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東郷重位無双

 島津家久がコンスタンティノープルで入院していた時の話である。

 棒切れ一本持った東洋人が修道院を訪れる。


「頼もう!!!!」


 東洋人は、言葉が通じなかろうが気にせず、大音声で呼び続ける。

 司祭が出て応対するが、どうも洗礼を受けたい訳では無さそうだ。

 手紙というか紹介状を手渡す。

 この修道院で神の為に奉仕する騎士団と他流仕合をしに来たのだ。

 騎士団員は、東洋人とは思えない程背が高いこの男に驚いた。

 そして長剣ロングソード戦斧アックス戦棍メイス長槍ランス持槍パイク斧槍ハルバード等様々な武器で試合をした。

……この東洋人、東郷重位と数合渡り合えたのは、僅か数人。

 東郷は「スパルタクスの再来」という異名を授けられる、百戦して無敗を達成し、島津の面目を施した。




------------------------------




「中務様、お願いがごわす」

 東郷は出陣前の島津家久を訪ねて言った。

「戦において、俺いはまた兵庫頭様(義弘)の陣に行きたかです」

 そう言えば、東郷はまだ家久護衛の役のままであった。

 理由を尋ねると、如何にも東郷らしい理由である。

虎汁場トランシルヴァニアとは既に戦いもした。

 ぽう乱土とか『りとば』何とか言う国とは、まだ戦った事が無か。

 俺いはまだ見ぬ敵と戦いたかです」

 家久は大笑いし、

「帝都では数多くの異人武者と試合ったと聞く。

 よう負ける事なく島津の面目を施した。

 なれば、次の死合を求める其方を引き留められん。

 兵庫の兄に一筆入れる故、行って陣借りすれば良か」

 こうして東郷重位は北上する義弘隊に加わった。


「そいで俺いの方に来たとか、おやっとサァなぁ。

 精一杯せっぺ、気張いやんせ」

 義弘は紹介状を読み、笑って受け入れた。

 そして

重位ちゅうい殿どんな立ち会いバ邪魔しぃは駄目やっせんど」

 全軍にそう通達した。




------------------------------




 ポーランド・リトアニア連合王国は騎兵の国である。

 蒙古タタールとの戦いに影響を受け、ポーランドは軽騎兵を、リトアニアは重騎兵を持った。

 この連合王国は数十年前にタンネンベルクの戦いでドイツ騎士団に勝ち、これを支配下に組み込んだ。

 よってポーランド、リトアニア、ドイツ騎士団という強力な軍が3万5千、十字軍第二の主戦力である。

 ここにデンマーク、ノルウェー、スウェーデン、アイスランド、そしてカレリア(フィンランド南部)から成るカルマル同盟軍1万、そしてブランデンブルク(ベルリン)・クルムバッハ(バイエルン)辺境伯の2千が加わる。

 だが、カルマル同盟軍と辺境伯はまだ着陣していない。

 ポーランド・リトアニア連合軍はワラキアとブルガリア国境で待機していた。


 この軍が、1人の武士の奇襲を受ける。




「俺いは東郷重位トーゴーチューイごわす!!

 俺いと誰いか立ち合いたか者はおいもはんか?」


 言葉が通じようが通じまいが、大音声で敵陣に名乗りを挙げる。

 言葉は通じなくても、言いたい事は通じる。

 ポーランド軍陣営にも闘志が漲り

「私が相手しよう!」

 とドイツ騎士団の者が槍を持って歩み寄る。


「我が名はハンス・クルムバッハ!」

「トーゴー・チューイ!」

「いくぞ」

「行きもす!」

 腕に覚えがある両者が立ち合いを始める。




「東郷殿(どん)の覇気は気持ち良かもんたい。

 あん覇気を浴びたら、誰でん闘志を刺激されもんそ。

 東郷殿(どん)の身体から後光バ差しておるように見えっとな」

 島津義弘が遠目に見て、楽しそうに評す。

「東郷サァの身体から後光とな。

 そいは何色ごわすか、親父おやっど様」

 忠恒が聞く。

「決まっちょる。

 薩摩色の覇気じゃ。

 薩摩色に光り輝いちょるわい」

(薩摩色って何な?)

 忠恒は聞きたかったが、義弘が答えてくれる訳が無い。

(考えてはならん、感じるったい。

 親父おやっどが言う事は理屈とかでは無かからな)


 声が上がる。

 薩摩陣からは歓喜の、ポーランド陣からは残念がる声が。

 東郷の得物はただの棒。

 鎧に身を固めた騎士は死んでいない。

……槍はひん曲がり、兜はハンマーで叩かれたように歪んでいて、騎士は3日間、目を醒まさなかったが。


「私はジグムンド・ゲッツ、勝負を望む」

 今度は長剣ロングソードを持った騎士が進み出る。

 ポーランド陣から応援の声援が飛ぶ。

 剣と棒がぶつかる。

 驚く事に、剣の方が折れた。

 慌てて短剣を抜こうとした騎士の首肩に棒が当たる。

 カンッとかガンッという聞き慣れた音では無い。

 ゴスッという妙な音がし、鎧が折れ、中の騎士の肩を砕いていた。

 悶絶する騎士。

「連れて行きやい」

 東郷は敵陣から人を招き、負傷した騎士を運ばせた。

 その間に東郷も、根元から折れた棒を取り替える。

 折れた刀身に当たる部分は敵の鎧の折れた部分に挟まっていた。


「吾輩はアルトゥル・ノヴァーク、勝負だ!」

 盾と戦棍メイスを持った騎士が名乗り出る。

 東郷はジロリと見ると、腰にもう一本棒を差した。

 騎士は盾に戦棍メイスをぶつけて音を鳴らして敬意を示し、東郷は頭を下げる。

 一瞬の沈黙。

 すると東郷が

「キィィィエエェェェー、ギィイヤー!!」

 と周囲を凍り付かせる猿叫を上げる。

 固まった騎士が瞬きした次の瞬間、東郷は目の前に迫り、棒が盾を叩いた。

 盾と棒が共に粉々になる。

 次の瞬間、東郷は腰に差した棒を居合のように抜き打つ。

 まともに頭に食らった騎士は、兜越しながら脳震盪を起こして倒れた。


 その後も、その後も、ポーランド人、リトアニア人、ドイツ人と名乗りを上げ、東郷と試合をする。

 その数、63人。

 64人目が名乗りを上げようとした時、ポーランド王カジミェシュ4世がそれを制止する。

「見事な戦いだ。

 だが、これ以上連戦させては我々が卑怯者になる。

 君はまだ戦えると言うかもしれないが、

 我々の誇りから休戦を申し出たい。

 受け入れてくれないか?」


 東郷は首を傾げたが、通訳が来て意図を伝える。


「分かいもした。

 また明日、いもんそ」

 そう言って一礼し、自陣に引き返した。

 両軍陣地から歓声が上がった。




「見事じゃ、見事以外言い様が無か!」

 島津義弘が目を潤ませながら東郷を讃える。

「あいがとごわす」

「されど、敵もまた天晴れやっとな。

 よお試合ったのお」

「さいごわす。

 こん地にも武人もののふはおわしもした」


 武将と武芸者の会話を、傍らの島津忠恒は冷たい頭で聞いている。

(源平合戦じゃなかやし、こねな茶番に何の意味があっとじゃ?)


 意味は有る。

 ポーランド陣ではカジミェシュ4世が、第31代騎士団総長ルートヴィッヒ・フォン・エルリックスハウゼンと話している。

「余は敵を誤解しておったようだ。

 なりふり構わず首を狩り、民を虐げ、人間の生き肝を喰らう血に飢えた蛮族かと思っておった。

 しかし、礼儀正しく、騎士道精神を持った見事な相手ではないか」

 誤解では無い。

 島津には二面性が有るだけだ。

 それでも彼等は、単なる野蛮人という評価を改め、価値観が合う人間と認めた。

「そうですな。

 それにしても配下の騎士たちが悉く敗れ、陛下と神に申し訳ない気持ちでいっぱいです」

「仕方あるまい。

 あの男の強さは尋常ではない。

 明日は5対5の騎馬戦を申し込もう。

 騎士は馬上にあってこそ真価を発揮するだろう」


 ポーランド王と騎士団総長は連名で島津義弘に騎馬戦での挑戦状を出す。

 通訳から内容を教えて貰った義弘は、少し考えてから承知すると返答した。

親父おやっど、ここは戦の場じゃ。

 こねいな武芸比べに何の意味が有っとか?」

 島津忠恒が苛つき、父親に詰め寄る。


「敵はまだ全て揃っておらんようじゃ。

 後詰めが来て、敵軍全て揃ってからが戦じゃ」

「そいは理屈が合わなか。

 敵が揃わぬ内に、各々を叩くのが兵書の説く所じゃごわはんか!」

「弱か敵を叩いて楽しいか?

 敵は強か方が戦は面白いではなかか。

 おはん、そうは思わんのか?」

「思いもはん。

 勝ち易きに勝つが大将の采配チ思いもす」


 そこに島津家久の勝利の報告が入る。


「又七郎め、釣り野伏せりで敵を取り囲み、木で出来た車の中に逃げた相手を焼き殺したそうじゃ」

「流石は叔父上!」

むごか戦バするものじゃの。

 あ奴の首を取る数は、島津ン中でも異常じゃ」

「良かごわはんか!

 戦は勝たんと意味が無か」

 義弘は溜息を吐く。

「負け戦を楽しめんとは、おはんはまだ未熟じゃな」


(天変地異じゃ島津の(もん)は全てお役を果たせとか言って、数え十一歳の俺いを無理矢理元服させ、初陣させたんは親父様じゃなかか!

 あれから三年経ったと言え、俺いが未熟なんは当たり前じゃろ!)

 忠恒は色々言いたかったが、次なる報が忠恒を驚愕させる。


「モレアス専制公国、アテナイ公国、アルバニア王国が敵に回りもした。

 スパルタもしくは図書頭様(島津忠長)の陣、或いは帝都を襲おうと兵を動かしておりもす」


 島津忠恒は慌てふためく。

 だが、島津義弘はカカカと笑い

「これこそおはんが好きな兵書のはかりごとじゃっど」

 そう言って更に大笑いする。

「何いを言いもすか?」

「又七の釣り野伏せりのごたる、島津は勝っておりもんど。

 じゃっどん急に三国も寝返っとは得心いかん。

 何者か、曲者が糸を引いておっとじゃなかか?」

 そして

「勝ち戦をひっくり返されたの、こいは痛快じゃ」

 そう笑った。

 見ると、義弘以外も大して慌ててはいないし、寧ろ

「兵庫サァ、どぎゃんして寝返り者を皆殺しにしもそか?」

 と嬉々としている。


「又八郎(忠恒)、おはんは七千の兵バ率いてスパルタん戻り、敵を根切りにして来やい」

「七千やて?

 此処は千人しか残らんが、良かとか?」

「その方が面白か」


 忠恒は規格外の父に意見する事は諦めた。

 彼も島津の男。

 根切りを命じられた以上、殺る以外の選択肢は無い。

 いや、どちらかと言うと根切りは好きな方である。

 満十歳で初陣、手柄首は無かったが、抵抗した一村を根絶やしにして以降、性格に歪みが出来たのか撫で切り好きとなっていた。

 忠恒を見送り、義弘は敵を想像した。


(やはり、このヨーロッパの地にもしたたかな敵はおりもそ。

 どげな男じゃろうかのお)




------------------------------




 島津を一手で苦境に落としたヨーロッパの妖怪。

 その名はコジモ・デ・メディチ。

 通称「古老イル・ヴェッキオ」。

 陰謀や政略渦めくイタリアの都市国家フィレンツェの中で勝ち抜き、都市を支配している大銀行家メディチ家の当主である。

VLAD様に続くヨーロッパの強敵、コジモ・デ・メディチとメディチ家の皆さんが登場します。

武力は大した事無いですが、かなりの曲者です。

やはり敵は厄介な方が面白い。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ヴラド様は出るは、ジャンヌダルク(偽物だけど)は出るは、豪華キャストになってますねぇー。 さらに、いろんな兵器、戦術も出て。 楽しい!、です。 [気になる点] ランスは騎乗槍、パイクが長…
[一言] >薩摩色の覇気じゃ。 海賊王ならぬチェスト王にでもなるのか?
[気になる点] 薩摩色って何色だ?気になる
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