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新大陸と旧大陸

「ピッコロミニ枢機卿……、

 いや、今はピウス3世教皇猊下……」

天井より声がする。

火傷を負った痕が痛々しいが、バチカンの「影」が教皇の前に現れた。

ピウス3世は驚き

「そなたは死んだと思っていた」

と思わず口にした。

「サツマンのネズミに思わぬ攻撃を食らいました。

 しかし、神の祝福でこのように復活して御座います、エイメン!」

この男はアルプスの行者輩慈の自爆攻撃を受け、一時は生死の間を彷徨うも、生き返って来たのだ。

「猊下、如何致しますか?

 神の敵、イェヒ・シマンシュを始末しましょうか?」

「いや、それは良い」

「は?」

「東ローマ副帝はこれ以上の教会破壊は望んでいない。

 むしろ私の望む改革を後押ししてくれている。

 今は『仕事』をせずとも良い」

「分かりました、『今は』何もしないで置きましょう」

……バチカンは相変わらず侮れない。

 カボートの探検もコロンブスの探検も、家久が思ったより進捗していない。

 甘く見積もっていたのには、家久の無知から来るものもあった。

 彼は大西洋の広さを知らない。

「薩摩から琉球を通って明国に行くようなもんじゃろ。

 まあ、いにしえの遣唐使も失敗する事はあったが、そいでもちゃんと辿り着けたでな」

 程度に考えていた。

 本で読む学問、学者から聞く学問は得意だが、地球レベルの地理学については実感が湧かない。

 人間、万能でないからそれは仕方ない。

 これで「海の果てには地の底に落ちる滝がある」程度の知識だったから、探検の支援等打ち切ったであろう。

 幸い彼は、海の果てに新大陸が在るのを知っている。

 故に「嘘を吐いたな」ではなく「なんで見つけられない? 迷ったの?」という叱責をしていた。


 カボートやコロンブスだけでなく、援助金欲しさの偽の探検家以外は揃って

「時間を正確に知る方法が欲しい」

 と口にした。

 家久は時差というものを知らない。

 猫の目時計等は、臨機応変に対応する戦場ではまだしも、正確な速度を計算し、位置を調べる上で役に立たない。

 彼等は猫は船内のネズミを狩らせる事に専念させ、大量の砂時計を持ち込んでいた。

 砂時計も密閉不足で湿ってサラサラと落ちなくなると困るので、最高品質のものを使う。

 それでも、もっと正確な時計が有れば、その方が良い。

 家久は理詰めで説得すれば理解がある君主なので、科学的には当時進んでいたイスラム世界に協力を求める。

 こうして誤差の出ない時計の開発が始まった。




------------------------------




 予定通りの進捗でないのは、イスパニア戦線もであった。

 カスティーリャやアラゴンから海を奪う、それについては島津家の思惑通りに事が運んだ。

 目的を果たした為、島津各軍は戦場を離脱する。

 ナポリ島津家の島津忠隣はバルセロナやバレンシアの統治、島津忠仍は北アフリカ・マウレタニアに戻ってこの地の統治、島津忠偉らダルマチア島津家は南仏まで後退していた。

 ダルマチア島津家では、祖母のジャンヌ・ダルクがそろそろ寿命である。

 フランス王シャルル8世に話を通し、プロヴァンスで休養を取っていた。

 ジャンヌ・ダルク(ジャンヌ・デ・ザルモアーズ)は病床に就き、報せを受けた娘のシャルロットも居城より駆けつけていた。

 島津家はこんな感じである。

 他ではシャルル突進公は、レオン王国の再建とナバラ王国と連合という目的を達成した後、今は新大陸の探検と航路開拓とブルターニュ半島奪還計画に夢中になっている。

 カスティーリャ、アラゴンと国王同士の講和は出来たが、まだ戦争が終わっていない場所もある。

 サンチアゴ・デ・コンポステラはポルトガル軍、ジブラルタルはイスラム連合軍が攻めているが、1年経つのにまだ攻略出来ずにいた。

 未だに剣と盾のポルトガル軍に対し、ゴンサロ・フェルナンデス・デ・コルドバが指揮するイスパニア軍は長槍(パイク)と四隅に鉄砲を配する方陣、コロネリア戦術で圧倒的に優位に立ち、逆にア・コルーニャ等北部地域を奪還した。

 ゴンサロは二正面作戦を避けるべく、シャルル突進公占領下のレオンには手を出さず、3年間の休戦協定を結んでいた。

 その為、この方面のイスパニア軍はポルトガル戦に専念し、ポルトガルからの領土回復レコンキスタを始めている。


 南方のジブラルタルでは、オスマン帝国の戦線離脱により戦線膠着していた。

 地中海の反対側に在るオスマン帝国は、皇帝家久からの忠告を聞き入れ、兵站が長くなり過ぎるイスパニア戦役を切り上げた。

 それを見てエジプトのマムルーク朝も、半数以上の兵を引き上げてしまう。

 それでも数万のイスラム連合軍が残った。

 だが剣と盾装備の歩兵部隊であるナスル朝コルドバの部隊、重装騎兵のハフス朝の軍は、山岳戦でカラトラバ騎士団、アルカンタラ騎士団、エル・シド剣士団そしてカナリア諸島現地人部隊に打ち負かされていた。

 この方面では密かにポルトガルが同じキリスト教のジブラルタルに補給を行っていた為、陸路での封鎖作戦も効果が出ていない。


 こういう時こそ、遊軍である島津義弘率いるスパルタ軍が出張れば状況は変化するのだが、彼はイタリアに移動してしまった。

 ここで教皇領を切り崩す戦争に、勝手に参戦していたのだった。


「クソ親父(おやっど)はないごでイスパニアからイタリアに移動した?」

「飽いたチ言うちょいもした」

「飽いた…………じゃと?」

 家久は九十歳になろうとする父親に、相変わらず手を焼いていた。


 ローマ教皇領蚕食戦では、日向送りにされたリアリオ家に嫁いだミラノ・スフォルツァ家出の女傑・カテリーナ・スフォルツァが籠城戦をしている。

 フォルリに居た彼女の夫、ジローラモ・リアリオはフィレンツェのロレンツォ・デ・メディチの手の者に暗殺された。

 亡き教皇シクストゥス4世の親族のジローラモ・リアリオは、ロレンツォを亡き者にしようとした「パッツィ家の陰謀」で、教皇に代わって後方から指揮をしていた。

 ロレンツォはその恨みを晴らす。

 ジローラモ・リアリオ暗殺とフィレンツェ軍急襲により、一時は彼女と子供たちも敵の手に落ちる。

 この時、フォルリの城塞は降伏しなかった。

 カテリーナ・スフォルツァは城兵を説得すると告げて解放して貰うと、そのまま城に入って出て来ない。

 敵軍がカテリーナに対し、早く城兵を説得して出て来い、さもなくば子供を殺すと脅す。

 カテリーナは城壁に立つとスカートを捲り上げ

「子供なんざ、ここから幾らでも出してやるよ!」

 と叫んでみせた。

 以降、籠城戦が続いている。


「中々の女傑じゃ、気に入った」

 島津義弘は笑う。

(この人、なんで此処に居るんだ?)

 ロレンツォ・デ・メディチはフィレンツェにいきなりやって来て、我が物顔で居座る義弘に困惑していたが、冷静さは崩していない。

「老将軍はフォルリ城を力で攻める気ですか?」

 そう問う。

「いや、あん女子(おなご)は倅の側女の娘じゃチ聞いたでな。

 俺いの孫娘の姉チ事になる。

 何とか助けてやろうと思うて来たのよ」

 かつてのミラノ公ガレアッツォ・マリア・スフォルツァの愛人で、その後島津豊久に奪われ、家久が側室にした絶世の美女ルクレーツィア・ランドリアーニ、その娘がカテリーナである。

 家久とルクレーツィアの間には子がいて、現東ローマ正帝コンスタンティノス12世の正室となった。

 義弘は孫娘と父違いの姉妹になる女性を助けに来たと言うのだ。

(???

 俺が聞いていたオーガ・シマンシュと違うな。

 イエヒサが言うには理屈も通じない、子を子と思わん身勝手な男だという事だが……?)


「ところでメディチ殿、そん女子(おなご)歳の頃は幾つじゃ?」

「さて、確か25、6だったと思ったが、なにか?」

「亭主を討たれたチ事じゃな?」

「ああ」

(俺の手の者が殺ったからな)

「良か!

 養子としたこん又五郎忠比の嫁に迎えようぞ」

「ま、ま、待ちやい、義父殿(おやっどん)、俺いはまだ十八歳じゃど。

 七つか八つも年上の女子(おなご)など……」

「十八で嫁がおらん方がおかしか。

 まあ、おはんの祖母(ジャンヌ)殿の身の固さでそうなったかもしれんが。

 なあに、干支二回り上でも男は大丈夫なもんじゃ」

「二回りて、俺いは下手したら四十二の婆ァを嫁にされる事も有っとか?」

「そうじゃ。

 七つか八つ上というのは、可愛いものじゃと思え!」

 やり取りを聞いていたロレンツォは

(なるほど、確かに子を振り回しておる、ククク……)

 と内心で笑っていた。


 結果として、家久の取り決めを無視してカテリーナの子、即ちリアリオ家の者であるオッタヴィアーノ・リアリオの家督相続を認め、代わりにフォルリとイーモラはフィレンツェの庇護下に入る事で決着した。

 そして自ら刃物を持って抵抗するカテリーナを(肉体言語で)説得し、スパルタ島津家嫡男島津忠比との再婚を承知させると、島津義弘と二千の軍勢はそのままフィレンツェに居候する。

 フィレンツェでは先代教皇インノケンティウス8世、俗名に戻してジョヴァンニ・バッティスタ・チーボが安楽な生活をしていた。

 教皇は在任中は質素な生活、清貧を貫くが、教皇を辞めた後は贅沢可とする。

 これにより教皇になる迄は清貧で我慢するだろうから、教会は腐敗と言われずに済む。

 引退後はどうでも良い、庶民も先代の事等覚えていないだろうから。

 そのジョヴァンニ・バッティスタ・チーボと島津義弘はフィレンツェの町でしばらく遊び暮らす。

 詩を交換したり、音楽を聴いたり、歴史を語らったりと優雅な日々を送る。

(※鎌倉武士以来、古式ゆかしい武士は教養豊かで文化レベルが高い猛獣と言って良い。

 敵の首を取ったら、その敵を讃える和歌の一首も詠めるくらいでないと古武士とは言えない)




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「……という手紙がロレンツォ・デ・メディチから来た。

 あのクソ親父、何考えておるやら……」

 皇帝家久は苦虫を何匹も噛み潰した顔をしている。

 無論メディチ家からの手紙が報告文だけな筈が無い。

 しっかりスパルタ島津軍の遊興の請求書も添えられていた。

「惟新斎様のスパルタ軍は少数精鋭。

 戦で人の数倍戦う為にも、時には遊び呆けて英気を養うのもアリごわそう。

 それにフィレンツェならば、イスパニアの戦に好きな時に戻れる場所でありもすな」

 イスパニア戦の功績で東ローマ元老院議員に抜擢された新納忠清が皇帝を慰める。

 実際、ダルマチア島津軍とスパルタ島津軍は、それぞれ南仏とイタリアに駐留している為、イスパニアに戻ろうと思えばすぐだ。

「ではあるが、シモネッタ殿の諫言も有ってな、暫くは戦はせんでおきたか。

 もう少し銭金の貯まるのを待たんと」

 戦争は金食い虫である。

 大敵二つを相次いで叩きのめしたが、その代償は安いものではない。


 その銭金を遣って支援している新大陸探検(本人たちはバイキング航路開拓とインド航路開拓のつもり)は、嵐に遭ったり、グリーンランド回りの航路の厳しさから停滞している。

 道行の不安さから、船員が反抗したりサボタージュして航海を打ち切らせてしまうのだ。

 そんな中、家久を焦らせる報告が届く。

 フランドルの後援を受けた探検隊が、大西洋の彼方に陸地を発見したと言うのだ。


 その地は偶然発見されたものの、その後暫く再発見出来なかったが、後にこの時の航海日誌を元にファン・デ・ベルムデスという探検家が位置を確定して「ベルムデス島」、英語読みで「バミューダ島」と呼ばれるようになる島であった。

 新大陸では無い。

 だが、家久は焦った。

 このままでは新大陸がシャルル突進公に発見されるのは時間の問題だ。

 彼等の入植が始まってしまう。

 せめて同じくらいの時期に、サツマン朝東ローマとしても新大陸を発見したい。

 先住権を主張したい。


「新納」

「はっ」

「おはんの配下に十二人の強者がおったの」

「はい。

 但し上弦と名付けた六人に比べ、下弦と名付けた六人は格段に劣りもす」

「そん者を探検家どもに付けよ。

 船乗りには怖気の余り、船将に歯向かう者がおると聞いた。

 そん奴等を喰い殺す者が必要じゃ」

「分かいもした。

 直ちに……」


 こうして督戦隊というか政治将校を付けられたカボートとコロンブスの艦隊では、反乱が「消滅」し探検が捗る事になる。

 そしてついにグリーンランド回りで探検していたジョヴァンニ・カボートとセバスティアーノ・カボートの父子は新しい陸地を発見する。

 彼等は此処をサツマニア・ノヴァと名付けた。

 そして同じ頃、コロンブスの船団も「インド」を発見する。

 彼の勘違いにより、その地は西インドと後々まで呼ばれるようになる。


 偶然にも同時期、他国の探検隊も次々と大西洋の先に陸地を見つけ出した。

 フィレンツェのロレンツォ・デ・メディチが博打的に送り出したアメリゴ・ヴェスプッチも、処女航海で新しい陸地を発見する。

 ロレンツォ・デ・メディチはヴェスプッチ家の出世頭グイド・アントニオ・ヴェスプッチに

「何故か知らんが、あの男には運が有るように思った」

 と語ったように、何度も失敗に苦しめられた東ローマやフランドルと違い、あっさりと見つけ出してしまった。

 そしてバミューダ諸島を発見したシャルル突進公の後援を受けた探検家マルティン・アロンソ・ピンソンが、次の探検でそのまま西進をした結果、彼もまた陸地を発見する。

 東ローマ、フランドル、そしてフィレンツェが新大陸入植に向けて動き出す。

おまけ:

ロレンツォ・デ・メディチは3人の息子たちとカード(トランプ)をしていた。

この時期、ジョーカーというカードは無い。

クイーンに相当するカードを1枚抜いて3枚にした「ババ抜き」をしながら、息子たちの性質を見極めていた。

ロレンツォが意図的にクイーンを1枚抜きやすいように持つ。

長男ピエロは何の考えも無しにそれを抜いて、思いっきり悔しい表情を露わにした。

(こいつは愚か者だ)

ロレンツォはそう評しながら、他の子を見る。

ピエロが父の真似をし、1枚意図的に取らせるカードを浮かせる。

次男ジョヴァンニはそれをじっと見ると、次にピエロの表情を見て、無関係の所からカードを引いた。

(こいつは賢い)

ロレンツォは勝って一抜けする。

なんかバタバタしているピエロに、三男ジュリアーノはクイーンで無いカードを浮かせ、それを取らせた。

勝って喜ぶピエロと、それを見てニコニコしているジュリアーノ。

(こいつはそれ程賢くは無い、だが心優しいな)

フィレンツェの次代の男たちへの評価であった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 教養レベルが高い猛獣という説明に納得。 新大陸がとのようにサツマに滅茶苦茶にされるのか期待w それでも史実に比べれば遥かに先住民にとって幸せに違いない!
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