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パッツィ家の陰謀

泳ぎ疲れたアマビヱは、近くに見えた島に立ち寄った。

「わー、まーからちゃーびたん?」

妖怪に言葉という概念は意味がない。

テレパシーのようなもので通じる。

「(訳)そうか、南から来たのか。

 なら良かった。

 北から来たなら、魔物(まじむん)でもぶっ殺したさー」

ここは大平山(タイビンサン)という国で、中山王家への朝貢についてオヤケアカハチと長田大主(なあたうふしゅ)という豪族が対立しているという。

「うちらは宮古の仲宗根豊見親(なかそねとぅゆみゃ)と違うさー。

 沖縄ウチナーの連中と戦う前に、宮古を血祭りにあげるさー」

アマビヱは思った

(私、薩摩国に戻って来たのかな??

 私の知ってる琉球じゃないよぉ。

 なんでこんなに殺伐としてるんだろう?)

戦が始まらない内に、アマビヱは黒潮に乗って立ち去った。

頑張れ、あともうちょっとで肥後だぞ!

……太平洋側に流されるなよ。

 島津惟新斎、モスクワ大公国を攻撃す。

 この報が薩摩にもたらされると、知った者たちは興奮した。

「流石は惟新様! (ゆっさ)じゃ! (ゆっさ)じゃ!」

 急ぎ皇帝家久、晴蓑入道歳久連名で国抜け禁止令を出す。

 勝手に国抜けをした家は家名断絶させる、と。

……そんなので収まるなら薩摩人なんかやっちゃいない。

 大量の国抜けが出た。

 中年、壮年、老人ばかりの……。


「俺いが若かった頃の兵庫様は、それは憧れじゃったど……」

 親世代は子世代にそう語る。

 子世代の憧れは、気に入らねばフランス国王だろうがぶん殴る中務少輔豊久である。

 が、親世代から見れば豊久は大人しく、上品に過ぎる。

 気に食わねば首を飛ばすのが兵庫頭義弘様じゃ!

 悲しむ時は大泣きし、怒る時は誰よりも恐ろしい。

 豊久様も良いが、義弘様はもっと凄いぞ!

(思い出補正入ってるだろ、絶対!)

 子世代はそう思っても、親の「あの時俺いも凄かった」話を否定はしない。

 そんな事したら、中身の入った酒瓶がフルスイングで顔面に打ち付けられる。

 そんな親世代が、鎧櫃を引っ張り出し

「隠居の身が何しようが、我が家には一切関わり無かごわす!」

 そう城門から叫んで挨拶すると、堂々と国境を抜けて義弘の元に向かった。

 国境の守備兵は処罰されたが、相手は毎回数百と徒党を組み、長巻や種子島銃を向けながら出て行く為、法に厳しい家久も情状酌量はしている。

(※情状酌量:打首家名断絶→切腹知行一部召上相続許可)

 中には、老いた親が泣きついて、廃嫡願いと弟や子を当主とする届け出を置いて義弘の元に向かった薩摩隼人もいた。

「俺いは兵庫様には随分と世話になった。

 その兵庫様の、おそらく生涯最後の戦に同道出来んとは、老いたこの身が情け無か。

 おはん、俺いに代わって義理を果たしてくれんか!」

 親にそんな風に泣かれて断る武士は居ない。

 島津義弘の元には薩摩兵・スパルタ兵・傭兵の1万2千が集まった。


 島津家久はこの事後処理と、情報収集に掛かりっ切りになる。

 これをローマ教皇シクストゥス4世は見逃さなかった。




------------------------------




 1478年4月26日、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂にてミサが行われていた。

 そのミサの最中……ロレンツォ・デ・メディチ、そして弟ジュリアーノ、ピサ大司教サルヴィアーティとパッツィ銀行ローマ支店長フランチェスコ・デ・パッツィに襲撃される。

 「パッツィ家の陰謀」と呼ばれる事件、発生する。


「襲撃成功か!? 殺ったか!?

 あのロレンツォを殺したのか!!!!」

 ローマ教皇シクストゥス4世は報告を聞いて喜ぶ。

 駆け巡るシクズの脳内物質っ……!

 β-エンドルフィン……!

 チロシン……!

 エンケファリン……!

 バリン、リジン、ロイシン、イソロイシン……!

「エヘヘヘヘ~、ウヒヒヒヒヒ、ヒャーッハッハッハ!

 死んだか!

 あの小僧、ついに死んだか!」

「……いか、……げいか」

「アヒャヒャヒャヒャ!」

「猊下! 教皇猊下!!」

「何じゃ! 喧しいのぉ」

「死んだのは弟のジュリアーノだけです。

 ロレンツォは…………市民が護って無事です!」

「な……なにぃ!?

 はほーーーーおよよよよよよよよよよよよよーーーーーよーーーーー???」

「壊れてしまわれた」

「儂が話を聞こう。

 事の顛末を話すが良い」

 ロドリーゴ・ボルジャ枢機卿が代わりに話を聞く。




 教皇が激しく外交攻勢を掛ける中、ロレンツォ・デ・メディチはフィレンツェの市民を味方に取り込んでいた。

 内政は目立たない。

 外からでは中々分かりづらい。

 1472年、ピサ大学の改革。

 従属都市ピサと親善関係を強化する目的で、法学、特に市民法の講座をピサに移し、現実政治と関わりの薄い人文学をフィレンツェ大学に残した。

 祖父コジモ・デ・メディチが築いた選挙管理制度が一部緩んでいたので、立て直す。

 1476年、反乱を察知し、未然に防ぐ。

 メディチ邸に在った芸術家ヴェロッキオ作「ダヴィデ像」をフィレンツェ政庁へ売却する。

 1477年、軍備と内政立て直しに必死なフランドル王シャルルが、メディチ銀行の借金を踏み倒す。

 ロレンツォは借金踏み倒しを認める一方で、彼の領地にある明礬(ミョウバン)鉱床の利権を手に入れる。

 このように内政に専念していたロレンツォは、彼を暗殺する為に派遣されたローマ教皇領からの刺客・ジョバンニ・バティスタ・ダ・モンテセッコをも魅了してしまう。

(自分はこの得難い男を殺したくない……)

 殺すにしても教会で軍事力を用いるな、毒殺は卑怯だ、等と暗殺団の行動に制約をかけてしまった。


 4月26日、ジュリアーノは怪我の為、臥せっていた。

 暗殺団の一人フランチェスコ・デ・パッツィはジュリアーノの邸宅を尋ね、「重用なミサだから」と言って彼をミサに連れて行く。

 そして兄弟が揃ったところで、暗殺者ベルナルド・バンディーニがジュリアーノの背中を短剣で突き刺す。

「血……血が流れている。

 ヤメロー!

 死にたくなーい!!」

 だがフランチェスコ・デ・パッツィもジュリアーノを短剣で突き刺し、ジュリアーノは死亡する。


 サルヴィアーティはロレンツォを殺しに向かう。

 だが、彼が見たのは身を呈してロレンツォを守る詩人アンジェロ・ポリツィアーノ、その従者アンドレアとロレンツォ・カヴァルカンティだった。

 更にフィレンツェの銀行家フランチェスコ・ノリが暗殺者の間に割って入り、本人は殺されながらもロレンツォを逃がす。


 パッツィ家はメディチ家に並ぶ大銀行家である。

 その長老ヤコポ・デ・パッツィが、メディチ家追放を市民に呼び掛ける為シニョーリア広場に向かった。

 しかし、民衆はヤコポの想像とは異なっていた。

「メディチを護れ!!」

筒子パッレ! 筒子パッレ! 筒子パッレ!」

挿絵(By みてみん)

(※パッレはメディチ家の旗の珠模様)

 逆にヤコポが陰謀の共謀者として、民衆から襲われた。

 そして軍が駆けつけ、ロレンツォは無事な姿を群衆に見せる。

「メディチ! メディチ! メディチ!」

 メディチ家を支持する群衆の大歓声。

 陰謀は、ジュリアーノ・デ・メディチを殺しただけで、失敗に終わった。


 フィレンツェ市民がパッツィ家に行った所業は凄まじいものだった。

 サルヴィアーティ大司教とフランチェスコ・デ・パッツィは、ヴェッキオ宮殿の庁舎(パラッツォ)から吊るされていた。

(映画「ハンニバル」で、子孫のパッツィ刑事が吊るされたエピソードの元ネタ)

 ジョバンニ・バティスタ・ダ・モンテセッコは、ロレンツォに同情的だったにも関わらず、捕らえられ、激しい拷問を受ける。

 そして陰謀の首謀者が、ローマ教皇シクストゥス4世である事を白状する。

 モンテセッコは首を刎ねられ、その首は警告の為にバルジェッロ宮殿の門に晒される。

 モンテセッコの自白により判明した共謀者の僧は、市民たちから激しい暴行を受ける。

 目も鼻も口も無いくらいに腫れ上がるまで殴られ、耳は刃物で削がれていた。

 そんな状態でシニョーリア広場の絞首台で吊るされる。


「こんな程度で済まさない。

 まだまだ終わらせない。

 地獄の淵が見えるまで……限度いっぱいまでいく。

 パッツィ家が完全に倒れるまで……勝負の後は骨も残さない」

 ロレンツォは直接手を下していない。

 だが市民は彼の為に暴走を止めない。


 パッツィ家の長老ヤコポと政治家をしていたレナート・デ・パッツィは郊外に逃げ出したが、市民によって捕縛される。

 彼等もヴェッキオ宮殿の庁舎(パラッツォ)に吊るされた後、死骸はアルノ川に捨てられる。

 ジュリアーノを殺した犯人・ベルナルド・バンディーニは脱出したが、行く場所を間違った。

 コンスタンティノープルに逃亡した。

 ロレンツォとは友好関係にある皇帝家久は、依頼を受け、薩摩武士に命じ上意討ちする。

 暫くしてフィレンツェに、袈裟懸け、逆袈裟懸け、唐竹、胴払いに斬られ八分割されたバンディーニの塩漬けの死体が送り届けられた。

 議会はパッツィ家の財産没収を決議。

 全ての財貨を奪われた挙句、記録抹消刑にも処せられる。

 パッツィ家はフィレンツェの公文書から消された。




------------------------------




「そこまでやるか……。

 彼等はそこまでされる程悪辣だったのか?」

 ロドリーゴ・ボルジャですら、余りの容赦無さに首を振る。


「フィレンツェの小僧に、囚人の釈放と、残虐な刑罰の責任者の引き渡しを求めよ」

「教皇猊下、正気を取り戻しましたか」

「そんな血腥い話を聞いていながら、唖然ともしていられんわい」

「さて、今の御命令ですが、ロレンツォが聞くとは到底思えません」

「そうじゃろうな。

 あの小僧、儂の権威等屁とも思ってないからな」

「では、一体何故?」

「ボルジャ枢機卿も分からぬか。

 これは儂に対する罰なのよ。

 他人に任せたのがいけなかった。

 神に頼ったのが間違っていた。

 神等、儂に媚びへつらう存在。

 儂自らが動いてこそ、神は成功者である儂にくっついて来るのよ。

 今殺す、もう殺す、この精神で、儂自ら小僧を葬ってやる」

「では、ロレンツォが断る事を見越しての命令でしょうか」

「そうだ。

 断ったら、フィレンツェ全てを破門じゃ!

 そして、戦争だ!!」

「戦争ですが、何か手を打っているのですか?」

「うむ。

 小僧も気づかなかったようだが、フィレンツェの傭兵隊長フェデリコ・モンテフェルトロ、あれこそが真の儂の手駒よ」

「なんと!」

「長い事小僧の傍に仕えさせていたが、奴を召還せよ。

 フィレンツェの軍について、情報は全て抜き取ってやるぞよ」

 陰謀において、やはりシクズはやり手であった。


 そしてボルジャ枢機卿も動く。

 アラゴン王国は、異端審問の許可を得た礼と、彼等自身の野心の為、ローマに増援軍を派遣する。

 さらにナポリを直接攻めるでなく、海賊行為と外交攻勢、硬軟織り混ぜた攻勢で足止めする。

 ナポリの島津家は、特にフィレンツェの為に動くと決めてはいないのだが、このような事情で動きが取れなくなる。

 そしてローマ教皇領とシエナ共和国、フェラーラ侯国連合は、フィレンツェの指導者に対し無条件降伏を求める。

 対抗してロレンツォは市議会を招集。

 この議員たち70人は、ほぼ全てがロレンツォの派閥である。

 評議会は無条件降伏を拒否すると決議。


 ここにパッツィ戦争と呼ばれるフィレンツェと教皇領との戦争が勃発した。

 ナポリの島津家も巻き込まれている。

 皇帝家久は、これらの動きを苦虫を噛み潰した表情で見守っていた。

おまけ:

「恩慈様、今戻りもうした」

アルプスの行者・輩慈はアルプス修験道の長・恩慈の元に戻りついた。

次の命令を受け、輩慈はローマに潜伏する。

「ローマでは、薩摩の手の者が次々と消されておるチ聞く。

 おはんも気をつけやい」

恩慈の警告を受け、輩慈は山を下りる。

そして鹿児島にもナンシーの戦いを中から見た者としての報告を書状で送る。

「薩摩人も肥後人も、雪に弱い」と。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 近代ヨーロッパの権謀術数の絢爛さよ!
[一言] 5センチの雪で交通止まるのは伊達では無いのです。 伊達は雪に強そうだけども。
[一言] 血祭り、琉球は何がどうなってるのか?アマビヱは無事帰れるのか?
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