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スパルタオリンピック

 スパルタ公島津義弘は、薩摩の流儀をペロポネソス半島に広める一方、自らも古代ギリシャの風習を好むようになっていた。

……元々似た所は在るから、親和性が高い。

 そんな中、神々に捧げる競技大会がかつて存在した事を知る。

 口以上に肉体で会話する薩摩隼人は、競技大会とかに飛びつかない訳が無い。

 行政担当の三男・島津忠恒は新領土のイタリア半島タラントに赴いていて留守である。

 有能な行政官は少ない島津家だが、その中でも使える者が忠恒に従ってギリシャを離れている。

 であるにもかかわらず、島津義弘等は「本気出したら普通に行政官務まるよね?」と周囲が思う迅速さと精緻さで、競技大会開催計画を纏め上げた。


 数ヶ月後、ヨーロッパ各国に古代オリンピック復活スパルタ大会の招待状が届く。


【競技内容】

■陸上競技

剣術フェンシング

・弓術:長弓ロングボウ短弓アーチェリー石弓クロスボウの各部

・槍術

・射撃

投擲ハンマーなげ

・槍投げ

・円盤投げ

・相撲

柔術レスリング

拳闘ボクシング

・駅伝

・野駆け競走

■馬上競技

・早駆け

流鏑馬パルティアンショット

・馬上槍試合

・障害物競走

・戦車競走

・戦車弓術

■水上競技

・水練

・甲冑水練

早舟漕ガレッタ

・舟戦模擬戦

■遊興

・蹴鞠

・鷹狩


 競技内容に各国王は苦笑いを禁じ得なかった。

(ほとんどが戦闘技術じゃないか!)

 さらに水練スイミングの項目を見て

「甲冑って何だ?

 まさか、鎧を着て泳ぐと言うのか?」

 と、出来もしない事を言うなとばかり文句を言う。

 サツマン人には甲冑を着て泳ぐ者もいるのだが。


 最大の謎は

「ケマリって何だ?

 イスラムの君主の名前か?」

 ヨーロッパもイスラム世界も知らない。

(モンゴル帝国経由で東欧には一部普及した為、カジミェシュ4世やヴラド3世は知っているかもしれない)




 事の次第は、タラントから島津忠恒が帰還しての苦情から始まる。

親父おやっど様、俺いが留守の間に何を勝手な事をしちょっと!?」

「おはんに迷惑バ掛けちょらんでな。

 文句言われる筋合いは無かど」

「殴ったり、絞めたり、剣で打ち合ったり、物騒な試合ばかりじゃ無かか!

 『おりんぴあ』やら『おりんぴこ』やら、古の名前じゃのうて天下一武闘会とでん、名付けたら良か。

 死人が出っど!」

「じゃっで、そこに棺桶持参チ注意書きしゆうじゃろ」

「俺いが言いたいのは、こがいな死合いばかりじゃなく、もっと雅やかな競技を入れろっちゅう事じゃ」

「そいは何じゃ?」

「蹴鞠じゃ」

「確かに鎌倉以来の武士の嗜みではあっが、

 退屈じゃなかか?」

「蹴鞠を入れん限り、俺いはこん競技会に協力せんど!

 イタリア諸国に働きかけて、全力で邪魔すんでな」

「分かった分かった。

 蹴鞠バ入れたら、おはんも協力すっとじゃな」

「全知全能をもって!!」

「良か! そいなら蹴鞠も加えもんそ」


 義弘は知らなかった。

 島津忠恒は行政の隙を見て蹴鞠をしていただけでなく、ケマリ・リーガ・ヘラスという競技団体を創設し、そこの主席チェアマンとして運営を仕切っていたのだ。

 当然、タラントに派遣されていた時も領土のタラント、レッチェ、バーリにプロ蹴鞠チームを作り、肝付兼寛のナポリ、島津忠辰のメッシーナも誘ってレガ・ケマリを設立していた。

 こちらの責任者チェアマンは誇り高い島津忠辰にして波風を立たせず、実を取る強かさもある。

 島津忠恒、蹴鞠において些かも妥協しない!!




 ここまで企画が固まり、動き始めてから薩摩の義久と歳久が知る。

 本気を出した義弘・忠恒親子の速攻は、義久の予測を遥かに超えていた。

 時折しも、如何にして特産品を作り、貿易黒字を作ろうかと検討していた時であった。


「あん莫迦どもは、一体幾ら銭金を使う気じゃ?

 稼がねばならん事を、莫迦親子は分かっちゅうか?」

「御館様、薩摩の銭は鐚一文も遣わんようじゃぞ」

「何やて?

 どないな詐術を使った?」


 島津忠恒はタラントに出張し、そこからフィレンツェに使者を送り、メディチ家から投資を引き出した。

 更にメディチ家からの投資を呼び水に、他の商人からも投資を引き出し、運営費は間に合わせられた。

 無論、捕虜を奴隷労働させる人件費の安さで、競技場や街道の整備費を安上がりに出来たのもある。

 ギリシャ文化に耽溺し過ぎた義弘は、古式の全裸を主張したが、現実主義者の忠恒はそれだと肌を見せるのを嫌うキリスト教徒のみならずイスラム諸国(女性だけでなく男性裸体も好まれない)からも変態以外来ない事を予想した。

 そこで出資商家の表示入り競技服を考え、また出資者に競技場周辺での商業を独占させる。


 コジモ・デ・メディチは、島津家を恐ろしいと思っていない。

 金融業者は軍司令官と戦わない以上、別世界の人間を怖がる事は無いのだ。

 だが、まだ二十歳にもならない島津忠恒という政治家には舌を巻いた。

 金の使い方も、集め方もよく知っている。

 古代ローマにおいて、僅か19歳のオクタウィアヌスという政治家は、惜しみなく私財を投じて亡き養父カエサルの兵士たちにボーナスを支給し、支持を得た。

 戦争に強いアントニウスは、そんな若造に最終的に敗れたのだ。

 コジモ・デ・メディチの目には、島津家久より島津忠恒の方が興味深く映る。

 故に忠恒と縁を結ぶ意味でも資金援助をした。

 無論、島津家やギリシャに資本による支配の根を張る思惑も有る。




「パンとサーカスが有ればローマ市民は生きていけた」

 ある晩、食卓でコジモはピエロと語らう。

「サツマンの統治は、ギリシャはかなりマシな方とは言え、かなりの苛政じゃ。

 しかし、あの島津忠恒タナトス・シマンシュの治める地は平穏である。

 ケマリとか言うゲーム、各町、各村にチームがあり、対抗戦を行なって盛り上げていると言う。

 シマンシュはそれに金を出し、弱いチームは助成もする。

 素質のある少年は、育成ユースチームに所属させ、給金を出す。

 貧困な者はケマリーガーを目指し躍起になり、トップリーグに所属ともなれば一族富裕になる為、家族ぐるみで育てる。

 血の気の多いサツマンの影響で、時に試合の結果を巡って暴動も起きるが、全体として治安は安定している。

 サツマンの支配への不満より、隣の村のチームとの勝敗に一喜一憂している。

 狙ってしている統治なら、あの若造は相当なやり手だ。

 油断せん事だな」

……残念ながら忠恒は、楽しんでやってるだけで、政治的意図は皆無である。


「父上も、それを黙って観ているだけでは無いでしょう?

 勝ち負けが決まる所には必ず賭博が発生する」

「気づいておったか。

 まあ、メディチ家はメディチ家らしく稼がせて貰う。

 我等は賭博の胴元となる」

「その事、タナトス・シマンシュは気づいては?」

「気づいておるが、黙認している。

 それはそうだろう。

 奴等の古式競技会の資金は我等が出しておる。

 父親の島津義弘レオニダス・シマンシュは古式そのままを考えておるが、それでは参加者は出まいと、タナトスが修正している。

 神に肉体が持つ力を捧げるという古代ギリシャのものを、父なる神に日頃の努力の成果を捧げるという形に書き換え、ローマ教皇への取りなしを儂に頼んで来た。

 その他にも儂や他の出資者から意見を聞いて回っている。

 その時に言われたのよ、賭け事は付き物だが、闇で民を困らせるようなものは困る、我等で取り仕切れ、とな」

「なるほど、取り締まれではなく、取り仕切れ、ですか」

「賭博一切を任せる、だが公言はしていない。

 若い癖に、中々の曲者よ」

「シマンシュとは首狩り蛮族とばかり思ってましたが、賢い所も有るのですな」


 ピエロのやや甘い認識に、コジモは少し思うところが有った。

「ピエロ、ロレンツォとジュリアーノも連れて儂の部屋に来なさい」

 そう言って部屋に下がる。

 しばらくして、孫2人を連れてピエロが入室する。

 そして3人は固まる。

「まあ、座りなさい」

「ち……ち、父上、これは、何の悪ふざけで?」

 部屋の真ん中で、天井から吊るされた、火縄に点火済みの銃が回転している。

「タナトス・シマンシュから聞いた遊びだ。

 肝練りというらしい。

 いいから、座りなさい」

 固まるピエロと、それに抱き着いてベソをかいている5歳のジュリアーノ。

 しかし、ロレンツォは平然と席に着いた。

「ロレンツォ、危ない!」

 狼狽るピエロに対し、コジモは溜息を吐く。

「大詰めで弱い人間は信用できぬ……!

 つまりそれは管理はできても勝負のできぬ男……。

 平常時の仕事は無難にこなしても緊急時にはクソの役にも立たぬということだ!」

 そう吐き捨てると、ロレンツォの方を向く。

「お前は怖くないのか?」

 ロレンツォ・デ・メディチ、この時10歳は祖父を見ると

「銃は引き金を引かねば発射されません。

 あの銃は、火縄の火が消えたら、それで終わりでしょう。

 見た時は驚きましたが、冷静に考えれば、弾を発射しない銃の何が怖いのでしょう?」

「ふむ、だが暴発という事もあり得るぞ」

「それで死ぬなら、僕はそんな運命だったのでしょう。

 でも僕は死ぬ予感を一切感じませんでした」

 コジモはカカと笑う。

「ピエロよ、お前よりロレンツォの代でメディチ家は栄えるかもしれんな。

 そう、これは遊びよ。

 銃に怯える臆病者を炙り出す遊び。

 誰かが銃の真実に気付いたら遊びは終わる。

 だが、それまでは、いつ自分に向けて撃たれるか知れぬ銃を前に、平然と飯を食えるか競う。

 全く頭のおかしい連中よ。

 だが、常日頃こんな遊びをしている奴等は、野蛮で命知らずの癖に、観察眼が鋭く肚が座っている。

 サツマン人の狂気の一端を理解したか?」

「ええ……。

 我々の常識では理解し難い相手だと、何となく分かりましたよ」

 要は、サツマン人は戦争馬鹿だが、ただの馬鹿ではない。

 中には恐ろしいまでの政治魔人も出て来る。

 警戒すべき相手だ。




 島津忠恒の手腕に注目したのはコジモ・デ・メディチだけではない。

 島津家当主義久も、最初こそ余計な行事と怒っていたのだが、やがて進捗管理や調整能力に舌を巻く。

 口を出させる暇等与えず、同時並行で大会の準備もギリシャやタラントの行政も、島津家が破壊したアテナイの復興も進む。

「ちょっと残忍な部分もあるが、あいはかなり出来る男ぞ」

「御館様も然様思われもすか。

 俺いも、又八郎があがいな仕事上手とは思わなんだ」

「兵庫(義弘)奴が政治まつりごとを丸投げする訳じゃ」

「もう又八郎等と軽々しく呼べませぬ。

 官位を名乗らせもんそ」

 そう言って、義久も歳久も笑った。

 天皇すめらみことからも京都の朝廷からも離れてしまったのに、官位読みだけはやめられない。

 奏上も出来ないし、近くに公卿への伝手となる寺社も無い(薩摩と共に転移した寺社は有るが、役に立たない)。

 勝手に名乗らせよう。

 発破をかける意味で、義久の婿養子となっている義弘次男の久保には従五位上陸奥守を、三男忠恒には従六位下大隅守を名乗らせる事とした。

 一人前の武将、成人と見做された証である。

 扱いも変わり、皆が軽々しく声を掛けないようになる。

 そうなると忠恒は捻くれてしまう、難儀な性格であった。


 そんな忠恒が出張しているタラントに、フランドルから豊久が帰途訪ねて来た。

「又八どん、いや隅州サァ、久しぶりじゃの」

「侍従殿、此度は父御の事、お悔やみ申し上げ……」

「もう去年か一昨年の事じゃろ?

 そがいな挨拶はもう良かな。

 送り火(五村の焼き討ち)しながら親不孝バ謝って来たでな」

 この従兄は変わらない。

 忠恒も気安く話せて楽である。


「ところで、東郷どんはどげんした?

 おはんの傍を守っちょったんじゃなかか?」

「ああ、東郷どんは武者修行に出やった。

 今は何処に居るやら?」

 忠恒は思わずお茶を零し、動揺した。

「ないやて?

 東郷どんが居らん?

 オリンピックの剣術の代表どうすんじゃ?」

「薬丸どんが居るじゃろが」

「薬丸サァは審判じゃ!

 選手は役目の無い家人か地侍から出す規程じゃて。

 嗚呼、もう、計算が狂うてしもた!!」


 お互い好き勝手に動くから、誰かの計算は必ず狂う島津家であった。

おまけ:

その頃東郷重位は、島津豊久と別れ、フランドルから北欧に渡り武者修行をしていた。

ろくな対戦相手と巡り合えず、無駄に時を費やしていた。

そんな彼が森で野宿をしていた時の事である。

それは夢か現か?


東郷の前に、光り輝く身体を持つ騎士が現れる。

「お前が向かう所敵なしで北欧を戦い歩いている、トーゴーとか言う者か?」

「如何にも!

 おはんは何者ごわす?」

「我が名はシグルズ(ジークフリート)。

 お前と勝負をしに来た」

東郷は樫の木剣を構える。

「お前の腰の刀を抜く事を薦める」

シグルズは鎧も身につけず、余裕の構えだ。

東郷は猿叫を上げながら一撃を喰らわす。


「馬鹿な!」


東郷の力で打ち込まれた木剣は、シグルズの身体で砕け散った。


「教えてやろう。

 俺はかつて竜を退治した。

 その時、竜の血をこの身に浴びたのだが、以降俺の身体は竜の強さ、決して刀剣を、矢弾を受け付けないように変化した。

 木剣如きで俺を倒すのは不可能だ」

「…………」

「分かったら、その刀を抜け」

しかし東郷は予備の木剣を構える。

「分からんのか?

 凡百の剣ですら俺を傷つける事は出来ない。

 木剣なら尚更だ。

 万に一つ、お前のその技と、その名刀なら何とかなるかもしれんのだ。

 もう一度言う、刀を抜け」

「例えそん話が本当だとしても、

 刀を抜くは俺いが意地の負けじゃっど。

 おはんと戦うは木剣でん刀でん無か。

 俺いの意地ごわす」

「そうか、ならもう何も言わん。

 こっちからもいかせて貰うぞ」

 シグルズも剣を抜く。

 それは魔竜ファーヴニルを斬った魔剣『グラム』であり、日本刀をもってしても受け止める事の出来ない鋭さと強さを持っていた。


(後手に回っては負ける。

 あくまで先手を取っとじゃ!

 剣を受け付けぬ身体か……。

 いや、そいでも己の太刀筋を信じよ!

 幾つでも技は有っど、じゃが、

 一の太刀を信じ、二の太刀要らずじゃ)


覚悟を決めた東郷は、樫の木剣を蜻蛉に構える。

しかしその姿に力みは無く、北欧の森に溶け込むような静かな佇まいであった。


「いくぞ!!!!」

シグルズが『グラム』を振りかぶって、間合いを詰めた。

恐ろしい速さであった。

だが、東郷はシグルズの足が地を蹴る一瞬前に、先程の静かさとは打って変わった野獣の叫びを上げながら、木剣をシグルズに叩きつけていた。


〜硬い物なら正面から砕け〜


〜敵の長所から逃げるな〜


〜砕けぬ物は無いと信じ、一撃に命を懸けよ〜


〜二の太刀要らず〜


やはり木剣は砕け散ったが、シグルズはその一撃を受け止め切れず、吹き飛ばされていた。

その身体にはタイ捨流特有の袈裟懸けの破壊痕が残っている。


「見事だ。

 不死身の我が身体から逃げず、真正面から破壊しようとした馬鹿はお前が初めてだ。

 その意地、その剣技、極めるが良い」




東郷はいつの間にか気を失っていたようだ。

目を覚ますと、そこには誰もいない。

雪が積もっていたが、誰かが来た足跡も無かった。

ただ、二振りの砕け散った木剣が転がっている。


『開眼した!』


東郷は、敵の強さから逃げず、正面からそれを打ち破る、その為には自分の太刀を徹底的に信じ、一撃に命を懸けると言う極意を得た。


東郷は己の剣術をシグルズに因み、『示現シグン流』と名付ける事にした。

その極意は

「神であれ、仏であれ、竜であれ、全て一の太刀にて切り倒せ」

である。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ああ、前の話数で「この時期ではまだ示現流じゃないのでは」と感想を書きましたが、ここでこうなるのですね・・・!
[良い点] ケマリーガー サッカーなんやろなぁ [一言] どういうことだってばよ
[気になる点] >現実主義者の忠恒はそれだと肌を見せるのを嫌うキリスト教徒のみならず、案内状を出したイスラム諸国も来ないだろう。 前半と後半がかみ合っておらず、これでは意味が通らないように思います。 …
感想一覧
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