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1.オレ様、追放される。



「アーサー。貴様を未開の地に追放する」


 ドラゴニア王国、王座の間。

 新国王ジョン1世は、ドラゴニアの元帥であるアーサー・ウェルズリーにそう告げた。


「オレ様を追放する? 正気か?」


 アーサーは立場としては臣下であったが、無能な男ジョンに対して払う敬意は持ち合わせていなかった。


 ジョンの父親である前王は一代でドラゴニアを発展させた名君であった。だからアーサーも信頼を寄せて仕えていた。


 だが目の前の新王ジョンは、愚かな上に軍事的才能もなく、教養もないくせにプライドばかり高いクズの中のクズであった。

 それゆえ、アーサーには彼のことを敬う気持ちなど微塵もなかった。


 しかしそんなアーサーの態度が、ジョンを怒らせたのである。


「お前のような無能が元帥では、国が滅びてしまうわ」


 ジョンは玉座の肘掛けを叩き、怒りを露にする。

 

「それで、オレ様を追放すると?」


 国王に怒りをぶつけられても、アーサーはまったく物怖じしなかった。

 終始冷静にジョンの目を見据える。


「そうだ。公爵の地位に免じて、辺境の地の領主の座を許してやろう。寛大な措置に泣いて礼を言うがよい」


 アーサーは公爵位を持つ貴族だった。謀反でも起こさない限り簡単に命を奪われることはない。

 逆に言うと、流刑と言うのはそれ以上ない罰ということになる。


 アーサーは「やれやれ」と両手の手のひらを天に向けた。


「別にオレ様は構わないが、本当にいいのか? ドラゴニア軍は相当弱体化するぞ?」


 アーサーのその言葉は、純粋な忠告だった。

 だが、ジョンは鼻で笑う。


「お前一人で抜けて何になる。7万人のドラゴニア軍が、69,999人になるだけだ」


 アーサーは心の中でため息をつく。


(軍事秘密だから知らないとは思うが、俺は7万人分の魔力を兵士たちに分け与えていたのだが……)



 アーサーのその力はドラゴニアの最高機密であり、その事実を知るのは前国王、王女、そして一部の将軍のみだった。

 

 前国王は、不出来な息子であるジョンに、アーサーの秘密を伝えなかったのである。

 それゆえジョンはまさかアーサーが国の軍事力の根幹をなしているとはつゆ程も知らなかったのである。


「とにかく、これ以上の会話は無用! 衛兵たち! こいつを引っ張り出せ!」


 ジョンがそう命じると、アーサーの元に衛兵たちが駆け寄ってくる。だが、彼の腕を衛兵たちが掴むことはできなかった。アーサーのオーラに怖気付いてしまったのだ。


「まぁいい」


 アーサーは自ら踵を返し、王座の間を後にした。


 †


 アーサーは自室に戻り身支度をして、そのまま宮殿を後にする。


 無能な王に一方的に追放を宣言されるのは癪に触ったが、しかし冷静に考えれば渡りに船だった。


 アーサーは、成人する前からずっとドラゴニア軍の最前線で戦い続けてきた。人生のほとんどを戦地で過ごしてきた。

 だから、そろそろ前線で戦うだけではなく、領主として領地を発展させる経験を積みたいと思っていたのだ。

 そんな時に、辺境とはいえ土地を与えられ自由の身になったのだ。


 これ以上の機会はない。


(ひとまずオレ様はオレ様で自由にやるさ)


 ――――

 ――

 と、アーサーが王宮を出ようとした時だ。


 後ろから追いかけてくる者の姿があった。


「アーサー!!」


 アーサーが振り返ると、金髪を揺らしながら健気に追いかけてくる少女の姿があった。


「王女、どうしたんだ?」


 シャーロット・ドラゴニア。

 その名の通りドラゴニアの王女である。前々王の娘で、現国王ジョンの従妹いとこである。


「どうして何も言わず国を出て行こうとしているのですか!?」


 シャーロットはアーサーの元に駆け寄ると、その腕をぎゅっと掴んだ。


「なんでって、お前さんの従兄サマが追放だと言うからな。国王様の命令じゃ仕方がない」


「アーサーならあんなへっぽこ一撃で倒せるのに!?」


 王女とはいえ国王をへっぽこ扱い。アーサーは自分の王への不遜な態度は棚に上げて、王女の口調に苦笑いした。

 

「まぁいいさ。ちょうどよかった。辺境の地で一国を築くのも悪くないだろ? どうせ遅かれ早かれ世界はオレ様のものになるんだから。遠征だと思えばいい」


 ひょうひょうと言うアーサーに、シャーロットは掴んだ腕を自分の胸に引きつけて言う。

 

「じゃぁ、私も連れて行ってください」


(……やっぱり言うと思った)


 アーサーは内心でひとりごちる。


「仮にも王女様が辺境の地で暮らすのか?」


「遠征なんでしょ? 敵国に行くわけではありません。何も問題ないでしょう」


 アーサーを胸の下からうるうるした目で見上げるシャーロット。


「辺境だぞ? 王宮とはわけが違う。考え直した方がいいと思うが」


 アーサーは親切心でそう言った。しかしシャーロットは引き下がる気がなかった。


「このまま王宮に居ても危ないことに変わりはありません。ならばアーサーと一緒に居た方がいい」


 確かにジョンとシャーロットは犬猿の仲だ。いとこ同士とはいえ、何をされるかわからない。


「それに、私がいればきっと領地経営には役に立つはず!」


 アーサーは顎を撫でながら思案する。


 確かにシャーロットには行政の知識があった。その力は折り紙つきだ。

 彼女は平凡なことをやらせると天才的な力を発揮するのである。

 領地経営をするにあたって役に立つのは間違いない。


「……わかった。来たければ一緒に来るといい」


 アーサーが言うと、シャーロットは満面の笑みを浮かべた。


(これから辺境の地に追放される男についてくるのに、これほど嬉しそうにする奴も珍しい)


 アーサーは本気でそう思った。


「それはそうと王女……。お前に抱きつかれていると、オレ様の威厳がなくなるから離れてくれないか?」


 アーサーはそう苦言を呈するが、シャーロットは手を離すつもりは微塵もなかった。


 †


「陛下。ようやくあの無能を追い出すことに成功しましたな」


 宰相のベケットは、いやらしい笑みを浮かべながらそう言った。


「ああ、全くだ。これでようやく自由に兵を使える」


「しかし間抜けな奴でしたね。陛下が追放すると告げたら、全く反抗することもできず、ただただ黙って従っておりましたぞ」


「所詮あの男は、父上という後ろ盾があっていばりちらしていただけのこと。だが私は無能を雇うつもりはない」


「さすが陛下でごさいます」


 ベケットがおだてると、ジョンはご満悦の笑みを浮かべた。


「……して陛下。この後はどうされますか?」


 ベケットが聞くと、ジョンは立ち上がる。


「余の力を示すため、親征を行う。西方のスタイン公国を攻めるぞ」


「さすがは陛下! 大王になられる方は違いますな!」


「ドラゴニアは今に、ランス王国や神聖帝国をも凌駕する大王国になるぞ!」


 ハハハと高笑いする王と宰相。

 しかし、そのたった一週間後。

 彼らは思い知ることになる。


 ――アーサーが居なくなったことで、兵力が半減していたことを。


 †


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― 新着の感想 ―
[一言] どれだけ相手が無能で見下しているとしても自分の事を「俺様」というやつに普通ろくなヤツはいない。 主人公が人格者とまではなくても普通の人物なら「俺様」という台詞は合わないとおもう。
[気になる点] 仮にも元帥をやっていたくらいだから、無能者呼ばわりは違和感を感じました。不敬者の方がしっくりきます。もしくは、無能と判断したエピソードがあると良いかも。
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