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第三次薔薇戦争

貪欲なヒキガエル、リチャードは魔術師を使って悪魔を召喚した。

その悪魔は、決して呼んではならぬ悪魔であった。

奴は契約を交わして願いを適える代わりに魂を貰う、そんなランクの低い悪魔ではない。

奴は言った、対価も生贄も要らぬ、と。

奴はこの世に呼び出されただけで満足だった。

大地を地獄に変えるのは、己がすれば良いだけだ。

神に祝福された大地に反吐を吐き、穢す。

この世を破滅させる大魔王を、リチャードは知ってか知らずか呼び出した。


「悪魔よ、俺はこの世の全てを恨む。

 俺をこのような不具な形で世に送った無能な創造主を恨む。

 俺はつまるところ俺の身すら要らぬのだ」


「我を呼び出しし者よ、気が合うな。

 我は汝の魂等と云う小さな物は要らぬ。

 汝は汝でこの世を壊せ。

 我は我で勝手にこの世を穢すだけだ」


それは悪魔の子が悪魔の王と手を組んだ瞬間である。



ーー シェークスピア『リチャード3世』より

 イングランドに上陸したシャルル・シマンシュ(島津忠釈)は、アポイントメントも取らずに王宮に行った。

 門番は島津豊久を知っていた。

 シャルル・シマンシュを見た途端

「お久しぶりです、トヨヒサ公!

 またお会い出来て光栄です」

 と跪く。

 違う違うと仔細を語り、そのまま顔パスで入って行く。


「ヒッ!

 ト、トト……トヨヒサ公?

 何故ここに?」

 悪名高きリチャード3世が震える。

 無理も無い。

 第一次薔薇戦争で味方にはなったものの、各地を焼き討ちにし、貴族を殺しまくり、国土を荒廃させた男である。

 敗北を覚悟し、逃げ出したヨーク家の者を差し置き、勝手に兵を率いて逆転勝利した猛将。

 一方で「死んだ父への供養の送り火」と称して、五ヶ村を焼き討ちした悪魔の化身。

 ラドフォード橋の戦い当時、7歳だったリチャード3世にとって焼討将軍イフリートトヨヒサの名はトラウマとなっていた。

 肖像画以外に、ディジョン条約の時に直接豊久を見たが、伝説の魔王を観たような恐怖を覚えたと言う。

「俺いは親父殿おやっどんとは違うで

 俺いは俺いじゃ」

 シャルルが豊久の子で、フランドル王の婿養子、つまり自分の姪の婿だと知り、ホッとする。

「義兄上の紹介状とかは無いのかね?」

「おう、そう言えば有った」

「最初からそれを見せて欲しいな」

「俺いは俺いの責にて動く。

 岳父殿に迷惑は掛けられん」

「いや、そうじゃなくてな……」

 リチャード3世は苦笑いしながら話す。


 シャルル・シマンシュからは、エドワード5世とヨーク公の兄弟をくれと伝える。

「そうは行かんな。

 王位継承可能な者を、目の届かぬ場所には置けぬ」

「そうか。

 だったらあん兄弟を殺せ」

「何故そうなる?

 あれは私の甥だぞ」

「じゃったら塔から出せば良か」

「殺せぬが、解放も出来ぬ。

 それくらい分かれ」

「分からん。

 俺いに分かるのは、おはんが怯えておる事じゃ」

「私が怯えている?」

「おはん、負けるかもしれんチ考えちょっだろ。

 おはんは甥に謀反をして王位に就いた。

 後ろめたいのか?

 どうもおはん、腰が座っておらん。

 万が一に備えて血の繋がる者を殺せん。

 じゃが、甥を担いで自分への謀反を起こされっと怯えて、解き放つ事も出来ん。

 謀反起こしたなら、いい加減に腹を括れ」

「私にそんな口を利く者は初めてだ。

 反乱した以上覚悟を決めろだと?

 普通反乱を非難するものだろ」

「非難して欲しかか?」

「そうは言っていない」

「覚悟が決まったなら、甥の兄弟は要らんじゃろ。

 だからくれ。

 やれん言うなら殺せ。

 甥を担いで謀反起こされたら叩き潰せ。

 そいくらい太々しく生きんか!」

 リチャード3世はしばらく黙り、考え込んだ。

 そして口を開く。

「良いだろう。

 フランドルに連れて行け。

 それはそれとして、此方も要求が有る」

「何じゃ?」

「私や我が子が生きている内は、甥どもをイングランドに戻さんと約束しろ」

「何じゃ、まだ自分が負けると思っておるのか」

「当たり前だ。

 強引に王位を奪った者は、逆に悲惨に王位を追われる事も有るだろう。

 私は覚悟は出来ている。

 だが、それとは違う。

 甥がイングランドに来るという事は、私に挑戦するという事だ。

 そうなったら、叩き潰す覚悟は出来た。

 信頼した兄の子、殺したくないから、殺させる状況を作るな」

「分かった、そいなら良か」

「もう一つ、フランドルは私に味方しろ」

「分かった」


 これにはフランドルから随行した騎士の方が驚く。

 シャルル突進公の許可等当然取っていない。

(よろしいのですか?

 陛下の許可を取らずに)

「俺いは俺いの責にて動いちょる言うたじゃろ。

 岳父殿とは無関係じゃ。

 味方せい言われたら、俺いが味方になれば良か」


 従者たちの頭には

「フランドル金羊毛騎士団、俺い総勢一名参陣!」

 とドヤ顔で戦場に立つ忠釈シャルルの姿が浮かんだ。

 どうにかしないと……。


 フランドルにエドワード5世とヨーク公の幼い兄弟を連れ帰った一同は、有った事を突進公に報告する。

「流石は我が子よ!

 お前の好きにやれ!」

「流石は義親父殿、話が早い!」

(ダメだ、この義父子、似た者同士過ぎる……)

 フランドルで、頭蓋骨の中に筋細胞でなく脳細胞が入っている者たちは一斉に頭を抱えた。




------------------------------




 1483年はそれで終わる。

 1484年、状況が変わる。

 4月、リチャード3世の息子、エドワード・オブ・ミドルハムが急死した。

 リチャードは自身の甥で、王妃アン・ネヴィルの養子であるウォリック伯エドワード・プランタジネットを後継ぎに指名した。

 そして、この年もあったヘンリー・テューダーのイングランド上陸を水際で阻止する。


 1485年3月、王妃アン・ネヴィルが死亡する。

 病死なのだが、怪しい。

 リチャードはエドワードを後継者から外し、ヨーク家系のリンカーン伯ジョン・ド・ラ・ポールを新たに後継者に立てた。

 そしてまた、ヘンリー・テューダーの上陸を水際で阻止する。


 リチャード3世は、シャルル・シマンシュが看破したように腰が座っていなかったようだ。

 相次ぐ身内の死、度重なるヘンリー・テューダーのイングランド復帰行動、次第に嫌気が差して来たようだ。

 彼はヘンリー・テューダーの上陸を邪魔せず、野戦で決着すると、一か八かの賭けに出た。


「リチャード奴が、自暴自棄やけになっちょっようじゃの」

 地道だが正しい水際阻止を止めて、ヘンリー・テューダーとの決戦に切り替えたリチャード3世の心理をシャルル・シマンシュは読んだ。


「イングランド王が冷静で無いなら、敢えて味方する必要も無いでしょう。

 言を曖昧にして援軍には行かないようにしましょう」

「何言うちょるか?

 じゃからこそ行くんじゃろが!」

「ああ〜、突進公テメレーアの養子はやっぱり突進馬鹿テメレーアか!」

「おい!」

「は、陛下!」

突進公テメレーアとか失礼な奴だな、殺されたいか?」

 テメレーアは「突進」「無謀」「豪胆」「猪突」「無鉄砲」「軽率」等色々訳せるが、基本余り良い意味では無い。

「失礼をお許し下さい」

「良いか?

 島津だけで既に『破壊』『突撃』『妖怪』『人斬り』等の意味が有るのだ。

 島津テメレーアとか、修飾語の二重掛けだ。

 全く失礼な奴だ、島津一つだけで十分なのだ」

(そっちか!?)

「それはそうと、我が子よ、インド卿と肥後衆、それにイングランド弓兵を指揮下に入れる。

 思う存分暴れて来い」

「流石は義父上!

 期待に添えるよう気張ってくんでな!」




------------------------------




 イングランド、グレートヤーマスが焼かれる。

 次にノリッジが焼討ちと略奪に遭う。

 次の被害はセットフォードだった。

 そしてケンブリッジが破壊し尽くされる。

 メルボルン、リッチワースと火の手が上がった。

「段々近づいて来てるねえ……」

 リチャード3世が遠い空を見ながら呟いた。

「呑気に言っている場合では御座いますせんぞ。

 テューダー奴、爵位を剥奪されたからと言って、やって良い事と悪い事が有るぞ」

「近づいてるのは味方だよ……」

「は?」

「ヘンリー・テューダーはウェールズに上陸したから、方角が違うだろ。

 おそらく、今来てるのはフランドルのブルージュを発した部隊だろう」

「まさか……」

「多分、サツマン人だ……。

 どうしよう、まさかあの若造が援軍の指揮官になるとは思わなかった。

 突進公自らが来ると思っていたが……」

「いや、それはハンプシャーのドラゴンがウェールズのドラゴンに変わったくらいの意味しか有りませんぞ」

「どゆこと?」

「突進公の方のシャルルが来ようが、シマンシュの方のシャルルが来ようが、大して変わらないって事です!

 どうしてフランドルなんかに援軍求めたんですか!?

 連中を呼ぶくらいなら、レッドキャップかバグベアを呼んだ方がまだマシです」

 何かもうどうでも良くなった感じのリチャード3世には、レッドキャップもサツマンも大した違いでは無い。


 かくしてサツマン・モッコス・ヒャッハー部隊と合流したリチャード3世は、自軍8000とフランドル軍800を併せ、ウェールズで兵力を集めたヘンリー・テューダーを討つべく出撃した。


 両軍はホズワースで対決する。

 リチャード3世陣営兵力8800、対するテューダー陣営兵力5000。

 戦いは、シャルル・シマンシュが、テューダー軍のフランス人傭兵部隊に突撃して始まった。


「全く……、サツマン人を援軍に呼ぶ等、リチャード・オブ・ヨークは血迷ったのか?」

 ヘンリー・テューダーは、僅かな兵力ながら、自軍を切り崩していくフランドル軍を見て文句を言った。

「まあ、私がリチャードの妻子に毒を盛らせたから、リチャードが情緒不安定になるのも分からんではないが」

「しっ……誰が聞いているか分かりません。

 リッチモンド伯ヘンリー・テューダーという人物は、真面目で律儀な方であります。

 決して本性は腹黒い陰謀家なのだと知られてはなりませんぞ」

「分かっている、叔父上。

 それよりも、スタンリー兄弟は必ず裏切るのだろうな?」

 ヘンリーの叔父、ペンブルク伯ジャスパー・テューダーは、リチャード3世の陣営に居て、少し離れた場所に布陣したウィリアム・スタンリー卿とトマス・スタンリー男爵のスタンリー兄弟を味方に付けていた。

 また、同じように離れた場所に布陣したノーサンバランド伯ヘンリー・パーシーも調略済みである。


 だが、ホズワースの戦況は思わしくない。

 フランドル軍の猛攻が凄まじい。

 イングランド兵は戦後

「かかれー!」

 と叫びながら槍を振り回して突撃する騎士を夢に見て、飛び起きる程のトラウマを刻み込まれた。


 それでもテューダー軍前線指揮官オックスフォード伯はよく指揮し、リチャード3世側前線指揮官ノーフォーク公を戦死させていた。

 焦れたリチャード3世は、ノーサンバランド伯に攻撃参加命令を出す。

「我々はただ今、昼食ランチの最中です。

 攻撃は食後に行います」

 ノーサンバランド伯はそう答え、命令を拒んだ。

 ノーサンバランドの長弁当で軍は動かず、周辺に布陣した部隊もそれに倣った日和見をしていた。


 フランドル軍は勝ち進みながら、奇妙さを感じていた。

「犬童殿」

「島津殿、どうした?」

(犬童頼兄と島津忠釈は同格。

 同格ってしておかないと面倒臭いので)

「おかしか。

 戦っちょるんは、リチャードの前衛と我々だけじゃど」

「島津殿もそう思われるか。

 これは敵中に孤立する危険性が出たのお」

「一刻も早く全軍蹴散らさねば」

「そうじゃな」

 自分たちも手を抜くとか、さっさと逃げ出すとか、そんな選択肢は鎮西武士には無い。

 味方が日和見なら、自分たちだけで勝てば良い。

 フランドル軍は更に攻勢を強め、あと少し進めばテューダー軍中軍を壊滅させ、そのまま実質的なテューダー軍指揮官であるオックスフォード伯を背後から攻めようとし始めていた。


「もう待てん!

 スタンリー兄弟を動かせ!」

 律儀者の仮面が外れたヘンリーが、爪を噛みながら怒鳴る。

「しかし、今からでは伝令が間に合いません」

「鉄砲を打ち掛けよ!」


 スタンリー兄弟の陣地に、テューダー軍から銃弾が飛び込む。

 有効射程より外からだから、被害は出ない。

 そして彼等は賢明にもその意味を理解した。

 スタンリー軍は寝返り、リチャード3世の軍に側面から攻撃を掛けた。


「昼食終了!

 我々も攻撃参加するぞ!

 敵はリチャード・オブ・ヨーク!」

 ノーサンバランド伯の軍もリチャード3世を攻める。


 ホズワースの戦いの勝敗は決まった。

 リチャード3世はやはり、正しい判断能力に欠けていた。

 一か八かの投げやりな判断が多く、味方の動きに鈍感であった。

 過度に味方の忠誠に期待し過ぎ、寝返りを予期出来なかった。

 そして、最後に自暴自棄な突撃をしてヘンリー・テューダーと直接対決をしようとし、ある程度は上手くいったものの、ついにはスタンリー軍に討ち取られてしまった。


「返り忠か……」

「どうやら調略済みじゃったようじゃの」

「テューダーと言うの、中々の狸親父じゃのお」

「それで島津殿、これからどうされる?」

「逃げる」

「そうですな。

 それでどちらに?」

「敵の最も盛んな方に突っ込む。

 背を向けて逃ぐると追い討ちに遭うでな」

「では、彼方じゃな」


 犬童頼兄が指したのは、まさにリチャード3世を倒して意気上がるスタンリー軍の方だった。


「全軍、俺いに続け!!」

「島津殿を追え!

 遅れたら置いて行くぞ」


 フランドル軍はテューダー軍を中央突破し、そのままスタンリー兄弟の軍に激突、勝ちに油断した彼等を穿ち抜くと、そこから方位を変えてノーサンバランド伯の軍を蹴散らしに掛かった。


「何て奴等だ。

 直ちに全軍、フランドル軍を攻撃……」

「待たれよ、叔父上。

 味方は戦い疲れている。

 攻撃はならん」

「しかし、味方が次々と殺されている」

「殺されているのは、ヨーク家の陣営から寝返った者や、日和見から味方に転じた者ばかりだ。

……恩賞を出す貴族は少ない方が良いとは思いませんか?」


 ヘンリー・テューダーの判断により、フランドル軍は脱出に成功する。

 シェークスピア等がサツマンを嫌う理由の一つ、この脱出という名の突撃でスタンリー兄弟とノーサンバランド伯の他、百人近い貴族が首を刎ねられ、死体を打ち捨てられた。

 この戦いの後、ヘンリー・テューダーは即位してヘンリー7世となる。

 テューダー朝は、大貴族がフランドル軍に殺されまくった後に始まった為、ヘンリー7世が望んだ中央集権型、王権の強い王朝となったのである。

おまけ:

シャルル1世は妻の甥、自身の義理の甥となるエドワードとリチャード兄弟を迎えると、早々に告げた。

「エドワードには我が娘と結婚して貰う。

 俺の婿、マクシミリアンとシャルル・シマンシュの義弟となって貰う。

 そうすれば、お前には我がヴァロア家とハプスブルク家と島津家との関係が出来る。

 イングランドに復帰する時に役立つだろう。

 リチャードはヨーク公の地位を捨てろ。

 お前とナバラ王国のカタリナ女王を結婚させるよう、今働きかけている。

 成功したらお前はナバラ王リカルド1世となる」


突進公は少し勉強し、婚姻関係でイングランドとナバラを併合しようとしている。

多少落ち着いたとは言え、野心は未だに無くなっていない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 脳細胞はちゃんと入ってると思います 筋繊維100%なだけで
[一言] >島津テメレーアとか、修飾語の二重掛けだ。 英国妖精と日本妖怪が合わさり最強に見える感じ。
[一言] ヘンリー・テューダを討ち取り、リチャード3世がやられたのを幸い、 そのまま幼いエドワードを担いでイングランド王位をせしめる、 かと思っていたのですが、やっぱりそこまでは無理でしたか・・・。
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