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ビザンツ帝国の憂鬱

 ビザンツ帝国皇帝コンスタンティノス11世は、首都コンスタンティノープルを封鎖しているオスマン帝国軍が半減した事に気付いた。

 あの謎の大波により、援軍のヴェネツィアやジェノヴァの軍船は大破し、海に面した地区は大変な破壊を被った。

 戦争どころではないので休戦を申し出た。

 最初オスマン帝国軍は、鼻で笑い、休戦の申し出を拒否した。

 だが3度目くらいの申し出で、はっきりとこう言われた。

「お前らの相手をしているどころではない!」


 何事かが敵陣営で起きたのだろう。

 黒海の側に謎の火山が出現したのも気になる。

 そこで軍司令官ルカス・ノタラス大公が3千の精兵を率いて出撃する。

 オスマン軍に奇襲を掛けたが、あっさりと撃退された。

 ローマ帝国の末裔は、かくも弱体化してしまったものよ。


 だが、オスマン軍との戦いを陽動に、黒海方面に放たれた斥候は、そこに謎の大地を見る。

 そしてそこには人が居て、軍が居た。

「十字架の旗!

 キリスト教国が出現した!

 神は我等を見捨てなかったのだ!」

 ……そう勘違いした報告をする。


 コンスタンティノス11世は狂喜乱舞した。

 コンスタンティノープル市民も同様に、神の奇跡に感謝する。

 そして神の奇跡を信じ、僅か7千のビザンツ帝国全軍はオスマン軍に対し反撃に出る。


 ノタラス大公の本隊が正面から押し、出て来たイエニチェリを受け止め、その背後にいるオスマン帝国皇帝スルタンメフメト2世の本陣にジェノヴァ人傭兵隊長ジョヴァンニ・ジュスティニアーニ・ロンゴ率いる2千の兵が突撃を掛けて皇帝直属軍を討ち取る、或いは後退させる。


「神の奇跡を信じよ!

 ローマは亡びぬ!」

「アミン!!」


 狂信的になったビザンツ帝国は猛攻をかけ、一時押し戻されるも、皇帝自ら「双頭の鷲」旗を掲げて出陣すると士気は跳ね上がり、ついにオスマン軍を打ち破った。

 だが、ロンゴは不思議な事を言う。

「敵の指揮官が不在のようだ。

 スルタンどころか司令部がどこにも見当たらない」


 何はともあれ、オスマン軍を押し返して包囲を解除したビザンツ帝国は、勝利を神に捧げる盛大なミサを執り行った。

 この後、ジェノヴァやヴェネツィアが援軍の礼として莫大な金を要求するのが頭の痛いところだ。

 だが、コンスタンティノープルの目と鼻の先にキリスト教国が現れたのだ!

 ここと同盟を組めば、まだ生き永らえる事が出来る!!



……そう喜んでいたのは僅かに1ヶ月余りであった。

 ビザンツ帝国が出した使者は、国境で追い返される。

 しかも、相手は何を言っているのか全く分からない。


 それどころか、一転して軍が押し寄せて来た。

 十字架の旗印が攻めて来る! これは十字軍か?

 ビザンツ帝国軍は簡単に撃破され、コンスタンティノープルの城壁内に逃げ込む。

 そして彼等は、黒海沿岸に出現したのは神の軍ではなく、神の鞭こと「アッティラの再来」であると悟った。

 一難去ってまた一難……、そう思うビザンツ帝国だったが、何故か彼等は包囲もせず、城壁を眺めて帰って行った。




-----------------------------




 薩摩国では、自分たちに起きた状況を把握すべく、情報収集を行っていた。

 そしてこの一月余りでいくつかの情報を得る。


■北:海

■南:弱い。立派な城が在る。

■西:そこそこ強い。麦が生えている。

■東:海を渡った先に、攻めて来た連中の国が在る。


 そして薩摩が取った方針は

・西を攻めて征服し、南は脅迫して属国にする。

・東は水軍が充実し次第、皆殺しにする。

・切支丹の国が薩摩の、周囲に出現したから、パアドレを通訳に使う。

 である。


 宣教師(パードレ)は、薩摩国内で布教していた者もいれば、大友家を攻めた時に捕らえて客分にした者もいる。

 宣教師たちに、先の川辺の合戦で得た戦利品を見せたところ

「これはトルコです。

 貴方がたは神の敵を退治なされた。

 貴方がたに神の祝福あれ」

 と意味不明な感謝をされ、島津家久も困った。


 困ったと言えば、島津義久である。

 五万の島津軍を食わせる食糧が無い。

 折角戦地で略奪していたのだが、ある理由で呼び戻した。

 呼び戻し、そのトルコとか言う軍勢を倒したのは良いが、その先の見通しが丸で無い。

 島津家久は言う「周囲の国から乱取り(略奪)すれば良い」

 島津義弘は言う「豊かな国を攻め取って乱取りすれば良い」

 弟二人の発言に頭が痛い義久は、救いを三弟に求めた。

 島津歳久は言う「今取り得る手は、周りの国から金品食糧を奪って来る事だけですな」

(又六! おはんもかぁぁぁ!!!)


 その為、各地に威力偵察を出し、乱取りしながら様子を見た後で、先の方針に決めたのである。

(宣教師たちは、同じキリスト教国に対する略奪行為に良い顔をしなかった)


 義久は宣教師を呼ぶ。

「おはんら、こん旗を知っちょるかの?」

 それは金糸で刺繍された双頭の鷲の旗である。

「知っています。

 これはローマ帝国の旗。

 これを一体どこで?」

「南じゃ」


 宣教師たちは首を傾げる。

 薩摩の南には琉球王国なる国があるが、ここがローマの旗を持っている筈が無い。


「そいで、頼みが有いもす。

 おはんら、そのローマとやらに書状ば書いちくいもはんか」


 宣教師はラテン語を扱える。

 それで言われるがままに書状を書いた。

 島津とは、「地上に現出した神の国」ムシカを作った大友宗麟を倒し、「肥後のカエサル」たる龍造寺隆信を殺した恐ろしい相手なのだ。

 逆らうのは得策ではない。

 事情が分からない今は特に。


 宣教師たちは、今後も協力すると約束した上で、薩摩の外に出て周辺を調査し、報告したいと頼む。

 要は行動の自由を求めたのだ。

 義久はそれを許可した。

 何であれ、情報は一個でも多く欲しい。




-----------------------------




 コンスタンティノープルに、ローマカトリック教会イエズス会の宣教師が使者として訪れた。

 宣教師たちは「百年以上前に滅亡したビザンツが、何故在るのか?」と疑問を持つ。

 そして、身分照会に時間が掛かった。

「ローマ教会の何だって?」

「イエズス会だ」

「そんな修道院は聞いた事が無い」

「嘘だ! 50年近く前にロヨラ殿やザビエル殿によって作られたのを、知らぬ筈が無い」

「知らんと言ったら、知らん。

 それで貴方たちは、教皇から何かを預かって来たのか?」

「違う、北にある薩摩の国の王からの手紙を持って来た」

「サツマ? 知らんな、そんな国」

「知らんのか? 散々叩かれたのではないのか?

 頭を剃って、髪を一纏めにした奇妙な髪形の連中に」

「ゲッ! フン族!!

 では、サツマとはフン族の事か?」

「違う! いいから皇帝に取り告げ!!」


 この時間の掛かる頓珍漢なやり取りの中、宣教師たちは信じたく無いが、信じざるを得ない事実を把握する。

 薩摩国だけ何故かヨーロッパに転移し、しかも百年近く昔に戻っていると。

 ここには確かに本物のビザンツ帝国=東ローマが存在する。

 そこには彼等の知る歴史では最後の皇帝・コンスタンティノス11世が居る。

 本来、コンスタンティノープルを囲んでいるトルコ軍は、調べるとスルタンを失って撤退したと言う。

 では、イエヒサという男が

「多分、こいが大将首やち思うが、誰いか知りもはんかい?」

 と箱に入れて持ち運んでいたのは、かのメフメト2世の首!!


 変わってしまった歴史の中、宣教師たちは、本来地獄で会うしかない異端(正教会)の皇帝・コンスタンティノス11世に目通りし、手紙を渡した。


 手紙の内容は

『我々は薩摩隼人である。

 お前達は薩摩に同化される。

 抵抗は無意味だ』

 という、喧嘩を売ってるとしか思えない内容のものであった。

 もっとも、ヨシヒサという王は愚劣でも暴君でも無い。

 これを読んだ相手の反応を報告しろと命じて来たのだ。


 ローマ教皇からも、近隣のセルビア王やハンガリー王からも、オスマン帝国のスルタンからも失礼な扱いを受け、慣れてしまった皇帝は、ため息を一つ吐くと宣教師たちに逆に尋ねた。

「これは本気か?

 それともわざとこんな挑発的な手紙を送ったのかね?」

「本気では無いでしょう。

 サツマの王は礼儀正しく、(弟に比べたら)穏やかな方です。

 陛下の反応を試すつもりでしょう」

「ふむ……」

 皇帝は短い文面をもう一度読み、宣教師たちに質問する。

 主に薩摩という謎の地域と、そこの王族に対してだ。

 キリスト教に寛容かどうか?

 同盟を結ぶ余地は有るのか?

 何か不足している物は有るのか?


 一通り質問を終え、宣教師たちを下がらせる。

 コンスタンティノス11世は元老院を招集し、コンスタンティノポリス総主教もそこに呼んで宣言した。

「我々は、北に出現した謎の地、サツマニア王国と同盟を結ぼうと思う。

 彼等はどうやらフン族では無い。

 野蛮人(バルバロイ)には変わりないが、キリスト教には寛容だと言う。

 先日彼等から失礼な手紙が来たが、私はこのローマの正統性を説いた手紙を送り、彼等の蒙昧さを覚ましてやろうと思う。

 総主教はキリスト教の愛を説いて欲しい。

 サツマニアのサツマン人たちは勇猛な兵士であるのは、先日の戦争で分かっただろう。

 彼等を我がローマの属州にしようと思う!」


 皇帝独裁の東ローマにおいて、元老院は形だけのものだが、それでも形式上賛成多数でサツマニアとの交渉が可決された。

 コンスタンティノス11世はサツマニアの王・ヨシフ・シマンシュに対しローマの大義を説いた手紙を届けるよう、宣教師たちに依頼した。


 そしてこれが、西ヨーロッパにとっての悪夢と化す。

明日も第3話投稿します。

明日は17時です。

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[良い点] 「おもしれぇwww面白いぞ!確かに島津の家紋は十字架にも見えんくはないな。つか、100年くらい差があるからイエズス会とかも無いのか」 「100年前であれば種子島も無く、足利の時代でありま…
[良い点] 沖縄の住民としては喜べば良い……のかな?この事態(島津に侵略された、奪われる銭てか税で色々下は酷いことになった位しか知らないが……下手したら島津より酷い侵略者が襲来するかもしれないと思うと…
[良い点] 何だこの愉快過ぎる設定はw [一言] 妖怪首置いてけがインテリお坊ちゃんに見えてくる蛮族具合…、これは本物(?)の薩摩人ですね。
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