辺境の地に向けて出発するのを確認していた。
そして兵士が皆出発し、城の防備が手薄になったことを確認すると、アーサーは城壁に近づいていった。
「……はぁぁッ!!」
拳を握りしめ、全身から魔力を集めるアーサー。
普段は人に分け与えている7万人分の魔力を、今日は自らの拳に集める。
「――――ッ!!」
そして次の瞬間、呼吸とともに拳を放つと、轟音が周囲に鳴り響き分厚い城壁の一区画が吹き飛んだ。
「……!!」
ヒルダはその光景に一瞬絶句する。
事前に作戦は聞いていたが、目の前で実際にその光景が繰り広げられると、想像を絶していたのである。
「まぁこんなもんか」
「……さ、さすがご主人様ッ!! 城をたった一人で攻略してしまうとは」
「驚いてる時間はないぞ。音を聞きつけて兵士たちが戻ってこないとも限らないからな」
「はい!!」
10万のドラゴニア軍が辺境に侵攻してくる。
それに対するアーサーの作戦は単純明快だった。
軍隊は相手にせず、王を直接叩く。
この作戦は、ジョンが10万の軍隊の中央にいた場合成立しない。
だが、アーサーはそれがないと確信していた。
ジョンは武人とは程遠い臆病な性格だ。だから先日のスタイン公国との会戦に敗北した後であれば、きっと自ら戦いに参加することはないと踏んだのだ。
自分は城に立てこもるに違いない。ジョンはまさかアーサーがたった一人で城壁を壊せるとは思っていないはずなのでなおさら「城は安全」と思い込むだろう。
それならば直接ジョンを叩けば、10万の兵士と戦う必要はなくなる。
辺境の村はがら空きになるが、10万の兵が進軍するのには相当時間がかかる。だからその間にジョンを倒してしまえば、村は無傷だ。
――アーサーはジョンがいるであろう城の最上階を目指す。
アーサーはジョンの居場所を知っていた訳ではないが、ジョンは昔から高い場所にいるのが好きだったので、そこにいると予想したのである
案の定、護衛の兵士たちが現れる。
だがアーサーはその全て峰打ちで気絶させていく。
「無用な殺生はせず無力化するとは、さすがご主人様!!」
「将来オレ様の部下になる奴らだからな。不要に傷つけはしない」
アーサーは着実に上層階へと上り詰めていく。そして最上階へとたどり着くと、そこにはやはりジョンの姿があった。
「久しぶりだな、ジョン」
アーサーが言うと、ジョンはオロオロと後ずさりする。
「お、お前!! どうやってここに!!」
「どうやっても何も、城壁を壊さないと入れないだろう?」
「ば、バカな! たった一人で城壁を!?」
ジョンは既に壁際まで追い詰められていたが、それでもなお足は後ずさりしようともがいていた。
「オレ様を倒すために十万の兵士を用意したのはいい作戦だった。だが、せっかくならそのど真ん中にいるべきだったな。お前の臆病さがあだになった」
アーサーはジョンに歩み寄っていき、魔力で縛り上げる。
「さて、兵を引っ込めてもらおうか?」
「わ、わかった! 撤退させる!! だから許してくれ!!」
ジョンはあっけなく敗北を宣言する。
こうして10万の兵による侵攻はあっけなく終了したのだった。
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