ナンシーの戦い(前編)
後に新大陸と呼ばれる地にて。
低地ネズ・パース族の若者は鮭を獲りに来て、不思議な生き物が打ち上げられているのを見つける。
近寄るとソレは、心に届く声で助けを求めて来た。
ソレは自らをアマビヱと言い、生き物ではなく化け物だと言う。
氷の浮く海を泳いでいたらサメに喰われたそうだ。
だがお化けは死なない。
時間をかけ回遊して南の海に向かうサメの体内で復活、脱出して陸地まで泳いで来たが体力を使い果たしたと言う。
ネズ・パースの若者は可哀想と思い、干し肉を与える。
その化け物は言った。
「富んでいる者から恵んで貰ったら感謝するだけでいい。
そうで無い者から恵んで貰ったときは恩を忘れない。
今後この地に流行る疫病から自分が守護したい」
この言葉の意味はもっと後になって分かる事になる。
謎の植物と新たな兵を連れて帰国したブルターニュ公シャルルに、不愉快な報告が届く。
併合したロレーヌにルネ・ダンジューが帰国してナンシー城に入り、ロレーヌ諸侯を率いて離反してしまったというのだ。
ロレーヌでの唯一の味方であるザルモアーズ家は、反ブルゴーニュ諸侯から攻められる所を、ジャンヌ・ダルクが指揮する砲兵をもって籠城している。
ザルモアーズ家の軍はシャルルと合流出来ないという。
もっとも戦闘面でのジャンヌの勇名の前に、他諸侯も手出しは出来ないでいるが。
……下手に手出しをして、娘婿の焼討将軍島津豊久を召喚でもされたら、突進公襲来以上の災厄となろう。
ロレーヌ公ルネは、他のロレーヌ諸侯、アルザスの諸都市、そして低地ライン諸侯を糾合し1万を超える大軍を集めた。
そしてアルプスから盟約者同盟軍もナンシー城に駆けつけ、
「ブルゴーニュ、殺す!」
と叫んでいる。
(我慢だ。
この兵器植物が増えるまで、戦いを控えねば……)
シャルルはそう自重したが、竹の方が自重しなかった。
竹は原生の植物を駆逐し、農家の床下を突き破りながら大発生する。
乾燥したブルゴーニュ地方は生育に向いていなかったが、暖流がもたらす湿潤なフランドルでは大繁殖を始めた。
「何なのですか? あの謎の植物は。
切っても切っても生えて来るし、一日目を離したら巨木になっている」
嘆く庭師を宥めながら、大量の竹槍が思った以上に早く揃えられた事をシャルルは喜ぶ。
最も、単純に生木の竹を切っただけの竹槍は、重いし、下にしなるしで、武器として役に立たなかった為、改良が加えられた。
(日本では、細い木を芯に竹を割ったものを網目巻きにし、膠で固めた打ち柄という技法が有った。
また、穂先に油を塗って火で焙り、三国志演義の藤甲兵の要領で、強固な穂先を作っていた。)
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ブルゴーニュ公がグランソンの敗戦後、半年以上沈黙した事で、神聖ローマ諸侯やフランスは勢いづいていた。
ロレーヌ公ルネの援軍要請に応え、しきりにブルゴーニュ公国を威嚇している。
そんな中、フランス国王ルイ11世はやはり狡猾であった。
外交顧問フィリップ・ド・コミーヌから、短気なシャルルが大人しくしているのは、怒りを抑えるに足る武器を見出し、兵力を揃え、それを訓練しているからだろうと進言を受ける。
シャルルは示現流部隊を鍛えている最中は、実に大人しかったのだ。
また、グランソンの戦いで負けたとは言え、人的被害は少なく、主力が健在であるとも言う。
ルイ11世はコミーヌの進言を受け、ブルゴーニュと直接対決を避け、ブルゴーニュと協調的な外交をしつつ、そこから離反したアルザスとブライスガウを百万フローリングという資金で購入し、いつの間にか自領に組み込んでいた。
ブルゴーニュ公国は、再びブルゴーニュとフランドルに分断された。
領土連結が悲願のシャルルがまた打って出てくるだろう。
果たしてシャルルは出撃して来た。
しかし、シャルルにしては随分と待ったものだ。
年は明け、1477年を迎えている。
この間、シャルルは思わぬ増援を得ていた。
ヨーク朝イングランドのエドワード4世がフランドルを訪ねて来た。
英仏百年戦争を一向に再開しない義兄弟に文句の一つでも言ってやろうとしていたシャルルは、先制攻撃を喰らう。
「彼奴らを引き取れ!
元はお前のとこから来た蛮族だろ!
タダ飯食わしてやってるのに、農地だ城だ待遇だと、面倒臭くて堪らん!!」
それはイングランドでモンスタークレーマー化していた肥後衆だった。
気が短いが、根には持たない薩摩人と違い、肥後者は納得がいかない限り引き下がらない。
「議バ言うな」
で恥じ入る薩摩人と違い
「納得いくまで説明せんとは、ワイをナメとうばい」
とゴネ、説明しても
「そいでも儂はこん方が良か思ったい」
と我を張る。
そして纏まらない。
エドワード4世は、毎日数人ずつ押し掛けて来る、しかも人によっては絵巻物を作って自分の手柄を主張し、所領を寄越せと談判して粘られ、ゲッソリしていた。
(その者は先祖もその方法で鎌倉幕府から所領を勝ち取ったと言う)
王が自ら相手をせず、部下に任せたら、それはそれで「甘く見ているのか!」とゴネる。
まあこれは、エドワード4世がその家臣がどれだけ偉いのか説明しないのが悪くもあるが。
「ブルゴーニュ公、君のとこで雇い給え!
幸い、戦闘には滅茶苦茶強いからな。
ついでに、英国の愚連隊も呉れてやる!」
とモッコス1500、ヒャッハー弓兵3500と、思わぬ兵力増強が為された。
モッコスは僅かだが知行を貰い、騎士待遇で雇われる。
豊富なフランドルの金をかなり使ったが、モッコスはメンツが立って大喜び。
ブルガリアや水俣の一族郎党や親友を呼び寄せ、いつしかシャルルの下に5000人もの肥後モッコス部隊が出来てしまった。
(肥後衆も子供を作り過ぎて破産した傾向あり、全体として増殖してるし、現地ブルガリア人との子も気質はサツマンに抵抗的で民族の誇り高いブルガリアと、面倒臭い肥後人の足し合わせとなる)
肥後武士の武器も槍である。
菊池槍という、片刃の穂を付けた槍を扱う。
また、筑紫薙刀または鉈薙刀という、欧州で言うハルバードのような、鉈を括りつけた薙刀も扱う。
薩摩からの志願兵は、若者ばかりで経験が少ないが、それでも膂力はあり、長い槍や重い斧でも平然と振り回す。
この二種のサツマン兵は、イングランドで名前の読みからインド卿の称号を与えられた犬童頼安が指揮を執る。
半ば強引にシャルルに登用された犬童は
「水俣で敗れ、城を明け渡した後は隠居と思っておったに、運命とは分からんものばい」
と諦観し、面倒臭い連中の統率者として、また突進公の相談役としてフランドルに生きる。
竹をよく知っている民族の加入は、さらに突進公を助ける。
「これは矢竹じゃなかか?」
竹を手当たり次第持って来て移植したが、中には太くならない種もあり、突進公はそれをただ伐採していた。
だがこれは弓矢に使えるという。
ブルゴーニュ軍は矢も大量に保有出来るという恩恵を得た。
そうなると、イングランド弓兵も重要になって来る。
彼等を離反させない為に、シャルルは反対を押し切って多くの美術品を売り、資金調達した。
それでは足りず、領内に重税を課しもした。
豊かなフランドルですら不平が出る重税に、本領ブルゴーニュは苦しむ。
これがすぐ後に影響して来る。
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離反したロレーヌに突進公が現れたのは1月。
ロレーヌ公は迎撃する為に出陣、1月5日にはナンシー郊外で向き合う。
ブルゴーニュ軍8000人、対するロレーヌ公ルネの軍は12000人。
吹雪の中、両軍は行動を開始する。
視界の悪さのせいか、ブルゴーニュ軍の砲兵は全く効力を発揮出来ない。
また、薩摩の新型銃と違い、バネを使わず紐で緩やかに火鋏を落として着火するブルゴーニュ軍の銃も、弾幕を作るには性能不足であった。
この苦戦のせいか、ブルゴーニュ軍の足は遅い。
ルネの陣に殺到して来ない。
ルネ・ダンジューは勝利を確信した。
斜面を下りながら、盟約者同盟軍がブルゴーニュ軍の左右に迂回しつつある。
自分の指揮するロレーヌ及び低地ライン同盟軍は、スイス兵が来るまで時間を稼げば良いだけだった。
それなのに、突進公が攻めあぐねている。
スイス軍1万が左右から襲えばブルゴーニュ軍は壊滅。
もうスイス軍を待てばそれで良い。
だが、それは突進公を甘く見過ぎていた。
彼は四方に気を張り、偵察部隊を多数出して、様子を探っている。
人的被害が少ない内にシャルルが頭を切り替えたからこそ、偵察部隊を用意出来たのだ。
もしも怒りに任せ、スイス軍と第二戦をしていたなら、豊富な偵察要員を確保出来なかっただろう。
シャルルは左右に分かれてスイス軍が接近しているのを察知した。
歩兵3500、騎兵1000のスイス前衛部隊が、逆に襲われる。
イングランド弓兵が吹雪の中、連射して来る。
伏兵であった弓兵は、犬童頼安の策で、焼け石を適度に保温しながら懐に入れて懐炉とし、絶えず指先を温めていた。
そこに偵察からの報告があり、速やかにスイス軍の行軍中を襲う事が出来た。
この方面のスイス軍は、混乱から立ち直ると、一度兵を退いて立て直しを図る。
スイス軍主力部隊は、複雑な地形を行軍している。
歩兵3400、騎兵1300で、スイス軍後衛部隊800が後方で待機している。
複雑な行軍に厳しい地形であるが、ここを抜けるとブルゴーニュ軍の側面を襲える。
日頃アルプスの山々を歩いて鍛えられているスイス兵なら突破可能だった。
だが、ここにブルゴーニュ軍取って置きの部隊、モッコス傭兵隊が待ち構えていた。
戦闘開始の角笛を吹く前に、モッコスたちが殺到して来た。
丘陵、山林、起伏のある地形で兵力展開が困難な為、少数の部隊に分かれての戦闘となる。
そして、少数の部隊が持ち場を死守する戦場は、モッコス兵が最も実力を発揮出来る戦場だった。
方陣を組めないスイス兵は、ここに槍を構えて戦う。
しかし、木の多いこの戦場は3パッスス以上(6メートル)の槍が負に作用した。
振るう空間が無い。
一間半(2.7メートル)の菊池槍は、刺殺にも斬撃にも利用出来た。
(長いものもあったが、地形に合わせて置いて来た)
スイス兵の軽装を、破壊力のある鉈薙刀が襲う。
「聖母よ護り給え」
「アベマリオとか何じゃ!
豊後の阿部一族の事か??」
(※森鴎外の小説で有名な阿部一族は元々豊後辺りの豪族だとか)
スイス兵の祈りの声と、モッコスの怒号が重なる。
しかしスイスも、ハプスブルク家との戦いから「必ず犠牲は出るから、そいつらは死ぬまで戦って時間を稼ぎ、全体としての勝利を目指す」という死兵戦術を使う。
アルプスの行者・輩慈が「山薩摩」と報告したのは伊達ではない。
一方、確かに強力な肥後モッコスだが、兵力はスイス軍の四分の三に過ぎず、数的に不利ではある。
如何に意地っ張りで強兵とは言え、ずっと戦い続けていれば疲労する。
その上、元来肥後人は温暖な地の住人、吹雪の中の戦闘では焼け石での暖も次第に冷めていき、凍えた体での戦いが続き、次第にスイス兵の方が個人戦闘でも強くなっていく。
モッコスの意地とスイス兵の死を前提にした戦術がぶつかり、ただただ消耗戦となる。
「赤い雪山の戦闘」と呼ばれる、雪を血で赤く染める戦いは、このナンシーの戦い終結まで続き、お互いどちらが勝者と言えないまでに殺し合った。
戦闘が終わった時、モッコス3500の内、死者1700、重傷1400、戦闘可能は400となり、
スイス軍4700の内、死者1200、重傷3100、戦闘可能はこちらも400という凄惨な結果となった。
アルプスの行者・輩慈はこちらの陣に居たが、少数での戦闘、しかも吹雪の中だった為、隙を見て姿を晦ます。
彼の目的は情報収集であり、こんな所で必死に戦って死ぬ意味等全く無い。
(考えていた以上の情報は取れた。
しかし、捨て奸を見せられっとは。
山薩摩は思った以上に恐ろしか連中じゃっど。
薩摩以外にも、こがいな連中がおったとじゃな。
何としても鹿児島の御館様にお知らせせねば)
兵士アーダルベルトは戦死したように装い、服を着替えてミラノ商人アルベルトという存在に変化した。
そして彼はロレーヌから姿を消す。
一方、イングランド弓兵の奇襲を受け、一時後退したスイス軍前衛部隊は、状況を知らされた低地ライン同盟軍から3000の援軍を得て、再度侵攻を開始した。
進軍の角笛が高々と鳴り、スイス軍は戦闘隊形で歩を進める。
今度はイングランド弓兵の存在を知っている為、重装のライン同盟を囮にして、スイス兵は危険地帯を走り抜ける。
ライン同盟軍の鎧なら、イングランド長弓兵隊にも耐えられるだろう。
……多少時間は掛かったが、ライン同盟軍は英仏百年戦争におけるクレシーの戦いでのフランス騎士と同じ運命を辿る事になる。
その間にスイス兵はシャルル本隊の左前面に展開出来た。
主力部隊が到着していないが、構わず槍歩兵を方陣に組み、戦闘隊形で前進を始めた。
また、ロレーヌ公ルネの本隊9000も、スイス軍と歩調を合わせて前進を始めた。
シャルル突進公は、温存していた8000の兵力をロレーヌ公に向けて突進させると共に、最後の伏兵にスイス軍迎撃を命じた。
ナンシーの戦いは主力決戦に縺れ込む。
(続く)
おまけ:
子供「ねえ、この変な植物の伸びた上には何かがあるの?」
母親「この上にはサツマン人の国があるんだよ!
全く御領主様も危険な物を持ち帰ったものだよ!」
子供「サツマン人の国には何があるの?」
母親「金と銀の卵を産む首の無いニワトリとか、
何でも真っ二つにする刀とか、
山のように盛られて頭が痛くなる程甘い氷とか、そんなのだねえ」
興味を持った子供、ジャックは竹を上っていき、刀を盗み出す。
「凄い刃物だよ。
まるで濡れているようだ。
…………なんか見ていると…………殺したくなって来たぞ、女ァァァーー!!」
薩摩の刀に魅入られてしまったジャックは、その後女性を狙った連続切り裂き事件を起こす。
ジャックを捕らえ、刀を没収するとジャックは記憶を失ってしまった。
代わりに刀を奪った兵士が今度は
「ウシャア――ッ! 覚えたぞ!」
と言い、またも魅入られて殺人事件を起こす。
その凶悪化した兵士を示現流で叩きのめし、シャルル突進公が刀を奪った。
流石にブルゴーニュ公シャルルは魅入られなかった(最初からアレだから効果が無かった説も)。
「これはあまりに美し過ぎるから人を斬りたくなるんだ。
少し穢してみよう」
と馬糞を突き刺して捨てる道具として使用させる。
(なんか、やめてくれー、気持ち悪い、オェーって声が刀から聞こえるとの苦情あり)
やがて刀は人を快楽殺人に駆り立てる力を失ってしまった。
この話がイングランドに伝わり、やがて複数の物語に分裂する。




