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東方の安定

アルプス山脈。

ここには島津家隠密の一つ修験者衆が隠れ家を持っていた。


「お呼びですか、恩慈様」

「うむ。

 御館様(義久)からの命じゃ。

 陸奥守様(家久)昵懇のフランス王国、中務少様(豊久)昵懇のブルゴーニュ公国と、このアルプスにある盟約者団スイスとの関係が怪しか。

 御家が道を間違わぬよう、詳しく調べよとの事」

「おお!

 我等アルプス修験道の腕の見せ所ごわすな!」

「輩慈、与施布、平太、各々抜かりなく」

 西暦1467年、イスラム暦872年、黒羊朝カラ・コユンルのジャハーン・シャーはムーガーン平原において、白羊朝アク・コユンルのウズン・ハサンの奇襲を受けて戦死した。

 白羊朝アク・コユンルはそのまま黒羊朝カラ・コユンルに侵攻、その領土を併呑した。

 ウズン・ハサンは更に兵を東に進め、ティムール帝国のアブー・サイードをも撃破し、現在のイラン・イラク・アゼルバイジャンにわたる大国を作り上げた。

 だが、ウズン・ハサンの主力部隊が東に居ると知ったオスマン帝国バヤズィド2世が、白羊朝打倒に動く。

 属国化したクリミア・ハン国に動員を発令。

 島津家東方軍にもオスマン帝国から共同出兵の依頼が届いた。

 負けそうだからでは無い。

 戦に誘わないと面倒臭いからである……。


 島津家東方軍の最高司令官は島津中務少輔豊久である。

 その島津豊久は、先年ミラノ公国を長駆攻撃し、ミラノ市以外をほぼ更地にするという破壊を行った。

 彼は当然、今回も弟分であるバヤズィド2世の援軍に駆け付けるつもりだったが、これには周囲が反対した。


「たまには休みなさい!」

「俺いたちにも戦をさせよ!!」


 前者を強く言ったのは、姑である戦闘担当のジャンヌ・ダルク、後者を強く言ったのは実弟・源七郎忠仍であった。

 親類衆(豊久・忠仍兄弟の母親の兄)である樺山兵部大輔忠助も

「先年、ミラノまで遠征した兵児たちは、鹿児島に戻して休めるのが肝要。

 中務少殿も留守番が良かでしょう。

 此方は我等で何とか出来もすが、陛下(皇帝家久)の急な命に対応出来っとは、中務少殿しかごわはんからな」

 と言って、休む事を知らない三十二歳児を出水イズミール城に留まらせた。


 結局、大将島津忠仍、副将樺山忠助、客将ジャンヌ・ダルク、そして皇帝家久が派遣した寄騎として喜入忠続、吉利忠張、村田越前という陣容の、約一万が出陣した。


 オスマン帝国は既に万之瀬川合戦でメフメト2世を失った時の損害から回復していた。

 ヨーロッパ側領土と黒海・ボスポラス海峡・エーゲ海沿いの領土を失っていたが、サツマン朝東ローマ帝国との交易で大量の金を得ている事と、彼等が開発した新型銃、そして後を継いだバヤズィド2世の猛将っぷりから軍事力は復活していた。


 オスマン帝国七万、援軍の島津軍一万、クリミア・ハン国軍二万という十万が、白羊朝の協力国であるカラマノイド朝に侵攻する。

 カラマノイド朝の総督カズム・ベイは白羊朝に援軍を求めると共に、防衛戦を展開する。

 しかし、大軍のオスマン軍の猛攻に支えきれず、敗走する。

 バヤズィド2世は、アナトリア半島南東部のこの地域への略奪を禁止し、島津家の存在も隠した。

 カズム・ベイも殺そうと思えば殺せたが、あえて何度も逃がすようにし、白羊朝領内に逃げ込ませる。

 オスマン軍のぬるい行動から島津家不在と見たウズン・ハサンは東方戦線から軽騎兵11万を率いて戻り、アナトリア半島に侵攻する。

 両軍はアナトリア半島東部のバシュケントにおいて激突する。

 当初の交戦戦力はオスマン軍六万と白羊朝軍11万で、白羊朝軍が圧倒していた。

 彼等軽騎兵は広く左右に展開し、オスマン軍を包囲しようとする。

 しかし、それが果たせない。

 オスマン軍の砲撃能力が高く、効果的に足を止められる。

 オスマン軍の砲兵はジャンヌ・ダルクが指揮していて、彼女の騎兵キラーっぷりに白羊朝軍は苦戦していた。

 白羊朝軍右翼を指揮するザイン・アル・アビディン・ミルザの後方からクリミア・ハン国軍が攻撃を加える。

 白羊朝軍左翼を指揮するウズン・ハサンの子・ウグル・ムハンマドの後方からオスマン軍アルメニア総督のダブド・パシャが襲い掛かる。

 形は若干違うが、これは島津家得意の釣野伏である。

 嫌な予感がするウズン・ハサンの目に、絶望的なものが映った。


 丸に十字紋の旗。


 島津忠仍軍とイェニチェリの合同部隊が真っすぐ突っ込んで来た。

 しかも、走りながら新型銃を撃って来る。

 ウズン・ハサンは名将であり、この危険が理解出来た。

 直属部隊だけで逃げ出す。

 機を見ていたバヤズィド2世が総攻撃を命じる喇叭(ラッパ)を吹かせた。

 暫くは耐えていた白羊朝軍だが、オスマン軍中央部隊の砲撃でウグル・ムハンマドが負傷し、指揮が乱れる。

 ここから白羊朝軍左翼部隊は一気に崩れ、余勢を駆ったダブド・パシャの部隊が白羊朝軍背後に回り込む。

 敗北を悟ったザイン・アル・アビディン・ミルザは撤退を命じるが、オスマン軍のピストル騎兵の前に損害を出し続ける。

 ザイン・アル・アビディン・ミルザは殿軍(しんがり)を務め、オスマン軍の追撃を防ぎ続けるが、島津軍が白羊朝軍中央部隊を壊滅させて追撃に加わると、もう防ぎ切れなかった。

 樺山忠助の次男・権左衛門久高がザイン・アル・アビディン・ミルザの首を取る。

 殿軍(しんがり)が敗れた後は、追撃し放題であった。

 ウズン・ハサンの首こそ取られなかったが、白羊朝軍は11万の兵力の内3万の死者と4万の捕虜を出すという大敗を喫した。

 ウズン・ハサンの権威は失墜し、白羊朝という遊牧民連合国家では部族反乱が多発するようになる。




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 バシュケント会戦の大勝利に沸くアンカラに、思いもかけぬ人物が訪ねて来た。

 東ローマ帝国皇帝島津家久である。

 いくら味方でも、コンスタンティノープルに呼び出せば暗殺の危惧を抱かせる為、彼自らが来たのであった。

 皇帝家久は、正式にオスマン帝国との同盟を締結しに来たのだった。

 

 同盟の内容は極めて単純である。

 相互不可侵と、「オスマンは東へ、薩摩は西へ」という約束である。

 バヤズィド2世は承諾し、サインする。

 家久は豊久と協議し、イズミール島津家が占領している黒海南岸の領土をオスマン帝国に返還する。

 海峡沿いの土地は防衛上必要だが、もうトレビゾンド帝国も滅亡し、クリミア・ハン国はオスマン帝国の属国となり、黒羊朝も白羊朝もアナトリア半島、アルメニア、アゼルバイジャンから駆逐された以上、極端に東に突出した地はかえって負担となる。

 米栽培上必要と看做されていた土地でもあるが、どうせ優先的に島津家に売る以上、領有の必要性も無かった。

 なにせ、豊久は別段年貢徴収をして無かったのだから。


 アナトリア半島のほとんどを領有したオスマン帝国は、同盟の約定通り東へ向かう。

 白羊朝の力のほとんどを撃破したが、イラン・イラク・パキスタン地域に広がる白羊朝地域を完全併呑するには時間が掛かる。

 ウズン・ハサンは、宿敵ティムール帝国に頭を下げたり、金帳汗国(ジョチ・ウルス)継承国家であるアストラ・ハン国やノガイ・オルダ、カザン・ハン国と手を組んで抵抗を続ける。

 だが、火力が充実した上にサツマン人に影響を受けまくった皇帝とイェニチェリの前に敗北を重ねる。


 少し後の話になるが、ウズン・ハサンが死ぬと共に同盟は纏め役を欠き、各個撃破されていく。

 この情勢は、必ずしも東ローマ帝国有利には働かなかった。

 黒海及びカスピ海北方の金帳汗国(ジョチ・ウルス)継承国家がオスマン帝国によって弱体化したところを、モスクワ大公国のイヴァン3世が襲う。

 いや、イヴァン3世が北方からこれらの国を脅かしていたから、オスマン帝国が圧勝し続けていたかもしれない。

 東ローマ帝国東方はオスマン帝国との強固な同盟で安泰となったが、その北方には着々と強力な敵が育ちつつあった。


 モスクワ大公国の急拡大は、東ローマ帝国の他の欧州諸国の警戒も買っている。

 北極海とバルト海に面したノヴゴルド公国、モスクワ大公国に隣接するトヴェリ大公国はポーランド・リトアニア連合国と手を組む。

 ポーランド・リトアニア連合国が敗れ、ノヴゴルドとトヴェリがモスクワ大公国に併呑されたなら、東ローマ帝国とワラキア公国の北方に強大な勢力が伸長して来る。

 まだ早いかもしれないが、皇帝家久は山潜者を北方にも送り、情勢をつぶさに観察させ始めた。

挿絵(By みてみん)




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 皇帝家久には将来の敵が幾つも見えているのだが、島津家全体はそうでも無い。

 この年、西暦では1468年、薩摩暦では天正三十年なのだが、

「なんか丁度良い年だから、出家すっど!」

 と島津義久・義弘兄弟が出家してしまった。

 島津義久は龍伯、島津義弘は惟新斎と号した。

 他に島津豊久の母の兄である樺山忠助も剃髪し紹劔と号する。

 新納忠元も出家し、拙斎と号した。

 こんな島津家に影響されたのか、ジャンヌ・ダルク(ジャンヌ・デ・ザルモアーズ)も

「私も来年で60歳だし、引退しようかしら。

 孫も抱いたし、イングランドを攻めそうもないし」

 とか言い出している。

 こんな出家流行りな割に、義久を始めとし誰も隠居する気は無いようだ。

「今まで殺して来た者どもを供養し、明日からの根切りの為に心を一度無にすっとじゃ」

 と、とても僧侶になったとは思えない発言をしている。

……戦国時代では、信玄とか謙信とか道三とか宗瑞とか宗全とか、出家して法号を名乗っても平気で陰謀・虐殺・合戦した者は珍しくないので、一々家久もツッコミを入れない。

 文句があるとしたら

(だったら島津家督も譲れ)

 といったとこである。


 世代交代は島津家だけではない。

 既にブルゴーニュ公国ではシャルルが、フィレンツェ共和国のメディチ家ではロレンツォが当主となった。

 その中のロレンツォ・デ・メディチが家久を訪ねて来た。

 メディチ銀行にも菱刈の金での通貨発行権を貰えるよう、交渉に来たのだ。


「先日敵対した相手に通貨発行権等許可出来っか!」

 と居丈高に言う皇帝に、ロレンツォは平然と

「戦争を止める方に賭けただけ。

 それを敵対と見るのはあんたの勝手だ。

 だがそれは親父の博打であり、俺の博打じゃない。

 親父の負け分は俺が背負うから、俺にも勝負させてくれないか?」

 そう言う。

「おはん、面白か男じゃな。

 よし、試してやっで」


 盆に四個の軽羹が並べられる。

「この内、一個には毒が入っておる。

 毒を食わず、生きていたなら許可しよう」

「あんたも甘いね」

「何じゃと?」

「四個の内、三個毒にしなよ」

「ほお、そいで良かとか?」

「それでいい」

「面白か奴じゃ。

 良か! 四個の内、二個に毒を入れい!」

「三個にしろよ」

「三個だと、俺いが参加したら確実にどちらかが死ぬじゃなかか」

「へえ、あんたも参加するのかい?」

「おはんには狂気を感じる。

 そげん奴輩に負けちゃおれん。

 俺いも立ち会っちゃる」

「皇帝が死ぬかもしれない遊戯に参加するのかい?

 あんたも十分おかしいよ」

「狂気には呑まれた方が負けじゃっでな」

 両者、黒く笑う。

 両者の側近が真っ青になる中、皇帝と僭主は無造作に菓子を取り、口に入れる。

 嚥下し、しばし沈黙。

「ふん、お互い死なんか」

「俺の死に場所は多分ここでは無いのだろう」

「良か!

 賭けはおはんの勝ちじゃ。

 金貨鋳造の許可を出す。

 フッガー銀行の者を紹介すっで、上手くやれ。

 じゃっどん、良かか?

 俺いたちにここまで密着すっと、教皇に睨まれっじゃなかか?」

「それだって賭けだよ。

 フフフ……、代償(リスク)無くどっちの良いとこも上手く取ろうなんて、痴者の願望、弱者の甘い夢。

 強者相手にそんなのがずっと上手くいく筈が無い。

 どちらかが勝つか、あるいは双方が手を組んだ時、用済みとして無惨に殺される。

 それくらいなら、思い切って一方に賭けてみるさ。

 敵になったもう一方からは攻められるが、勝負に勝てばそいつを喰らえる。

 負けたとして、それで死ぬのも面白い。

 むしろ死ぬくらいの方が、見返りもデカいものさ」

(なるほど、こいつは軽羹に混ぜた毒以上に危険な男じゃ)

 家久は警戒しつつも、若きメディチ家の当主を経済での同盟者として懐に入れる事にした。


 メディチ家と島津家の接近は、イタリア半島情勢を変える。

 家久もロレンツォもそれを見越して手を組んだ。

 それが形となって現れるのは、もう少し先になる。


 ロレンツォ退去後、

(陛下を殺さないよう、料理人が毒なんか入れなかったのだろう。

 四個どれ取ったって食べられたんだろう)

 と甘く見た小姓が、余った軽羹をつまみ食いした後、泡を吹いて廊下で死んでいた。

おまけ:

オスマン帝国の戦いを見ていた島津家では

「あの音曲、良かなぁ」

軍楽隊(メフテル)の演奏に感動していた。


「我い等ぁの軍にも音曲が欲しか!」

そういう要望を聞いた皇帝家久は、音楽家を手配した。

彼の好みでパイプオルガンの演奏とした。

教会音楽関係者はサツマン人を嫌っている。

教会の楽器を軍の音楽にしろとは何事か!

悪意を持っていたが、それとは別に音楽家としての矜持から、音楽としてはしっかり作る。


そうしてコンスタンティノープルで演奏されたオルガン曲は、サツマン人を感動させた。

ただ一人、ナポリから聞きに来た島津歳久だけは気に入らないようだった。

(何じゃろう?

 邪悪な箒星から蛮族が出て来て世界を征服する光景が頭に浮かんだんじゃが。

 邪悪な箒星から城が出て来て、そいに何隻もの軍船が

「怒りを込めて撃ち尽くせ!! 」

 と大筒を撃っているのに、無慈悲に城から撃たれる棒火矢に沈められる光景もじゃ……)

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[一言] 帝国は、とても強い。戦艦は、とてもデカい。 ダー⚪︎ベイダーは、黒い、トルーパーは、白い、 デ◯スターは、丸い。
[良い点] 狂気と狂気はウマが合うw そして最後のが白色彗星て吹きましたw
[良い点] アルプスの少女がアルプスの忍者に成っとるがなw [一言] ハイジ ハイジ ハイジとメカハイジ オンジ オンジ オンジとメカオンジ
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