第九話 最後の一人
第九話「最後の一人」
「それで勝ったつもりか?」
その者は表情ひとつ変えずに言った。
「ここでまた会えるとはな、まさか俺達のこと忘れたわけじゃないよな?」
アラナはあの日、迷いの森であった事を思い出させるようにわざと皮肉混じりに言った。
その者は少しの間考えると、思い出したのか言った。
「…生きていたのか、急所を狙ったつもりだったが?」
「お、まえ…!忘れ…!」
今の発言にアラナは一瞬でも忘れられていたことに腹がたった。
「アラナ!今は争いはやめよう!」
「はぁ?わかってるって!」
その者の挑発によって今にも襲いかかりそうなアラナにハランは言った。
三人は、その者を囲みながら集中して次の動きを見る。
すると、この状況を馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの表情でその者はハラン達を見た。
「たった三人がかりで…俺をなめているのか?」
そう言った次の瞬間、ノアを盾に凄い速さで今度は短剣を手に持ち、前回と同じアラナの腹の部分を狙ってきた。
「はっ…!また…やられるとでも思ったか?」
凄い音がしたがアラナは自分の盾で阻止した。
それに気を取られたその瞬間、ノアが掴まれていたその者の手を思い切り噛むと手から短剣が落ちた。
「くそ…!」
そして地面に落ちた短剣を拾うとノアは言った。
「私も一応…これでも選ばれし者の一人です!やられてるばかりにはいきません!」
そしてノアは短剣を構える。
「俺達は君を傷つけたいわけじゃない!争いもできればしたくない!」
ハランは必死になってその者に言う。
「俺達は選ばれし者なんだ、だから協力しよう!」
「協力…?何を綺麗事を…ふざけるな!」
その者は立ち上がると、凄い速さでハランに近づき頭辺りに足蹴りをかます。
ハランは咄嗟に腕で構えるが、少し遅かったのか衝撃で倒れてしまう。
「ハラン!」
いつの間にかハランの手元から離れた剣を奪うと、剣をハランに向けてその者は言った。
「お前の望みはなんだ?」
「…弟を、助けたい…!」
「その望みに俺は利用されるってわけか?」
「いや、ちがう…!協力してほしいんだ…!」
だったら、俺の望みも聞いてくれるんだな?
それは……ハランは少し考えると言った。
「…君の、望みはなに?」
「復讐だ…!」
「復讐?」
ハランは驚いたが、直ぐに困惑した表情に変わると言った。
「復讐には、協力できない…」
「…ならば話は決裂だな」
そう言うとその者は、ハランから奪った剣を振りかざす。
「ハラン!」
アラナが叫ぶ。
ハランは間に合わないと思ったその瞬間、ゼンがいつの間にかノアの腰に装備していた剣を取り、間一髪でハランに向けられた剣を弾く。
「…ゼンさん?!」
ハランはゼンの背中を見つめながら言った。
「おまえ…!」
そしてゼンが持つ剣によって阻止され、剣と剣がぶつかり合うなか、その者は歯を食いしばる。
「戦い合うのではなく、話し合いをした方が良いじゃないのか!お前達は仲間なんだぞ?」
ゼンが言った。
「話し合いだと?そんな事したところで、俺の気持ちは変わらない!俺の邪魔する者は仲間だろうが排除するだけだ!」
ゼンは力を振り絞って、その者の剣を退けた。
「くっ…!」
すると、その者はその反動で後ろに蹌踉ける。体力が低下しているのか荒くなる呼吸を落ち着かせている。
辺りはもう薄暗くなってきていた。
その者は選ばれし者だけが持つ腕輪をそっと触ると、腕輪に埋め込められている石が光始めた。
「ま、待て…!それは使ってはいけない!」
「わ?!」
ゼンがそう言うと後ろにいるハランの声が聞こえた。
「まずい…!」
そして次々とそれぞれが持つ腕輪が光始めた。
「…なんだこれ?!」
アラナは驚いた表情で言った。
「反応しているんだ!神の心臓がお前達が受け継いだ神の魂に!」
五つの光は神の心臓が眠っている、迷いの森の湖を示す。
「このままじゃ…!封印は解けてしまう!」
「ど、どうすれば…!」
ハラン達は力が制御できないことに困惑していた。
「こ、これは…神の心臓が反応してる…俺が一人の時はなかった…そうか、五人いないと駄目だったのか…」
その者は光が示す方を見ながら理解したのか呟く。
「だ…!駄目だ!」
光が示す方へと歩き出そうとしているその者をゼンが止める。
「近づいたら反応が強くなる!力を抑えろ!」
「嫌だ…これでルカが生き返るんだ!邪魔するな!」
「生き返らせることは禁忌なんだぞ!知っているだろ!」
「あぁ、知ってる!」
「だったら…!」
「構わない、世界がどうなろうと!退け!」
「…嫌だ!」
「ハラン…?」
「お前…!退け!」
「退かない…まだ君の気持ちも君の名も何も聞いてない!」
「俺の目的は復讐だ!それ以外なにもない!」
「復讐する理由を教えてくれ!」
「…理由?言ったところで…おまえなんかに…!」
「兄貴が死んだからだよなぁ!」
「お、まえら…」
「よう!ルナ!勝手にどっかに行ったら困るんだよ!また彼の方に怒られるだろぉ?」
突然現れた、その者のことをルナと呼ぶスキンヘッドに片腕一面に凄い模様の入れ墨が入ってる男が言った。
「あなた達は…!」
「あ!王子だぁ!あの時は散々だったなぁ!ほら見ろよ!俺の腕ないんだぜ?誰かさんの所為でよぉ!」
とスキンヘッドの男は自分の入れ墨が入っている左腕ではなく義手の右腕をノアに見せつけた。その男はノアがあの時に腕を切り落とした人物だった。
「彼の方に散々怒られたしな!次失敗したら俺の命はねぇんだよぉ!どうしてくれるんだぁ?」
そしてもう一人、その隣に一言も喋らず殺気を放つ細身で長髪の男がルナの腕を掴む。
「…くそ!」
ルナは抵抗できずにいた。
「兄貴が…死んだのか?」
ハランは衝撃を隠せないでいた。
「自分の父親に殺された兄貴を神の力で生き返らせようとしてるんだよなぁ!」
「…」
ルナは何も言わず唇を噛みしめる。
「チョー、喋り過ぎだ…行くぞ」
そう言うと細身で長髪の男が何か呪文のような言葉を唱えると、突然目を開けていられないほどのものすごい光を放つ。
「ちょっと、待っ…!」
ハランが言い終わる前に、三人はその場から消え去った。
「最後の一人に会えたのに…」