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ドラキュラ対鬼島津三度(後編)

東郷重位はスコットランドからイングランドに入った。

「ヒャッハァー、爺ぃだぜ、爺ぃ!」

「襲おうぜ! 首置いてってもらおうぜ! 真っ二つになって貰おうぜ!」

そこはヨーク家の支配地であった。

(続く)

 中世の戦争は、武器と従者を自弁する小領主「騎士」か、賃金労働者である傭兵かが行っていた。

 イングランドのように郷紳ジェントリという農村地主階級にまで戦争参加層を拡げたり、どれくらいの階級までが軍人か様々な形は有ったが、基本的に一般庶民は戦闘に参加しない。

 関係の無い迷惑行為だから、さっさと避難する。

 戦闘が起こらないまま長滞陣となると、そこに物資を売りに来る商人が来たりはする。

 今回のヴラド3世と島津義弘の戦いは、領主のヴラド3世から避難命令が出ていた為、庶民は居ない筈である。

 領民とは言えないジプシー等は知らずに戦場に入るかもしれない。

 しかし、常人以上の俊足で一直線に戦場に向かうジプシーは、見た目にも異様であった。

 浪々の民は行く目的を定めていない場合が多いのに、彼等は急いで何処かに向かっている。

 しかも、ヴラド3世は領内の治安維持の為にジプシーを理由無く殺す。

 そんな領主の土地に急いで向かうジプシーは、明らかに異様だった。




------------------------------




 ヴラド3世と島津義弘の戦いは熾烈になっていった。

 既に大将同士が指呼の距離に居て、お互いを襲う敵を、片方は仇名通り突き刺して殺し、もう片方は重そうな大薙刀を片手で軽く薙いで、首を宙に飛ばす。


「やるな、老いぼれ」

「中々強かようじゃな、若造」


 もう傍らに通訳が居ないのに、何故か感応し合う戦闘狂2人。

 ヴラド3世の馬の足が、薩摩兵の斬馬刀に斬られ、公は大地に降り立つ。

「ふむ、こんな小男どもが重そうな刀を軽々と振り回す。

 一体どんな訓練をしている?

 錬金術伯を手下にしたから、賢者の石でも体内に埋め込んだか?」

 愛馬を斬った男を串刺しにした槍を抜きながら、ヴラドはそう呟く。


 義弘式重装歩兵は、かつてのギリシャ重装歩兵とは違った。

 密集隊形で突入して来たスパルタ軍に、ワラキア軽騎兵は短銃で中距離攻撃をかける。

 だが、盾で弾かれる。

 槍は長大に、かつ軽量化したが、一方で盾は強度を増し、銃弾を弾き返す程にした。

 短銃とはいえ、一発撃つと馬上での再装填には手間が掛かる。

 そこでギリシャ式重装歩兵最大の欠点、超近接戦闘を仕掛ける。

 長大な槍の穂先を抜ければ、ギリシャ式重装歩兵には応戦出来る武器は無かった。

 だが、スパルタ島津重装歩兵は日本刀を腰に差している。

 敵が下馬し、槍を掻き分けて侵入して来た時、スパルタ兵は

「フオオオオ! 脱鎧クロスアウッ!」

 と叫び、長槍と甲冑を脱ぎ捨てると、全裸抜刀で突撃して来た。

「な、なんだ、この変態どもは!?」

 ワラキア軽騎兵も鎧を着ない防御無視の「傷つけられたら死ぬ、だから必死で戦え」という狂気の部隊ではあるが、だからって衣服を着ていないって事は無い。

 HK(ひょうごのかみ)戦法全裸特攻を見て素に戻ってしまい、血に酔った狂気(ゾーン)状態が解除されてしまった。


 狂気ゾーンが解け、逆に注意力散漫になったワラキア軍には最悪、スパルタ軍には最適のタイミングで、ワラキア軍東方から新手が攻め寄せる。

 新納”鬼武蔵”忠元率いる薩摩本国からの援軍約二千が戦場に到着した。


「オーガが2人に増えているとは、中々卑怯ではないか」

 苦笑いするヴラド3世。

「ならば、此方もヴラドをもう1人出そうではないか!

 愚弟に連絡!

 鬼武蔵とやらを迎え撃て!」


 ヴラド3世の腹違いの弟ヴラド僧公、彼率いる後詰め3千人に迎撃命令が下る。

(落ち着くのだ、こういう時は素数を数えるのだ……。

 2, 3, 5, 7, 11, 13……、よし)

 神父であった彼は、兄によって世俗に戻される。

 兄曰く、神の為なら躊躇い無く人を殺せる、己で気づいていない邪悪さを持っている。

「皆の者!

 決着をつけなくてはッ!

 『シマンシュの系統』は!

 克服しなければッ!

 行け!」

 神に忠誠を誓った神聖騎士が新納勢に襲い掛かる。


「重要なのは、今ここでのお前の『死』だ

 お前の『死』は集まってくる全員の士気を……、

 バラバラにす……」

「口数が多か……」

「お前は間違っている!

 呪われている癖に……」

「喧しか」

 士気を鼓舞する為か、己を奮い立たせる為か、一々仰々しい台詞回しをトチりながらする僧公に対し、最後まで喋らせてやらない”鬼武蔵”新納忠元。

 キリスト教狂信という狂気を武器に戦う神聖騎士たちだが、端から狂気な上に戦い慣れしている新納勢には苦戦する。

 しかし、兄ヴラド3世の元に近づかせないという役割だけは果たしていた。


 さらに川上、伊勢、長寿院勢が兵力の再編を果たし、再参戦して来た。

 ワラキア軽騎兵たちは連戦で疲れて来ている。

「やむを得ん、もう一人の愚弟を動かせ!」

 ヴラド3世の庶弟ミルチャの歩兵部隊に伝令が飛ぶ。

(私はドラクレシュティ家の庶子として歴史に名を残さず、かと言って庶民のような生活はせず。

 激しい「喜び」は要らない、その代わり深い「絶望」も無い、「植物の心」のような人生を……。

 そんな「平穏な生活」こそ、私の目標だったのに……)

 庶弟ミルチャは、それでも銃隊と擲弾兵を率いて、再編の済んだ薩摩諸隊を牽制し、足止めする。

 形勢は五分となり、少数の天然物の狂気が、作られた狂気を圧し始める。


「中々楽しくなって来たな。

 だが、俺がお前を倒せばそれで済む!」

「やれるもんならやってみい、こん二歳(にせ)が!」

 ランスと大薙刀が、重量武器の一種なのにも関わらず、凄まじい速さで打つかり合う。

 両者下馬戦闘になっているが、その周囲には殺気が張り詰められ、騎兵も重装歩兵も入り込めない。

 その二人の周囲は敵味方とも入り込めない空間となっていた。

 そんな二人だけの空間で、義弘もヴラドも笑っていた。

 戦い冥利に尽きる相手、この先これ程の相手と巡り会えるだろうか?




------------------------------




 そんな結界を、数発の銃弾が貫く。

 黄金の鎧を貫通し、ヴラドの身体にめり込み、ヴラドは倒れる。


「誰じゃァァァァ!

 もののふを飛び道具で、しかもコソコソと狙い撃った痴れ者はァァァァ!」

 義弘の怒気が敵味方を射竦める。

 周囲が硬まる中、島津義弘は倒れたヴラドの元に駆け寄り、治療を始める。

 義弘は、主に婦人科ではあるが、医療の心得が有るのだ。

「おい、ヴラド、しっかりせい。

 俺い以外の者に殺されっなど許さんからな」

 小柄(こづか)を使い、弾丸を取り出す義弘。


「兵庫頭様」

「おはんか?

 おはんがヴラドを撃ったんか?」

 見ると修験者が控えている。

 修験者は島津の忍び、つまり島津義久の命令か?


「撃ったのはあれなるジプシーに化けた山潜者ごわす。

 我等カルパティア修験道の者は、御館様に命じられ、陸奥守様の悪巧みを探っちょりもした」

 見ると、修験者がジプシーを取り押さえている不思議な光景が目に入った。

「陸奥守……忠恒か!!」

「陸奥守様は、兵庫頭様に何かが起きてはならんと、山潜者を密かに動かしちょりもした。

 そいを知った御館様は、兵庫頭様には思う存分戦わせよと、我々に悪巧みを阻止せよチ命じもした。

 まさか、あげに遠くから撃てる種子島とは気づかず、お役に立てずもっさけ無かでございもす」

「そうか……忠恒奴が……。

 そうか、そうか……、あん腐れ二歳が……」


 そして周囲に駆けつけた、敵味方に対し義弘が叫ぶ。

ゆっさ中止やめじゃ!

 俺いの負けじゃ!

 俺いはワラキアに降る。

 薩摩ン者は、新納どんに従って国へ戻れ。

 そして又八郎……いや皇帝に伝えろ。

 戦を穢したおはんを許さん。

 首洗って待っちょれとな!

 ワラキア兵、俺いを縛り上げよ!」


 合戦は唐突に終わってしまった。




------------------------------




 鹿児島。

 錬金術奉行佐奈田余八ことヨハン・フォン・ブランデンブルクは死の床についていた。

 この時代の五十代はいつ死んでもおかしくない。

 その時期、たまたま皇帝家久が鹿児島在中であり、彼は屋敷に駆け付け、死を看取ろうとしていた。


 ヨハンの功績は大である。

 鉄の精錬技術を高める事で、鉄砲の強度を上げた。

 戦国時代の日本から来た薩摩人から、早合という装填高速化手段を教えられたヨハンは、予め火薬を圧縮し、弾を詰め、周囲を油紙で包み、獣脂を使って、舐めてからカルカンで装填すれば、銃底に貼り付いて下を向けても落ちない「紙薬莢」に進化させる。

 紙薬莢を作る過程で、同じサイズの方が作りやすいという利点に気づき、細部はともかく銃身は共通口径にする事で、量産性を上げ、弾薬の互換性を持たせる事に成功した。

 更に紙薬莢で予め弾丸を固めている内に

「球形でなく、半球形にして平らな面を火薬に密着させた方が良いのでは?」

 と考え、初期的な椎の実型銃弾に辿り着く。

 強度の増した銃身故に、球形弾より長くて重い椎の実弾を、火薬量を増した紙薬莢で撃ち出す。

 水車による掘削とライフリングには辿り着かなかったため、弾丸は滑腔弾だが、威力と射程は上がった。

 反面反動が大きくなったのと、火薬が多いと燃え滓がこびり付き易くなり、不満も出た。

 そこで弱装弾も用意し、野戦での速射時と、建物等を狙う際の威力重視時で使い分けるようにした。

 更に口径は同じで銃身を長くし、二脚を取り付けた狙撃銃も開発する。

 種子島が一緒に移転しなかった事で、旧式の種子島の工房方式から一転、かつて中務大輔家久が堺で見た分業式となる。

そこで生産される日欧の知識が合わせられた新式銃が薩摩とオスマン帝国に行き渡り始めていた。

(他にも、種子島のバネを使わない緩発式から、中務大輔家久が若い時分に堺から密輸(織田信長独占購入の中、目を盗んでのもの)したバネ式の速発銃と雨火縄が日本の知識)


 他にも中務大輔家久の絵図から新型帆船を作ったり、焼酎製造から医療用アルコールを作ったり、金銀生産量を増やしたりと、功績は大きい。

 なのに当主義久は、降り者がよく働いた!程度の評価であり、養子に家督と扶持の相続を認めたくらいである。

 皇帝家久は高く評価し、医師を派遣し、自らも足繁く看病に通い、死期が近いと知ったらクレタ公の称号を与えて諸侯としての格式を復活させた。

 何でも作った神話のダイダロスに因んでの称号である。

 ヨハンもそんな皇帝に感謝し、彼の人脈を使って多くの者を皇帝に引き合わせる。

 元々彼はホーエンツォレルン家の傍流ブランデンブルク家の長男で、そっち方面の人脈を持っていた。

 生憎島津義久は身内重視で、錬金術師や天文学者、工房の職人は薩摩に住まう事を許したが、それ以外は一時滞在を許すのみで、薩摩原理主義を貫いている。

 皇帝家久は、何とか義久に取り次いで欲しいとヨハンに頼むドイツの商人、銀行家、各種ギルドの者等全てと代わりに会い、仲介役のヨハンの面目を施してやった。

 後々まで「腐れ外道」「イル・マーレ」と人格を批判される事の多い皇帝家久だが、こうやって信頼し尊敬される間柄の人間だっていたのである。


 その日も、皇帝の仕事をし、島津家次期当主の儀式参加をし、ヨハンを見舞って自分の屋敷に戻ったところだった。

(上様)

 闇より声がする。

 当主家直属の山潜衆であろう。

「首尾は?」

 ヨハン開発の狙撃銃を持たせ、ヴラド3世暗殺を命じていた。

「ワラキア公に三発の弾を当て、倒しもした。

 されど……」

「されど?

 まさか、そいでん負けたとか?」

「いえ……。

 ワラキア公が撃たれた事に兵庫頭様激怒。

 スパルタ島津丸ごとワラキアに投降し敵に回りもした。

 伝言バ預かっておりもす。

 『首洗って待っちょれ』ごわす……」


 良かれと思って打った手が、まさか実父、しかも島津最強の男を敵にするとは思わなかった家久は、しばし呆気に取られていたという。

おまけ:スパルタ式クロス・アウッ!のやり方

1、槍を捨てます

2、開いた右手で右隣の兵の鎧を結ぶ紐を引っ張ります

3、鎧が外れたら、左手から盾を外し、敵に投げ付けます

4、褌の横を肩の位置まで引っ張り上げます

5、抜刀したら奇声を挙げて突撃します


「負けて死んだら、どうせ死体は身ぐるみ剥がれて褌一丁で棄てられる。

 ならば初めから甲冑等無くても同じ事。

 むしろ防具があれば、油断隙が生じる。

 己を背水の陣に置く為にも防具は不要。

 ただし、褌は討死した武士の死装束だから、己の心の如く輝く白で無ければならない。

 戦士は常に褌は綺麗にしておくべし」


なお、身体に油を塗って敵の攻撃を滑らすのはアリ。

また褌を外して敵を絞め殺す攻撃もアリ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] クロス・アウッ!・・・のところで自分は覚悟のススメを思い出しました「ヘンタイか覚悟ーーっ!」 ネタまみれなのが最高に楽しいです。「じつにまずい、もっとやれ。(byドラえもん)」 [一言] …
[気になる点] 球形の鉛玉は分かるんですが、半割は結構な技術力がいるんじゃないですかね?
[一言] >こんな技使う癖に、息子がスナイパー使うと怒る訳で……。 どんな手段であろうとも「殺し殺され」ならOKで、一方的に屠殺するのはNGなのかな? 宇宙の心は「殴り愛」と古事記にも書かれてるし…
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